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黄昏世界に夢を見る  作者: 白耳
1/5

夢の中は暗闇に

微睡みの中、ひんやりとした風が頬を撫でる。

心地よい風に静かなその場所は一体何処だろうか。

まるで水の中に沈んでいくかのように体が優しく包まれるのが分かった。

いや、違う。沈んでいくかのようにじゃい。本当に沈んでるんだ。


「____はぁァアッ!」


水の底から体を勢い良く跳ねあげると、周りに水しぶきが上がる。

耳の中や口の中に水が少し入り、沈んだ事で鼻の中にまで入ってしまった。やばい、めっちゃ痛い。

俺は辺りを見渡す。暗い、結構暗い。まるで昔見た鍾乳洞にあった泉のようだった。

あれ?昔っていつだっけ?いや、今はそれどころじゃない。

ただ水の底がほのかに光っていて、綺麗に水の波紋ば浮かび上がっている。

立ち上がると水を含んだ服は重りでも付けているかのように重く、服の端から小さな滝のように水が落ちていく。

「冷たい。……どこだよここ」

俺の声が頼りなく反響する。

ともかくまずは泉がら出よう。凄くひんやりしていて気持ちいいけど冷たすぎる。それからこの洞窟を出よう。

そもそも俺はあそこに居たはずだ。あそこ、そうあそこ。「……あそこって何処だよ」

頭が痛い。考えたく無くなる。

まるでごっそりと頭を削られたかのような頭痛に襲われ、俺はうずくまってしまった。

「記憶、喪失?」

その問に誰も答えてくれない。

ただその答えを求めるかのように洞窟の壁を伝って歩き始める。

幸い壁や草や植物が緑に淡く光っているため意外と見渡しは良かったりする。

あれ?壁とかって光るもんだっけ?

先程と同じように記憶を辿ろうとするが何も思い出せない。

ただ何となくそういうものがあったような無かったような。そんな曖昧な感覚だけがまとわりついてきた。

少し余裕が出てきた俺は色んな事に気づけるようになってきた。

まず地面何だけど、これが意外にも整備されたように平で、頭上には鍾乳石があるのに鍾乳洞特有のじめっとした感じがしない。

次に洞窟内の空気だが、これが結構寒い。服も濡れているせいで余計に寒く感じてるんだと思う。

一応水は絞ったけど、肌に服が触れると冷たすぎて泣きたくなってくる。いや、泣かないけどさ。

特に時折吹き付けてくるそよ風がやばい。命すら削られている気がしてならない。

ただ、風が来るってことは外に繋がってる事だ。どこで手に入れたかも覚えてない知識を頼りに風が吹く方向に歩を進める。

「ほんとに何処だよここ」

自分が元いた場所は思い出せないが、断じて好き好んで洞窟に入るような人間ではなかった。……気がする。駄目だ、記憶が無いから確信が持てない。

それでも歩かないと何も始まらない。

いや、あそこで助けを待ってた方が良かった?でも人気がある気配はしない。

歩かないと。とにかく歩かないと。

時折吹き付ける風だってそう強い訳じゃないから気を付けないと直ぐに見失ってします。

段々と服が乾いてくると余計に風を感じずらくなってしまった。

体感にして1時間程度か。ただ時折吹き付ける風を頼りに何度も迷いながら歩き続けていると、遠くに人の姿が見えた。

「___だ、誰かっ!います、か?………」

居ますかってなんだよ。だけど一瞬走りかけた俺の足は直ぐに止まってしまう。

だってあれは確実に人じゃないんだもん。

遠目では暗い洞窟内という事もあり人だと思ったそれの肌は緑色だった。

4人?のそれらは子供程度の身長で腹は出ていて、手足は小枝のように肉付きが悪く細い。

明らかにおかしい。明らかに人じゃない。

ただあまりにも突然の遭遇だったので「あ、あぁ………」と変な声が漏れ出てしまった。

距離的に聞こえない音量のはずだが直ぐにそれらは俺の存在に気がついてしまった。

あぁ、逃げないと。とにかく逃げないと。なんか武器とか持ってるっぽいし?人間じゃないし。

逃げない選択肢がない程に感覚が警報を鳴らしてるのが分かる。

だけどさ、いきなり逃げろってのも難いじゃん?

そんな事を考えて馬鹿みたいな事を考えていれば緑の小人が何かを上に掲げると、「ばい〜ん」と気の抜けた音がなって、何かが放物線を描いて俺の方へ向かってくる。

「え、あ、ちよっ___ッ!」

飛んできたそれを前に俺は何故か受け止めようとしてしまい、肩にぶつかってしまう。いや、肩にぶつかるってか突き刺さってる。

「矢!?」

肩に突き刺さったのは小さな矢だった。

服を突き破って粗末な木の枝みたいなのが生えている。根元は赤く滲んでいてジンジンして来た。

「ギシャァァァッ!!」

「やっ、逃げねえっと!」

肩に痛みを感じてようやく俺はその場から走って逃げ出す事が出来た。

幸いにも彼らの体格に合わせた矢のサイズは小さなもので刺さったと言っても小石がのめり込んだくらいでしかない。いや、それでも痛いけどさ。

「いっ、っつあ」俺は一思いに矢を引き抜いて脇に放り投げると全速力で元来た道を駆け出した。

緑の小人も耳障りな声で喚きながら後を追って来たが、俺の方が断然早い。

腕を振ると肩が痛むが痛みには慣れてる気がする。体も鍛えてたのは覚えてるから何かスポーツでもやってたのかな?

でも余計な事は考えるものでもなく曲がり角で突然緑の小人に出会い、「ギシャァァァ」と出会い頭に何かで太腿を殴られた。いや違う。殴られたんじゃなくて切られたんだ。

緑の小人が持つ錆び付いたナイフみたいなのでざっくりとやられたんだ。

「ぃっ!?らぁっ!!」マジで痛い。凄いざっくりと切られてるけど、それ以上にうずくまっちゃダメな事だけは分かるから、俺は思い切って緑の小人を蹴りつけると簡単に飛んでいって後ろにいた緑の小人にぶつかって倒れ込む。

や、殺っちゃう?やれちゃう感じだよね?やらないと俺死にそうだし。数は二体で小さいから結構行けそうな感じだし。

「ギ、シャァァァ!!」「やっば無理っ!!」

ナイフと棍棒を振るいながらブチ切れたみたいに襲いかかってくる。だめ、普通に怖ぇ。

さっきと同じように全力で逃げるが思ったよりも太腿の傷が大きいらしく思うように走れない。

「はぁはぁ……い、痛てぇ……」地面を一踏みする事にズキズキと痛むしじわっと暖かい液体が広がっていくのが分かる。

幼稚園の時におもらしした時もこんな感じだったなぁって無駄な感慨を感じたけど、こっちは洒落になってない。足が上がらないから引きずって逃げるけど、さっきは簡単に逃げれた緑の小人がどんどんナイフと棍棒を振るいながら距離を詰めてくる。やばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいっ!!洒落にならないっ!!

とうとう「ギシャァァァ」と振るわれたナイフが背中を抉って棍棒が膝裏に叩き込まれてしまう。

ナイフはガリガリって嫌な音を鳴らしながら骨をなぞって下に降りていった。大丈夫?皮剥がれてない?滅茶苦茶痛いんだけど。痛いっていうかひりひりするって言うか、やっぱり滅茶苦茶痛いっていうか。ともかくやばい、何がやばいって本当に死にそうだし。え、マジで死ぬの?マジで?駄目だ、死にたくない。俺は振り返って「あ、ぁぁぁああああああああっっっ!!!」と情けなくも大声を出して腕を降るってナイフを持った緑の小人の顔面を殴った。

魔女の鼻みたいにとんがってる鼻は見事に折れて、緑の小人はたたらを踏みながら出鱈目にナイフを振るってくる。

「うわぁぁぁああああああっっっ!!」

うわぁってなんだよ、うわぁって。仮にも男ならもう少し勇ましい雄叫びでも上げればいいのに。でも半分パニック状態の俺は振るわれたナイフを握りしめて奪い取り、緑の小人を右腕で何度も殴って滅多打ちにする。

棍棒持ちに背中や頭を殴られても気にしない。とにかく殴る。殴って殴って殴って殴って殴って。さらに殴る。

顔がぐちゃぐちゃになって、俺も頭から血を流し始めた頃、ようやく俺は腕を止めてもう片方に襲いかかった。

今度は奪い取ったナイフを振るう。

なんでさっきはこれでやらなかったんだよ。ナイフを握ってた手はすっかり切れ込みが入っていて血を流している。

右腕で殴って左腕でナイフを振るう。骨に当たった感触があるけど緑の小人の骨は脆い。簡単に砕けてしまう。だが、緑の小人が持つ錆び付いたナイフも物凄く脆くて結局は殴り倒すしか無かった。

緑の小人の顔面が消失して、骨が剥き出しになり、色々見えちゃいけない物が見えた辺りで俺の動きは止まった。てか止めないと行けなかった。

緑の小人を殴った拳の皮は剥がれていて血だらけで、背中は熱いし太腿も感覚がおかしくなってるし肩の小さな傷だって決して痛くないとは言えない。息苦しくて肩を上下させて無感情に肉塊になった緑の小人を見下ろす。

「逃げ、ないと」そうだ、逃げないと。さっきの緑の小人とこの緑の小人は持っているものも数も違った。まさかこの二グループしかこの洞窟内に居ない訳じゃないだろう。

仮にそうだとしてもそれを宛にするのは楽観的過ぎる。ナイフはもう使えないし、棍棒だけ持って俺はまた別の道を歩いた。

暗い洞窟内に一人ってのは想像以上に精神を削ってくる。淡く仄かな光はあるが気休めでしかない。いつどこで襲われるか分かったものじゃない。

緑の小人は基本やかましく何処に居るかは耳を済ませてれば分からない程じゃないけど先の二グループがそうだった様に静かに移動している緑の小人だって少なくない。

彼らと出会う度に棍棒を振るって殴り倒してはいるが、正直後どれくらい持つものか。特に4体の緑の小人に囲まれた時は本当に死ぬかと思った。

左腕はもう動かないし常に激痛がしてバカ痛い。右腕は肘から先の感覚ご無いけど痛くなくって動きはするから左腕の数百倍マシだ。足はと言うと傷がない所を探す方が難しい。彼らの身長的に最も攻撃しやすい足腰は血だらけでぶっちゃけ挙動がおかしくなってる。

俺の意志とは関係なく痙攣したり動いたり、あと急に力が抜けたり。腰に関しては麻痺ってるって言うかこそばゆい感じ?一歩踏み出す事に腰の力が抜けそうになる。血が足りてないのか頭がぼーっとしてて視界もモザイクがかかった様になっているがまぁ生きている。生きてる、よね?

しばらく洞窟内をさまよって分かった事だけど、緑の小人達は意外と大したことが無い。

ボロボロにやられておいて何言ってんだって話だけど、実際単体ならへっぴり腰だった俺でも全然問題ない。

まず緑の小人達は見かけとは違い子供よりも力があってすばしっこく、ダイナミックな動きをしてくるけど、それでも大人の女の人と同じかそれ以外くらいの力しかない。武器もろくな物がなく、尖ったもので刺されれば危ないけど案外まともに攻撃を受けなきゃかすり傷で済んだりする事も多い。まぁ普通にざっくり行く事の方が多いけど。

でも殆どがボロっちい武器で、気をつければなんとかならない訳じゃない。

緑の小人を倒すのだって難しくはない。手に持った棍棒と、途中で手に入れた短剣を振りまくってたらそのうち死んでくれてる。ただあいつらは見かけ以上にタフだ。何度も何度も立ち上がってきて傷を与えてくる。しかも数も多い。一度に4体までしか固まったところを見た事が無いけど、そのグループ数が多すぎる。歩けば見つかって、怪我をして。また歩けば見つかって怪我をする。そして歩かなくても怪我をする。

「はひゅぅ〜……はひゅぅ〜……」と喉から壊れた笛の音に似た呼吸音が聞こえてくる。

頭がクラクラして痛くて痛くて仕方がない。でも立ち止まれば俺も緑の小人の様に地面に伏す事になってしまう。

歩こう。とにかく歩こう。死にたくない。何か特別な理由がある訳じゃないけど誰だって死ぬのは嫌だ。歩こう、死なない為に歩こう。

足を引きずりながらも前に進む。何となくだけど明かりが強くなってるような?

本当に、本当に少しだけど。やっぱり明るくなってる?……気のせいか?でも、風は強くなってる。確実に風の発生源には近づいているのが分かる。歩かないと。とにかく歩かないと。

ぼーとしながら歩いていると「うわぁぁぁあああああっ!?」と何処か気の抜けた、いつぞやの俺に似た声が聞こえてきた。

人だ、人がいる。今度はきっちりと、女の人の声だ。俺は急いでそこへ向かった。切羽詰まった声っぽかったし、もしかしたら彼女もまた緑の小人に襲われているのかも知れない。

助けに行けばまた怪我をするだろうがそれでも人に会えるのは心強過ぎる。

急げ、急げっ!!

そこは泉があった所に似た広場だった。広場の真ん中では「う、うおっ!?な、なになになにっ!?」と驚きの声を上げながらも3体の緑の小人に追いかけ回され走り回っている黒髪の女の子が居た。

「いまっ、たす、けるっ!!」

「ありがとぅぇっ!?ちょっ、大丈夫!?大丈夫じゃないよねっ!?それ助けて大丈夫なやつっ!?」裏返った声で女の子に心配させてしまった。まぁ、見るからに瀕死だもんな。だけど案外行けるもんだぜ?

俺は棍棒を振るって一体の緑の小人に襲いかかる。まず頭を叩けば大抵の緑の小人は脳震盪だかを起こして抵抗しなくなる。そうすれば緑の小人の上に乗って頭を叩き潰す。それはもう、執拗に。まるで太鼓を叩くかのように棍棒と短剣を交互に振り下ろす。仲間を助けようと頭を剣で殴られ、弓で腹を射られても手は止めない。案外腹筋に力を込めていれば矢は弓の自重で落ちてくれる程度にしかめり込まないし、剣はボロいからそのうち壊れてくれる。頭に響くのだけは難点だけど。

「え、えっぐぅ〜……」女の子はドン引いているが仕方ない。

「ぉぉらぁあああっ!」緑の小人が動かなくなると、裏拳の容量で腕を後ろに振るうと、剣を振るおうとしていた緑の小人の顔の側面にクリーンヒットした。殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴りまくる。とにかく殴って体の至る所からさらに血が出ても腕を止めない。

「さいっ、ごぉ!!……ぐふっ………」血反吐を吐きながら迫る俺に弓を持った緑の小人は後ずさりながらも矢を放ち続ける。あ、やべ、追いつけねぇ。

緑の小人はギャァギャァ喚きながらも後ろに下がりながら矢を放つから足がイカれてる俺じゃいつまで経っても追いつけない。棍棒と剣で矢を防ぐけどそれも完璧じゃない。完璧って言うか殆ど防げてない。10本に3本防げるかどうかくらい。

「お姉さんキッークッ!!」目とか明らかに当たっちゃダメな所だけはなんとか守りながらゆっくりと迫り続けてると、弓を引いていた緑の小人が突然横に吹っ飛ばされた。あの女の子が飛び蹴りをかましたのだ。長い黒髪を靡かせながら綺麗なドロップキックをかます女の子は、地面にそのまま倒れながら親指をこちらに立てて、白く綺麗な歯を見せながら物凄く良い笑顔で「後は任せたよ少年!!」などと言ってきた。

「……少年じゃない。17」とだけ無意味な訂正だけしておき、地面にうずくまって悶えている緑の小人の喉元に剣を突き立てる。ガリッと骨に当たったが、釘を打つように棍棒で剣の柄頭を叩き無理やり喉に貫通される。

暴れる緑の小人の喉から噴水のように血が飛び出し顔を汚すが、俺は目を細めて目の中に血が入らないようにしつつやっぱり棍棒で殴りまくる。

「おぉぅ……やっぱり殴るのね……」喉に剣を突き立てても結局殴り殺してる俺に女の子から軽いツッコミが入った。

「っ、てぇ……」またがった緑の小人の上からなんとか立ち上がるが、全身から色々と抜けていく感覚に襲われ、少しばかりの痛みを感じる。さっきよりも痛くなくなってきたんだけど大丈夫だよね?もしかして不味いやつ?やばっ、立ちくらみもして来て立ち上がったは良いものの歩ける気がしない。

「えっとぉ、助けて貰っておいてあれだけと……大丈夫?」助けたはずの女の子に心配され顔を覗き込まれる。

「っ……大丈夫、多分。……死にはしない…はず……」助けに入った時は気にしてなかったけどこの子凄く可愛い。目が大きくてパチってしていて、ザッ、可愛い女の子って感じがする。それでいて大人しい系って言うよりも好奇心旺盛そうってか、さっきのドロップキックと言い今の笑顔と言い、活発そうな印象がある。身長も女子にしては高めで160後半くらいかな?

滅茶苦茶モテるタイプだ。コミュ力も高そうだし顔も良く性格もオープンっぽそう。まぁ出会って2分くらいの印象でしか無いけど。

「いや、そんな真っ青で言われても。……いや真っ赤?」今の俺は文字通り血化粧している状態だ。頭からしっかりと流血してるし返り血は浴びるし、やっぱり流血してるし。

手の色なんか青白かったり、逆に黄土色に変色していたりと死体1歩手前みたいになっていた。

多分顔色も酷いことになってるはず。

「あー、ほらっ!お姉さんが肩貸して上げようじゃないか!!………ちょっと大きいね」俺の右腕と体の間に自身の体を滑り込ませて支えてくれるのだが、頭二つ分程離れた身長を見て彼女はほぇ〜といった表情となった。

俺は足を引きずりながらも彼女に支えてもらい、風が吹く方向を目指して歩き始めた。

「てことは君も記憶が無い系?」

「……全くない」

「そっかぁ〜。お姉さんも気づいたらここだし記憶はないしでボケ〜っとしてたんだよねぇ〜」

「……そうか」

駄目だ、全く話せない。何を話せばいいのか全く分からないのだ。てかそもそも俺は元々そんなに人と話すのが得意じゃなかった気がするのはきっと気の所為では無いのだろう。

それでも彼女は明るい調子で態度を変えずに好きな食べ物は?趣味は?覚えてないよねぇ〜。運動してたのかな?筋肉凄いね!てか身長いくつよ?と何度も話しかけてくれる。俺だって時間を掛ければ言葉が喉を通るのでゆっくりとだが会話は成立している。

コミュ障としては彼女の様に気さくで、相手が話さなくても話す事自体が楽しいって感じの人は有難い。俺自身かなりぶっきらぼうな話し方になってしまっているのに気にせず楽しそうにしてくれるとこちらとしても会話のハードルが下がっていくのだ。

「とっ、またかぁ……てっ、その怪我じゃアウトでしょっ!?」「……すぐ終わる。じゃなきゃ死ぬ」

途中緑の小人に遭遇した時、血を流しながら交戦した俺に、彼女がすっとんきょんな声を上げる一面もあったがなんとか切り抜けることが出来た。

「君を見てるとおっそろしいよ……」

「……俺だって痛いのは嫌だ。でもやらないと殺されそうだし、動いてないと血が止まりそうなんだよ」

「……それってヤバくない?」

「……ヤバい」

そろそろ血の流しすぎなのこ体内の血の巡りの悪さが俺自身でも感じられる様になってきた。体を動かしてないと段々と体が冷えて来るし、そろそろ流れる血の量も減ってきた。足元はふらふらしてるし視界はモザイクがかかってる。

「これ、早く出口見つけないとね。……戦えないお姉さんが言えた事じゃないけど」

「……俺も肩を貸してもらわないとこの速さで移動出来ない」

「ん〜、お姉さんが寄生してる感が否めないんだよね」

「そうは言われても肩を貸してもらわないと俺も本気で困んだよ」

実際戦闘中だって殆ど倒れ込む様に腕を振るってなんとか緑の小人を倒してるって感じだし、戦闘だけじゃなくて普通に歩かないとってなればもうとっくにそこらで力尽きるか歩けなくなって居ただろう。

風はどんどん強くなってるから出口には近づいているはずなんだ。ここで気を失う訳には行かない。今ここで気を失えばそのまま永眠しそうなんだよな。

「ねぇ、本当に大丈夫?大分血ぃ出てるけど」

「………………ん、あぁ」

「お姉さん肩貸してる最中に死なれるのはちょっと嫌だよぉ〜」そう言いながらもさらに俺を支える力を加え、少しでも早く出口へと進もうとする。俺だって死にたくないないし、大人しく肩を借りて歩を進める。

女の子にしては恵まれた体格でもあくまでも女の子にしてはの話で、男子の中でも体重も思い俺を支えるのは並大抵の労力では済まない。現に今も彼女の息は乱れ始め、額に汗をかいている。

「異世界物ってさぁ、もうちょいチョロいと思ってたんだよねぇ〜。これハード過ぎ」

「……確かに、序盤からこれは少数派かもな」

「今からでも覚醒してくれて良いんだよ?」

「無理、死ぬ……」

「だよねぇ〜。……所で異世界物ってなんだろ?」

「……自分で言い出したのに?」

「いやさぁ、言い出した瞬間は分かってたはずなんだけどね?いざ異世界物ってなんだろって思うとさぁ、こう?ド忘れみたいな?知らないってか?」

異世界物……知ってた気がするんだけどな。俺もついさっきまで知ってた風の口をきいてたってのに心当たりはゼロだ。

名前も出で立ちも覚えてないし、ちょっとだけゾッとしなくも無いが考えても仕方ない。「…………」「…………」互いに口を開くことも無くなり、彼女の荒くなり始めた息遣いと俺の壊れた笛のような音のする呼吸音だけが洞窟内に響く。

時折遭遇する緑の小人の処理もそろそろ限界に近い。近いってか限界だ。寿命を削ってる気がする。

吐血の勢いもドバッからドロに変わり始めたそんな時だった。「………ん?おっ?おぉっ!?」と何かに気がついた彼女が声を上げ俺も釣られて彼女と同じ方を見る。「ぁ………」明かりだ。明かりがある。それも洞窟内にある青白い光じゃない。天然の、外の光だ。

「おぉ、眩しっ……」確かに眩しい。洞窟内は思ったよりも暗かったらしく存外外の光が目に染みた。

あ、やば、気ぃ抜けたら、意識、が……とぶ………

「お、新人っておいおいっ!?__しんか___でこ___」

誰か、居る。男の人が。俺以外に。外に、二人。片方、が……何処かに…………行ってしまった……………。

視界が微睡む。段々と黒く染ってゆき、やがて完全にブラックアウトすると同時に俺は地面に倒れてしまった。

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