七話 苛立ち
「よう燃える」
「ほんまにな」
狼煙を見上げて、ほたるは言った。チカは笑ってそれに頷いた。ほたるは持ってきた枝を追加し、大きな枝で、火をかき回した。チカは煙にむせた。いやな咳き方をしたのか、咳がとまらなくなった。チカに、ほたるがうろんに尋ねる。
「なんや、大丈夫か」
「平気」
手を振り、チカはほたるに返した。ほたるはじろじろとチカの顔を見回し、それから、にた、と笑った。そして、また火をかき回しだす。チカは目尻に浮かんだ涙を拭った。おなかの奥が、熱くなるような心地に、歯を食いしばった。
「ほな、私は残った枝、たき火に運んでくから」
チカは明るい声で枝を抱えると、崖を降りだした。ほたるは向こうから、じーっとチカを見ているので、チカは笑い、手を振った。
笑顔のまま、チカは森を抜ける。砂浜にたどりつき、たき火のところまでやってくると、チカは思い切り枝の山をそこに投げ落とした。
砂が衝撃を吸収し、枝達は飛び散らず、少し散らかるだけだった。チカは、枝の一本を踏む。ぐりぐりとにじって、先端を砂に埋め込んだ。足の裏にカサついた感触が走ったが、それくらいでは動じない。足首にわだかまる靴下がうるさくて、足を振り回した。
チカはうずくまり、大きく、わざとらしく息を吐き出した。息は小さなうなり声となって、口の端から漏れた。
あれからチカは、ほたるに対して、馴れを捨てるように努めた。馴れを捨て、親身な振る舞いを心がけた。学校でもやってきたことだ。しかし、学校と違うのは、それが四六時中、続くことだった。
助かるまでの辛抱だ。チカは自分に言い聞かせる。
しかし、異性というだけで、気を遣わねばならないことも多いのに、こんなことまで気をつけなくてはならない。その理不尽さは、チカによりいっそう強い怒りを与えた。狂気的と言える怒りを、それでも抑えつけねばならない。
チカは一人になるとうずくまり、時に転がって腹にたまった怒りをやり過ごした。
努力の甲斐あって、あれからほたるは異様な顔をしていなかった。それがひとつの安心と、意味だった。
起きあがると、セーラー服の付け襟が落ちた。身体に引っかかりつつ、ぼさりと落ちた襟に、「また落ちた」という言葉が心に落ちる。とっさに、チカは襟を踏みつけ、拾い上げて引っ張った。びび、という繊維のちぎれる音がして、我にかえった。
(大事にせな)
制服はもうぼろぼろになって、ファスナーのところから衣服がはずれだしていた。下着だって、伝線を始めている。
チカは葉っぱを拾ってきてつなげ、ワンピースのようにして、上から羽織っていた。人間の生活を捨てている。そう思うと、やりきれない思いでいっぱいになった。うずくまり、ううとうなった。
(あいつ、また私を笑いよった)
チカはほたるの顔を思い出した。すると、怒りが腹の奥からまた這い上がってくる。怒りはチカの心を乱したが、同時に強く保たせた。
怒りのままに、チカはまぶたに生えた毛を抜き出した。