第6話 吸血族君主<ヴァンパイアロード>の復活
5人は遺跡の探査から帰ってきた。ひとまずウィドラのことをシグルドに報告することにした。
「王様、新しく仲間が増えたので連れてきました。」
「ほう。名を申してみろ。」
「俺はウィドラです、陛下。俺は他の単独の冒険者たちと組んで案件を達成しているだけの冒険者でしたが、シドラに助けてもらったのでこのようにシドラたちの仲間になるといったところです。」
「そう固くならなくていい。普通に喋ってくれればいいぞ。」
「わ、わかりました。」
「それで、連れてきたのはただの挨拶の為だけじゃないだろ、シドラ。」
「はい。実はへルヴィア様に呼び出されているので、僕たちの代わりに城内を案内してくれる人を探していて…」
「その任務、私が引き受けるわ。」
「わ、私も行きます!」
「え⁉熾天使様たちがなぜここに…?」
「さっきシグルドに言われたでしょ?そんな固くならないで、って。」
「は、はい。それで、あなた達は一体…」
「もしかして、熾天使を崇拝せずにいられないタイプね。なら、私の正体を教えてあげる。」
「そもそも隠してないじゃないですか…。」
「私は戦乙女の長、ブリュンヒルデよ。こっちは異世界から来た追放戦乙女のレヴァタイズよ。」
「神聖なる貴女方に対して何も知らずに不躾な態度を取って申し訳ございませんでした!!」
「これ以上私たちを崇めるとシグルド様への不敬として切り捨てるわよ?」
「ブリュンヒルデ様、それはさすがにやりすぎですよ。」
「わ、わかった。これからは普通の態度を取ってりゃいいんだな?」
「その調子よ。シドラ、確かこのウィドラに城内を案内すればいいのね?」
「ああ、お願い。」
「シドラ、それで我が娘に呼び出されたというのは?確かにへルヴィアはお前のことを王子様王子様言って何やら妄想していたが…」
何かいいたげだったがさすがのシグルドでもアオイとシャラに睨みを利かされて黙ってしまった。
「実は、この宮殿の手前で…」
―――
シドラの一行がシグルドのいる宮殿の手前に来た時のことだった。
「あ、王子様!お久しぶりでございます!私との結婚はいつご予定になさっておりますか?」
「へルヴィア、久しぶり。会ってない間に大きくなった気がするよ。随分と改まってどうかしたの?」
「改まって何が悪いの?いつもの口調で話せばいいってこと?」
「まあ、どっちでもいいよ。」
「そ、そんなことはともかく、あとで話があるから宮殿から一番東にある中庭に来て!」
「いいけど、何かあるの?」
「それじゃあ、また後でね!」
「あ、ちょっと…。」
―――
「そうか。アイツは俺に知られたくないことがある呼び出しは何でもこの宮殿から一番東の中庭でしようとするからな。まあ、いつもルキネアに監視させるがな。」
「では、あまり待たせるといけないのでここで失礼します。」
「一応監視はさせるが、もし何かあれば報告してくれ。」
*
そして、一行は宮殿から一番東の中庭に着いた。
「やっと来た?遅いよ!」
「ごめん。それで、話って何?」
すると、急にへルヴィアの表情が沈んだ。
「実は、私…うっ…うぅ、あぁぁぁ!!!」
「どうしたの?ねえ、大丈夫?」
すると、へルヴィアはすぐに顔を上げたが、親譲りの銀髪碧眼のはずの目は赤色になっていた。それに、耳の先が何故か尖っていた。
「汝ら、跪け!伝説の吸血族君主、リベセント様の復活だぞ!」
「きゅ、急にどうしたの?何があったの?」
「うるさい、気安く話しかけるな!」
そう言いながら、へルヴィア(?)は手から紫色の火炎弾を発射した。
「まさか、本当にリベセント様なんですか?」
「汝、我が名に様をつけるということは、まさか吸血族か⁉」
「はい。僕は特別な体に生まれたみたいで人間に近い体はしていますが…。」
「待て⁉よく見ると汝らの仲間には人間がおらぬではないか!そうだ、軍の復興、我らが野望の為に我が軍門に下ろうとは思わぬか?」
「ちょっとそれは困りますね…。」
「ならば、我が汝らの軍門に下ればいいのか?いや、しかしそれでは我のプライドに傷が付きやしないか…?うっ…せっかく上手くいったのに…ここまで、か…。」
そういうと、リベセントは倒れた。
「大丈夫ですか⁉」
「…あれ?私、いつの間に寝ちゃったのかな…?もしかして、王子様がキスで起こしてくださったんですか⁉」
「いや、全然違うけど…。それより、王様のところ行ってくる!」
「え⁉ちょっと待ってよ~!」
*
「王様、報告です!」
「知ってる。へルヴィアの体を使って吸血族君主が復活したってことだろ?」
「はい、それもあるんですが、たった今、リベセントの意識が消滅してへルヴィアの意識が戻りました。」
「そうか。しかし、困ったな…。」
「どうかしたんですか?」
「これでは国同士の関係が危うくなってしまう…。」
「え?何かあるんですか?」
「ああ。実は3日後、隣国の王子との初めての見合いがあるんだが、もし見合いの途中で吸血族君主が復活した場合、見合いが失敗するだけでは済まされない。最悪、戦争になるだろう。だからだ、シドラたちにもへルヴィアの見合いについて来てもらうぞ。」
「はい。どのみち、見合いがあるならついて行くつもりでしたよ。ヴァルトラウテ様と約束しましたから。王様とブリュンヒルデ様が出掛ける時の付き添いをやる、って。」
「そうか。それなら頼むぞ。」
そして、急ピッチで用意が進められ、翌日には見合いの為の行列が出発した。
続く 次回、へルヴィアの見合いはどうなるのか?