聖者リュート_01
「で? あんたがオレを呼んだ女神様なわけ?」
その転生者が最初に発した言葉がこれだった。
「い、いいえ、違います」
「えー? そんな真っ白い髪の可愛い子が目の前にいたら、普通は女神だと思うじゃん!」
目の前に現れたのは流れるような金髪に青い瞳、どこかの貴族といっても遜色のない顔立ちの青年。
だが、その口から出る言葉と立ち振る舞いは、どうにも品性を欠いている気がする。
その青年は立ち上がってあたりを見回すと、『すげー! すげー! 異世界すげー!』と興奮した様子で謎の呪文を繰り返していた。
「そんじゃ、どこでチートなスキルが手に入ンのか、知ってる?」
「あ、あの……あなたの言う『チートなスキル』が何かはわかりませんが、異世界から来られた方ですよね、よければ街にある教会までご案内したいのですが」
「なるほど! ステイタス確認イベントは教会でやるんだな。了解! それじゃ、もしかしてあんたはヒロインなわけ?」
リュートは、キラキラと音を立てそうな微笑みを浮かべて、私の顔を覗き込んできた。
私は慌てて彼から距離をとる。
異世界の人というのはこんなに他人との距離感が近いのだろうか。
それに彼の美しい見た目は、どうにも心臓に悪い。
「わ、私はヒロインという名前ではありません、トゥエと言います」
「へぇ、トゥエっていうのか、いい名前だな。俺はリュウト、高橋琉斗だ」
「タカハシ リュートさん?」
「琉斗だけどね。まぁ、リュートでいいよ、どうせおんなじだし」
そういってリュートは私の髪をくしゃくしゃにしながら頭を撫でた。
父もよく私の髪をこうやって撫でてくれたのだが、これは異世界では一般的な挨拶なのだろうか。
「そんじゃ、とりあえず教会まで案内してくれる? オレ、あんたについて行くわ」
「はい、山を下りますから気を付けてくださいね」
転生の門のある遺跡からトーアの街まで、私はリュートにこの世界のことを話しながら彼と共に足を進めた。
彼はその話に一喜一憂していたが、特に、リュートが話す「ステイタス画面」や「経験値」がこの世界には無いと知った時には、とてもがっかりしていたようだ。
「マジかよ……これ、そーゆーハードモード系の転生なわけ?」
「リュートがいた世界では、そんな風に自分の能力を数値として見ることができたのですか?」
「そんなもん、リアルにできる訳ないじゃん」
「元の世界でできなかったことが、この世界でもできないことがそんなに不思議なのですか?」
「せっかく異世界に転生したのにさ、スキルとか魔法まで無いとか、ありえないって」
「ごめんなさい。リュートの話は私にはよくわからない」
「ほら、そこはロマンとかあるわけよ。転生者的には」
リュートとの会話は、話が通じているようでどこかが噛みあっていない。
この後私は、これが父の話していた常識や概念の違いなのだと実感することになる。
やっと転生者が出てきました。
しばらくは彼の人生にお付き合いください。