変人集団と鬼教官
目覚めは意外にも結構気持ち良かった。身体中がポカポカして包まれるみたいな感覚があって、目の辺りがジュワッとして疲れが取れていくみたいな。
「これで治療は終了です」
「おぉ、ありがとね〜お兄さん」
目覚めた瞬間はちょうど神父っぽい人が治療を終えて部屋を出て行こうとしていた時だった。
神父が治療?でも体中どこも痛くないから実際に治療は行われたのだろう。それでも何処にも傷が見当たらないのは不思議でしょうが無いのだが。
「お、起きた?」白い病人用っぽいベッドに身を乗り出して顔を覗き込んでくるので取り敢えず「………おはよう」とだけ返しておく。
「……ここは?」俺の問いかけに彼女は「教会の治療室」と答える。
部屋の中はこざっぱりしていて全体的に白く、棚や机が置かれているが生活感がない。まさに入院したての病室のようだった。
「いやぁ〜、結構危なかったんだよ?回復魔法を使ったらやれ血が殆ど残ってない。輸血したら今度は頭の傷が深すぎる。頭の傷を治したら今度は感染症にかかってるわで色んな人が頭を抱えてたんだよ?」苦笑いをしながらお代は高くつくよ〜と茶化す彼女。
回復魔法………意味は分かるけど、こう、信じられないっての?実際治ってるんだから効果はあるんだけど………魔法。ちょっと現実味がない言葉だ。
「君が落ちてた間に色々あったんだよ?」そう言って彼女は俺が気を失って治療を受けていた間の事を教えてくれた。
まずあそこの洞窟には俺達以外にも俺達と同じ境遇の人達が何人もいて、43人の人が外に出てきたんだとか。出てきたってのは、まぁ、出てこれなかった人も居ただろうって事だ。ともかく俺みたいに生死をさまよってまで脱出を人は居なかったみたいで、俺がここに搬送された後、彼女は他の脱出者が集まる場所に案内されたんだとか。案内された後、他の脱出者を少し待ったら、何やかんやとあって冒険者とやらにならされたんだとか。
いきなり話を端折り始めた彼女曰く、聞くだけ無駄な押し問答があったそうで、半強制的に冒険者にならされた彼女は何の説明も無いまま放り出され、少しだけ情報収集をして俺の調子を見に来たら丁度俺が目覚めたようだ。
「……置いてかれてたら詰んでたな」
「ん〜、君は出てきた人の中でも有望株っぽいし、それは無いかなぁ」椅子に両手を着いて足をブラブラさせながら天井を見上げる。………可愛い。
「冒険者?について何も教えてくれなかったけど、荒仕事っぽいし、あんな洞窟から出てきた人を冒険者にしてるんだから内容も想像つくからね。多分世代?の中で君はお買い得だよ」
「………そうなのか」
「そうなのだ」彼女は腕を組んで何やら神妙に頷いてみせる。
「一応君も冒険者になるかどうかは決めれるけど」
「……ここが何処かすら分からないのに仕事が見つかるとは思えない。……口下手だし」一体一ならまだしも、集団となれば本当に喋れない。今でも毎回ワンテンポ遅れて会話をしているんだ。普通の仕事は向かない。その反面冒険者なら………冒険者なら何なのだ?何故冒険者なら大丈夫だと思ったのか。冒険者が何故普通の仕事では無いと分かっていたのか?
いや、冒険と名の付く職だ。普通の職よりは体を使う仕事になるだろう。
「なら冒険者になるんだねっ!?」やけに嬉しそうに聞いてくる。
「……まぁ、そうなる」
「て、こ、と、はぁっ!!お姉さんの仲間になるよねっ!?」
仲間。仲間か。この申し出は有難い。何せ俺は脱出者の説明すら受けていない、正真正銘の無知なのだ。今彼女の伝を失えば俺はどうやって生きていけばいいのか。何処ぞの詩的な馬鹿どもと違って洒落にならない。
「……俺で、良ければ」
「いっよっしゃぁぁああああっっっ!!イケメンゲットぉぉおおお!!」俺の一言を聞くなりいきなり立ち上がって両手を叩いた後天高く拳を振り上げて喜びを露わにする彼女に驚いてしまうが、内容的にも感情的にも歓迎されているようなので悪い気はしない。てか普通に嬉しい。美人にイケメンって言われたら誰でも嬉しいだろ。
それと、今気づいたんだけど彼女の格好が洞窟内に居た時から変わっている。
洞窟に居た時はもっとヒラヒラした白いシャツに黒いスカートを履いていたのだが、今はクリーム色の荒い生地の服に茶色いズボン、その上に革の胸当てに肘や脛当て、それと腰には大きく幅のでかい剣と腰に革張りの小さい盾が添えられていた。
物々しい。冒険者が何か知らない癖に本当に冒険者なんだなって思ってしまった。
「……えっと、俺と二人で?」
「ん?あぁ他に後三人いるから呼んでくるね〜」なんだ、二人っきりじゃないのかと無駄に落ち込みながら、どうやらここに来ているらしい他の仲間を呼びに部屋を出ていった彼女を待つ。
やがてドタドタと廊下を走る音がして扉が勢いよく開かれる。「いっえっーぃっ!!たっだいまぁー!!」5分もしない内に彼女は戻ってきた。……彼女だけで。
「……他は?」聞いていた話だと他の仲間を呼んできていたはずなんだけど。彼女はドヤ顔にも似た笑顔のまま後ろを見て、あえぇ?とばかりに顔を傾げた。「居ないね?あっるぇ〜?居たんだけどなぁ?」何故か足を広げ始める彼女。開いて閉じて開いて閉じて。柔軟体操でもしているかのようだ。
すると突然扉が開いて勢いよく何か棒状の物が彼女の頭目掛けて振り下ろされた。
「うおっ!?」間一髪後ろへ飛び退いた彼女は驚いたように声を上げると、棒状のもので扉が全開まで開かれると、一人の青年が入ってくる。
黒いローブを羽織った深い紺色の髪の青年は「9番、お前は馬鹿か?なに案内が僕らを置いていく」と彼女に言いながら木で出来た棒状の__杖をつきながら部屋へ入ってきた。青年はやや切れ目で目付きが悪いが顔立ちは整っていて身長も180近くある。眼鏡を掛けていてインテリ風な風貌ながらも体格もしっかりとしていてスラッとしているイケメンだ。
部屋に入ってきたのは青年だけじゃない。蛍光色のような真っピンクの髪をした女の子と青年と色違いの白いローブに錫杖を持った白いボブカットの女の子が入ってきた。
真っピンクの髪の子は腹が出ている服に短パンとちょっと際どい格好をしていて、胸も、うん、でかい。腰にはナイフを二本付けていて手には革の篭手を着けている。顔立ちは整っていてスッキリしていながらも何処かあどけなさも残っている。そんな彼女は片足を上げて半身を引き、目元でピースをしながら左手でこちらを指さすポーズを決めて「ララちですよっ!!」と可愛らしくもハキハキとした声で言い放った。
ララち。名前、なのかな?決めポーズはキレがよくまるでアイドルの様だったが彼女はそれだけ言うと何も言わなくなった。………なんなんだこの子は。
「僕はアケチだ。君が8番か」青年は眼鏡に指を当てたまま簡潔に名乗る。てかさっきもそうだけどその9番とか8番はなんなのか?
「ユウカです。えっと、よろしく」白髪の女の子はぺこりと頭を下げる。やっぱりこっちも顔立ちが整っていて、アメジストの瞳は透き通っている。少し小さめの身長がこれまた男の庇護欲をくすぐるだろう。胸も大きくローブの上からでもその膨らみが分かった。
何と言うか、容姿の平均値が高い。物凄く高い。今も満足そうに頷いている彼女を見ると歯を見せて笑い、親指を立てた。
「番号ってのはねぇ、あの洞窟を脱出した順番で、名前がないから名前を付けるまで便宜的に番号を名乗ってるんだよ」
「8番も早く名前を決めてくれ。この馬鹿は名前を決めないから呼びずらくて仕方ない」
「ララちですよぉ〜っ!!」
「あぁ分かった、だから黙ってくれララち」
「ララちですよぉ〜」
「ララちは可愛いねぇ〜。お姉さん大好きっ」
なんだろうか?仲間にする人を間違えた気がする。唯一まともそうな白髪のユウカだって錫杖を盾にして、その後ろに収まるはずもない体を隠している。
「……ここ、か?」黄色いボロ紙に地味に丁寧に描かれた地図を見て、場所を確認する。辺りからは男の野太い声や、女の気合いの入った雄叫びが響いていて、周辺には様々な格好の、それでいて全員が物々しい武器や装備をした人々で溢れかえっている。
俺が見上げる木造の立派な建物には、一枚板のこれまた立派な看板が掲げられ、『戦士ギルド:アード支部本部』と書かれていた。
冒険者になる事にした俺はあの後その場で冒険者の証である紀章を彼女から手渡されたのだが、あれってどう考えても俺が同意する前から勝手に加入させてたよな?
冒険者になると義務と特権が与えられる。義務はと言うと、月に一度、冒険者に与えられた格に応じた上納金を収めることと、偶に発布される緊急依頼に応じる事だ。今の俺達の格は新入りも新入り、下っ端も下っ端なので、一番下の10等級とされていて、月に一度の上納金は銀貨1枚なんだとか。因みに俺は今治療費やら冒険者の加入金やらで銀貨6枚の借金を背負っている。
それで、冒険者となった新人はまず、それぞれ職に就くことが推奨されている。職と言っても何か別の仕事をするって意味じゃなくて、それぞれ戦士だったり神官だったりになる事を職に就くと言う。
今の仲間達は彼女が聖騎士、アケチが魔術師、ララちが狩人、ユウカが神官の職に就いていて、話し合いの結果、前衛が少ないため俺は戦士になる事にした。一口に戦士と言っても、槍を使う人や剣を使う人など扱う武器は様々だし、盾を持ってタンクをする人や、攻撃専門のアタッカーになる人など様々だ。
大きな出入口から出入りする人に暖かい目線を送られる俺は決心して戦士ギルドの門を潜った。
戦士ギルドはどうやらギルドの中でも大手の様で、受付さんがいてあれやこれやと訳も分からぬまま担当とやらが決まってしまい、そのまま準備もなく丸腰のまま担当との顔合わせと戦士になるための訓練が始まる事となった。
担当が居るという部屋へ向かいながら「……話が早すぎる」と愚痴り、人とすれ違う度に体に力が入って反応してしまう。
ひ、人が多い。場違い感が半端ない。皆身長はまちまちでも体格が良くって装備のレベルも素人の俺でも分かるくらい高い。
そもそも初対面の人相手に上手くやれるだろうか?と何もしなくても心臓の鼓動が分かるほど緊張していたら、指定された部屋に着いてしまい、数分硬直した後意を決して扉をノックする。
「入れ」中から男の低い声で簡素な返事が返ってくる。あ、やば。声だけでも滅茶苦茶怖いわ。入りたくない。でも入らないとそれはそれでヤバそう。普通の人なら気にしない事でも気が重くなるコミュ障に堪えながらもドアノブを回す。
「……失礼、します」
部屋の中には……部屋って言うか小さなグランドには熊と見間違う体格の男が仁王立ちして剣を床に突き刺し、柄頭に両手を重ねていた。髪はツーブロックに剃ってサッパリした印象で、髭は無精髭が生えている。髪の色はグレーと色が混じっしていて、歳は50かそこらか?ただ筋肉は凄い。腕とか俺の腕二本分は確実にある。
「お前が今回の新人か。……身長はあるな。筋肉も新人にしてはある方か」
あまりの威圧感に頷くだけで声が出せなかった。
「まぁいい、これを持て」がたいの良すぎる男は片手で地面に突き刺さった剣を抜き、俺の方に放り投げてきた。てかその剣も俺の胴体より太くない?
「__ぉっ、もぉ!?」あまりに気軽に投げるものだから気が抜けていたのか体が腕に持った剣に釣られて前に三歩出てしまった。いや、気は抜いてなかったはずなんだけと。シンプルにクソ重い。10kgとか?もうちょい?何にせよクソ重い。
「俺は教官のグレイだ。お前の名前は後で聞くから取り敢えず100周して来い」
「……とりっ、あえず?」土が敷かれた小さなグランドは建物の中にある部屋の一室とは言え、普通に広い。縦横30メートル四方はあるはずだ。それを100周?一周120メートルとして、全部で12000メートル。12キロ。これを持って?この剣を?
「……無理、じゃないですか?」
「これを貸してやるから背中に背負って走れ」無情にも教官は剣を背中に巻き付けるための帯だけ渡すと早くしろと顎で示した。あ、無理だ。この人人の話を聞いてくれない。
俺は諦めて大剣と言って差し支えない__てかこれを大剣と言わずして何を大剣って言うんだよ__剣を背中に背負って固定すると、ゆっくりと走り始める。
い、一歩が重すぎるっ。ゆっくりとしたペースでも足腰に重さが伝わって息が切れそうになる。と、とにかく限界まで走って倒れたらそこで許してもらおう。12キロは無理だ。なんなら1キロは無理だ。とかって思ってたら「もっとペースを上げろっ!!そんなんで冒険者なんて出来るわけ無いだろっ!!」とドヤされた。
ドヤされるだけじゃない。部屋の隅に置かれた武器立てから俺と同じような剣を取り出して背負い、俺と並走して来た。
「安心しろ、俺も付き合ってやる」
「……そう言うっ……問題じゃっ!!」
「実際戦士はこれに鎧や盾も装備する。だが戦士は戦場でもっとも機敏に動かなくてはならない。逃げる時もそうだ。死ぬ時に待ったなんて存在しない。」それはっ、そうかもだけどっ!!でも重たいっ!!
これちょっと鍛えてる程度じゃ全然駄目だっ!!
「うっ、オェッ……うぐっ、ガッ…………はひゅっー、はっひゅーっ」しっ、死ぬっ。
俺がギルドを訪ねてから10日が過ぎた。戦士になるってのは簡単な事じゃなくて、基本監禁状態で訓練して偶に山に入って訓練したりととにかく食べて訓練して食べて訓練して食べて訓練して気絶して、食べて訓練して食べて訓練して気絶してを繰り返し、休憩どころか自発的に寝る事すら許されない日々だった。
基礎訓練は取り敢えず数をこなせば良いかの考えで何度吐きかけたか。中に物が入っていたら吐いていたはずだ。教官との撃ち合いでは何度も生死を彷徨い、その度にギルドに詰めていた神官に治療されて無理やり戦わされる。技術とか精神の訓練なんてあるばずもなく、実戦で教官から技を学び、打ちのめされて精神を鍛えろとの事だった。
でもさ、限度ってあるじゃん。最初は衰弱して幻覚に幻聴の症状が出ていたが、ある時を境にそれすら見なくなってしまった。
「どうした?その程度か」
「……か、体が、動きません」
「ふむ、……根性ではどうにもならんか?」
根性で体中に力を込め立ち上がろうとするが腕が上がらずまた地面に倒れ込んでしまう。「……駄目です」
そこでようやく教官は大剣を地面に突き刺し地面にドカッと座り込んだ。てかこの人も俺と全く同じ事をしてたはずなんだけどな。むしろ俺は気絶して休めてたけど、この人の寝てるところを見てないんだけど。
「今回は追い込んだからな。だが覚えておけ、そうやって体の限界で休めるのは訓練だからだ。戦士は死のその瞬間まで仲間の為に戦い続けねばならん。仲間を失わぬため、仲間を守るために我らは死ぬ気で鍛錬する」
「……はい」俺は教官のその言葉に耳を傾ける。この10日間、教官は耳にタコが出来るほど同じ事を繰り返し言い続けた。仲間の為に、生きる為には限界で根を上げるな、と。そう言う時の教官は切実めいた顔をしている。
「生きていれば明日はある。だが死ねばそこまでだ。性格が悪い馬鹿も、誰にも優しい女も、何でも出来た頼れる男も、死ねば何も出来ん。彼らと笑う事も怒る事も話す事も愛する事も叶わん」
「……実体験、ですか?」顔を地面につけながら目線だけは厳しい顔つきの教官に向ける。
「あぁ。だからこそ強くあれ。死で成長するな。死を前にして成長し、死から逃れろ。誰かの死での成長にどれ程の意味がある?仲間を死なせて仲間を守る能力が成長しても守る仲間が墓の中なら意味が無い。それ以前に悔やんでも悔やみきれん………まぁ忘れない事だ。死者は蘇らん。決して、どれ程嘆こうとも」ほぇ〜、教官でもそんな顔するんだ。たった10日しか付き合いは無いがこの人が鬼だと言う事はよくよく身に染みていたので意外に感じた。でもこう思ってるからこそ鬼みたいな教官が産まれたのか。
でも、うん。今の俺って出会って12日の仲間しか居ないんだよね。内2日は気絶してて10日は教官とランデブーしてたからぶっちゃけほぼ思い入れが無いというか、なんなら教官が一番思い入れがあるっていうか。
そんな俺の表情を読み取ったのか教官は「いずれ分かるようになる」とだけ言って昼飯の時間となった。
昼食を取った後、本当に体が限界を向かえていたので半日の休憩を貰ったので訓練室の隣にある仮眠室で泥のように眠った。一応休憩中の外出は許されていたのだが、そんな事をする気力は何処にも残って居なかった。
「……眩しい」あれからさらに10日、ギルドに監禁されてから20日目にしてようやく俺はギルドから釈放される事となった。仲間達は俺よりも2日早く釈放されているため、既に活動しているとの伝言と拠点場所が描かれた紙を渡されていた。
監禁中でも訓練で太陽を見る機会自体はあったのだが、自由の身で浴びる太陽の光は格別にすぎる。背中に羽でも生えたように軽やかな足取りで街中を進む俺。てかこの地図を描いたのって誰だろ?手書きとは思えない程精密でよく書き込まれているから場所が分かりやすい。誰が描いたのか書いてないか地図の裏表を何度も見直していると、地図の端に小さく薄い文字でララちですよと書かれていた。
地図が精巧なお陰で拠点に向かうついでに街中を散策する余裕すらあった。この街は全体的に雑多な感じで建物が所狭しと並び、大通りは露店や移動販売で賑わっている。特に移動販売の酒場の盛り上がりは昼間なのに凄い。男女問わず酒やツマミを片手に大騒ぎし、周りの店の店員もそれに乗っかっている。あの辺一帯は陽気な人達が集まっている様で、ちょっと見ていたら同じ冒険者っぽい人から串肉を一本貰ってしまった。
「……ど、ども」ぺこりとと頭を下げる俺に「その剣ギルドで貰えるやつだろ?頑張れよ新人っ」と豪快に酒を煽りながら先輩冒険者は肩を叩いた。
「……うま」貰った串肉は甘だれが効いていて、香辛料も使われているのか匂いも良く、肉の味も量も満足感が半端ない。
(……えっと、串肉一本5カパー?)あまりの美味しさに値段を確認するが全く身に覚えのない通貨の単位に困惑する。……身に覚えのある貨幣単位も無いんだけどさ。
ずっしりとした串肉を食べながら、気がつけば他の店の串肉の値段を確認して回っていた時には串肉の美味しさに驚愕してしまった。
訓練中は一日で数kg体重が減る為、教官から渡された干し肉をずっと食べていたが、味付けが塩だけだったので甘だれの肉が特別美味しく感じていまう。まぁあの干し肉も美味しいんだけどさ。
教官からは餞別として中古の幅が拳一つくらいの中古っぽい大剣と、安い戦士ギルド御用達の干し肉店の場所が書かれた紙切れを貰っている。戦士としては軽い俺に教官は干し肉を指さして常に食ってろと言ってきた程だ。
地図を頼りに歩き続けていると、段々と街並みが変化してきた。先度までは繁華街と言うか商店街と言うか、普通の物を売っていたのだが、武器や防具を売る店が増え始め、さらに進めば酒場やギャンブルっぽい店が増え、さらにまた進めば大通りから店が無くなり始めた。街の端に近づいているのか何処か物寂しい通りは寂れているように見える。全体的に建物の質も下がっているようで、通りを歩く人も見るからに金の無さそうな若者や、俺と同じくらいこそれ以外の歳の冒険者が多く年齢層が低く感じれた。たま〜にある店の品物も値段が少し安いような?
この区画一帯が若い印象がある。
そのまま歩き続けると若い職人のような者や冒険者が寝泊まりしているらしい宿が密集したエリアに着く。
「……ここか」目的の拠点は石造りの平屋の建物で、入り口などはなく開放的な造りとなっていた。今は誰も居ないのか閑散としていた。
「……お邪魔します」建物の名前も間違えてないし場所的にもここのはずだ。どうせなら誰か迎えに来てくれれば助かったのにと思いながらも、数分入口で立ち止まった後建物の中へと歩を進めた。
入口近くには共用らしき台所と井戸があり、そのまま吹き抜けの通路に繋がっている。庭、なのかな?キッチンがある外の広場は存外広くて、もしかしたら訓練場よりも広いかも知れない。
「……どうしよ」いや、本当にどうしようか?
中に入ったは良いものの、どうすれば良いのか分からずに立ち尽くしてしまう。
「いぃっ、やぁっ、ふぅっつつつ!!」呆然と立ち尽くしていると、無駄にテンションの高い女の声が聞こえ、地面を滑るようにして俺の目の前に現れた。
「来たんだね8君っ!!」地面を滑る勢いそのままに足を開き、片足を伸ばして腰を落としながら身元でピースをする彼女。薄汚れて傷ついてはいるが立派な鎧と盾に腰に収まった剣と前見た時よりも重装備ながらも見事な決めポーズを決めて見せた。
「……お久」すっと片手を上げて見せる。
「おひさひさ〜。見ないうちに………やつれた?」
「……多分。死ぬかと思った」
「目元に隈出来てるしねー」彼女はお〜怖い怖いと腕をさする。聖騎士ギルドと戦士ギルドではそんなに訓練内容に差があるとは思えないが彼女は元気そうだ。
「9番、お前はまた僕らを置いていく。もう少し気遣う心を持て」「ララちですよ〜」「あ、ども」若干苛立った声を上げながら眼鏡に手を当てたアケチと、こちらもこちらで片足を上げて体を反らしこちらを指さす彼女に負けず劣らずの決めポーズを決めるララちに軽く頭を下げるユウカ。
「どうやら迷わず来れたようだな」アケチのその言葉に頷き返す。
「いやぁ〜、これで全員揃ったねっ!!」
「使えれば良いんだけどな」
「お姉さんも助けられてるからね〜」
「えっと、おめでとう?ございます」
「ララちですよぉ〜」
彼女の明るい声に三者三様の反応を見せた。と言うかララちに至ってはただイントネーションを変えただけでは?