聖女ですが神から賜ったスキルがびっくりするほどユートピアでした……
この世界には神の贈り物と呼ばれる物が存在する。
それは誰もが持っている様な物ではなく神に愛された聖職者が修行し成人の儀をへて神より譲り受ける物だ。
神の贈り物には様々な物がある……水や炎を操る物。肉体を強化し岩などを簡単に粉砕する物。無くなった体の部位を再生させる物。戦いに向かない物もあるがほぼ全てと言って良いほどにスキルは強力な物だ。
ただスキルを賜った者は多ければ良いというほど単純な物ではない。スキル自体が強力で使用者の身体にデメリットが現れる訳では無いのだが……
◆◆◆
修道院で修行する者は17歳になると大聖堂にて聖人の儀式を受ける。
今日も各地の教会や修道院。様々な場所で修行した者が集結し祈りを捧げ自身の番を待っていた。
ステンドグラスが光を集め人の技術を結集し作り上げられた神々の像に囲まれた場所で一人、また一人と祈りを捧げる。その祈りが神に届き光に導かれると神よりスキルが賜れるという非常に重要な儀式であった。
「シスター・エリス。貴女が神よりお譲りいただいたスキルは『完全回復』です。辛い修行によく耐えましたね。今日より貴女は聖女エリスと名乗りなさい」
「はい。ありがとうございます」
神に選ばれた者。選ばれなかった者。この場には様々な者達がいた。神聖な場所であるが為に大きな声を出し喜ぶ事はしなかったが小さな拍手と共に誰もが新たな聖女の誕生を喜んだ。
新たな聖女が下がって行く中で神官が大神官に周りに聞こえない様な小さな声で話しかける。
「……大神官。これで十五人目です……多いですね」
「……はい。ですがこればかりは私達の手に届く話ではありません……スキルにより多くの命が救われる事を祈りましょう」
「……そうですね」
神官を悩ませていたのは世界とスキルの関係性だった。スキルを持つ者が多く現れた時それは世界が荒れ大量の魔族や魔物が現れる前兆だ。それは勘違いなどではなく百年程前の大戦でも多くのスキル持ちが出現し長い歴史で見てもそれは証明されていた。
ただ……世界が荒れ大量の魔物が出現するから聖女が現れるのか、聖女が現れるから世界が荒れるのかは誰にも分からなかった。
そして一人の修道者の順番がやってきた。
彼女の名前はトピア。人の為に戦う聖職者達の中で最も美しくその実力は修行者でありながら前線で戦い支援する聖女にも引けを取らないと言われる女性だった。
と言ってもそれは周りの勝手な評価の話であり心の中は成人の儀を前に緊張している年相応の女の子だった。
トピアは孤児であり目の前にいる大神官が育ての親であった。血がつながっていないだけの話でありトピアと大神官は家族であり親子であった。
そんな岩より固く緊張しているトピアの心を見抜き大神官は優しく話しかける。
「シスター・トピア。まずは体の力を抜きなさい。貴女なら大丈夫ですよ」
「お父さ……いえ、大神官……大丈夫でしょうか」
「自信を持ちなさいとは言いません。ですがスキルを譲り受けなかったからと言って貴女の価値が変わる訳ではありません。貴女がこれまでに成した事が無駄になる訳ではありません」
「……そうでしょうか?」
「ええ。そうですよ。スキルはとても強大な力ですがスキルが貴女の生き方を決める訳ではありません。貴女がスキルを使うのです。私が師と仰いだ聖女もとても強大なスキルを持っていましたが使ったのは数回だと言っていました。ですから貴女がスキルを手にしてもそれを使わないと言う選択肢もあります」
「………………」
「大事な成人の儀ですから緊張するなとは言いません。ですが……あまり考え込まずに流れゆく水のように自然体でありなさい」
トピアは父である大神官に礼を言った。
そして父に友人に感謝をしこの世界に苦しむ人達が健やかで今より少しでも幸せに生きていける様に祈った。
……その祈りが通じたのかは分からないが大聖堂にある全ての神々像が光り放ち始めこの世の全ての光を集めたかの様に凄まじい光が全てを包み込んだ。
そして…………トピアと大神官は全てを包み込む光の中心で神の声を聞いた。
『トピアよ。貴女のスキルはびっくりするほどユートピアです』
「えっ?それはどの様な……」
そのスキルがどの様なスキルなのか見当もつかないトピアは聞こえた声に質問を投げかけようとするが、あれだけ激しく光っていた神々の石像達も静かにな成人の儀を受ける前と同じ色に戻っていた。
まだ他の者達の成人の儀が残っている為にトピアの父である大神官は何かを我慢する様な仕草を見せた後に優しく娘に話しかける。
「シスター・トピア。貴女がが神よりお譲りいただいたスキルは……びっくりするほどユートピアです。……ぶふっ……失礼。辛い修行によく耐えましたね。今日より貴女は聖女トピアと名乗りなさい」
「はい。ありがとうございます……大神官。私はこのスキルがどの様な物か検討がつきません。何か知っておられますか?」
「ええ……とてもよく知っています。ですが今は成人の儀の最中です。貴女の疑問は分かりますが成人の儀が終わるまで待っていなさい。それが終わったら私が知っている事は全てお話ししましょう」
「分かりました。よろしくお願いします」
新しく生まれた聖女の誕生に皆は喜び聖女トピアは自分がいた場所へと戻っていった。その中で考える事は新しいスキルの事と父である大神官の事だった。
(……このスキルはどういう物なのでしょう?それも気になりますが……先ほどのお父様の態度は……笑うのを我慢していた様に思えましたが…………気のせいでしょうか?)
疑問を抱きながら戻る娘を大神官は見つめていると先ほどと同じように神官が話しかける。
「……大神官。びっくりするほどユートピアとはどの様なスキルなのでしょうか?私共もその様なスキルは聞いた事はありません」
「……とても強大で凄まじいスキルです。ターンアンデッドやグランドクロスといった最上位攻撃スキルが霞むほどの……ね」
大神官の説明に聞いていた神官達はおぉと歓喜の声を上げる。
「さすがは大神官のお子様ですね」
「ありがとうございます。ですが人の親としてはあまり使って欲しくないスキルですよ……使えば使うほどに人としての大事な物を失っていくので……」
少し悲しそうに遠くを見る大神官に神官達はかける声をなくした。
(……そこまで強大なスキルであれば使用者の命や魂を削り攻撃に転用する物かもしれない。大神官は娘と仲が良かったと聞く……親であれば子の幸せを願うのは当然か……)
「さぁ。まだ成人の儀は終わった訳ではありませんよ」と神官達の気をもう一度引き締めてから成人の儀を続けた。
◆◆◆
全てのシスターの成人の儀を終えた。シスター・トピアの後にも様々なスキルを神より譲り受けた聖女が生まれその数は五十人に迫り歴代で最も多くの聖女が生まれた年となった。
それだけの聖女の誕生を喜ぶ者。世界の終わりだと嘆く者と反応は本当に様々な物だった。
そのどちらでもない困惑と言う言葉がとてもよく似合う者、トピアが成人の儀を終えた父の為に茶の準備を自信のスキルの事を聞く為に待っていた。
そしてようやく時間ができた様で一冊の古びた本を持ちやってきた。先ほどの儀式の時よりは少し雰囲気が優しくなった父に温かいお茶を入れ自分にも入れた後に質問する。
「お父様。先ほどの話になりますがびっくりするほどユートピアとはどの様なスキルなのでしょうか?」
少し考えた後に大神官は答える。
「トピア。貴女は死者の復活というスキルを知っていますか?」
「はい。支援回復系の最上位スキルと聞いた覚えがあります」
「正解です。リザレクションが支援回復の最上位であるならばびっくりするほどユートピアは魔族、特にアンデットや死霊に対する最上位攻撃スキルです」
「えっ?ターンアンデッドは死霊系特化ですからグランドクロスやホーリークロスに近いスキルなのでしょうか?後者であれば死霊系でない魔族に効果的とは言えませんがダメージを与えられると聞いた事があります」
「確かに似たような物かも知れませんが、ですが……規模、効果共に桁が違います。グランドクロスやホーリークロスを小動物に例えるならびっくりするほどユートピアは竜や魔神と言った所でしょう」
少し笑っている? 様な気もするが大神官でもある父が質問に対して冗談を言う事が無いのは今までの付き合いで分かっていたのでトピアは自身が神より賜ったスキルの凄まじさに驚きを隠しきれなかった。
ただ疑問に思う事もあった。そこまで凄まじいスキルならどうして父を除くほとんどの者が知らないのだろう? とリザレクションであれば聖女を目指す者なら誰もが知り誰もが手に入れようするスキルだ。トピアの前に聖女になったエリスのスキル。パーフェクト・ヒールも知らない者がいないと言っても過言では無いほど有名なスキルだ。
強大すぎる故に大聖堂が隠していたと言われればそれまでだが……そしてスキルを手に入れ聖女になったのに使い方が分からないのもトピアを混乱させていた。スキルを手に入れた者はその使用方法は生まれた時から知っていたかのように使えるという。現に聖女エリスなどは成人の儀が終わった後に治療院に向かい人体欠損の患者などを治療したと聞いた。
そんなトピアの疑問に答える様に大神官は持ってきた一冊の古い本を開き答える。
「トピア。貴女の知りたい答えはここにあります。貴女のスキルは強大が故に一通りの動作……ぶっ……いえ儀式を必要とします。ここを見てみなさい」
父に言われた通りに古い羊皮紙でできた様な本を見ると丁寧な字で書かれた文字が並べられていた。
その体……生まれたままの姿となりて鞭を打て。
その瞳……空より遙か虚空を捉えよ。
その舌……獣より甲高き声で賛美歌を唱えよ。
古い文字ではあったが書いてる事は読む事はできた。ただ理解するは今のトピアにはできなかった。ただそれよりも気になる事が一つだけあった。……それはこの本の事ではなく目の前にいる父の態度だった。誰がどう見ても笑うのも我慢している様にしか見えなかったからだ。
聞いてはいけない様な気はしたが聞かない事はこのスキルを使用できないので意を決してトピアは訪ねる。
「お父様。私の勘違いかも知れませんが……今といい先ほどといいどうして笑うのを堪えているのでしょうか?」
そこで限界がきたのかぶふっ! っと吹き出した後にトピアの父は小さく笑い出した。厳格な父がこの様に笑う事が珍しくキョトンとしているとすぐに落ち着いた様でトピアに頭を下げ謝ってから話を続けた。
「お父様……どうしたのですか?」
「本当にすみません……あの方らしい言い回しだと笑ってしまったのですよ」
「あの方とは?」
「はい。私の師であり世界最高位の聖女と言われた大聖女。リュートリア様です。そして二代目……びっくりするほどユートピア使いです」
父が大聖女リュートリア様の弟子だと言う事は子供の頃からトピアは知っていたし大聖堂にいる全ての者に取ってそれは当たり前の事実だった。そして大聖女と言えば先の大戦にて人類を勝利に導いた知らない者がいない程の人物だ。
「えっ?リュートリア様がお使いになったスキルなのにどうして誰も知らないのですか?」
「それは簡単な事です。私のように一部の者を残しそのスキルの存在を隠したからです」
どうしてですかと? 訪ねる前に父は娘の為にさらに本をめくっていく。書かれている文字がどんどんと古くなっていきようやく目的のページに来たようだった。
そこには初代聖王ユートの直筆のサインが書かれ歴史的に見てもとても貴重な物だという事が分かった。
ゴクリとつばを飲み込みトピアは先ほどと同じように読み進める。
まず全裸になり。
自分の尻を両手でバンバン叩きながら白目をむき。
びっくりするほどユートピア! びっくりするほどユートピア!
と……声高らかに叫ぶ。
以上がびっくりするほどユートピアの発現方法だ。もし私より後にこのスキルを神より賜った者がいたら参考にして欲しい。
聖王であり初代びっくりするほどユートピア使いユートより。
古い文字であったが読む事はできた。ただトピアの体はそれを理解する事を拒んだ。だが……その心がその魂がそこに書かれている事が真実だと告げていた。
その奇妙な感覚と言うよりもそこに書かれていた事を認めたくないトピアは慌てふためいた後に何度もその本を読み続ける。
何度読んでも内容が変わるはずも無く。頭を抱えうなっているトピアを大神官は優しく見つめる。
トピアは昔から手間のかからない子供で何でも器用にこなし本当に何でもできる様な子供だった。そんな娘が目の前で今までに見せた事の無い姿で悩んでいるのが父である大神官は少し嬉しかった。ただ娘が悩んでいるのに放っておくなどできるはずもないので気持ちを切り替えて声をかける。
「トピア。落ち着きなさい」
「おっお父様!……私はどこかでこのような神罰を受ける様な行いをしたのでしょうか!? 毎日、朝と夜に神に祈り厳しい修行の中でも神に感謝を忘れた事はありません!」
「ですから落ち着きなさい」
「これが落ち着いていられますか!」
少し圧をかけた言葉でトピアの名を呼ぶとようやく少し落ち着いたようで今までの痴態を謝った後にもう一度席についた。そして自分で入れて少し冷めた紅茶を口に含んだ。
「落ち着いたようですね。トピアよ。私が成人の儀で言った事を覚えていますか?」
トピアは言われた通り成人の儀であった時の事を思い出し言葉にする。
「スキルが生き方を決める訳ではないと言う事ですか?」
「ええ。そうです。そしてその後に言った様にそのスキルを使わないという選択肢も存在します。ここだけの話ですがリュートリア様も本当に嫌だった様で自身の権力を使い箝口令をしき大聖堂、神官達にそのスキルの事を口にする事を禁じその本以外に後世に残す事すらしませんでしたからね」
「そっそれで……だれも知らないのですね」
「ええ。ですからトピアがそのスキルを使わないのであれば大聖堂としても私としても強制はしません。力を使うか使わないかは貴女が決める事です。スキルが決める訳ではありません。ましてや他人が決める事ではありませんからね」
「………………」
「ですが……そのスキルは本当に強力だと言う事は覚えておいてください。私の様に助かる命もあるという事ですからね」
「……お父様」
「貴女の親として言わせてもらうのであれば戦場などへはいかず大聖堂にいて欲しいと思います……ましてや人前でそのスキルを使わないで欲しいととても思います」
「ううっ……本当に私はどうすれば良いのでしょう。人前であられも無い姿になり自分のお尻を叩き奇声を発するなどと……」
娘のスキルに悩むその姿は自身の師であった大聖女がスキルを使った後に悩んでいた姿と重なり失礼ではあったが少しだけ笑ってしまった。
「……お父様……いま笑いませんでしたか?」
「気のせいでは?リュートリア様の事を思い出していただけですよ。ふふっ」
「ああっ!また笑いましたね!娘がこれだけ悩んでいるというのに!」
娘との会話を楽しんだ後にそのスキルについて知っている全ての事を伝えた。
子供の頃に街を魔族に焼かれそのスキルでリュートリア様に救っていただいた事。 家族を失った自分を弟子として引き取り育ててくれた事。スキルに頼らずとも戦っていける事。スキルに文句を言いながら本に加筆していた事など。
「スキルも魔法もいわば力ですからね。使い手次第と言うことですよ」
「お父様。ありがとうございました……かなり気持ちが楽になりました。このスキルをどう使うか?ではなく……使わずに人々を助けられる様に精進しようと思います」
「ええ。それで良いと思います。大事なのは自分で考え自分で決める事ですからね」
ちょうど話が終わりかけたそのタイミングで大聖堂を覆う異様な気配に二人は気づく、そして慌てた神官が少し強めにドアを叩いた後に大慌てでやってきた。
「だっ大神官!この大聖堂に魔族の襲撃です!数は不明!レイスを主軸とした死霊系の軍団です」
神官の報告にトピアと大神官は驚き部屋を出る。すると大聖堂から無数の黒煙があがりいくつもの人の影の様な物が浮いていた。
「お父様!」
「トピア!行きますよ!」
二人は魔の気配が最も濃く感じる場所へと向かった。
道中で幾多の死霊やレイスを倒し進んだ場所は成人の儀が執り行われた場所で祭壇は破壊され幾人もの司祭や聖女が倒れていた。
「ひっひどい」
その凄惨さにトピアが青ざめていると中央にいた圧倒的な死の気配を漂わす者が振り返った。
「ほう。人間にしてはなかなかの気配。よほどの強者と見える」
「えっ!?レイスが人の言葉を話した?」
死霊やアンデッドと言った魔物は死んだ者が恨みや憎悪を持ち魔物化し生き返った者がほとんどだ。生き返った際に強い恨みが彼らの体を支え動かしている為に言葉を話せる程の知恵は無く恨みと言う本能のみが他者を襲い破壊行動を起こしている。
そんな者が言葉を話すと言うことはまだ若いトピアは知らなかった。
ただその隣に立つ父は知っていた様で静かに臨戦態勢に入った後にトピアの疑問に答えた。
「彼はデッドリーレイス。レイスが長い時間力を蓄え進化した姿です。リュートリア様に倒されたはずでしたが……生きていましたか」
「ほう……私を知っている者がいたか。確かにあの忌々しいスキルによって私は死の淵を漂った。だが本当に運良く生き残ったのだよ。ここまで回復するのに長い時間を要したがね」
まさか自分の事を知っている者がいようとは思わなかったデッドリーレイスと呼ばれた死霊は少し驚き感心した様に大神官を注意深く観察する。そして何かに気がつき大きな声で高笑いをした。
「はっはっは!実に面白い!その魂の色!あの時の子供か!」
その言葉に今度は逆に大神官が驚いた。
「驚きましたね。まさか私の事を覚えていましたか……」
「ああ。よく覚えている。昨日の事のようにあの時の事は思い出せる!懐かしいな聖女リュートリアに助けられた子よ!」
「覚えてくれていてありがとうございます。ですが貴方とは友人という訳でもないのでこの場で倒させていただきたい」
「つれないな。友人でなくとも憎き敵ではあろう?」
「確かに敵ではあります。貴方に滅ぼされた街の方々には怒られるかも知れませんが憎いと言うほどの事はありません。どちらかと言えば感謝に近い、貴方のおかげで良い師に巡り会え、我が愛娘と出会えたのですから」
「ふむ。なるほど……では貴様の目の前でその愛娘を殺しこの大聖堂を破壊させてもらおう」
「……できるとお思いですか?」
「簡単な事だ。もう聖女リュートリアはこの世にはいない。そしてこのタイミングを狙った意味が分かるか?いくら聖女が生まれようとまだ子供。子供に力は使いこなせまい」
「ええ。ですから私達、神官がいるのですよ。生まれたばかりの雛がいつか大空を飛ぶ為に」
「面白い……が。お前達では我ら魔族には勝てんよ」
「お父様!」
「聖女トピア。貴女は私の支援に回りなさい。彼はここで確実に倒します」
「はい!」
トピアの返事を持って開戦の合図とし戦いが始まった。
◆◆◆
戦いは熾烈を極めた。大神官の魔法が空を断ち、トピアの魔法が傷を癒やし仲間を救い、神官、聖女が力を合わせ立ち向かった。
だが……デッドリーレイスの言った様にいくら強大なスキルを手にしたと言っても使いこなせなければ意味は無くまともに戦えるのは神官達のみで一人また一人と倒れていき、とうとう立っているのはトピアとその父だけになっていた。
「人間にしてはよくやったと言うべきかな?」
「はぁはぁ……お父様……大丈夫ですか?」
その問いかけに問題はありませんと答えたかったが魔力はとうの昔に尽き、トピアの魔力も尽きかけていた。
何本か折れたあばら骨の痛みをごまかし大神官はトピアに優しく語りかける。
「……トピアよ。ここは私が請け負います貴女は逃げなさい」
「何を言っているのですか!そんな事できる訳ありませんよ!」
親子のやり取りを鼻で笑いデッドリーレイスは無慈悲に告げる。
「逃げる事などできん。お前達聖職者は皆殺しだ。この大聖堂を制圧するなど私一人で十分だが……何の為に死霊やレイスを連れてきたと思っている?」
「……」
「お前達を一人として逃がさぬ為だ」
他の場所で戦っていたレイスや死霊も続々とこの場所に集結し逃げる事など到底無理な状況に二人は追い込まれていった。
そして二人の抵抗もむなしく大神官はデッドリーレイスの攻撃に倒れ意識を失ってしまい、トピアもその場に倒れ込んでしまった。
「おっおとう……さま……ごほっはぁはぁ」
最後の悪あがきをされてはかなわないとデッドリーレイスは少し離れた所から二人を観察しトピアに声をかける。
「大神官の娘よ。後はお前だけだ。お前の死を持ってこの戦いの幕引きとさせてもらおう」
「くっ」
もう後が無く絶体絶命の状況でトピアは思い出した……まだ自分にしかできない事がある事。希望の光が潰えていない事を。
優しい光がトピアを包み込みその体を立ち上がらせた。
「ほう……まだ立てるか?」
そしてその場で身につけていた衣服を全て脱ぎ捨て生まれたままの姿をさらした。
その異常な行動に死霊達はニタニタと笑ったが……デッドリーレイスのその崩れた顔からは余裕という言葉が崩れ去りわがままな子供のように叫ぶ。
「きさま!まっまさか!!その姿!この気配は!!」
「そうです!貴方は見誤りました先に倒すべきはこの私!三代目びっくりするほどユートピア使い聖女トピアだったのです!!」
この場所でデッドリーレイスだけがそのふざけたスキルの恐ろしさを知っていた。だからこそ獣の様に大きな声を上げ叫んだ。
「レイス!死霊達よ!今すぐその女を殺せ!!」
「もう遅い!」
トピア達から離れていた事が決定打となった。一般的な神官や聖女なら妨害する事もできただろう……だがシスターの時代から一線で戦える聖女と肩を並べられる程の実力があるトピアにしてみれば十分な距離と時間があった。
そして……トピアは
舞を踊り 『自分の尻を両手でバンバン叩きながら白目をむき』
神への祝詞を口にする 『びっくりするほどユートピア! びっくりするほどユートピア!』
トピアを中心に光が広がる。その光は白でもなく黒でもなく世界の全ての色を集めても表せない程の美しい色を見せた。
その光を浴びた死霊やレイスはゆっくりと美しい光の粒へとなり天に昇っていく。
デッドリーレイスも例外はなく手足からゆっくりと光の粒子へと変わっていく。
「ひっ光が!ひかりがぁぁぁぁ!!」
デッドリーレイスはもう自分が助からない事を悟った。
ふと光の中心にいる者を見るとそこにはかつての仇敵の魂と男性であろう者の魂がトピアを守っていた。そしてかつての仇敵と目が合うと少し微笑みかけられる。するとデッドリーレイスも満足したように笑い返し光の粒へとなって天へと昇っていった。
◆
◆◆
◆◆◆
大聖堂の襲撃から約二ヶ月ほどの月日が流れた。
あの戦いの傷跡は凄まじく美しかった大聖堂が元に戻るのは数年はかかるだろうという話だ。
だが幸運な事に魔族の襲撃があったにもかかわらず一人の死者も出なかった。各地から屈指の実力を持った神官が集まっていた事。パーフェクト・ヒールと言った回復系の最上位スキルを賜った者が多かった事が理由にあげられた。
自分達を救ってくれた神に今日も感謝の祈りを捧げたトピアは支度が終えた事を父である大神官に伝える。
「もう行くのですね」
「はい。まだこのスキルをどうすれば良いのか迷っています。だから旅をして困っている人達を助けながら考えていこうと思います。使わないで良いなら使う必要もないと思うので」
「分かりました。寂しくはなりますが行ってきなさい。貴女の目で見つめ体で感じ心で決め……そして向き合いなさい。そのスキルとどう向き合えば良いのかと」
「お父様……ありがとうございます。行ってきます!」
そして二人はその場で抱き合った。そして心地よい風と光に見送られながらトピアは旅に出た。魔族に苦しめられる人を一人でも救う為に。自分とそのスキルと向き合う為に。
「行ってきなさいトピア。その道は険しく辛いでしょう……そして貴女は選ばなければならい時が必ず来ます。人の命を取るか自身の羞恥心を取るか…………貴女の旅が少しでも楽になるように父は毎日祈りましょう」
……
…………
……………………
そしてこのあと何年後かに大聖女リュートリアの再来と呼ばれる聖女が現れ魔族との戦いに終止符を打つ事となる。
その力は千の魔族をなぎ倒し万の人々を救ったと歴史には残っている。だが不思議な事に聖女であれば誰しもが持つスキルの事は一切の記述が残ってはいなかった。
その聖女は従者などは一切つけず戦う際はその身一つで戦ったと書かれ、強大な悪霊などにとりつかれた者を払う際も誰にも手伝わせなかったとの事だった。
ただその時に助けられた国の王が後々に語っていた事だけは記録に残っている。
聖女に助けられた際に心の奥底で獣様な声と何かを叩く音を聞いたと……
おしまい
前にノリと勢いで書いたやつが出てきたので投稿……よくこんなの書いたな~(遠い目)