ひまわりの種をめぐってヒトと闘うリスの話 (なろうラジオ大賞4、2022年12月)
リスの李女史が縄張りを見回っていると、突然、「バードウオッチャー」という種族のヒトが侵入して、小屋を設置した。闘いの火ぶたが切られた。
なろうラジオ大賞3の「ひまわり」題で書きました。
縄張りにヒトが侵入した。
カン、カン、カン
根城の松の木に小屋を建てやがった。
住むにはぴったりのサイズだけど、しょせん、ヒトの作ったものだ。
縄張りのすぐ外に建つ食堂の窓からヒトどもが監視している。
気持ち悪くて近寄れない。
「エサがないと鳥は来ないよねえ」
食堂から聞こえた数日後、小屋の横に台座が置かれた。
翌日にはそこに種がまかれた。
ひまわりだ!
あたいの好物!!
天気を教えてくれる衛星のひまわりも好きだけど、植物のひまわりはもっと好きで、その種はもっともっと好きだ。
あたいがヒトを警戒するあいだに、鳥どもが平気で食べている。
2日間は何も起こらなかった。
となれば、鳥に食わせるのは勿体ない。小屋も活用しよう。
食堂から
「鳥が怖がって、困ったなあ」
ここはあたいの縄張りだぞ。
「リスだって可愛いよね?」
中には良いことをいう奴もいる
「ネズミと一緒よ」
いわれなき中傷を無視して、グルメを毎日堪能していると、数カ月後、小屋が撤去された。
「これで、小屋からは鳥を威嚇できないはず」
小屋はついでだ。大切なのはひまわり。
翌年、台座が取り外された。
代わりに細い棒が地面から建てられて、その上に台座が置かれた。
食堂からの声
「ネズミ返しをつけたから、もう大丈夫」
あたいの縄張りだぞ。鳥どもは食べ残しで満足すべし。
幸い、爪がある。
短い時間なら上下逆に裏返っても移動出来るはず。
何度か挑戦して、ついに台座にたどり着けた。
何日か繰り返して、楽に行き来出来るようになった。
「うまいものだなあ」
「これでも駄目かあ。良い方法はないかしら」
「鳥も食べれているし、いいんじゃない?」
さらに翌年、台座から支え棒が外された。
代わりに、木の枝から細い紐で吊るしている。
丈夫そうな紐なので、それをつたって台座に降りる。
ひまわりの種は相変わらず美味しい。
「もっと細い紐じゃないと駄目ね」
そんな声の数ヶ月後、とても細いつるつるの紐に変わった。
風が強い日は、台座が揺れて木の幹に近づいたタイミングで食べれるけど。
目の前にはグルメ。
ここはあたいの縄張り。
なのに風の無い日は、鳥どもがかっさらう。
許せない。
思案すること1カ月、ある方法を思いついた。
後ろ足で枝をつかんで、逆立ち状態で台座に手を届かせるのだ。
挑戦を繰り返す。
最初は何度かに一回しか手が届かなかっけど、2時間もすると、ちゃんと食べられるようになった。
見よ、このアクロバットを。
食堂にはいつもにましてヒトが集っている。
視線を感じる。
いつもなら聞こえる、鳥がどうのこうの、という悪口も一切ない。
「芸術点10.0、技術点10.0」
という声まで聞こえてきた。
そう、あたいはついに鳥愛好家なる卑劣な種族を屈服させたのだ。
芸術は種族の垣根も乗り越える。
もっとも流石に疲れるので、空腹になった時だけにしようっと。
挿絵(By みてみん)
芸術点10.0の演技は多くの知り合いが写真や動画に撮っていましたが、誰もネットにアップしておらずビックリしていました。
起こったことをそのまま(リス視点で)記述しています。ただ時間軸の長さが違うし、会話も記憶が曖昧で、完全なドキュメンタリーではりません。