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できれば好きと、言ってみたい  作者: 漣眞
第二章 時。今君と
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第二十一話 おやすみなさい、春

少し間が空いてしまいました。第二章、始まりです。

 なぜなんだろう。


 誠一は、そんな小さな違和感がずっと心の中で引っかかっている。何度もその答えを考え込んでしまうが、答えは見つかりそうにない。


『――友達だから』


 ずっと心の中に詰まっていた大きな思いがようやく言葉になったあの日から、そんな毎日を過ごしている。


 友達。


 誠一は五人に向けてそう伝えた。五人はそれに答えてくれた。


 橋姫惺玖。


 誠一の隣の席の女の子で、クラスでの取り組みをきっかけによく話をするようになった。理由があったからとはいえ、二人で出かけたこともある。


 あの日から、彼女のことをよく思い出すようになった。優しく笑顔で話をする姿が何度も思い浮かんだ。目を合わせることに緊張するようになった。話をしていると喜びを感じるようになった。

 

 誠一の心の中で小さな変化が起きていた。


 惺玖は今、机に突っ伏して誠一の方を向いて眠っている。惺玖には珍しい、授業中に居眠りをしていた


 ノートと黒板を行ったり来たりしていた視線が、その姿をとらえたまま動かなくなった。


 思い返せば、こんなにも惺玖の顔をじっと見つめたのは初めてだった。そのせいか、今目が合っていることにも気が付かなかった。


「……っ!!」


 驚きのあまり、膝を机の裏にぶつけた。


「なんだー淳月、質問かー」

「あ、いえ……」


 そう言って先生に頭を下げた。


 「ちょっと、驚かせないでよ……」


 小声で文句を言う誠一を、惺玖は寝起きの表情で優しく睨んだ。


「淳月君が見てたんじゃん」


 誠一は何も言えなかった。


 授業が終わると、惺玖は誠一の左肩を叩いた。


「淳月君」

「あ、えっと……、さっきはごめん……」

「そうじゃなくて、ノート見せて欲しいの」

「ノート?」

「寝ちゃってた時の板書が出来てなくて」

「ああ、うん。いいよ」


 誠一は自分のノートを惺玖に差し出した。


「あ、大丈夫だよ」


 惺玖は自分の机を誠一の机にくっつけて誠一のノートを覗き込んだ。


「淳月君に悪いから、今書いちゃうね」

「は、はい……」


 黙々と惺玖がノートを書き写すなか、誠一は密かに緊張していた。すると、惺玖が急に手を止めて顔を上げた。


「淳月君、字綺麗だね」


 その時ふわっと香った惺玖の匂いに、誠一は少し体が熱くなった。


「は、橋姫さんも字綺麗だよ」

「いいよ、気遣わなくて」

「そんなんじゃないって」


 書き終えた惺玖は、大きく背伸びをした。


「うぅ〜〜ん……、あぁ〜……。ふぅ……、ありがとう淳月君。助かった」

「だいぶ凝ってたんだね……」

「机で寝るの慣れてなくて」


 その表情が、誠一にはどこか照れているように見えた。


「橋姫さんが居眠りなんて珍しいね」

「昨日、ちょっと眠れなくってさ」

「そうだったんだ」


 誠一は昨夜の自分を思い返した。


「そいえば僕もあんまり眠れなかったな」

「そうなの?」

「うん。テレビ見てたらいつの間にか遅くなってて」

「何それ小学生みたい」


 惺玖は口をおさえながら楽しそうに笑った。


「面白かったんだって」

「ごめんごめん」


 にこにこ謝る惺玖に、誠一はむきになって尋ねた。


「じゃあ、そういう橋姫さんは何で?」

「夜中まで漫画読んでた」

「よく僕のこと笑えたね……」


惺玖は再び笑いながら謝った。


「あ、ねぇねぇ淳月くん。この前みんなで葵山に行った時のこと覚えてる?」


 葵山とは、星鏡町にある山で様々な花が咲く不思議な山である。この町にとって、星鏡学園と並ぶシンボル的な存在である。


 誠一にとっても初めて六人で出かけた場所として、思い出の場所として大切な山である。


「もちろん覚えてるよ」

「その時さ発表会の話したよね?」

「発表……。あ、吹奏楽部の?」

「そうそれ!その発表会がもうすぐなんだよね」

「そっか。もう夏になるんだ」


 高校生活が始まり、惺玖と出会い、駿・八宵・波夏と出会い、友達ができた。せわしなく一日一日を歩む後ろで季節はめぐっていた。それを感じる余裕もなかった誠一は、今更その当たり前を思い出した。


「そうそう。それでさ……」

「うん?何かあったの?」

「実は――」


 その頃、竜翔たち四人は集まって話をしていた。


「橋姫がソロ?」

「ちょっと、駿君!声が大きいよ」

「波夏ちゃん、何でまだ秘密なの?」

「トランペットのソロはみんなの憧れなんだ。結構ばちばちに毎年それを取り合うの」

「こっわ……」


 駿は自分を抱きしめるようにして小さく震えた。


「ソロが誰か言われるのはもっと後なんだけど、ひめちゃんにだけ先に知らされたの」

「そりゃまたなんで」


 駿が尋ねる隣で竜翔も聞き耳をたてている。


「あのばか顧問だよ。惺玖に才能があるからって今から練習させるつもりなんだ。少しでもいいものを作れるように」


 八宵の機嫌の悪い理由はこれだったのかと竜翔は思った。


「波夏が言うようにソロの争奪戦はすごい。今から知らされて惺玖はどんな顔して部活に行けばいいんだって話だ」

「惺玖ちゃん以外のトランペットの子たちは、まだ可能性があると思って頑張る。でも、それが無意味だと惺玖ちゃんは知ってる」

「それは気まづいよな……。それに、橋姫のことだから罪悪感とか感じるんじゃないか?」


 波夏と八宵の表情がさらに曇った。。


「波夏ちゃん。わざわざ話してくれたってことは、何か意味があるんだよね?」

「うん……。みんなにね、ひめちゃんのサポートをしてほしいの」

「サポートって、二人はともかく、俺と竜翔はできることが……」

「深く考えなくていいよ。いつも通り話してくれれば。少しでもひめちゃんが気が楽になるように」

「あとは、このことを誰にも言わないことだ。たぶん淳月には自分で伝えてると思う」


 駿は静かに頷いて、そっと口を開いた。


「ところでこれ……体育倉庫じゃないとだめだったんですか……?とても暑いんですけど……」


 弱るように呟く駿に波夏は勢いよく答えた。


「もちろん!誰かに聞かれたら終わりだから!」

「なるほど……」


 駿と波夏の会話で、四人もその暑さを思い出した。


 夏が近づき、春がうとうとし始めていた。

 ご覧いただきありがとうございます。いいねや感想などよろしくお願いいたします。気に入っていただけた方はブックマーク登録の方お願いいたします。


 第二章が始まりました!みなさん、第一章での会話は覚えていますか?惺玖が言っていた吹奏楽部の発表会!しかし、そう楽しく始まるわけではなさそうな……?


次回もぜひご覧下さい!

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