第4話 戦乙女の宴<ヴァルキリー・バンケット>
天空宮殿ヴァルハラで行われる戦乙女の宴に招待されたシドラたち、ブリュンヒルデとシグルドは準備をしていた。
「ねえ、僕、どうかな?」
「さすがお兄ちゃん、よく似合ってるよ。」
「ご主人様はタキシードも似合うね。」
「お前、なかなかいいじゃん。」
「みんなもドレス似合ってるよ。」
「きゅ、急に褒められると恥ずかしいな。」
「ご、ご主人様に満足してもらえてるなら…。」
「褒めたって何も出てこないよ。」
「王様たちは準備終わりましたか?」
「ああ、俺が服を裂かずに銀の右腕を袖に通せればな。」
「シグルド、袖くらい裂けてた方がかっこいいわよ!」
「シグルド様、ここはブリュンヒルデ様の言う通りですよ。それに、シドラさんたちも待ってますし…。」
「わかった、袖は裂く、袖は裂くから無理に着せないでくれ!」
*
「これで全員準備できたな。」
「はい。僕たちは全員用意できてます。」
「私たちも準備できてます。」
「で、ブリュンヒルデ。どうやって天空宮殿まで行くんだ?」
「私がゲートを開くわ。みんな、本当に準備はいいわね?」
「はい。」
「『我こそは天空騎士団の長なり。聖なる宮殿への道筋よ、今地上に開かれよ。[天宮の扉]』。」
すると、目の前には巨大な門が出現した。
「みんな、ここをくぐって。」
そして、門をくぐると目の前には巨大な宮殿が出現した。
「ここが天空神殿ヴァルハラか。思った以上に大きいな。」
「そりゃ天空騎士団はいつもここで過ごしてるから、実家みたいなものよ。」
「何か私の世界の天空宮殿が小さく思えます。」
「あ!姉ちゃんたちいらっしゃい。準備できてるから入っていいよ。」
「みんな待ってるよ、姉ちゃんが帰ってくるのを。」
先刻の2人が出迎えてくれたので、6人は速足に宮殿の中に入った。(ちなみに、今回パティーナは王国で留守番である。)
すると、そこにはたくさんの熾天使たちが着飾って待っていた。
「団長、よくぞ無事でご帰還なさいました!私は嬉しい限りです…。」
「団長さん、今までどこ行ってたの?」
「団長、久しぶり。」
全員戦乙女らしく、口々にブリュンヒルデのことを「団長」と呼んで歓迎した。
「みんな、ちょっと待ってて。少しあの固い頭に1発入れてくるから。」
「え⁉だ、団長、何をなさるおつもりですか⁉」
「言った通りよ。」
「あの固い頭って、誰のことですか⁉」
「オーディンのことに決まってるじゃない。」
「そんなことしたら殺されちゃいますよ⁉」
「臨むところよ。」
「えぇ…(困惑)。」
そして、彼女は一番奥の扉を蹴破り、こう言い放った。
「オーディン、よくも私をあんな結界に閉じ込めてくれたわね。勝負よ!」
だが、そこにいた軍神も、満面の笑みでこう言い放った。
「お前のような奴は危険だ。よほどの事情がなければこれ以上のヴァルハラの出入りは禁止…」
「断る。お前に指図される筋合いはない。」
「おい、戦乙女のメンバーから外すぞ。」
「やれるものならやってみろ。」
「よし、堕天使にしてやる。」
「ごめんなさい、許してください、オーディン様。」
「やっぱヴァルハラ出禁な。」
「ご容赦を…」
「無理。」
「…。やっぱり戦ってもらうぞ。」
「地上の者たちに本性を知られるのはいささか不満だが、お前に負けるよりはマシだ。また縛り上げてやろうか?」
「この小心者コーチン、軍神も落ちたものだね!」
「んだと⁉俺の風魔法が炸裂するぞ?」
「…やっぱり主神様には呆れるわ。私が本気出しても勝てる相手じゃないからって変な手使おうとして。そもそも、私が悪くて結界に封印されたワケじゃないのに。」
「お前、俺がファブニール死守しろって言ったのにあっさり封印されたじゃん。俺はファブニールがどうしても使いたかったんだ。」
「でも、あの戦争は主神様が勝手に起こしたんでしょう?」
「まあな。軍神ともあろうお方が私情で人間殺したなんて大人げない話聞いたことないだろう?」
「俺の義父が殺されてるけどな。」
「お前の父親はファブニールに殺されただろ?」
「俺の殺された義父は俺の名付け親で、剣の師範で、本当の親父が死んだ後に国王としてのことを教えてくれた事実上の師匠だ。」
「ああ、あれは事故だ。グングニルの扱い方が悪かっただけだよ。」
「なら、今ここで償ってもらおうか。」
「まあそんなに興奮せずに。とりあえず、今日はせっかく天空宮殿に来ているのだからしっかり休んでくれ。」
「まあいい。昨日の敵は今日の友だからな。」
こうして、無事戦乙女の宴が始まった。
シドラはできるだけアオイとシャラが他の戦乙女たちに威嚇しないよう、設置してあったバーで1人、カクテルを飲んでいた。
「ちょっと隣いい?」
「あなたはあの時の…。」
「戦乙女相手だからってそんなに畏まらなくてもいいよ。姉ちゃんにも同じこと言われたでしょ?」
「…はい。図星です。」
「だよねぇ。私はヴァルトラウテ。ブリュンヒルデの妹のの1人だよ。」
「僕はシドラ・コエクシストです。」
「君、ユグドラシルで仲間と72とか堕天使を何回か倒したんだよね?」
「はい。そうですけど…」
「いいよねぇ、こんな性格よくて顔も爽やかさと少しの幼さが両立してて16歳なのに女の子と寝ても手を出さず…。はぁ、私もキミみたいな人と冒険したいなぁ。」
「きゅ、急にそんなことを言われても困りますよ…。」
「ん~、その照れ方も最っ高。…じゃなくて、本題に入ろうか。」
「本題?」
「私は、姉ちゃんと旦那さんが出掛けるときの付き添いをキミにやってほしいな。」
「あの2人が出かけるときの付き添い、ですか?」
「うん。姉ちゃん、オーディン様の結界に閉じ込められてた所為で60年くらい戦ってないはずだし、出かけると何があるか分かんないでしょ?でも、あの2人には死んでほしくないからさ、信用できる人に護衛やってほしいんだよね。わかる?」
「はい。僕もルシファーの奇襲がない限りは特に予定もないし、多分王国騎士団に加入した扱いだと思うので、まかせてください。」
「うん。頼んだよ。あ、そうそう。君はまだ何で姉ちゃんがあんなことになったか知らないよね?」
「まあ、詳しい事情は知らないよ。」
「なら、私が聞かせてあげよう。60年前の悲劇を…
60年前、オーディン様が久しぶりに私情で戦争を起こした。
勝つことは目的じゃなかったんだけど、オーディン様がその時計画してた負かし方は「敵国にファブニールをけしかける」なんて作戦で、オーディン様は姉ちゃんをあの洞窟でファブニールを見守る役に決めて、それを死守するように命令したらしいの。
なのに、そこに姉ちゃんの旦那さんが来てファブニールを封印しちゃったんだ。姉ちゃんは1人でファブニールを封印できる人間は1人もいないって思ってたみたいで、封印しに来たとか思わずに洞窟に通しちゃった上、その勇ましさに惚れちゃったんだってさ。
それで、お互いに惚れちゃって見つめあってるうちにオーディン様が来ちゃって、姉ちゃんを少し離れた場所に封印したんだって。その時、姉ちゃんの旦那さんがこう言ったのを私は覚えてる。
「絶対に諦めない!いつか必ずファブニールを討伐してお前を取り戻してみせる!」
って。まさかこんな早くそれをクリアしちゃうなんて、さすが姉ちゃんの惚れた男だよ。」
「変な同情の仕方するみたいで悪いけど、戦乙女も色々と大変だね。」
「ホンットそうだよ!!姉ちゃんが不在の間、私は仮の団長としてこき使われたんだから。まあ、おかげで成長できたところもあるけどさ。」
「ありがとう。お礼に何かしようか?」
「え⁉べ、別にあの程度の話をするくらいでお礼なんか…お礼…そうだ!お願いしちゃおっかなぁ。」
「…え?ま、まさかえっちなことでは…」
「そんなことしないよ!やっぱキミでも男の子か…。」
「何か今微妙に失礼なこと言いました⁉」
「ごめんごめん。私がお願いしたいこと、わかる?」
そんなことを言いながら上機嫌そうな顔で上目遣いをし、翼をぴょこぴょこさせているヴァルトラウテ。
「わ、わかんないです。」
「天使の乙女心は難しい、か。…私も姉ちゃんがやってもらってたみたいに翼梳いてほしいな。」
「僕、翼の梳き方なんてしりませんよ⁉」
「感覚でやってくれればいいよ。ほら、櫛も用意してあるからさ、早く。」
「わかった。」
そしてシドラは櫛を手に取り、ヴァルトラウテの翼を梳き始めた。
「あぁ~。いいよ、いいよ。気持ちいい。キミ、翼梳く才能あるよ。」
「そんな才能褒められても…。」
「ホントさ、キミみたいな人欲しいなぁ。いっそ、キミ自身が欲しいなぁ。」
「ダメです!お兄ちゃんはあなたには渡しません!」
「ご主人様が欲しいなら私たちと勝負です!」
「冗談だよ冗談。もし本当に欲しいなら死んでからでもいいし。」
「「「…え?」」」
「私たち戦乙女は戦場で死んだ戦士の魂の回収も仕事の1つなんだ。だから、もし私がキミを手に入れたいとしたら…」
「お兄ちゃんは戦いでは絶対に死なないよ!」
「だって、私たちもご主人様と一緒に戦うから。」
「そっか。なら、私がシドラくんを手に入れる頃には既に誰かのものか。まあ、私も恋人としてシドラくんが欲しいわけじゃないんだけどね。」
「なんだ。好きなわけじゃなくてよかった。」
「私は親友としてシドラくんが欲しいんだよね。」
「親友でよければ。」
「うん。騎士団の活動があるからあんまり遊んだりできないけど、よろしくね!」
こうして、戦乙女にも親友をつくったシドラであった
続く 次回、久しぶりの男が登場⁉心当りは…ない。(おい。)