二話 貝殻
この島に流れ着いて、十数日が経った。チカは、燃え上がる火を、晴天を染める白い煙を見上げていた。
あれからようやく体が動くようになって、自らのいる場所を見渡したチカは、しばし呆然とした。助かったことへの感謝より、先に立ったのは、ぽっかりとした不安だった。
チカはそれを振り払って、散策をした。まず生きていく為には、食べ物と水、それから火が必要だった。絶対に助からねばならない、その意思がチカを奮い立たせてくれた。
幸いなことに、水と食べ物は容易に見つかった。すぐに無くなるような量でもなかった。飢えと渇きからの解放に、チカはひとまず安堵した。すぐにわき水で手を洗った。こわごわと顔を洗った。肌がひどく焼けていて、痛かった。冷たさに負けてうがいをした。海水に枯らされたのどは痛くて仕方なかったのだ。
食べ物は果物と、砂浜に打ち上げられた魚があった。得体のしれない物を口にいれるのは、少し躊躇もした。しかし、空腹の前には食べる他なかった。まだ体に異常はない。
「チカ」
振り返ると、ほたるが木を抱えてやってきた。流木や小枝、木の皮などいろいろと混ざっていた。チカは一瞥すると、また空に視線を戻した。
ほたるは、さして気にした様子もなく、前に進み出ると、火の中に持ってきた木々を投げ入れた。火は、高く積まれた石に囲まれている。それは、狼煙台だった。二人は、島で一番高い断崖から、狼煙をあげているのだった。
「たき火のぶん」
「また取ってきたらええねん」
チカがとがめるが、ほたるはのんびりと首の後ろをかき、それからのびをした。
「ほんま助けこおへんな」
「くるわ」
チカの声は、大きくとがっていた。それを不本意と感じたのかほたるは怪訝そうな顔をした。
「うわ、声でっか。何怒ってんの」
チカは、胸の奥に、じらっと火がついたのを感じた。頭にその熱がたまり、膨張する。ほたるを無視すると、崖を降りるために、歩き出した。森の中を抜け、砂浜に続く。ふたりが打ち上げられた砂浜だ。
森の中は暗く、湿っている。森の息が、霧のように舞っていた。黒い木々の向こう、まっしろな光が、チカを待ち受けている。
じら、じら、じら。うなるような陽射しがチカを焼いた。肌をさいの目に切りきざみ、そこから水を抜いていく。チカは、熱された砂の上を、靴下で、足の側面を使って歩いた。まだ十数日しか経っていないのに、衣服はすでにぼろぼろになってきている。服も作らなければいけない。どうやって作ればいい。ぞっとするほど気分が滅入った。
海辺近くに行き、チカは貝殻を一枚拾った。そして、さっき抜けてきた森のそばの岩のもとへと向かった。そこには、貝殻が並べられていた。
カレンダーも時計もないここでは、日数がわからなくなる。だから、チカは動けるようになってから、貝殻を一日一枚置くことにしていた。ひざまずいて、拾ってきた一枚をおく。岩の影には、これで十六枚の貝殻が並んでいた。この影からはみ出る前に、助けがこなければならない。チカは頑なにそう思っていた。