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聖者リュート_04

思ったより早めに投稿できました!

やっぱり応援をいただくと励みになります。

ありがたや~

 リュートが街を見たいと言ったので、それからの数日はトーアの街を案内することになった。

 彼は、目に入るものがどれも珍しいらしいようで、楽しそうに街の隅々まで見て歩いていく。

 街の大通りや商業地区はもちろん、何の面白みもない畑や森に続く道、それに案内している私でさえ足を踏み入れたことのない細い路地まで、彼は街のありとあらゆる場所を自分の足で歩いていったのだ。


「その先は行き止まりですよ。何もありません」

「了解! そんじゃ、行き止まりまで行ったらもどってくるわ。そこで待ってて」

 そういってリュートは煉瓦の壁に囲まれた細い路地を走っていくと、つきあたりの何もない壁をぺたぺたと触って、すぐに戻ってきた。

「リュートは、どうして何もない道の先まで見に行くのですか?」

「ん~? ちゃんとマッピングしときたいからかな。最初の街だし」

「マッピング?」

「そそ、地図とか地形の把握って大事だろ。街のどこに何があって、どこからどこに抜けられるっていうの、頭に入れておきたいじゃん」

「それにしても、こんな細かい道まで別に覚えなくてもいいのでは」

「オレ、マップは全部埋めたくなるタチなんだよね。それに、何でもない所に意外な抜け道とか、アイテムが落ちてたりするから」

「落とし物なら、教会か領主の館に届けないといけませんね」

「なるほど、こっちじゃ勇者の振舞いはやっちゃダメってことね」

「リュートの世界では、勇者が拾ったものを着服するのですか」

「拾ったものどころか、他人の家に入って、タンスとか漁っていくぜ!」

「そんな不道徳な人が勇者なのですか?!」

「そそ、なんならその辺の壺も全部割ったりして、金目のモノがないか探しちゃうのよ」

「父がいた世界は安全で治安が良いと聞いていましたが、勇者と呼ばれるような偉い方の道徳心がそんなことで大丈夫なのでしょうか?」

 驚く私の顔を見ながら、リュートはくっくと笑いをこらえている。

「まぁ、勇者はさておき、偉い人間のモラルがあんまりいい世界じゃなかったことは確かだな」

「そうなのですか。あ、この街の偉い人はみなさん良い方ですよ! 少なくとも意味なくその辺の壺を割ったりしません」

「あはは、そりゃいいな」

 リュートは笑いをこらえきれず、お腹を抱えて震えている。

 何かそんなに面白いのかわからないが、彼がこの街歩きを楽しんでくれているのならそれで良い。


「そういえばさ、領主サマへの謁見イベントとかって無いの?」

「はい、領主様が戻られたら一度お会いいただくことになります」

「領主サマって、どっかに行ってるんだ?」

「今は王都にいらっしゃいます。いつも冬になる前にこちらに戻ってこられるので、お会いするのはその時になりますね」

「へぇ、そーいう感じなんだ。あとさ、この街って、他に貴族とかっていないの」

「この街にお屋敷をもっている貴族は多いですよ。トーアの街は王国では暖かい方なので、冬になるとこちらのお屋敷マナーハウスで過ごされる方が多いです」

「あちこちに屋敷があるのって、たしかに貴族っぽいよな」

「冬になれば、多くの貴族の方がこの街にお見えになりますよ。それと、領主様が戻られるときは教会にも先ぶれがありますし、会えるようになれば連絡があると思います」

「了解。そしたらもうちょっとこっちの方見て回っていいか?」

「はい、ご案内します」


 この日も一日中、リュートと私は街中をくまなく歩いた。

 リュートは歩きながら、店の看板や棚先に並んでいる商品、壁の材質や扉の金具に至るまで、目につくありとあらゆるものが何なのかを私に訊ねて、一人で納得したり不思議がったりしている。

 彼なりに、少しでも早くこの世界のことを知ろうとしているのだろう。

 まぁ、それは良いことなのだが、その際に、いたるところで女性に愛想を振りまいているのはどうだろうか。

 リュートは控えめに言っても、見目麗しい顔だちをしている。

 それに加えて流れるような金髪に青い瞳。

 ただ、街を歩いているだけでどうしても女性の目を引いてしまう。

 遠巻きに彼を見ている女性を見つけると、リュートはさりげなく手を振ったり、破壊力のある微笑みを返したり、と彼女たちの視線に応え、そしてその笑顔をまともに受けた女性からは、ときおり小さな悲鳴があがるのだ。

 それと同時に、私に向けられる彼女たちの視線が痛い。

「少し休憩にしませんか?」

「そうだな、腹も減ってきたし」

 お金の使い方の説明も兼ねて、表通りにある屋台で大鹿肉の串焼きを買うことにした。

 大きい方の串をリュートに手渡すと、彼は、そーそー! こーいうのを待ってたんだよ! やったぜ異世界! と大喜びで肉にかぶりついた。

 きれいな顔を肉汁でべとべとにしながら肉を頬張る姿には、どこかあどけなさが残る。

 美味しいですか? と訊ねたら、味の方はまぁまぁだな。と素っ気ない返事が戻ってきたが、私の分まで食べてしまったところを見ると、それなりに気に入ってくれたようだ。

 リュート曰く、なんでも『豪快な肉を食べると異世界に来た気がする』らしい。

 やはり私には転生者のことはまだよくわからない。

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