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できれば好きと、言ってみたい  作者: 漣眞
第一章 声。今君に
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第一話 隣の席①

 ここは星鏡町ほしかがみちょう。星鏡町は誠一の家から少し離れた場所にある。この町にある学園こそ、誠一達が通う星鏡学園せいきょうがくえんだ。星鏡学園は、中高一貫の私立学園で、星鏡町のシンボルともいえる歴史ある学校だ。誠一も中等部のころからこの学校に通っている。


「本当に危なかったな。星鏡学園の生徒はみんなあの駅で降りるから起こしてくれたのか。でもあの人僕の名前を呼んでいたような……」


 誠一はひとり言をつぶやきながら、和の雰囲気あふれる町並みをぬけて学校に向かった。


 誠一のクラスは1-E。席は教室の後ろの扉を開けてすぐのところにある。誠一は扉を開けると、驚きのあまり思わず声を出した。


「えっ……?」


 誠一の隣の席に、先程起こしてくれた女の子が座っていたのだ。思わず教室の表札を見たが、1-Eで間違いない。


 学校が始まってすぐに席替えがあり、学校が始まってからほとんどこの席で過ごしている。しかし、思い返せば隣の席にどんな人が座っていたのか全く気にしていなかった。


(だから名前知ってたんだ……。一週間くらい隣の席だったのに、見覚えすらない……)


 誠一は席に着き、名前を見ようと彼女の名札を覗いた。


「橋姫さん……」

「ん……?」


 無意識に声が出て、名札を読み上げてしまった。誠一は慌てて彼女の机に目線を落とした。


「あ、いや、その消しゴムかわいいなって……」


 とっさに出した話題とはいえ、あまりの程度の低さに自分に呆れた。


「え、ああ、これ?いいでしょ。お気に入りなんだ」

「そ、そうなんだね」


 誠一がぎこちない返事をすると、朝の予鈴が鳴り先生が教室に入ってきた。


 一通り連絡が伝えられた後、クラス全員に一枚の紙が配られた。


「今日と明日の時間を使って、隣の席の人がどんな人なのかをその紙にまとめてください。明後日のLHRの時間にお互いに発表し合ってもらいます」


先生はこの取り組みの意図を生徒たちに説明した。


「多種多様な価値観が存在している現代社会では、関わりを持つことで人を判断し理解することがとても大切です。今回はその練習です。積極的に取り組んでくださいね」


 説明を終えた先生は教室を出て、職員室に戻っていった。


 誠一はこの時、人と話すことが得意ではなかった。加えて、隣の席の人とは今日が初対面みたいなものだった。


 誠一が悩んでいると、彼女の方から声をかけてくれてた。


「淳月君。私は橋姫惺玖はしひめしずく。よろしくね」

「あ、えっと、淳月誠一です。よろしくお願いします」


 誠一はこの課題に、不安しか抱いていなかった。


 それから惺玖とは特に話すことはなく、昼休みになっていた。誠一は、幼なじみで同じクラスの水崎竜翔みずさきたつとと昼食をとっていた。


「あのさ、同じクラスの橋姫さんって分かる?」

「橋姫?あー、分かるよ。その人がどうかしたのか?」

「今隣の席なんだけどさ、今日初めて会ったんだ」

「何言ってんだ?もう一週間くらい経ってるだろ」

「そうなんだけど、今日までまったく見覚えがなくて……」

「いやいやいや、いくらなんでもそれはないだろ」

「ほんとなんだって。だから、あの課題に不安しかなくて」


 自信なさげな誠一に、竜翔は明るく返した。


「まあ、どのみち誠一にはレベル高い課題だもんな。1回もまだ話してないのか?」

「お礼と消しゴムと自己紹介くらいなら」

「全然分からん。消しゴムって何だよ」

「橋姫さんの消しゴムについて少し話したんだ」


 ポカンとする竜翔に誠一は続けた。


「橋姫さんが和菓子の消しゴム持っててさ。お気に入りって言ってた」


竜翔は相槌を打った後、思いついたように言った。


「和菓子が好きなら『すずらん』に一緒に行けばいいじゃん」


 竜翔の提案に、誠一は飲んでいた水を喉にひっかけた。


「ゲホゲホッ……!無理だよそんなの」

「行ってくれるかもしれないだろ?」

「いや、まだ全然話したことないし……」

「本当に今日初対面だったなら、時間がないだろ?そのくらいしなきゃ、課題出来ないぞ」

「いや、でも……」


 竜翔は誠一をしっかり見つめて続けた。


「もう高校生なんだからさ、頑張ってみようぜ。大丈夫。俺がついてるから」


 誠一はしぶしぶ頷いた。


 その日の放課後、誠一は思いきって話を切り出した。


「あの、橋姫さん」

「なに?」


 惺玖は帰り支度の手を止めて、誠一の方を向いた。


「僕のおばあちゃんが和菓子屋をやっててさ。橋姫さん和菓子好きみたいだし、もしよかったら一緒に行かないかなって」


 惺玖はすぐに反応しなかった。誠一は引かれたと思った。


「ほ、ほら、僕たち全然話したことないからさ。課題のこともあるし、僕も和菓子好きだからどうかなって思っただけで、嫌だったら全然、そんな無理とかしなくて大丈夫だから」


 慌てる誠一に惺玖は少し微笑んだ。


「嫌じゃないよ。行こ」


 思わぬ返しに誠一は少し驚いた。


「え?あ、ありがとう」

「ううん。ちょうど明日部活休みだし。明日で大丈夫?」

「う、うん。大丈夫」

「分かった。じゃあ、またね」


 惺玖は荷物をまとめて、教室を出た。誠一は、いろいろな事があった今日をとても長く感じた。


 疲れた表情のまま、誠一は家に帰った。


「ただいま」

「お兄ちゃんお帰り〜!え、どうしたの」


 出迎えてくれたのは、妹の淳月二優香あきづきふゆかだった。今年から中学生になったが、この元気さは色あせていない。


「今日ちょっといろいろあって。少し疲れてるだけだから大丈夫」

「お風呂湧いてるから先に入ったら?」

「ありがとう。そうする」


 誠一は力なくお風呂場に歩いていった。そんな兄の背中を見守りながら、二優花はリビングに戻った。


「お母さん、お兄ちゃんがお父さんみたいになっちゃった」

「あんたそれお父さんに失礼でしょ」


 母親の淳月美零あきづきみれいは、誠一の疲れようを横目に見ていた。


「冗談ばっかり言ってないで荷物片付けなさい」

「は〜い」


 その日の晩、淳月家は家族で食卓を囲んでいた。


「お母さん。全然話したことない人とはどんな会話をしたらいいと思う?」

「どうしたの急に」


 そう笑う美零に誠一は事情を説明した。


「あら、素敵な先生じゃない」

「え!お兄ちゃんデートするの!?」

「そうじゃないよ」

「な~んだ」

「二人きりだし、不安で不安で……」


 そんな誠一を見ながら美零は微笑んだ。


「なに?」

「ううん。誠一が友人関係で悩む日がまた来るなんて思ってなくてね。なんか嬉しくなっちゃって」

「なにそれ……」


 誠一は大げさな美零の態度に、少し恥ずかしくなった。


 寝る支度を済ませた誠一は、ベッドに入っていた。


(あ~……。明日うまく話せるかな……)


 眠れる気のしないまま目を閉じた。

ご覧いただきありがとうございます。よろしければ、いいねや感想などよろしくお願いいたします。

次回は惺玖と二人で和菓子屋へ!誠一は無事に終えることができるのでしょうか……。

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