休息
「おいケン、飲みにくぞ」
「……飲みに?」
日が沈みきり魔石で出来た街頭やガス式らしい街灯が夜道を照らす頃に俺達は宿に戻ってきた。
魔石やドロップの換金も終わり、装備の点検もして体も拭き服も着替え、さぁ今から何をしようかと思っていたらアケチが俺の背を叩いてそんな事を言ってきた。
「……晩御飯はもう食べただろ」
「まだ食べれるだろ。それに食べるだけが目的でもない。女どもはちょくちょく女同士で出掛けるのに俺達は今まで一度も二人っきりで出掛けた事がないだろ」
そう言われればそうだった。俺とアケチに後誰かが着いてく来て三人で出掛けることは無いわけではなかったが男二人で出掛けることは無かったな。
「少し飲むだけだ。明日には差し支えない」
「……別に飲むのが嫌な訳じゃない。……飲むのって酒だよな?」財布代わりの革袋を腰のベルトに付けて多少のお金をベッドの裏の床裏から取り出す。
四階層以下へと進むようになってからは前よりもこうして自由に使えるお金が増えたのは良い事なのだが、前までと違って防犯の為に全財産を持ち歩く訳にもいかない量の硬貨が貯まってしまった。嬉しい悩みではあるのだがこれが意外にも最近の悩みの種となっている。
元々の設計か前に住んでいた人間が作ったのかは知らないが、ベッドの下の床が一部剥がれるようになっていてその中に貴重品が入れれるちょっとしたスペースがあるのだが、それだって念入りに探されたらすぐに見つかるだろう。
この宿は新人が格安で住めるように作られているせいか防犯のぼの字も見当たらない風通しの良い設計だし、今は俺達しか泊まっていないが勿論いつ他の人が泊まりに来てもおかしくない。鍵付きの金庫でも買いたいものだが、うちのパーティーには居ないが斥候として人気のある盗賊の技能でも開けられない金庫となるとそれを買うために金貨が飛んでいくし、そもそもこの宿に泊まっていれば金庫ごと取られてもおかしくない。一応ギルドにはお金の預かりシステムがあるのだが、あれは7等級以下の冒険者が金を預ければ1割程の預り量が取られてしまうのだ。ギルドがある所ならこのアードの街以外でも引き出せるとは言え預けるには勇気がいる。つい最近9等級に上がった為に強制的に10等級の今月分の上納金1シルバーを納めさせられた挙句、今月末には9等級としての上納金5シルバーを納めなければならない。だからこそ金庫なんざに金は出せないのだ。
「別に酒以外もあるけど…どうした?飲めないのか?」
「……いや、酒って飲んだ事ないから大丈夫かなって。多分記憶が無くなる前も飲んだ事ねぇのかな?」
「なら今日がデビューだ。なに、介抱はしてやる」
俺とアケチは女子組に軽く断りを入れてから街へと繰り出した。
「……で、どこ行く?」
「ミーシャの酒場でどうだ?あそこは店員は美人だし料理も酒も上等な物ばかりだ」アケチが提案した酒場の名前は俺も聞いた事がある。冒険者の中でも美人の店長と美味しい酒と料理で有名な大衆酒場だ。美人の店長が元冒険者で腕っ節も強く、あそこではガチな暴力沙汰は起きにくく一般客も多いと聞く。
「……あぁ、あそこか。……でもあそこって高ランクの冒険者の縄張りって聞いたけど」ただまぁ、あそこは店長が元々所属していた《戦乙女》と言う女性だけで構成されたクランの構成員達が多く出入りしている。クランとは通常のパーティーでは攻略出来ない高難易度の狩場に参加したりするために、あるいは情報交換や高ランク冒険者に対抗するためだったり、はたまた単に仲のいい連中で緩〜く団体を組んだりするために集まった集団の事を指す。
《戦乙女》はこのアードの街でも上位のクランで、クランリーダーは3等級の、幾人かの幹部は4等級の冒険者であり、構成員の質も量も高く多く、あそこに睨まれれば俺達も一溜りも無い。
《戦乙女》に所属する理由は同性だけだから気が楽と言う理由もあるのだろうが、多くの構成員は男性不審だったり単に男が嫌いだったりする。過去に男関係で傷がある者も少なくなく、あまり良い噂を聞かない幹部も複数人いたりするのだ。
「何度も言ってるけど、馬鹿な真似さえしなければ問題ないな。あっちもクランリーダーがまともな人だからきちんとした理由もなしに突っかかっては来ない。突っかかってきたら半殺しか普通に殺されるらしいからな」
「……女に対する夢が壊れた気がする」
「そういう側面もあるってだけだ。うちの女どもは頭がおかしいのが二人いる以外は男の夢そのものだろ?」
「……確かに」
彼女は頭がおかしいとは少し違う気もするが、そこに目を瞑れば話しやすく人懐っこい。ララちは……知らん。ユウカは普通に良い子だ。全員見てくれも美少女と美女の中間程で、この街でも一番の美人集団と言えよう。他の男冒険者からの羨望の眼差しはちょっと気持ちいい。
俺達が住んでいるボロい区画を抜けて商業区を超え、繁華街の冒険者が多いエリアへと足を運ぶ。ギルド支部や鍛冶屋に魔導具店が近くにあるためかここら一帯はいつも仕事終わりの冒険者でごった返している。その中でも特に賑わいのある飲食店エリアにミーシャの酒場はあった。
ミーシャの酒場はダークブラウンの木材で作られたシックな見た目の木造の酒場で、ここら辺の酒場でも大き目の部類に属している。この街では珍しい三階建ての建築物はその店の繁盛ぶりを表している。
店に入り席に着くとアケチが店員を呼んで注文を始めた。
「エールと何か甘い酒を一つと焼き鳥の鶏ももを四本頼む」
「かしこまりました。ではお酒は当店おすすめのハチミツといくつかの果物で作られたハニー酒でいかがでしょうか?」
「それで良いな?」
甘い飲み物が好きな俺に配慮してくれたアケチに感謝しながらコクリと頷く。
それを確認した店員はすぐさま奥へと戻っていき、数分もせずに湯気がたって美味しそうな焼き鳥と黄金色に輝く液体のハニー酒を持って来た。
「所で前から気になってたんだけど、お前は一人で注文って出来るのか?」
「……注文は出来る。……でも店に入ったり店員に声を掛けるまでが長いんだよ」
「難儀なもんだよな。でも二人きりなら喋れるんだし、そのラグみたいなの治せないのかよ」エールを一気飲みしたアケチはさらにお代わりを注文した。
「……慣れれば多分行けるとは思う。……旨いなこれ」ハニー酒はかなり甘めのとろっとしたジュースの様なものなのだが、これがまた俺には丁度いい。果物よりも甘いハニー酒は一杯10カパーとエールの五倍の値段がするが、砂糖や甘い物が高いここらではむしろ格安の甘味と言える。少しクラっとくるこの感じがアルコールなのかな?とも思いながらちびちびと絶え間なく飲み続ける。
「アルコールが強い癖に飲みやすいから飲み過ぎに気をつけろよ」
「……あぁ。……それ貰うぞ」
「食え食え、僕も食う」焼き鳥を皿から取って食べながらアケチが追加で料理を注文する。
てか、これも美味しい。甘辛いタレが濃い味で冒険終わりには丁度よく、出来たてだからか熱々で肉も柔らかく肉汁が溢れ出てくる。
「うまぁ〜……」自然と口に出てしまうがそれも仕方ない。朝は買い出しに行ってもらってるから食べる頃には冷めてるし昼は論外。やっぱ温かい食べ物って良いよな。
男だけだから気を使わなくていいってのもある。彼女とララちが男陣よりもガツガツ肉を貪るように食べてくれるからまだマシなのだが、やっぱりあの美人集団と共にご飯を食べるとなると行儀を気にしてしまうんだよな。今みたいに椅子に浅く座って椅子の背に腕を回してダラけながら食べる訳には行かない。
「男同士で食べるのも良いだろ?」そんな俺の様子を見て鋭い目付きを優しく細めてアケチ笑い、俺も「だな」と言いながら笑う。
「今のは反応が早かったんじゃないか?」
「……今から喋るぞって思わなかったら声は出るんだよ。……ほら、戦う時の掛け声とかも」
「あれは喋るってか雄叫びだろ」
「……まぁな」俺が確かにと笑うとアケチも笑う。
二人して既に気分が高揚しているらしい。俺は素が出しやすいな程度だが、アケチは既に顔を真っ赤にして出来上がっている気がする。その証拠にアケチが優しい。
「あ"ぁ"〜、うめぇー」
「……確かにここのは旨いな。……お酒には詳しくないけどこれも滅茶苦茶旨いし」少しだけトロみのある舌触りが本物の蜂蜜に近い感じで、でも飲みやすいくらいだから本当に良いんだよな。一杯10カパーは高いけど量も多めだから割高な品ってよりかはちょっとした贅沢くらいで収まってる。
「で、どうなんだよ?」俺は三杯のハニー酒を、アケチは三杯のエールと二杯のビール、それとミーシャ特製酒場酒を二杯飲み干し、二人して出来上がった頃にアケチはそんな事を言ってきた。
「どうって?」
「女の事だよ。男同士で飲んだら恋バナだろ恋バナ」
「恋バナかぁ〜。バナナくいてぇ〜。バナナってなんだっけ?黄色いバナナぁ〜っ」
「うちのパーティーの女共は見てくれは良いんだろ?僕は好みじゃないけどなっ!!二匹猛獣がいるしなっはぁっ〜っ!!」
「猛獣?もうじゅう?あっるちゅぅ〜!!……何やってんだ俺。……飲んでんでぇ〜す」周りの冒険者にも出来上がっている人は多く、その雰囲気に当てられて少しだけ酔いが回っている。美味しい鳥の美味しいんです。お花のみたいな甘いハニーの甘いのが甘くて美味しい。
「店員さ〜ん、おかわりぃーお願いします」
「で、どうなんだよぉ?」
「ハニー酒が最高だわ」
「女だよ女」
「女?……可愛いよなぁ」
「可愛いかー。……誰が可愛いんだよ」
「女の子が可愛いんです。……俺、酔いすぎてんのかな?呂律回ってるしちゃんと話せてるから酔ってませんな、うん」
「全員かぁ、全員なっ。俺は俺だァっ!!」
「飲み過ぎだぞアケチ。何杯目だよそれ」
「あ?……二杯目だな」
「二杯目かぁ。なら、ならだな!」
「で、実際誰が好きなんだよ」
「好き?すき焼き食べたくね?」
「好き焼きってなんだよ焼きもちかよ。餅食いてぇ〜」
「9番とかだな」
「妥当だな。ララちはどうなんだよ」
「ララちですよぉ〜っ!!」
「ガバッ、にてっ!似てるっ!!マジで似てんじゃねぇかよっやひゃひゃっ!」腹を抱えて笑うアケチを尻目に店員から代金と交換で一杯目のハニー酒を受け取ってハニー酒してハニー酒を飲んだ。初めてのハニー酒は今まで飲んだハニー酒と同じくらい旨い。ハニー酒のお酒飲むと味が無くなるって言うけどハニー酒のお酒を飲んでもハニー酒はした。
「アケチはどうなんだよ?」
「あ?居るに決まってるだろ、何考えてんだ?この僕がモテない訳ないだろ」
「うちのパーティー、じゃねぇんだよな?」
「ふっ、誰か特定の誰かって訳じゃないんだな。僕は僕だからな」
互いにどこか遠くを見ながら笑い合う。完全に酔っ払っているのか内容が不可解なやり取りが繰り返され、既に飲んだ酒の杯数すら数えられなくなっていた。始めの一杯目から酔いが回っていたアケチだけでなく、既に十杯はハニー酒を飲んでいるケンも夢見心地で意味の無い言葉をたまに発しながら何とか会話を成立させる。
「空は青いよなぁ〜」
「空は青いなぁ」
二人して馬鹿な面を晒すが、夜が遅いせいか周りの客も殆ど出来上がっていて誰も気にしていない。何人かは二人よりも酷く酔っ払っていて、帰る途中で倒れてしまったり、殴り合いの喧嘩が始まっている。
そんな中、一人の男が近づいてくるのをボヤけた頭で辛うじて認識する。
「……ん?」
「あ?ニシキか」
「出来上がってるなアケチ」
近づいてきた男はどうやらアケチと知り合いのようでそのまま潰れて机に突っ伏しているアケチを見下ろしていた。にしても、デカいな。男は俺よりもさらに背丈が高い。もしかすると2メートル行ってるかも。それに横幅は俺とは比べ物にならない程広い。太ってるとかじゃなくて服の上からでも分かるほどに筋肉が付いているのだ。背中には俺の身長と横幅よりもさらに大きな鈍鉄色の大剣がベルトで固定されていた。装備も俺達よりも整っていて、装いは軽装なのだが金属の厚みが尋常じゃない。もしかすると彼女の鎧よりも分厚いかもしれない鉄板を左胸や肩に手首など最低限の場所に付けたその鎧の上に、白く派手なコートを羽織っている。コートの首周りには謎の白い羽でファーが作られていてそれがまた派手なのだ。本人もゴツい顔立ちで目元に大きな傷と頬に三本の傷があるため、目の前に立つだけで人を威圧する風貌だ。白髪混じりの髪はオールバックで整えられていて、貫禄が凄まじいのだが年齢は案外若そうだ。俺よりも上だがアケチと同い年には見える。
「それはなんだ」ニシキと呼ばれた男は俺の事を顎で指して問いかける。
「ふっ、僕の仲間だ」
「そうか。男って事はそいつが戦士のケンか。話は聞いている、ニシキだ。よろしく頼む」
「………………ケンだ。よろしく」酒の力もあってか複数人でも何とか言葉を返すことが出来、ニシキが差し出した手を握り返す。驚いたことにニシキの手はまるで岩のように硬かった。本当に革の防具でも着けてんのかってくらい硬い皮膚なもんで、もしかして素手で剣を受け止めれるんじゃね?って思ってしまった。
「細いな」顎を擦り、値踏みするような目線を寄越してくるニシキだが、自然と苛立つことは無かった。まるて人の上に立つことが約束された様なその雰囲気にでも飲まれているのか。
「筋肉はあるようだが細い。……上背があるのに勿体ないな」
「どうしたニシキ。僕の仲間にケチを付けるのか?」潰れていたはずがいつの何か立ち上がり杖で肩を叩いてるアケチが歯を見せて獰猛に笑う。彼女が良くする明るい笑顔とは違い、こちらは自信を滲ませた笑みだった。
「本当の事を言ったまでだ。俺とバルバロとお前の所で世代争いをしてるなんて言われているからな。お前達がちんたらしてるせいで俺達の評判も低くなっているんだ。お陰で身の程も知らない馬鹿共が寄ってくる」
「知るか。僕らは僕らのペースで行く。突っかかられるのはお前達の実力が無いからだろ」アケチは挑戦的に笑ったまま無自覚か自覚してかニシキを煽りに行く。
「一括りにするのは周りだ。事実お前達が出遅れてる事を知ってる奴らも多い」
「あぁ?言い訳しないでくれ。……んくっ。お前達が飛び抜けては強くないから突っかかられるんだよ。あと僕達は普通に強いぞ?」
「…………なんでそんなに喧嘩腰なんだよお前ら」ハニー酒の飲み干してお代わりを注文し、ツマミのグラタンに手を出す。うん、普通の食事風景だよなぁ。
先程まで見た事もないほど獰猛な笑みを浮かべていたアケチは何を言ってるんだと言わんばかりの顔で「そっちの方が盛り上がるだろ?」などと抜かしやがった。
「酒場で同期のライバルが顔を合したんだ。多少は張り合いを作った方がいいだろ」ニシキも態度を急変させて席に座り、酒を頼み始めた。
「ここの酒場はドワーフの店員が作る火酒が旨い。どうだ?一つ飲み比べないか?」
ドワーフ。ドワーフと言えばこの街でもたまに見かける亜人族の一種を指す。魔物と違い、人類種に部類される彼らは酒樽のような体型で、身長は150もあれば長身と言える種族ながら人族以上の筋力を誇り、鍛治の腕は並の職人を凌駕する。精霊の末裔であり例外なく容姿の美しい魔法種族のエルフとは犬猿の仲である事が有名だが、性能のいいエルフが使う弓はドワーフ製か魔導具や聖宝具などの類だと言われるほどその技術は群を抜いている。現に魔物が跋扈する北とは反対の南の人類圏にはドワーフの鍛治都市がある程だ。大地の精霊との親和性も高く、こと大地の魔法に限っていえばエルフ以上の魔法使いである彼らは総じて酒好きで、酒に強い。ドワーフの謎技法と魔法によって作られた酒の中には爆弾兵器として使われたものすらある程だ。ドワーフと戦争するなら武具と魔法と酒のその技術に気をつけろとすら言われている。
「ふざけるな。この前火をつけたら爆発したあれだろ」
「…………酒、なんだよな?」
「なに、少しアルコールが強いだけの酒だ」
「ケン、絶対に飲むなよ。ドワーフが火酒なんて言うくらいなんだ、人族が飲めば死ぬぞ」そう言いながらアケチはまたエールのお代わりを注文した。
俺は……次で終わろうかな?飲み過ぎたら死ぬって聞いた事あるし。初めての飲酒で既に何杯飲んだかもあやふやなのだが、まぁ大丈夫っしょ。
「で、お前達は今何処で狩りをしてるんだ?」
「僕らは近くのゴブリンダンジョンだな。日で10シルバーは固い」
「あそこは効率が悪くないか?」
「そうか?死体の処理や物漁り、解体に時間は取られないんだぞ?」
「そういうものか」
「…………殴る、殺す、魔石とドロップゲット…………難しくなくて丁度いい」
「なぁアケチ、脳筋なのかこいつは?」
「あー、確かに脳筋かもしれないな」アケチは頭をかきながらそんな事を言ってくる。脳筋ってのは彼女の様な人間のことを指すと思うんだけど。
「ま、ダンジョンは分かりやすくて良いな。だがなぁ、死体丸々一つ剥げるのはデカいぞ」
「そんなに稼ぎが良いのか?」
「俺達はコボルドの集落近くで狩りをしてるが中々だな。武器や防具も質のいいもんに取り替えれて稼ぎ以上に得はしてる。この大剣だってコボルドの族長をやった時に手に入れたもんだ」店員が持ってきた陶器の小さいコップに入った酒をチビチビと飲みながらニシキそう言った。ニシキが戦利品として手に入れたと言う無骨な大剣は飾りっけは無いが、今の俺達が持っているどの装備よりも上等なものに見えた。
「…………あそこを攻略したらそっちに行っても良いかもな」
「そうだな。……確かに行く価値はありそうだ」アケチも少しだけ迷った後に俺の意見を肯定してくれた。問題は俺達の中に魔物の死体の売れる部位を誰も知らないって事と、死体の解体なんて出来ないって事か。まぁそのくらいならララちにギルドで覚えてもらえばいい。
そこからは殆ど覚えていない。ニシキも加えて飲んで食ってしたのは覚えているのだがどうにも記憶が定まらないのだ。覚えている事と言えば酔いが回ったニシキと腕相撲をしたり、他の客も混じえて……てか俺達が混ぜられて乱闘騒ぎを起こしたり、何故か腕相撲大会を始めた気がするのだ。……多分それくらいしかやってないと思うんだけど……自信はない。
「にゃっはっロー!!にゃっハローぅっ!!うにゃっはっぁーー!!お空が子猫ちゃんだぜぇっ!!」
「うひひっ、にひっ……うひひっ………沢山……ハハハハハッッ!!」夜も明け始めた頃、若者が集まるエリア故かまだ少しばかりの活気を残す通りを二人の男がフラつきながら肩を組んで上機嫌そうに意味の無い何かを叫んでいる。
「うわぁ〜、人って酔ったらこうなるんだ……」
「ララちですよー」
「うっ……お酒臭い……」彼女は呆れたように自分はこうならないようにしよとある種の教訓として受け止め、ララちはどうしようもないよね〜とばかりにやれやれと首を振り、ユウカは二人から漂う酒の匂いにある距離から近づけなかった。
「うははっ!ララちですよっー!!」
「ララちですよぉ〜!!」
「おぉ、ケン君がハイテンションっ!?……珍しー」
「凄く、レアかも……」決めポーズを決めてララちですよと叫ぶ男に合わせてララちも快く決めポーズを決めるが他の女子二人は心底驚いて口を手で覆ってしまった。アケチはと言うと地面に倒れて既に寝息を立てている。
「ん〜、これじゃ今日の探索は無理っぽいかな?」
「ララちですよー」
「そうかも。……私達も寝てないから眠たいし」実を言うと男子二人が宿を出て飲みに行っている間、せっかくだからと宿屋の部屋で女子会をしていたために女子陣もかなり疲れている。特にユウカは他二人に振り回されたようで今にも眠ってしまいそうだ。
「ん〜、よしっ!お昼まで寝よっか!!」
「ララちですよぉ〜」
「えっと……どうします、それ?」
「まぁ部屋には入れてあげよっか」仕方ないなぁと言いながらも彼女は二人の首を掴んでズルズル引きずって二人を部屋まで運んで行った。