初めてのダンジョン
「ケン君っ!!」
「__っ!!」
彼女が緑の小人を盾で押し返すと同時に俺は駆け出してその頭に大剣を叩きつけた。
彼らと合流して5日が、アードと呼ばれる街に来てから27日が経った。俺達はアケチが酒場で聞いてきていた狩場に来ている。
成り行きでなってしまった冒険者だが、一言に冒険者と言っても様々なタイプの冒険者がいる。それこそ文字通り遺跡や未開拓区域に敵地を冒険して生計を立てている者や、外で魔物と呼ばれる敵対種族を殺して身につけた戦利品や、彼らの体内にある魔石と呼ばれる宝石の様なものを売り払って生計を立てるものに、傭兵のように各地の人間同士の戦争や異種族との戦争に参加して生計を立てている者など千差万別と言える。
そんな中俺達はとあるダンジョンに通っている。
ダンジョンとは何か?と問われても上手く答えれない。と言うか現地の人ですらダンジョンが何のか良く分かって居ないのだが、ここには多くの魔物が出現する。自然の法則をガン無視して魔物が突然現れるのだ。
彼らは殺すと灰になって消え去るが、魔石を必ず残し、時たま彼らの体の一部などが残るのだ。ドロップと呼ばれるそれは一説によれば、ダンジョンの魔物は魔石を核にした魔法に近い存在だが、長い年月を経て存在が現世に固定されていくとか何とか。
とにかく、ダンジョン内には魔物が程よく闊歩していて狩りやすい。極稀〜に宝物が発見されることもあるらしく、これこそ冒険者の醍醐味と言われるほど高値で売れる事もあるとか無いとか。
「ケン、漏れてる」
「………」アケチの簡素な言葉に視線を向けると、魔術師であるアケチが杖を使って緑の小人__ゴブリンを相手取っていた。
彼女はと言うと二体のゴブリンに群がられていてそちらを処理している。俺は目の前のゴブリンの首に大剣を叩き込んでへし折り、勢いよく次のゴブリンに突進し、後ろに構えた大剣を弧を描くように縦に振り回してゴブリンの脳天に打ち付けると、脳漿を散らしてゴブリンは地面に倒れた。
「ララちですよ〜」気の抜けた声と同時にララちが弓を射ると、矢はゴブリンの喉に突き刺さり、ゴブリンが苦しむまもなく二本三本と矢が打ち込まれてその体を灰に変えてしまう。
「ふっふっふっ、最後は私が決めちゃうよっ!!___断罪」他のゴブリンが倒れた事を確認した彼女は攻勢に出る。断罪は聖騎士が最初に習う攻撃用のスキルであり、神聖力と言う力を聖騎士用の剣に流し込み盾で体を守りながら振り下ろすという物だ。神聖力を流し込んだ剣は僅かに光っていて、斬れ味と耐久性が上がるんだとか。まだまだ使い始めたスキルなので光は弱く、最高位の聖騎士が本気で使えばこの光は辺り一面を飲み込むそうだ。
彼女が振り下ろした剣はゴブリンAの肩に食い込んで胸の辺りで止まり体を灰に変えています。「そ〜れもういっちょっ!!断罪」
素早く手首を回して剣を回転させ、素早くもう一度断罪を成功させる。今度はゴブリンBの頭にぶつかり、見事に顔半分をかち割ってしまう。
彼女の筋力的に頭蓋骨を剣で叩き割ることは出来ないはずだが、スキルを使えば十分可能なのだ。
「___ふぅ〜、お疲れ様ぁ〜」
「もっと早くスキルを発動出来なかったのか?」
「ん〜、あれってなんだかんだ結構疲れるんだよねぇ〜。神官みたいに神聖力を鍛える訓練とか本気でしてる訳じゃないし」
「使えないな」
「なっにぃっ〜?言ったなぁアケチぃ〜」
一戦終わると直ぐにこれだ。俺達が魔石やドロップを回収している間にアケチが駄目だしを始め、彼女が腕まくりをして関節技を決めようとする。
もちろん彼女は本気で怒っている訳ではなく、ただ単にじゃれつきたいだけなのだろうがアケチの方は本当に魔術師なのか疑いたくなるような見事な杖捌きで彼女を撃退してしまう。
背丈も170ちょっとと平均よりかは高く、何気に鍛えられていそうな体のアケチだ。接近戦も頼りになる。
「いったぁ〜。ユウカちゃ〜ん、回復ぅ〜」
「あっ、うん」
「止めろユウカ、この馬鹿に大切な回復魔法を使うなんで勿体ない」
「あ、うん」
「それとケン」魔石をじっと見て質を確認していた俺にアケチは杖を向けてきた。
「戦士なら二体くらいはキチンと引き受けろ。そうすればこの僕が全て倒してやるから」自信に満ち溢れながらも何処か嫌味らしく言い放つアケチだが、これで意外と周りが見えていて気遣いも出来る男なのだ。この狩場を見つけて来たのもアケチだし、ドロップの買い取りがいい店や安くて質の高い武具店を見つけて来るのもアケチだったりする。俺は任せろとばかりに親指を立てる。
「………少しは喋る努力をしたらどうなんだ?」
「そうそうっ、二人なら喋ってくれるのにねぇー」
「喋れるのかこいつ」
「ア、アケチくん、喋れって言っておいて喋ったら喋ったで驚くのはどうかと………」そうだそうだ、ユウカの言う通りだ。
「ララちですよーっ!!」ララちも追撃とばかりに強い口調でアケチを避難する。
「おい待てララち、お前も会話は成立してないからな?」
ララちは基本的に……ぁいや、いつもララちですよしか言わないから会話は成立しない。ただ身振り手振りにララちですよのイントネーションでコミュニケーションは成立する。
ダンジョンに潜り始めた俺達だが、かなり順調に冒険者をやれてると思う。他の同期を見てもこのパーティー並の勢いを持つ所は少ない。
自分で言うのも何だが俺は遊撃兼タンクとして振る舞えていると思うし、彼女はゴブリンなら2体は確実に引き受けられるしちゃんと決める所は決めてくれる。アケチは魔術を温存する傾向にあるが、ここぞと言うところや、危うい所で必ず魔術を飛ばすし、アケチ自体前衛としても叩かれるので神官のユウカを放ったらかしで前衛二人が戦えるのもデカい。ララちは狩人で主に弓を扱うのだが、常に動き回ってすばしっこく小柄なゴブリン相手でもキチンと矢を命中させ、腰の2本の短剣を抜けば心強い前衛へと早変わりする。パーティーが安定しすぎて逆にユウカはたまに回復魔法を使うくらいで出番は少ない。
ララちはともかくアケチは魔術師で、接近戦の仕方を習って居ないため決め手に掛けて敵を仕留められないと言う弱点と言えばまぁ弱点があるが、そもそもアケチは後衛で直接戦闘なんてしなくていい立場だ。それが後衛3人の内2人が近接戦もこなせると言うのは心強く、個々のレベルの高さを示しているのだろう。
「でも狩場を変えて正解だったね」
「うんうん、その通りだよっ!!あそこは私達には向いてなかったなぁー」実を言うと俺達は一度別の所で狩りをしようとしていた事があった。
このアードの街で新人がまず向かう狩場は主に三つだ。難易度の低い順で言えばまずこの近くの森た。名前も特にないアードの街のすぐ近くにあるこの森にはゴブリンや野生生物が生息し、割かし安全に探索出来るとされている。ここでゴブリンを殺せばダンジョンとは違い、ゴブリンの所有物である首飾りや腕飾りを持ち帰ることが出来る。この装飾品は1カパーで買い取られる物もあれば、銀貨1枚。1シルバーで買い取って貰えるものもあり、日によって収支は変わるが安定して狩れるなら悪くない。
次にゴブリンダンジョンと冒険者に呼ばれているここ。ゴブリンダンジョンと呼ばれる程ゴブリンしか出てこないこのダンジョンだが、出てくる魔物の数は森の比では無い、ただ、魔石やドロップの質がダンジョン魔物は外の魔物に比べて悪いらしく、外の魔物と比べて安値で取引されてしまうので安定して数をこなせなければ生活が厳しいラインまで落ちてしまう。
最後の狩場はあの森をさらに奥に行った所で、その辺はゴブリンの集落が点々と存在する。まだ行ったことは無いがここのゴブリンは森の浅い所にいるゴブリンと違い、しっかりと栄養が取れているのか浅い所にいるゴブリンよりも身体能力が高く、装備も充実しているそうだ。集落にはゴブリンの上位種であるボブゴブリンが居ることもあり、これがまたゴブリンとは比にならないくらい強く、新人だとよっぽど元々の能力が高くもない限り倒すのは難しいんだとか。集落には数十から数百のゴブリンが存在するため、この数にも気を付けなければ個々の能力が高くとも数の前に敗北してしまう。その為通常は集落から離れた所で狩りに出るゴブリンや気分転換か何かで集落を出たゴブリンを狩るのがセオリーなんだとか。他の二箇所と比べて一段階レベルの高い狩場だが、その分収入も高くなる。
「あそこはしぶといからな、僕らじゃ効率が悪い」アケチが眼鏡に指をかけながらそう言う。
アケチの言う通りだ。外の魔物はダンジョンの魔物に比べて生への執着が凄まじい。顔を半分潰され、脳漿を零しても飛びかかってくるゴブリンや、死んだふりをしたゴブリンのせいで初日にユウカとアケチ以外が怪我をして、俺が背中にグッサリとナイフを刺された為狩場をここに変えた経緯がある。その分ダンジョンでは死ねば灰になる為死んだふりは通用せず、何故かは知らないが外の魔物に比べてちゃんと死んでくれる。
「おぉ〜し、かっせぐぞぉっ!!」
「……借金、してるもんね」
「うぐふっ」ユウカの何気ない言葉によって謎の力で腹にクリーンヒットを受ける彼女。
「鎧とスキル、後その盾もか。9番の担当は良くもまぁ新人に金を貸してくれたな」
「のうっふっ!!い、良い人だからねー」そうなのだ、彼女は今借金を背負っている。俺達はみな一様に冒険者ギルドに加入金の借金をしていたが、それとは比べ物にならない額の借金を彼女は背負っているのだ。
先立つものが無ければ稼げないと考えた彼女は断罪のスキルと盾打と言う、盾に攻撃が当たる瞬間に特殊な力の込め方で押し返すスキルを銀貨20枚で習い、更には金貨3枚で中古の全身鎧と体をすっぽり隠せる大盾を買っていたのだ。お陰で被弾を気にせずに戦えているため、妥当な判断だったと全員分かってはいるが、パーティーの貯金額が銀貨30枚前後、個々で精々銀貨数枚の俺達にとって金貨3枚と銀貨20枚の借金は字ズラが大きすぎる。銀貨にして320枚………クラっと来る金額だ。一応彼女の装備品を含め、最初のうちは全員分の装備一式をパーティーで出し合おうとは話しているが、一体どれ程のお金を貯めればいいのか分からない。「さっさと次に行こう、一日10シルバーは稼ぎたい」アケチのその言葉で俺達はまたゴブリンを探し求めて歩き始めた。
ゴブリンの魔石一つが高くても3カパー、ドロップも10カパーになるかどうか。一日に文字通り山ほどゴブリンを狩らねば支出が収入を超えて俺達でも簡単に明日も知れぬ暮らしになってしまう。ちょっと世知辛すぎる世の中に凹みそうになるが、これはこれでちょつと楽しかったりする。底辺に近い暮らし、てかド底辺の暮らしをしているが、冒険しながら仲間と共にそれを乗り越えて行くのはちょっとしたゲーム感覚でワクワクする。………ゲーム………遊戯?ゲーム………たまにこの感覚に襲われるんだよな。何が何だか分からなくなる。記憶喪失ってか、多分何かしらの条件に接触した記憶が消えていく感覚。アケチなんてこれのせいでしょっちゅう頭を抱えてフラフラしている。皆何かを忘れてしまっていて、それが物凄く大切な物なのだとは検討が付けられるのだが、何故それが大切なのかすら忘れてしまっているためいまいち危機感が持てない。アケチは記憶が消える度にイライラしてるみたいだけど。
「___来たぞ、9番、ケンっ!」
「行っくよおっ〜!!」
「………」
ダンジョンを5分も歩いていると、5体のゴブリンに出くわした。アケチの掛け声と同時に俺と彼女は駆け出してゴブリンに攻勢を仕掛ける。彼女は大盾を構えてゴブリンにタックルをかまし、剣で殴ってもう一匹ゴブリンの注意を引いてくれる。俺は俺で大剣を振り回してゴブリンの注意を引くが、一匹だけ後衛へと向かって行く。
「ララち」
「ララちですよぉ〜!!」だが心配入らない。抜けて来たゴブリンの胸に矢を射たララちが二本の大振りのナイフを腰から引き抜きゴブリンに攻めかかる。最初に胸を射られたゴブリンは何とか応戦するが、苦しそうに顔を歪め、動きもぎこちない。アケチは魔術を使うまでも無いと傍観を決め込み、出番の少ないユウカは居心地悪そうにしながらもいつでも回復魔法を使えるように気を張っている。
「ケン、いつまで掛かってる。さっさと決めろ」
「___らぁぁぁぁぁぁあああああああああっっっっつつ!!」アケチの無遠慮な物言いがきっかけでは無いが、俺は雄叫びを上げて一体のゴブリンに猛攻を仕掛ける。スキルなど何も無いが、戦うための最低限の基礎は叩き込まれている。あの地獄の20日で手に入れた体力と筋力をもってしてゴブリンの防御を切り崩そうとする。俺が引き受けた内の一匹、ゴブリンAは剣を構えて大剣を受け止めようとするが、身長130も無いようなゴブリンが頼りない剣を掲げた所でたかが知れている。大剣はゴブリンの剣ごと押し込み、ゴブリンの肩にぶつかり、肉を断ち、鎖骨もボキボキッと砕いてしまう。「らぁぁぁああああっっつ!!」掛け声と共に肩に大剣が食い込んだゴブリンごとゴブリンBの顔面に叩き込むと、大剣が刺さったゴブリンの肩が二つに裂けてゴブリンBを巻き込みながら吹き飛んで行った。
「相変わらず凄い馬鹿力だな」
「お姉さんは頼もしいよっ!」
戦士ギルドで鍛えられた筋力で振り下ろされる数kg、下手すれば10kgあるかもしれない大剣のコンボはそれだけで脅威となる。幸い俺は他の人よりも上背がある訳だし、その恩恵も人一倍受け取っているのだろう。
全てのゴブリンを片付けた俺は他に増援に行こうとして、止めた。
ララち達後衛は既に戦闘を終えていて魔石も回収し観戦モードに移行し、彼女も俺が戦闘を終えたのを見て攻勢に移ったからだ。彼女は盾でゴブリンを一体吹き飛ばし、突進でもしているかのような勢いで吹き飛んで行ったゴブリンを追い掛けて断罪で勝負を決める。それが終わればもう一体も同じように断罪で決めてしまった。
借金してまで購入した全身鎧はその効果を遺憾無く発揮し、ゴブリンの攻撃を受けた所でビクともしないため、多少無理矢理な攻撃でも通じてしまうのだ。
「余裕があるな」アケチは眼鏡に二本指を当てながら言う。
「これなら下へ行っても構わないはずだ」
「ララちですよ〜」
「あぁ、うん、そうか。ちょっと黙ってるんだララち」
「ララちですよ〜」心無しかララちが凹んでる。
「余裕だしね〜」彼女の言葉に同意する様に俺も頷いて見せる。
「私は何もしてないし……」おどおどしながらもユウカもアケチの提案に同意する。ユウカはこのパーティーでは珍しく怖がりではあるのだが、流石にここまで何もすること無く全てが終わってしまうようでは提案を拒否する気にもならなかったのだろう。
「同期では上位だけど他二つに遅れてる。張り合うには丁度いい」同期?あぁ同期か。俺はまだ同期と呼ばれる人達とは会った事が無いが、俺以外全員他の同期とは顔見知りなのだとか。特にアケチは酒場に行く事も多く、そこで他の同期と交流があったりするのだとか。
「ん〜、ミカミっちとレイっちって何処まで行ってるの〜?」ミカミっちとレイっち。ミカミとレイか。他二つって言ってたからその二人がパーティーのリーダーって事なのかな?
「森の奥らしい。流石にまだそれ以上は行ってないみたいだけどその内行きそうな雰囲気ではあったな。ここでこれだけやれるなら僕らも追い掛けた方が良いかも知れない」奥の森かぁ〜。奥の森か。俺は彼女に近づいて「……先にここを攻略した方が良いだろ」と耳打ちすると、彼女が皆に向かって「ケンが先にここを攻略しよ〜だってさ」と俺の代わりに言ってくれる。皆に向けて話すのはちょっとまだ無理そうだけど、こうして人伝になら意見を伝えられる。
てか俺今までどうやって生きてきたんだろ。まさかつい一ヶ月前にこの姿で産まれた訳でもあるまいし。人として欠陥レベルでコミュ力が無さすぎるよなぁ。こう、集団の前で話そうとしたら喉が締まるってか、張り付く感じ?があるんだよね。
「……喋れたんだなケン」
「うん、喋らないって思ってた」
「ララちですよ」アケチにユウカ、そしてララちまでもが驚いたように目を見開いている。てかララちは驚いてもララちなんだな。なんだよ驚いてもララちって。
俺の抗議の眼差しにアケチは「陰険野郎」とだけ言って奥へ進み始めた。半分呆れているのか諦めているのか、俺と話そうとしない。いや、多分俺が話しかければ話には応じると思うよ?たった数日の付き合いだがアケチは基本自分ファーストで生きてて他には特に執着してないみたいだし。
ちなみに陰険野郎はアケチが始めの方に言い出した言葉で、俺の名前であるケンの名付けの元となった言葉でもある。酷くね?俺ってどちらかと言えば陰険ってか無口ってだけでちょっと陰気臭いだけなんだけど。………いやアウトか。何がアウトかって聞かれても困るけどアウトか、うん。
俺達がダンジョンを出た頃には日は暮れ始め、アードの遥か向こうに見える山脈を見ながら彼女は「だぁ〜、つっかれたぁ〜」と元気そうに叫んだ。多分全く疲れてない。恐らく気分で疲れたと言ってみただけだろう。でも、まぁ、あの山脈綺麗だな。ばっかデカいし、山頂の雪が夕日に照らされてすっげぇー綺麗に輝いてるし。こうやって綺麗な景色を見てるとさ、稼ぎの少なさも忘れられるよね。………無理か。
いやさ?頑張ったんだよ?割と俺たち、新人の中じゃ稼げてる方なんだよ?倒したゴブリンの数だって100体超えてたし、ドロップ率も悪くなかった。てかなんなら今日は上振れてた。たださ、ダンジョンのゴブリンの魔石とかの買取金額って最低レベルでなんと今日の収入は4シルバーと38カパー。ゴブリンの魔石は一律2カパーで、ドロップも大体3カパー、魔術用に需要があるとか言う牙のドロップでも10カパーにしかならなかった。
「稼いでる、んだよね?」
「これでもマシな方だけど、狩場を変えた方がいい」魔石等の買取を済ませた後、夕食に全員揃ってこれまたアケチが見つけて来た雰囲気が良く品揃えも良くてそして何より安い大衆料理店のテラス席に陣取っていた。アケチ様々だ。
「ダンジョンの下に行くか森の奥に行くか。はたまた別の所に行くか。……何にせよこの稼ぎは渋い」アケチは頼んでいたパスタをフォークでクルクル巻きながら渋い顔でパスタを眺めている。
「べふにいいんひゃな〜ひ?ほんなくへんひへないひ」
「分かりずらいから喋るか食べるかにしてくれ」
「うくっ。ふぅ、っ!店員さ〜ん、これお代わり〜」
「こいつッ………」彼女は話し合いよりもご飯に集中するようで骨付き肉を豪快に噛み千切りながら追加注文を頼んだ。ララちは話し合いをする気が鼻から無いらしく、両手に骨付き肉を持って彼女と同じかそれ以上に豪快に肉を貪っている。
この食べ方すら魅力的に映るのはどう考えても彼女達が類まれなる美女美少女に当てはまるからだろう。ユウカはそんな二人に囲まれて肩身が狭そうにサラダを上品に食べている。
俺が二人みたいに食べないのかなぁ〜って見ていたら「食べない、よ?………」と返された。
そうか。アケチの方を見ると、先程の事で考え込んでいるのかまだパスタをクルクルさせている。
実際稼ぎの問題は先延ばしにしていい様な問題でもない。先延ばしにしていいってか、急務とも言える。
そろそろ冒険者ギルドへの上納金を納めないとだし、全員の装備を揃えてさらに整備にもお金がいる。どうやら冒険者に必須な消耗品等もあるらしく、それらを揃えようとすればさらに金が必要だし、今泊まっている宿は冒険者になって一ヶ月目はタダで泊まれるのだが、それ以降は普通にお金が取られてしまう。冒険者用の資金だけでなく日用品を買い揃えるお金に、たまの息抜きに使うお金だって欲しい。個人の財産はあるにはあるが、娯楽に回せるほど余裕のある財産でもない。………何をするにも金。金が必要なのだ。
「ふぅ〜、ララち食べるの早すぎぃー。来るまで無くなったじゃん」
「んくっ、ララちですよっ!!」
「まぁいいや。でもさ、昼間言った通り一回下まで行っちゃおうよ。魔石の質が上がるんでしょ?」
「その分敵も強くなる」
「別に今余裕なんだし良いんじゃない?」
「こうなったら効率の問題だ。森に行くかダンジョンか。ダンジョンの買取は安すぎる」
「え〜、数も多いしすぐ死ぬし私は楽で良いと思うんだけどなぁ〜」
「それはハチちゃんだけじゃ?」ユウカのその言葉に俺とララちが親指を立ててみせ、俺達もだと主張すると、ユウカは若干ジト目になって俺達を見てきた。
仕方あるまい、俺は彼女に伝言を託す事にし、「……今の所、怪我してないし……今の場所、楽だから下降りたい。……あと森は虫が嫌」と耳打ちすると、彼女が皆に「え〜とねぇ、ケンは皆怪我してないんだし、ダンジョンが楽だから下降りたいんだってぇ〜。あと虫が嫌いみたい」
「乙女かお前は……」
「でも、私も虫は嫌かも……」
「ララちですよぉ」
アケチは俺の物言いに呆れ、他二人の女子は賛同してくれた。
俺の物言いに呆れはしたが、アケチ的にも特に下に降りる事には不満ないようで、明日はさらに下の階層に降りてみようという事で話は纏まった。