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五日目※

 私は裏切り者。()()だった吉田春香を裏切った時、私は本物の狼になった。

 そう。私に割り当てられたカードは、村人ではなかったのだ。

 カードには、満月の夜に鍬を使って畑を耕す村人の様子が描かれていた。月明かりを浴びて、大きな影が伸びている。影は人間の姿をしていなかった。犬のような耳があり、長い尻尾が生えている。

 カードにははっきりと、『裏切り者』と記されていた。人間でありながら、人狼に協力する多重人格。それが私に割り当てられた役割だった。多重人格は裏切り者の別名だ。まさに私にぴったりな役職だった。

 春香は私の恋人だった。

 松本さんは、純平くんのことを幼稚だと言っていたけど、決してそうだとは言い切れない。今になってやっとわかった。純平くんは、私たちの関係に気付いていた。おそらく、山本くんも。だからこそ、純平くんは春香に嫉妬したのだ。

 なんだ。結局春香が死んだのは、私のせいだったのか。

 山本くんは、純平くんについて饒舌に語っていたけれど、私は純平くんを死に至らしめたことを、全く後悔していない。もちろんゲームが始まった当初は、ゲームマスターの言葉を鵜呑みにしていたわけではなかった。

 けれども、命懸けで人狼ゲームをやらされるのなら、春香を死に追いやった上原純平に、報いを受けさせたいと思った。私は明確な意志を持って純平くんを名指しし、意図的に票が集まるように仕向けたのだ。

 ゲームが始まった日の放課後、私は山本くんから、自身が人狼であると聞かされた。そして、もう一人の人狼が美鈴であることも。

 私も、裏切り者であると打ち明けた。私たちは、人狼チームが生き延びるために動き始めた。

 誰も信じていなかったけれど、坂口くんが私を裏切り者だと言い当てた時、私は内心で喝采を送ったものだ。

 松本衣織の言う通り、田城健太郎は実に有能な預言者だった。彼は百パーセントの確率で、人狼チームの三人を占っていたのだから。

 美鈴を失ったことは痛手だったが、やっかいな用心棒である竹原勤の尻尾を掴むことに成功した。

 美鈴が掴みかかっていたのも無理はない。山本尊は、私を生かすために、美鈴を躊躇なく犠牲にした。美鈴を切り捨てることにより、自らが信用に足る人物であると証明したのだ。やはり、春香の見立ては正しかった。

 私は中学時代、春香と一緒に人狼ゲームを題材にした漫画を描いていた。もともと春香が漫画家を目指していた。春香がストーリーを考え、私がキャラクターの絵を描いた。春香がキャラクターを描くと、どうしても劇画風になってしまうからだ。

 私たちの漫画のタイトルは、『狼ゲームのオオガミくん』。小学六年生のタカシという少年が主人公だ。タカシが修学旅行で訪れた遊園地で、VRゲームからログアウトできなくなるというアクシデントが起こる。クラスメイト全員がゲームオーバーになれば、VR装置から電流が流れて全員死亡する。タカシが一クラス三十人の命を背負い、クラス対抗勝ち抜き人狼ゲームに挑んでいく。

 私は意味もなく、ノートに山本くんの似顔絵を落書きしていたわけではない。私は、春香を偲んでタカシを描いていた。山本くんもそれをわかっていて、懐かしそうに微笑んでいたのだ。彼は、私たちの読者だった。主人公の(おお)(がみ)タカシのモデルは、山本尊なのだから。

 山本くんをモデルにしようと言ったのは春香だ。春香はこう言っていた。

 ――山本くんはきっと、ライン切りができる人だと思うから。

『ライン切り』は、人狼ゲームの専門用語だ。ほころびが出た途端、連鎖的に疑われるのが人狼ゲームだ。仲間の人狼が疑われた場合、あえて仲間に投票する行為を、ライン切りという。共倒れを防ぐためのテクニックだ。目的を果たすために、時には仲間の命さえも切り捨てる。手段を選ばない非情さが、デスゲームには必要不可欠なのだ。山本尊は、実にうまくやってくれた。

 今度は私が、うまくやる番だった。

 田城健太郎を陥れたのは、他でもない私自身なのだ。

 観察眼に優れた田城くんは、美鈴が山本くんに掴みかかっていた様子から、山本くんが怪しいと踏んだのだろう。予想通り、私を訪ねて美術室にやってきた。そう、私は彼がやってくることを予見していた。

 ブラウスのボタンを全てほつれやすくしておくのは、さすがに手間がかかった。ブレザーを上に着ているから、引っかける心配は少なかったけど、ブラウスを着る時には細心の注意を払った。

 壁に取り付けられたフックと、床に置かれたイーゼルは、自分で用意した。隠しカメラをセットしたのも私だ。田城くんにばれないように、段ボール箱に穴を開けて、カメラのレンズを向けていた。

 あんなにうまくいくとは、自分でも思っていなかった。ブラウスがフックに引っかかって完全に脱げてしまった時は、自分でも驚いたほどだ。田城くんの手の位置も絶妙だった。まるで漫画のように、見事に左の乳房を鷲掴みにしてくれた時は、快哉を叫びたい気分だった。後は、隠し撮りした画像を編集して、フリーメールアドレスから松本衣織のスマホに送信するだけで良かった。松本さんには直情的なところがあるから、煽り立てれば、日和見主義の鬼屋敷くんを説得してくれると思っていた。松本さんが想像した以上に熱くなってくれたのは、嬉しい誤算だった。彼女はきっと、過去に男関係で失敗しているのだろう。

 私はあの日の早朝、電話で山本くんに作戦を伝えた。山本くんは、もちろん賛成しなかった。

「なんで若月が、そこまでする必要があるんだ!」

 山本くんが私に声を荒らげたのは、後にも先にも一度だけだった。

「そこまでしないと、松本さんを騙せないでしょ」

 女性を味方につけるためには、女性がひどい目に遭っている様子を見せるのが、最も効果的だ。痴漢に味方する女性がいないのと同じだと主張しても、山本くんは反対した。

 体に触られても、下着姿を見られても、私はなんとも思わない。私を傷付けられるのは、この世で、吉田春香だけ。

 私はそう言って、山本くんを黙らせた。

 四日目の追放会議は、まさに村人チームと人狼チームの総力戦だったと言えよう。あの時、山本くんが発した、たった一言。

 ――俺に入れていいぜ。

 あの言葉の意味が、未だにわからない。

 あの場面で、私が山本くんに投票するのは、リスクがあまりにも大きすぎた。

 投票結果は、田城くんに三票(鬼屋敷くん・松本さん・山本くん)。山本くんに二票(田城くん・私)だった。一票差で田城くんが追放されたけど、それはあくまでも結果論だ。鬼屋敷くんの投票先によっては、山本くんが追放されていたのかもしれないのだから。


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