六話 懐柔
「昨日はごめんな」
夜が明けて、チカはほたるに言った。じっと最善の間をはかっての、切り出しだった。
ほたるはチカに視線をよこしたが、黙ってたき火をいじくり回していた。チカはそれには何も言わず、ほたるを見つめた。ほたるの表情は常とは違ったが、昨晩の様な、異様さはない。その事が、チカを勇気づけた。
「ひどいこと言うた。本当にごめん」
チカは頭を下げた。チカは今この時、言葉が真実となるように、本気で努めていた。
「ええよ」
黙っていたが、ほたるはそう返した。声は抑えていたが、ぼうっとした圧のないものだった。チカはその事に内心「よし」と叫んだ。
「ほんまにごめん。もう言わん」
「ええて」
「ひどいこと言うたけど」
「もうええて。やめてや」
ほたるの声が強く、うんざりしたものになった。チカは、その事にいらだちより、何か傷ついたような、そんな気持ちになっていた。
「ごめん。でも、ほたるが大事やねん」
チカの声に、自然と湿っぽいものが混ざった。嘘ではなかった。嘘ではない。ほたるがいなくなって四年、学校ですれ違う度に「あ、ほたるや」と思っていた。その時、本当は自分がひどく切ない気持ちだったとさえ、今は思っていた。
「そのことはほんまや。忘れんといて」
とても悲しい、感傷的な声だった。自分は心から、ほたるに自分の情を訴えようとしている。チカは本気でそう言えたことに安堵していた。絶対に、本気である必要があったからだ。
ほたるは黙っていた。チカの言葉に、効果があったかはわからない。ただ、話さないよりはよかっただろう、そう思わせる空気だった。
「狼煙見てくるわ」
ぽつりと言い、チカはその場を後にした。そうした方がいい気がした。森の中に入り、狼煙台までくると、よし、と小さく拳を握った。