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九話 性の臭い


「あいつは何してんねん」


 ほたるがいっこうに帰ってこない。てっきり枝でも取りにいったのかと思ったが、流石に遅い。いらだちを散らすように、毒づいた。毒づくのは、ほたるに親身であるために必要な行為だった。


 陽射しから逃れるためにも、チカは森の中へ入ることにした。

 果物を採る。枝を拾って歩く。ふと、普段通らない道に、頃合いの枝があるのを見つけ、取りに行った。するとまた、頃合いの枝がある。

 そうして拾っていく内に、チカは、見知った影が小さく見えた。こちらに背を向けて立っている。わざわざ声をかける気にもならなかった。しかし、あまりにほたるが動かないので、さすがに気になって注視した。ほたるは背を丸めて、腕を動かしていた。手は、下腹部の中心へと向かっている。

 チカは、怪訝に思い、少し回り込むようにして、近づいた。ほたるはチカに気づかなかった。だから、見えた。チカは後ずさって、すぐにきびすを返した。

 ほたるは自分の性器を握りしめていた。握りしめて、上下に動かしていた。


 チカは森の外へと向かった。外の光が見えたときに安堵した。外に出て、そして自分が果物も枝も、何もかもを落として来てしまったことに気づいた。そして、砂浜に出たからといって、何も安堵出来ないことに気づいた。

 ほたるのうめきが、聞こえてくるようだった。

 チカは男性器を見たことがなかった。まして自慰行為など、教科書の中の出来事でしかなく、方法も知らない。だから、ほたるの行為が、厳密に何であるかは特定できなかった。しかし、本能的に、さっきのほたるの行為を恐怖させた。腕に、鳥肌がざっと立っていた。鳥肌は、異様にとがっていた。

 異性だから、気を遣う。その意味を、やはりまだ、幼なじみだということで、忘れていたのだ。ほたるは男なのだ。自分とは違う生き物なのだ。その言葉が、真に迫って、まとわりついてきた。チカの体が震えてくる、頼りなく、寄る辺ない気持ちだった。

 誰か助けて、チカはうずくまり、言った。か細い、頼りない声だった。




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