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四話 心配


 たき火の前に、二人で座っていた。ここはずっと暑いが、夜はそれなりに冷える。息をのむほどの満点の星が広がっている。それでも、チカはすぐに人の起こした明かりが恋しくなった。何であれ、生活に火は必要だった。だから、砂浜にもずっとたき火をおこしているのだった。


「木も切れるようになりたいなあ」


 枝で、燃えている木の皮をいじりながら、ほたるが何気なく言った。それについては、チカも同意見だった。


「昔の人は石で切ったらしいけど」

「石で切れへんやろ」

「切ってた。斧みたいになっとるんを探せばいいやろ」

「あるかなあ。ないと思うけどなあ」


 へらへらと言うほたるに、チカはいらいらとしてくる。足下にあった、貝殻をつぶした。破片が指先をちゃくりと噛んだ。


「手で切れへんやろ。かまきりちゃうねんから」

「それより枝折ったほうが早ない?」


 チカは黙り込んだ。実際その通りな気がしたからだった。そして、それを指摘されたことが、腹が熱くなるほどいやだった。ほたるのくせに、自分よりまともなことを言うのが、どうにも気に入らなかった。憮然とした顔で黙り込んだチカを見て、口を真横にぐうとのばして笑った。


「まあ、やっとるうちに、切れるようにもなるわなあ」


 チカは長い間のあと、「そうやな」と渋面のまま返した。さっきから、必要なこととはいえ、そもそもずっとこの話題は気分が悪かった。


「でも、そんな長くいるつもりないやろ」

「そうやけど。それなりおることも考えとかな」


 首をそらして伸ばした。チカは、たてた膝に、顔を埋めた。考えたくない。あの日、同じ船に乗っていて、どこに行ったかわからない友達やクラスメートの事も、何もかも、つらい出来事につながる気がした。


「そんな心配せんでも、大丈夫やて」


 ほたるが、チカの背中を叩いた。顔を上げると、ほたるは果物をかじっていた。黄色の果物とほたるの顔が、下からたき火に照らされて朱色にぼやけていた。後ろに手をついて、のんびりとくつろいだ様子だった。


「皆探してくれてるもん」

「そんなんわからんやろ」


 船は流されてしまったし、ここがどこかもわからない。誰がいなくなったかもわからないだろう。自分たち二人の為に、捜索隊を出してくれるかもわからないのだ。


「おばちゃん心配してるて」

「してるわけないやろ」


 チカは、また膝の中に身を埋めた。チカにとって、いやな切り返しだった。


「今ごろ清々しとるわ」

「そんなことない。おばちゃん、女だけでしんどいのに、ようチカの面倒見てくれとったやん」

「うるさいな」


 チカの母は、チカの父と離婚して、今のアパートに住みだした。その縁で、隣の部屋に住んでいたほたると親交ができたのであるが、チカはいつもこの部屋が嫌いだった。母は常にいらいらとしており、家の事をしないチカをしかった。チカは、父のことが好きだった。勝手に父と別れておいて、何で自分が家事をしなくてはならないのか、チカには皆目わからなかった。母が選んだことなのだから、母がやればいい。

 母とけんかになる度に、母は泣きながら


「あんたみたいな冷たい子、ほんまに産まんだらよかった」


 と言った。


「そっちが勝手に産んだんやろ」


 とチカは言い返した。実際、頼んだ事なんてなかった。「いやなら出て行け」という言葉にも、無責任だとしか思わなかった。生まれた以上、生存の権利はある。産んだからには責任をもてと思った。

 そんな調子だから、チカは母が、自分がいなくなっても、困らないことはわかっていた。




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