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沈黙した転生門

なんと後半部分の掲載を忘れておりました(大汗)

2023/2/16に加筆いたしましたので、改めてよろしくお願いいたします

 酷い雨になった。


 召喚の儀に集められた神官たちも、冷たい雨に打たれてずぶ濡れだ。

 陰鬱な雨の中、心の伴わない祈りの声に応えることなく『転生の門』は沈黙したままだ。


 儀式は三度繰り返し行われたが、何もおこらなかった。

『転生の門』は何事もなかったかのように、ただそこにあるばかりだ。


 結果はわかっていた。

 誰もがこの儀式に最初から何も期待していない。

 ただ、もうこの世界に転生者は来ないのだ、という事実を公にするための形ばかりの儀式。

 その虚礼と茶番にふさわしく、冷たい雨がただひたすら降り続けていた。


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 この大陸には、「転生の門」と呼ばれる遺跡がある。


 この門ができたのは世界開闢の時代。

 遡ることができないほど(いにしえ)にあった神々の戦いの時代だと言い伝えられている。


 長きにわたる神々の戦いは膠着し、ついぞ終わりが見えなかった。

 そんなある時、この戦いを終わらせるために、最も強い力を持った一柱の神が、異なる世界から知恵ある者を招くための門を開いた。

 それは、異なる世界で輪廻の環に還るはずだった魂をこちらに引き寄せ、この世界で生まれ変わらせるための門。


 そうして異なる世界、いわゆる異世界から転生してきた者たちは、たしかにこの世界とは全く異なる技術や知識など、大いなる知恵をもっていた。


 ただ、残念なことに、彼らの進みすぎた技術と我々の世界との間には、埋めることのできない大きな溝があった。

 彼らは世界中の知識を瞬時に呼び出すことができるという英知の箱”スマートフォン”や”コンピュータ”という道具を知り、使いこなしていたと言ったが、それがどのようにして作られ、動いているのかを知らなかった。

 また、彼らは高熱の病に効く”抗生剤”という薬の存在を知っており、それが青い黴からできることは知っていたが、実際に黴から薬を作り出すすべを知らなかった。


 武器にしてもそうだ。

 彼らはの世界には”銃”や”大砲”という武器があるという。

 それらの圧倒的な力があれば、戦いに勝つことなど、たやすいことだと。

 だが、それを使うためには”火薬”が必要であり、そのために”硝石”を作らなければならない。

 彼らの指示に従って、神々は人を使って”硝石”を作るために何年も糞尿を溜めたが、そこから実際に”硝石”を作るための知識があいまいで、結局は新しい武器を作ることが出来ず、戦局は何も動かなかった。


 この世界には、彼らの知恵を実現するための技術が存在せず、また、転生者たちも彼らにとってあたりまえに存在していたものがどのように生み出されているのか、そのすべについて多くを知らなかった。

 それでも、有機肥料による農作物の生産向上や交配による品種改良、植物紙の生産や印刷技術など、転生者たちの持つ知識のいくつかはこの世界に大きな恩恵をもたらし、少なからず人々を豊かにしたが、いずれも神々の戦争を終わらせる決定打にはならなかったのだ。


 神々は長く続く戦いのために疲弊しきっていた。

 それに加えて、いつしか神の作った転生門は、異世界の魂を呼ぶ代償として、敵味方関係なく神々の力を無限に奪いはじめたのだ。

 だが、そのことに気づいたのは時すでに遅く、もうに神々には転生の門を止めるだけの力は残されていなかった。


 神々の戦いは誰も知らぬ間にひっそりと終焉を迎えた。

 それは、転生の門によって神々がその力を失い、この世界に留まることが出来なくなったからだと伝えられている。


 そうして、この世界から神は消えた。

 ただ、異世界からの魂を呼び続ける転生の門を残して。


 神々がいなくなったあとも、転生の門は、ひとり、またひとり、と転生者の魂を呼び続けていた。

 不思議なことに、この世界に存在できる転生者はただ一人だけ。

 どのような理屈かわからないが、転生の門は己が呼んだ転生者の魂がこの世界から失われると、次なる新たな魂をこの世界に呼びよせる。

 こうして、この世界には常に孤独な転生者が延々と存在し続けてきた。


 だが、その転生の門に小さな異変が起き始めた。

 これまでは、転生者が亡くなれば、遅くとも次の月が巡るまでには新たな転生者が招かれていた。

 それがいつしか、次の転生者が呼ばれるまでに月が二度巡るようになり、またその後には月が四度巡るようになった。

 そして今、最後の転生者が亡くなってからすでに五年が経過したが、まだ次の転生者は生まれてこない。


 教会はこの現象を、転生者の門の力が尽きたのだろうと早々に結論付けていた。

 もう転生者はこの世界に現れない。

 教会は最後に儀式というけじめをつけることで、転生者の門に対するすべての責任と義務から開放されることを望んだのだ。


 転生者は、もはやこの世界に必要とされてはいない。






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