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第2話 吸血族の少女と拷問冒険者

それは、ある宴の帰りの話だった。

シドラがそろそろ人間たちに自分が吸血族であると公表しようと考えていた時のことだった。


「おい!何へたばってんだ!!立てやコラ!」

「吸血族なのに人間にボロクソやられて恥ずかしくねぇのかよ?」

「ゆ、ゆるして…く、ゲホゲホっ…」

「おい、何ボソボソ言ってんだ?いい加減黙れよ。」


人間が少女を拷問している?いや、俗に言う『魔人狩り』か。


「おい、お前たちは一体何をしているんだ?」

「何をって、見りゃ分かるだろ…って、お前、まさか噂の新人!?」

「あと、戦う前に言っておく。俺は吸血族だ。」

「誰がそんなウソを…」

「この耳と犬歯を見ても同じことが言えるか?」

「まさか、お前は…」

「そう。僕も吸血族です。なので…」

「お前も殺してやる!いくぞ!」


「吸血族は若いのから根絶やしにするもんだからなぁ。」

「これで俺たちも英雄に…」


「言い残すことはそれだけですか?」

「それだけも何も、新人なんかに()られるわけ…」

「体技『(あか)き月光』!!」


まず1人気絶。


「お前、そんなことして許されるとでも…」

「僕はただ、同胞を守りたいだけだ!!」


勢いまかせに2人目。


「おい…、なぁ、一旦話をしないか?」

「同胞を、それも大人の男が少女を惨い目に遭わせたんだから、生かしはするが、許しはしない。」

「やめ…」


少女は、とても傷ついていた。

服は破れ、吸血族特有の蒼白い肌に目立つ切り傷、あざ、刺し傷があり、長くこの環境が続いたことを物語るように、その顔は痩せこけ、疲労困憊している様子だった。

今は彼らの手出しが止んだからか、安堵の表情を浮かべて眠っているように見える。


「そうだ。療術『蒼き月光』。」


療術をかけると、少女の体中の傷は消え、痩せこけていた顔も幾段かましになったようだ。とりあえず、宿に連れ帰ることにした。



「…っあれ?ここは…、まさか?」

「おはよう。やっと起きた?」

「お前、あいつらの仲間か!?」

「ああ、あの人たちならどこかの道に拘束して置いてきたよ。」

「もしかして、私が最後に見たあいつらを襲ったやつって…」

「ああ、昨日の僕だよ。」

「そ、そうなんですか!?疑ってごめんなさいっ!」

「いいよ。君はあの冒険者たちから拷問を受けてたんだよね?」

「はい。でも、昨日のこととは思えません。こんなカッコイイうえに優しい同胞に出会えたなんて…」

「もしかして、僕が吸血族だって分かるんですか?」

「はい。そういえば、私たち自己紹介がまだだったね。私はブルーハ・チョンチニーっていいます。12歳です。人前では、アオイって名乗ってます。」

「僕はシドラ・コエクシストです。」

「私、あなたのことをお兄ちゃんって呼んでもいいですか?助けてもらえて嬉しいし、何より、お兄ちゃんはカッコイイから、他の()には絶対渡したくないし…」

「そ、そんなことを言ってもらえたのは初めてです。」


その時、耳を穿つような雷鳴が響いた。


「急に雷ですかね?」

「…恥ずかしいけど、私のおなかの音です。」

「なら、どこか食べに行きますか?」

「いいんですか!?…あ、でもまたあいつらに会ったら…」

「大丈夫です。僕、吸血族の人たちがやってるおいしいお店を知っているので。」

「そこでお願いします!」

「でも、服がボロボロなので、先に服を買いましょう。」

「え!?お、お兄ちゃん、そういうことは早く言ってよ…。」


「お兄ちゃん、この服はどう?」

「…かわいいけど、戦いには向いてないね。」

「確かに…。お兄ちゃんについてくなら戦うことも考えた服装にしないと…。」

「だったらアオイに似合いそうな軽装があったよ。」

「どれ?」


そして、シドラが選んだ軽装は、蒼と白のワンピースの胸と肩に鉄版(メタルプレート)がついたものだ。


「やっぱりお兄ちゃんは私のことが分かってるね。」

「その、ただかわいい服を選んだだけで…」

「お兄ちゃん、私のこと意識してる?」

「その…、ただアオイは妹分だから、ちゃんと女の子らしくあってほしいだけで…」

「もう、お兄ちゃんったら、照れちゃって。」

「と、とりあえず、お腹空いてるなら、はやくお昼ご飯にしよう。」

「お腹は減ってるけど、まだいいかな。次はどうする?」

「どうする、って…。そうだ、武器買いに行こう。アオイはどの(ジョブ)にする?」

「私はやっぱり冒険者になって、剣を使いたいかな。お兄ちゃんだって使ってるし、吸血族の英雄さまたちはみんな剣で活躍してたし。」

「なら、まずは短剣にする?」

「私は最初っから両手剣が使いたいな。」

「え!?大丈夫なの?」

「私、昔っから力持ちだったし、大丈夫だよ。」

「でも、まずは試してみてから…」

「その方が、いい…の…、か、な…。」


そして転倒。


「大丈夫!?どうかしたの、ねぇ、ねぇ!」

「ただ…、お腹が…空いて…、力が…」

「ちょっと待ってて、今すぐ連れてくから。店員さん、これください!」

「試着中のお客さんに着せたままはちょっと…。」



「いらっしゃい、久しぶりだね。おや、今日は1人じゃないのかい?」

「実は、この()は昨日拷問さえていたところを助けたんですけど、この娘、吸血族なんです。」

「そうかい。かわいい娘だね。」


「あ、ありがとうございます。と、ところで、ここは何が食べられる…お店…なんですか?」

地這牙(アリゲーター)の肉です。とてもおいしいですよ。」

「地這牙なんて…食べれるんです…か?オススメの…食べ方…は何…ですか?」

「地這牙の肉の肉挟麺麭(ハンバーガー)です。」

「肉挟麺麭?何かは知りませんが…、ステーキは…」

「ありますよ。」

「本当ですか!?」

「回復早…。」

「なら、地這牙のステーキを3kgお願いします!!」

「3kg?そんなに食べれるんですか?」

「実は私、食べる量が多くて…。一文無しで追い出された時は死ぬかと…」

「一文無しで…?」

「な、何でもないよ。ほら、お兄ちゃん。お兄ちゃんも早く頼んで。」

「う、うん。」


そして本当にアオイは3kgのステーキを平らげてしまった。


「安くしてもらえたからよかったけど、あの量だとやっぱりお財布が…」

「なら、その分稼げばいいじゃん。」

「稼ぐって…。まさか、アオイも冒険者になるの?」

「そうすれば、お兄ちゃんとずっと一緒にいられるから。」

「なら、冒連(ギルド)に冒険者登録しにいこう。」

「冒険者登録?」

「冒険者登録をすると、ステータスが付与されて、ステータスが上がったり高難易度の案件(クエスト)を達成すると、階級(ランク)が上がるんだ。」

「それなら、私も登録しようかな。」


『緊急案件(クエスト)発生、緊急案件発生!!大量の魔傑(デモニアン)がこの町に向かって北上中!あと5分無しでこの町に辿り着く模様。今すぐ出陣できる方は、町の南関所に集合してください!!』


「緊急案件?」

「戦えるか、アオイ?町の人間や同胞の為にも戦うぞ。」

「うん!」



魔傑(デモニアン)――。堕天使連合バサウェルの率いる中級悪魔の集団にして、一般人からすると死を覚悟せざるを得ない案件の1つだ。近年は発生していなかった。


「おい、あれってまさか…」

「堕天使連合中堅のラクエル!?」


「みなさんごきげんよう。今回こそは私たちの勝利で修めさせてもらいますよ。悪怪(グレムリン)ども、その身を我らの勝利へ捧げよ!かかれ!!」


「俺たちも行くぞ!!」

「人間魂、見せつけてやる!」

「堕天使ごときに負けられねぇ!」


「僕たちも行こう。」

「ちょっと待って。秘技『蒼聖の翼』。」


その言葉を唱えると、アオイの背中からはコウモリの翼が生えた。


「お兄ちゃん、今回はお兄ちゃんの出番は無いからね?」

「え?あ、ちょっと…。」


そしてアオイは空を舞い、堕天使の背後まで直行した。光の速さで回り込んだアオイは、敵との間合いを0にし…


「体技『星挙一閃(ツージャン・ネーブ)』!!!」


だが、そううまくいく訳もない。


「あなた、速いのね。翼が生やせる吸血族は滅んだと思ってたんだけど…。」

「ただの突然変異だよ。」

「突然変異ねぇ。それなら、私の斬撃も躱せるかしら。」


「あれは…魔大剣デスティアン!?」

「逃げろ!危険だ!」


「[我が斬撃、破滅の欠片なり。歯向かいし者は、星屑と成りて散れ!!『破滅の一太刀(デストロイ・ブレード)』]!!!」


そして直撃――。


「アオイー!!…そんな。え?」


「私がその悪の一撃で倒れると思った?」

「なに!?これをくらって立っているだと?」

「私は、昨日まで散々な目に遭ってきた。でも、今はお兄ちゃんが助けてくれて、私の傍にいるからこそ、私はこうやってお前の攻撃では倒れられないんだ!!」

「ブラコン?でも、出血はしてるし、強いわけでもないでしょ?なら、素手で戦ってあげる。手加減よ。」


――そして僕はラクエルの投げ捨てた剣を掴み、全力でアオイの許へ投げ飛ばした。


「アオイ!!これを使え!!」

「わかった!!」


「ちょっと、あなたも素手で戦うんじゃないの?」

「今、この場で私がお前を倒す!!」

「待って、あなたのあの考えに私は…」

「[『デスティアン』 ファルセット解除 魔聖王剣『ブルトガング』]!!!」

「待て!?なぜ吸血族に魔剣のファルセット解除ができる?そんなことは…」

「はぁぁぁぁ!!」

「ぐぁぁぁぁぁぁぁ…」


視界の眩しさは消え、堕天使ラクエルとその配下は跡形もなく消滅した。


「やっと、終わった…。」

「この嬢ちゃんに拍手!!」


そして、周りが拍手喝采に包まれた時――。


「ちょっと待て。そいつは最近町で盗みをやってた噂の泥棒だぞ。」

「しかもこいつ、吸血族のくせに人間に生意気な口利くしなぁ。」


そして、アオイが「吸血族の泥棒」とわかるだけで、視線は冷たくなってしまった。


「で、連れのその噂の新人も吸血族だ。無様だろ?人間のフリしないと生きられないなんてなぁ。」


「何が噂の新人だ!最初からステータスが高かったって話は吸血族だからかよ!?ふざけんな!」

「もうこの国に入ってくるな!吸血族が冒険者の中心になったら冒連が腐るぞ。」

「いくら活躍したといえ、これは種族ステータスの横暴としか思えん。」


そんな心無い誹謗(ことば)が飛び交った。それでも、シドラは伝えようとした。ある事実を。


「さっき皆さんも見ましたよね、アオイが魔剣をファルセット解除で聖剣に変えたのを。」


「俺は幻覚を見ていたなぁ。」

「私は戦うので必死だったから見てないし。」


「…っ。ならば、もうこの町の危機には一切関わりません。それでは、さようなら。あとから泣きついても遅いですよ。」


そして、しばらくもしないうちに世界の危機が訪れることはまだ誰も知らない。


続く 次回、吸血連合・最悪の吸血族の復活

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