第二話 隣の席②
二優花はベッドから起きてカーテンを開けた。今日の天気は快晴で、布団を干したくなるような日が差していた。
「ん〜、やっぱ晴れてる日って気分がいいな〜」
二優花は大きく背伸びをして自分の部屋を出た。リビングに降りると、すでに三人が起きていた。
「二優花おはよう」
「おはよ~。あ、手伝うよ」
「ありがとう」
二優花はキッチンで美零と共に、朝ごはんの支度を始めた。
「ちょっとお兄ちゃん。お父さんも。せっかくのいい天気が台無しになるような雰囲気出さないでよ」
「別に俺はいつも通りだぞ」
お茶を飲みながら静かに答えたのは、誠一と二優花の父親である淳月零太だった。零太は少し人見知りで、寡黙な性格だった。
「お兄ちゃんしゃきっとしてよ。お父さんはもうどうにもならないんだから、お兄ちゃんはいつも通りでいてくれないと」
「そうだぞ誠一」
「そうだぞって……」
零太の開き直りっぷりに誠一は呆れていた。
朝ご飯の支度が終わり、二人が食卓に並べた。
「そうよ誠一。いつまでも暗い顔してないで元気出しなさい」
「お母さんまで……」
誠一は不満そうな表情で朝ご飯を食べた。
仕事に行く準備を済ませた零太は、自分の部屋に戻ろうとする誠一を呼び止めた。
「誠一」
「なに?」
「お前の恐怖心はよくわかる。でもな、今だから言うがお前は運が悪かっただけだと思うんだ。同じ人がそう何度もつらい目に合うほど、神様は残酷じゃないと俺は信じてる。頑張ってこい」
零太はいつもと変わらぬ顔つきでそう話した。誠一の不安が少しほどけた。
「うん」
誠一の表情を見た零太は、安心したかのように家を出た。
靴を履いた誠一は鞄を持って玄関を開けた。
「行ってきます」
その姿からは、先程のような雰囲気は無くなっているように美零の目には見えた。
「お父さんもちゃっかりしてるわね」
そう言いながら美零はリビングに戻った。家を出た零太が会社に行くまでの間、あれは格好をつけすぎたかなと後悔し続けていたことは、誰にも知られることは無かった。
誠一は放課後のことを考え、ずっと張りつめていた。そんな誠一に、弁当を食べながら竜翔が言った。
「やっぱり怖いか」
「怖くないって言ったら噓になるけど、昨日よりはだいぶましかな」
「にしては落ち着きないけどな」
「そ、そうかな……」
竜翔は食べる手を止めた。
「正直俺も怖いんだよ。また同じことにならないかなって」
「え?」
誠一も食べる手を止めた。
「昨日言ったことは誠一を思ってのことで、わがまま言えば友達作ってほしくないんだよな。だから誠一が人を避けることに、何も口出ししなかった」
誠一は初めて竜翔の本音を聞いた。
「でも、恐怖心から逃げ続けたって何も変わらない。人間関係で負った傷は、人間関係でしか修復できない。俺も怖いけど、誠一の背中を押すって決めた。だから一緒に乗り越えよう」
誠一は少し泣きそうだった。
「なんか、竜翔にはお世話になりっぱなしだな」
「なんだよそれ」
二人の周りには笑い合う声だけが響いていた。
時刻は午後四時頃。帰りの支度を終えた惺玖は誠一に声をかけた。
「淳月君準備できた?」
「うん」
二人は学校を出て駅に向かった。目的地の和菓子屋は星鏡駅から割と近くにあった。和菓子屋への道中、誠一はなんとなく気になっていたことを惺玖に聞いた。
「橋姫さんは何で和菓子が好きなの?」
「弟がすごく好きでね。その影響かな」
「弟さんいるんだ。じゃあ、あの消しゴムも弟さんに?」
「あれは家族で旅行に行ったときに可愛くて買ったの。弟はあんなのくれる程可愛げないよ」
「そうなんだ」
誠一は自分でも驚くほど、自然に会話ができていた。
しばらく歩いて二人は和菓子屋に倒着した。
「ここが僕のおばあちゃんがやってる和菓子屋、『すずらん』だよ」
「おお~、すごく雰囲気あるね」
二人は暖簾をくぐって中に入った。店内にはカウンター席とテーブル席があり、奥に工房がある。カウンター席の前には、和菓子を渡すために定員が入れるスペースがあった。そこで作業をしていた女性が二人に気づいた。
「いらっしゃ……あら、誠ちゃん!」
「おばあちゃん久しぶり」
「写真で見るより制服似合ってるじゃない」
「別に変わらないよ」
星鏡学園の中等部と高等部の制服は似てはいるが、見てわかるくらいの違いがある。
「横のお嬢さんは?」
「はじめまして、橋姫惺玖です」
惺玖は慌てて挨拶をした。
「同じクラスなんだ。訳あって一緒に来ようって話になって」
「あら、そう。はじめまして。桂木和美です。よろしくね、しずくちゃん」
優しく笑う和美に、惺玖はお辞儀をして誠一とテーブル席に着いた。
誠一は惺玖にメニュー表を見せた。
「橋姫さんは何にする?」
「私おはぎで」
「わかった」
誠一は和美を呼んでおはぎと大福を頼んだ。
「淳月君、なんか目が赤みがかってない?」
「あーこれ少し前からなってて。お母さんには今度一応病院に行っておいでって言われた」
「そっか。何もなければいいけど」
その時、誠一はふと気になった。
「橋姫さんはさ、僕とここに来ること抵抗なかったの?」
「急に?」
笑っている惺玖を見て、誠一は自分の質問があまりに唐突だったことに気がついた。
「その、この前初めて話したばかりだったし。なんかすごいなって思って」
「別にすごくなんかないよ。私も課題のことがあったし、淳月君いい人そうだったし」
「な、なるほど……」
誠一は照れを隠すことに必死だった。
五分程経って和美が和菓子を運んできた。
「はいお待ちどうさま。大福とおはぎ一人前ずつね」
テーブルの上に和菓子を並べた和美は戻る途中、立ち止まって二人の方を振り返った。
「そうだ誠ちゃん。帰りにふゆちゃんにみたらし団子持って帰ってあげて」
「わかった。ありがとう」
返事を聞いた和美は店の奥に戻って行った。
「ふゆちゃんって?」
「二優花っていう僕の妹だよ」
「へ~。今いくつなの?」
「今年中学生になった」
「え、私の弟と同い年だ」
二人に共通点が見つかった。
時刻は午後五時頃。会計をしようとした時、惺玖に電話がかかってきた。
「ごめん、お母さんからだ。ちょっと待ってて」
そう言って惺玖は店の外に出た。そのタイミングで誠一は和美にお願いをした。
「おばあちゃん。橋姫さんの弟さんが三色団子が好きらしいんだ。お土産にあげられないかな」
「あら、早く言ってよ」
「あ、でも……」
「わかってるよ」
話を終え惺玖は再び店の中に戻ってきた。二人で会計を済ませると和美が誠一と惺玖に、それぞれ手土産を渡した。
「え、私にもですか?」
「弟君が三色団子が好きだって聞こえたからね。持って帰ってあげて」
「すみません。ありがとうございます」
「いやいや、お礼を言うのは私の方だよ。今日はありがとうね」
二人は和美に挨拶をして店を出た。
「おばあちゃんいい方だね」
「子どもが好きなんだよ」
「そんな感じする。淳月君のことも誠ちゃんって呼んでたもんね」
「恥ずかしいから改めて言わないで」
そうして今日何度目かの惺玖の笑顔が、誠一の目に映っていた。
ご覧いただきありがとうございます。よろしければ、いいねや感想などよろしくお願いいたします。
次回は課題の発表です!誠一と惺玖はそれぞれ何と書いたのでしょうか……。




