第十四話 誰のために
これから活動報告の方に度々投稿をしていきますので、確認していただけると幸いです。
その日の夕食時、淳月家はぎこちない会話をいくつかした程度だった。
「ごちそうさまでした」
誠一は席を立ち、食器をキッチンに持って行った。
「うん……。誠一、今日はもう寝る?」
「ううん。少しだけ勉強する」
「今日くらい休んでもいいのよ?」
「受験は待ってくれないから。それに、勉強してた方が気が紛れていいと思う」
「そう……。あんまり遅くならないようにね……」
「分かってる。ありがとう、お母さん」
「うん……」
誠一は静かにリビングを出た。
その後の食卓は沈黙が続いた。
「ごちそうさまでした」
食べ終わった零太が顔を上げると、不安そうにしている美零と二優花が目に入った。
「心配なのは俺も同じだ。でも、俺たちがくよくよしてたって仕方ないだろ」
「分かってるけど……」
美零はどうしても前向きになれなかった。
「心の傷を癒すのに、特効薬なんてない。その傷を背負って、誠一自身が乗り越えるしかないんだ。そのためには時間がかかる」
零太は美零を優しく見つめて続けた。
「俺たちにできることは、その時間を一緒に歩んであげることだけだ。そんな顔してたら、誠一も安心できないぞ」
「お父さん……」
「一番近くで支えてあげよう」
零太の言葉で美零は少し前を向けた。
「そうね……。よし、美零ちゃん頑張ろうかしら!」
「美零ちゃん……」
「なんか文句ある?」
「いえ、なんでも……」
「そう」
零太は食器を片付け、逃げるようにリビングを出た。
「ほら、二優花も早く片付けなさい」
二優花は誠一がリビングを出てから、一言も話していなかった。
「お母さん……」
「なに?」
美零は、二優花の表情に何か強い意志を感じた。
「私、頑張るね。朝も自分で起きる。勉強もして、家の手伝いもする」
「え?」
「そうすれば、お兄ちゃんも楽になるでしょ」
「ありがとう二優花。でも、まだ三年生なんだから無理しなくてもいいのよ」
「無理なんかしてない。お兄ちゃんが私くらいの頃は、もういろいろしてた」
「それはそうだけど……」
二優花は自分を責めるように話し始めた。
「小さい頃から、いつもお兄ちゃんが私を引っ張ってくれた。いつも私を助けてくれて、私にとってお兄ちゃんは無敵のヒーローみたいだった。いつまでもそうやって、そばにいてくれると思ってた。
でも、今日初めてあそこまで弱ったお兄ちゃんを見て気づいた。お兄ちゃんは無敵なんかじゃないって。そりゃそうだよ。お兄ちゃんだって人間だもん。悩んだり、つまづいたりするよね。そんな当たり前のことにも気付けないほど、私はお兄ちゃんに甘えてた」
美零は悲しげな表情で二優花の話を聞いていた。
「だから決めた……!お兄ちゃんを助けてあげるなんて私にはできないけど、せめてお兄ちゃんが自分のことで目一杯悩めるように、無駄な心配しなくていいようにする!」
「二優花……」
「私がお兄ちゃんのためにできることはこれくらいしかないから。お母さんとかお父さんみたいにはできないし」
そう言ってニッコリ笑う二優花を美零は抱きしめた。
「ちょっと、どうしたのお母さん。苦しいよ」
「いいの」
(大丈夫よ二優花。あなたのその思いが十分、誠一の力になるはずだから……)
美零はこっそり、二優花の肩で涙を流した。
部屋に戻った零太は、しばらくしてから誠一の部屋を訪ねた。
「誠一。入ってもいいか」
「うん」
零太はそっと扉を開け、部屋の中に入った。
「どうだ、勉強は」
「いつもどうりだよ」
「そうか」
零太は、部屋にあった誠一のベッドに腰を下ろした。ベッドは、勉強している誠一が背中から見える位置にあった。
誠一の部屋には、鉛筆が紙の上を滑る音だけが寂しく響いていた。
「ねえ、お父さん」
急に話しかけられた零太は少し驚いた。
「ん、なんだ?」
「僕は今日、僕が人のために動くことで人を嫌な気持ちにさせてたことを知った。だから人のために動くのはやめようと思った。でも、見過ごせる気がしないんだ」
誠一は勉強の手を止めた。
「誰かを嫌な気持ちにさせると分かっていても、目の前で困ってる人を無視しようなんて思えない。これって悪いことかな。やっぱり、やめたほがいいのかな」
誠一は零太の方に振り返った。零太は、そんな誠一の目を真っすぐに見てこう話した。
「誠一。優しさなんていうのはな、ただの自己満足なんだ。だから誰にも伝わらなくていい、分かってもらわなくていいんだ」
誠一は零太の言葉にハッとした。
「遠慮なんてすることない。誠一が助けたいと思った人を助ければいい。それはきっと悪いことなんかじゃない」
「お父さん……」
誠一は少し考えて、自分なりの答えを出した。
「じゃあ、誰にも気づかれないところで人のために動く。そうすればきっと、誰も嫌な思いなんてしない。自己満足なんだからいいだよね?」
誠一はそう言って微笑んだ。
「誠一らしいな」
「そうかな」
「うん。だけどな誠一。その自己満足を優しさだと呼んでくれる人は、一生大切にするんだぞ」
「分かった」
(誠一。お前のその真っすぐな思いを、見ててくれる人は必ずいるからな……)
誠一の顔を見て、零太も少し笑顔になった。
「そういえば、何か用事があるんじゃないの?」
「え?」
「僕の部屋に来たからさ。何か用事があるのかなって。ごめんね、僕が話を始めたばっかりに」
「いや、それは全然いいんだが……」
心配で来てみたものの、結局なんて言ってあげたらいいか分からずにじっとしていると、部屋を出るタイミングも逃したなど零太にはとても言えなかった。
「も、もうそろそろ寝たらどうだと言いに来たんだ。誠一のことだから、またすぐ遅くなると思ってな」
「わざわざありがとう。そうだね。今日はもう寝る」
「そうか。じゃあ、おやすみ」
「おやすみなさい」
零太は誠一の部屋を後にした。
誠一はこの夜、思ったよりもよく眠れた。
――次の日の朝
「あ、お兄ちゃんおはよう」
「二優花……。自分で起きたの?」
「もう三年生ですから」
「あら?三年生になってからしばらく経ってますけど?」
「お母さんうるさい」
「ごめんごめん」
美零は、自分を睨む二優花に笑いながら謝った。
「二優花も一歩大人になったね」
誠一の言葉に、二優花は嬉しさがこみ上げた。
「うん……!」
「これが続けばね~?」
「続けるも~んだ」
そう言ってプイっとする二優花を見て、誠一は思わず笑顔になった。
支度を済ませ家を出ようとする誠一に、美零はもう何度目かになる質問を誠一に再びした。
「本当に学校行って大丈夫なの?休んでいいのよ?」
「大丈夫だって」
「そう……。何かあったら帰ってきていいからね」
「うん、ありがとう。行ってきます」
「いってらっしゃい……」
美零は誠一を送り出した。誠一が毎晩、楽しそうに友達との出来事を話す。そんな当たり前が、再び来ることを願いながら。
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誠一と二優花、それぞれの決意がありました。誰かを思う気持ち。それはきっと、見えていなくても相手に伝わるはずです。皆さんは誰を思い、誰のために行動しますか?今思い浮かべた人は、皆さんが一生大切にするべき人なのかもしれませんね。ちょっとカッコつけすぎました。すみません。
過去編は今回が最終回。誠一の過去を知った惺玖たちは何を思うのか……。次回もぜひご覧ください。




