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序章
「君は……、優しすぎる」
彼は俯き加減で私にそう言った。その目からは涙が溢れそうだった。冬の風が私の身を震わせ、冬の海は私に恐怖の念を抱かせた。
「大丈夫よ。きっとまた会えるわ。いつかまた会える。それまでの辛抱よ」
ありきたりな台詞を吐いては彼を落ち着かせようとする。それは自分を落ち着かせるためでもあったのかもしれない。自分でも笑えてきてしまう、私に明日なんて来るはずなんてないのに。
「そうだよな、君が死ぬはずがないよな。そうだよな、僕は君を信じている。だからまた君の笑顔を見せて」
彼は私の首に彼がずっと大切にしてきたペンダントをかけた。そして、私に笑顔を見せて、去っていく。もう彼に会うことはないのだと思うと、胸が苦しかった。これでよかったんだよ、なんて自分自身へ言い聞かせては、ただその時を待つ。
――これは私が彼と出会い、私が死ぬまでの物語。