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7.

 一人廊下に呆然と立ち竦んで考える。



 今のは誰? 

 あまりにいろんなことがあり過ぎて気でも狂った? 

 それともやっぱりあれは私? 

 ここは冷めない夢なだけ?



 ……それにしてはこの世界にいる時間が長すぎる。


 前世の私がこんな超絶美少女に生まれ変わったことを呪いにでも来たのだろうか。

 いや前世の私も私なのだが。


 いや私私私で私が誰かわからない。困った。



 アムに聞こうにも今はきっとそばにいない。


 ひとまず落ち着くために髪を手櫛で整えると、急いで図書館へと向かった。



「あらエヴァお嬢さま、ごきげんよう」



 いつも見かける司書さん、紙とインクの匂い。


 ここは現実で間違いないのだろうか。徐につねった頬はちゃんと痛かった。


「お嬢さま、如何されましたか?」


 明らかに様子のおかしい私を怪訝そうに見つめる司書さんに大丈夫と答えると、そそくさと奥の方に引っ込む。


 開いた出窓から風が運ばれてくる、今度は穏やかだった。


 窓の前にある椅子に座り机に置いてある書きかけのメモをふと見ると、魔法の勉強の途中を残してあるのを見つけた。


 閑散としたこの場所にももう慣れたはずだけれど、どうしても今この瞬間は異世界だという感覚が拭えない。



 私は何をしたかったんだっけ。


 思い出せないその答え。



 ここは乙女ゲームの世界らしきところで、私はそのパーツのひとつで、この世界のことを思い出せない。エヴァが誰かも、ノアみたいな人が誰かも。



 だからこの世界を変えてやるつもりなくて、ちゃんと進めることもできないって納得したんだっけ? 

毎日している勉強はこの世界を知る為だけにやってる、それに意味があるんだっけ?




 そもそも私、なんで生きてるんだっけ?




「ああ! もう!」



 そんな叫びと共に紙が宙を舞って外へと飛び出した。


 どれもこれもわからないのはアムが謎ばかり残していくからだ。今度話しかけにきたら説教してやらなきゃ。


 バシン! 頬を叩いて気合いを入れ直す。


 どんな風に生きるのか、それはもうとっくの昔にエヴァが決めてくれることではなくなった。それだけは阿呆な私でも、もうわかる。


 調べて何になる? 調べてわかってどうする? 結局君は何がしたい? 君は誰の為に生きている?



 そうして、七年経ってしまったんだろう?



 アムが言いたいことはそういうことである。と思う。


 私が選ぶということは、これは私の人生なのだ。例えここが乙女ゲームの世界でも、誰かに決められた同じことを繰り返すだけのシナリオを進む、エヴァ・ローレネスシャフは私じゃない。


 何も考えずにただこの世界のことを知ればいいと思って生きていた私は、多分きっと前世の私と変わらない。何もせずに現実を受け入れるだけの私と。



 ただ、人生を流されるままに生きていたらレールを外れてしまった前世の私。


 仮初の幸せに逃げた私。


 どんな言葉も聞けなくなって、どんなことにも消極的になっていた。


 生きることにも絶望する程に。


 そんな日にきっと、私はぽっくり死んだ。



 ただ、『しあわせ』を求めたまま。




 まあオタク人生も悪かないけどさ。




「まずは赤い瞳について知る! 次に魔法の訓練! ああそうだわ、ノアとも仲良くならなくちゃ」


 赤い瞳はなにか力になるはずだという直感を信じよう。

 死なない為に魔法の訓練をしよう。

 最低にも同情してしまった彼に、幸せを運ぶ助けができるように仲良くなろう。


 その程度の理由できっといいはずだ。ただ生きることを受け入れるだけよりもきっとずっと。


 私が生まれてよかったと思える理由はきっとそんな小さなものだ。


 エヴァの人生はいつかきっと私の人生になるのなら。


 それを必死こいて他人の為に生きてやるなんぞ無駄でしかないだろう。



 ということをきっとアムは小学一年生バージョンの私に教えてくれた。


 はっきり言って有能だ、このイマジナリーフレンド。



【セーブしますか?】



 またしても現れたセーブの文字盤。今度は体が動くし、時間が停止している様子も見られない。


 暫し考えた後に、私は不敵に笑ってそいつに告げる。


「しないわ」


【あなたの名前を教えてください】


 その次に現れた文字盤に、私は臆することなく続けた。もう迷いなどなかった。


「私はエヴァ。エヴァ・ローレネフシャフ」


 胸を張って高らかに。


「私は私の幸せを生きる、エヴァという名前の女の子よ」


 文字盤は黙ったまま動かない。するとふいに笑みを零すように光が散った。


【どうかあなたの人生に幸多からんことを】


 やさしい響きだった。どこかアムに似ているその声音に目を見開いていると、今度は聞きなれた揶揄いが聞こえる。


『エヴァ、ようやっと見つかったかい?』


「アムはいつも私を待っているわね」


『君の支度が遅いから仕方ない』


「レディは支度が遅いものよ」


『誰がレディだって?』


「……うるさい」


 本当に寝巻き裸足闊歩族のことは忘れて欲しい。切実に。ガチで。ほんま。



『寝巻き族のことを忘れてやるつもりはないけれど、少しはすっきりしたかい?』


「七年かけてすっきりする女って重たくない?」


『まあ……』


「そこは否定してよ!」


 アムは呆れたように、でも嬉しそうに言葉を続けた。


『君が自分が求めたものを見失っていることに、ノアークのおかげで気づいたよ』


「それであんまり最近は話さなかったの?」


『そう。エヴァとしての人生と前世の記憶があること。それで気づくと思ったんだ、記憶を引き継いでいる意味を』


「阿呆で悪かったわね」


『それがいいところでもあるよ。……悪いところでもあるけど』


「一言余計!」


『まあでもそれに気づいたからと言って何もかも上手くいくわけじゃあないしね』


「わかってるわよ」


 なら結構と言わんばかりに、穏やかな風が私を撫でる。


 手で撫でられたような感覚だった。それがきっと、アムだった。


 普段は干渉して来ない彼なりの慰めであり励ましなのだろうか。それが嬉しくてにまにましていると、罰の悪そうに話を逸らす。


『さて、赤い瞳について調べるんじゃなかった?』


「そうよ、でもここに資料があるかもわからないわ」


『なら本人に聞けばいいんじゃない?』



 正直、こういうところが前世の陰キャオタクを思い出させて辛いのだが、確かに調べずとも聞いた方が早い。


 当事者なら尚更調べるより情報も正確だろう。


「今日のアムってほんとに天才?」


『それほどでも』


「じゃあ早速行かなきゃだわ」


 ノアのところに。

ギャグテイストを盛り込みたくてここまでの内容につけ加え等しております。


読んでくださった方はぜひブックマーク等していただけると励みになります。

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