SF現場猫〜宇宙空間における労災事例とその対策〜
※一部流血、怪我、死亡要素などあり。苦手な方はブラウザバック推奨
今日も一日ご安全に!ヨシ!
「先輩、これはこっちでいいですか?」
「違う、それは7番だ」
「わかりました」
ここはルーフ鉱山星系第4惑星軌道上、ルーフ第2ステーションの片隅にある修理屋のドックだ。従業員は親方と先輩、私の3人と、人型作業機が3基の零細企業だ。昔は従業員がたくさんいて賑わっていたらしいが、より採掘しやすい星系が見つかって以来、人は減り続けこの有様だそうだ。
「1号、これ7番にお願い」
「リョウカイシマシタ」
「あと、15番取って」
1号はぎこちない動きで7番をしまい、15番を取り出して持ってくる。1号は会社創業当時からある旧式の汎用人型作業支援機(Multi-Purpose-Assistant-Robot)であり、想定寿命などとっくに過ぎてるオンボロイドなのだが、自己チェックを切り、社外品とありあわせのガラクタでだましだまし動かしている。
「よし、こっちは問題なしだ。そっちはどうだ?」
「すいません先輩、宇宙服のせいでこっちのパネル見れないです」
「わかった。やっておこう」
私はただでさえ小柄なのに大きいサイズの作業用宇宙服を着せられてる上、こいつは金魚鉢の旧式で厚いし重たいのだ。メンテナンスパネルを開いてスラスターコアのチェックなどできる訳がない。
「ああそうだ。かわりにデブリにやられたこの装甲を直しておいてくれ。表面がささくれた程度だからフライスで削るだけでいいぞ」
「わかりました」
私は先輩の指差した装甲にささくれを見つけ、取り外してフライスに持っていく。ビットを取り替え装甲を台座に取り付けたことを確認しスイッチを入れる。台の高さをゆっくり上げながらデブリでささくれだった表面をビットが撫でてゆく。
「こんなんでいいかな」
きれいになった表面を撫でてみた。おごっ
ーーーーという鈍い音とともに私の体は投げ出され、赤く染まる視界には先輩の無線機越しの声と酸素漏れのアラートだけが……
ーーーー宇宙連邦労働監督局ーーーー
労災事故事例 3521年6月7日追加分
フライス盤に巻き込まれて死亡
被災者の所属する事業所は、宇宙船舶の装備換装と軽整備をしており、工場には2つの低重力与圧ドックと3機の整備ロボットに、旋盤、フライス盤、ボール盤、金属3Dプリンターが設置され、これらの機械により船舶の装備換装と軽整備を行っていた。
災害発生当日、与圧されていないドックで被災者は朝から同僚とともに船舶の軽整備をしており、装甲板の加工を行っていた。使用していたフライス盤は刃物軸が上下方向となっている立てフライス盤であり、刃物は直径15cmのフラット型のものである。
加工を行っていた物は傷ついた船舶用装甲板であり、縦約70cm、横約30cm、厚さ5cmである。被災者はこれの表面の切削加工を行っており、フライス盤上のバイス(万力)により装甲板を固定し加工していた。フライス盤の回転数は400回転/分にセットしていた。
被災者は、半分ほど削ったところで、切粉を手で払っていたとき、着ていた宇宙服がフライス盤の刃物に巻き込まれ、さらに腕部分も巻き込まれた。
被災者の近くで作業を行っていた作業者が、直ちにフライス盤の非常停止スイッチを押し、刃物の回転を止めた。被災者は救急車により病院に運ばれたが、死亡した。
被災者の服装は、会社から支給されている与圧作業服であり、被災者の体格に合わない旧式のものであった。
原因
1. 与圧服を着用して作業を行っていたこと。フライス盤、ボール盤等、刃物が回転する工作機械においては、刃物の端部等に服が引っかかり巻き込まれる危険が高い。このため、連邦労働安全規則においてもボール盤やフライス盤等、回転する刃物に作業中の作業者の手が巻き込まれる恐れがあるときは、作業者に手を覆う形の与圧服などを使用させてはならないこと、また、作業者は手袋の使用を禁止されたときは、これを使用してはならないことが定められている。災害が発生した事業所では、フライス盤等の作業においては手袋、与圧服を使用しないよう定めていたが、十分に徹底されていなかったようである。
2.フライス盤を止めないで切粉の掃除を行ったこと。(切粉を掃除するような場合、手を刃物に近づけることになり危険である。)
3.与圧下専用の工作機械を非与圧下で使用したこと。与圧下専用工作機械においては非与圧下では過熱などの危険が高い。このため、連邦労働安全規則においても与圧下専用工作機械を非与圧下で使用してはならないこと、また、作業者は与圧下専用工作機械の使用を禁止されたときは、これを使ってはならないことが定められている。災害が発生した事業所では、作業中はドックを与圧するように定めていたが、十分に徹底されていなかったようである。
対策
1.作業標準を定め、危険な作業を禁止するとともにその徹底を図ること。
与圧服を着たままでの作業、機械を運転しながらの作業は明確に禁止すること。また、その徹底を図るため、作業場内に指示することはもちろん、作業者に繰り返し教育を行うこと。
2.作業者の安全意識の高揚を図ること。
経営トップが安全最優先の姿勢を示すとともに、作業者に安全作業が定着するようツールボックスミーティング等種々の安全活動を展開し、作業者の安全に対する意識の啓発を継続的に行うこと。
業種 船舶修理業
事業場規模 ー
機械設備・有害物質の種類(起因物) ボール盤、フライス盤
災害の種類(事故の型) はさまれ、巻き込まれ
被害者数 死亡者:1人
フレッシュトマト味()
※この小説はフィクションです。実在の人物、企業、団体、事例とはなんの関係もありません。似たような事例がないことを心から願っております。