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聖者リュート_10

「よう! おかえり!」

「ただいまもどりました、リュート」

 教会に帰ると、子供たちと遊んでいたリュートが私たちに気づき、こちらにやってきた。

「ところでトゥエ、隣にいる美しいお嬢さんは誰なんだい?」

「はい、ご紹介しますね、こちらはトノヴァ商会のタニアです」

「はじめまして、私はタニア。トゥエの友人よ。よろしくね」

 何の躊躇もなく私の友人と名乗るタニアの言葉に、また少し胸が熱くなる。


「あなたが噂の転生者?」

「オレはリュート。正真正銘の転生者ってヤツかな。転生してタニアみたいな美人に会えるなんて、これが本物の運命の出会いってヤツ?」

 リュートはいつものキラキラの笑顔を浮かべて、タニアに手を差し出した。

 それを何の物怖じもせず、がっつりと掴みかえして握手をするタニア。

 よくわからないが、二人とも私より見えない何かが強い。


「あなたのような奇麗な人に口説かれるのは悪い気はしないけれど、私の好みはもう少し男らしい人なの。ごめんなさいね」

「ちっ! オレの魅力もこの世界じゃまだまだか」

「私がもう二十も若かったら一目で惚れてたわよ。色男さん」

「誉め言葉になってねぇ」

「トゥエ、この人いつもこんな感じなの? 面白いわねぇ」

「はい、リュートは女性をみるといつでも口説いていますよ」

「口説いてんじゃねぇって、美しい女性にあったら褒めるのはあたりまえの礼儀だから! そこ間違っちゃダメだから」

「本当に面白い人ねぇ」

「を? それはやっぱオレに興味あるってことじゃね?」

「リュート、タニアは子どもたちの勉強に必要な石版を持ってきてくれたんですよ」

「そうそう、まずは仕事をしなくちゃ」


 三人で教会の会堂に入り、雑多に並んだテーブルの上で荷物を降ろす。

「石板、割れていないか確かめてくれる?」

「はい、タニアに運んでもらって本当に助かりました。一人なら重くてどこかで落としていたかもしれません」

「へー。これがノート代わりの石版?」

「リュートは見るのが初めてなのですね。こうやって石の板に蝋石で字を書くんです」

 私は蝋石を一本とりだし、石版にリュートの名前を書いた。

「結構しっかり書けるんだな。これならいけんじゃね?」

 リュートも蝋石を手にすると同じように石版に文字を書き始めた。

 綴られる文字は少し丸みを帯びているが、どれも正しくこの世界の文字だ。

 リュートは、思いのほか可愛いらしい文字を書いている。


「さてと、それじゃ配達も終わったし、そろそろ私は店に戻るわね」

「ありがとうタニア。本当に助かりました。あ、そういえばまだ代金を渡してなかったですね」

 硬貨をとり出そうとした私の手を、タニアがそっと抑えた。

「お代は結構よ」

「え?」

「だって、あなたと仲直りができたんだもの。その対価としては安いものだわ」

「何を言ってるの? そんな訳にはいかないでしょう」

「あなたは勇気を出して私のところまで来てくれたわ。その切っ掛けになった品物の対価くらい私に払わせて」

「それは理屈が変よ、タニア。商売なんだからちゃんとお金をとって」

 タニアも私も譲らない。

 そういえば彼女は昔から一度決めたら譲らない質なのだ。

 そこが頼もしくもあり、困ったところでもある。


「それじゃぁ、こうしましょうトゥエ」

 タニアはリュートを指差してこう言った。

「うちの商会を、転生者リュート御用達の店、ってことにして」


「え? オレ?」

 突然話に巻き込まれて、リュートは困惑気味だ。

「新しくやってきた転生者がうちの商会を贔屓にしてくれるかわりに、今回の代金はおまけにしとくって言ってるの」

「なんだそれ?」

「言い伝えだと、転生者ってここよりずっと文明の発達した所からやってくるんでしょう? トノヴァ商会はそんな転生者の目に適う商品を扱ってるっていうの、いい宣伝になると思わない?」

 そうなのだろうか? いや、それ以前に私とタニアの話にリュートを巻き込むのは困る。 

「それでこの石板がタダになるなら、オレは良いぜ?」

「リュート?!」

「ぶっちゃけ教会は金がねぇんだろ? タダでもらえる物はありがたく貰っとこうぜ」

「リュートは話が早くていいわね。それじゃ交渉成立ということで」

 タニアが差し出した手を、今度はリュートががっちりと握る。

「そのうちオレが有名になったら、異世界にきてオレが初めて買い物をした記念すべき店って名乗っても良いぜ」

「あはは、そうなることを期待してもいいのかしら? 本当にあなたって面白いわね」

 私が戸惑っている間に、なぜか二人の間で話がまとまっている。

「それじゃトゥエ。次からこっちの店にもちゃんと寄ってね。それとリュートさん。今後ともトノヴァ商会をどうぞご贔屓に」

 タニアはおどけながら手を振ると、軽やかに立ち去っていった。


「……なんか、いい女だな。タニア」

「あたりまえです」


 だって、彼女は私の大切な友達なんですから。

このお話が掲載される頃、私はキャンプ場でお気に入りのコットンテントの中でゴロゴロしているはずです。

天気予報は晴れ。

星が綺麗な夜になりそうです。


いつもお読みいただきありがとうございます。

みなさまにいただいた応援や評価がいつも励みになっています。

最後までお使いいただければ嬉しく思います。

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