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聖者リュート_03

「で、今日からここがオレの家なのか」

 私と父が住んでいた小さな家にリュートを案内すると、彼はものめずらしそうにあたりを見回し、手当たり次第にその辺のものに触れていった。

「はい、父の部屋を掃除しましたから、そこをリュートの部屋として使ってください」

「了解! うわ! 何これ? 薬草?」

「はい、それは煎じて飲むと熱が下がるんですよ」

「え? これでポーションとか作ったりしないの?」

「何度も言いますけど、飲むだけで一瞬で傷や病気が治る薬なんて、この世界にはありませんから」

「を? ここがオレの部屋? ちゃんとベッドがあるじゃん」

 そう言ってリュートが勢いよくベッドに飛び込むと、リネンに包んであった干し草があたりに舞い散った。

「ベッドが干し草とかマジか~~! なんかチクチクするけどいい匂いするし! マジウケるわ!」

 文句を言いながらも、ベッドの上で楽しそうに笑うリュート。

 よかった、どうやらこの家を気に入ってくれたみたいだ。

「リュート、食事の時間になったら声をかけるので、それまで部屋で休んでいてください。 何があれば私は隣の自分の部屋にいますから、声をかけてくださいね」

「隣の部屋って……まさかお前この家に住んでるのか?」

「はい? ここに住んでいますけど?」

「え?! それじゃ、オレはお前の家に住むのことになるのかよ?」

「いえ、この家はもともと教会が転生者のために作ったものですから、今日からあなたの家になります。私は父と一緒にここに住んでいたのですが、リュートが嫌なら私は救護院に行きますよ」

「いやいやいやいや、今住んでる奴を追い出すとか絶対にナシだから! つか、お前の方こそいいのかよ? 年頃の娘がオレみたいな男と一緒の家に住むっての」

「私はここに置いてもらえるなら、それが一番ありがたいです」

「何なの? やっぱあんたヒロイン枠なの?」

「その『ヒロイン枠』というのはよくわかりませんが、異世界の言葉なのでしょうか? それから、リュートは私のことを年頃の娘っていいますけれど、私、シスター・エメリアと同い年ですよ」

「は?」

 リュートが固まった。

「ですから、私、シスター・エメリアと同じで、今年四十八になります。私から見ればリュートは子どものような齢ですから、何も心配するようなことはないと思うのですが」

「はぁぁぁ????」

 リュートはベッドから飛び起きると、私に走り寄ってきた。

 だから、そんなに近くに寄ってあまりまじまじと見ないでいただきたい。

「いや、だって、あんた、どうみたって十五、六の小娘だろう?!」

「はい、その年齢くらいでなぜか成長が止まってしまいました」

「何だそれ? あんたエルフとか長命種とかって奴なの? そいうトコだけは異世界なの?!」

「いえ、王都のお医者様に見てもらいましたが、私はちゃんと人間ですよ。ただ、私以外にこんな風に成長の止まる人間がいないだけで」

「それ、おかしいだろ? なんであんただけそうなってんの?」

「さぁ、理由はよくわかりません。強いて考えるなら、私が『転生者の娘』だから、じゃないでしょうか」

 再びリュートが固まった。

 できるだけさらっと伝えたつもりだったが、やはり引かれてしまったようだ。


 理由はわからないが、私の成長は十六歳で止まっている。

 父は最初、『ほるもんばらんすの異常による成長阻害』という異世界の病気ではないかと疑って、王都の医者に私を診せたのだが、その結果は実際の年齢と見た目との乖離を除けば身体自体はすこぶる健康そのものだということだった。

 むしろ、いつまでも若々しいことは、転生者の血がもたらす異世界の恩恵の可能性がある。ぜひ娘さんをうちの息子の嫁に迎えたいと言われて、早々に王都から逃げ帰ってきたのだ。

 それから父は各地の教会を訪ねて、過去の転生者の子どもたちに、同じような現象が起きていなかったか資料を捜し求めた。

 だが、信仰の薄いこの世界の教会には、過去の歴史を記したものはほとんど残されておらず、そもそも過去に転生者が子を成したことがあったのかさえ、よくわからなかったのだ。

 最初のうちは、私も王都の医者の言うように、いつまでも若くあることはそう悪いことではないと思っていた。

 だが、いつまでも姿の変わらない私を、転生者の娘だから、と受け入れていた人たちも、自分自身が老いていくに従って少しずつ私と距離を置くようになった。

 今でも変わらずに接してくれるのは、幼い時から教会で一緒だったシスター・エメリアくらいなものだ。


「ごめんなさい。なにせ他に誰も私みたいな人がいないものですから、ただ成長が止まっただけで寿命はみんなと同じなのか、それともリュートがいう長命種のように長生きするのか、それもよくわからないんです。気持ち悪いですよね。やっぱり私、救護院にいきますね」

「ちょっと待てって!」

 出ていこうとする私の腕を、リュートが慌てて捕まえる。

「『ヒロイン枠』が『ロリババア』とか、あんた! ある意味最高じゃねぇか!」

「はい?」

「だから、見た目が十六で齢が二百オーバーとかいう設定ザラだから! 四十八とか中途半端にリアルなトコも悪くないし! むしろそこ萌えポイントだから!」

「……はい??」

「だから! そーいうの、キャラが立ってるっていうか、オレの世界の基準ではむしろ好ましいトコなの!」

「はぁ」

「だから、自分で自分のこと気持ち悪いとか言うな。もうちょっと自信もてってば!」

「!」


 リュートの言葉は半分ほどしか理解できない。

 けれど、彼は私のことを忌避している訳ではなく、むしろ気遣ってくれていることははっきりとわかる。

 そのことがたまらなく嬉しかった。


「まぁ、あんたの方に問題がなければ一緒に住んでもいいんじゃないか。っていうか、むしろこっちから頼むよ」

「……はい、ありがとうございます?」

「なんでそこ疑問形なの。まぁ、この世界のこと色々教えてくれると助かるんだけど」

「もちろんです!」


 こうしてリュートが転生してはじめての一日が終わった。


「ところで、リュート」

「なんだ?」

「『ロリババア』とはどういう意味なのですか? 」

 ぶふぉぉぉ!っとリュートは飲みかけたお茶を噴き出して、そのまま黙ってしまったので、結局、意味は教えてもらえなかった。

 ……異世界の言葉は難しい。


次の更新は少しお時間いただきたいと思います。

お待ちの間、こっそり以前に書いたお話をご案内してきますね。

「魔導装具取扱店か~まの店(時々Michelの館)~3行では説明しきれなかったアイテムたちの履歴書~」

よろしければこちらもお楽しみいただければ幸いです。


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