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7話 ゲームクリア

「よいしょ。うん。無事配信できましたねっ」


・また来たよー

・待ってました俺の唯一の楽しみ!


「2、3日配信休んでごめんね! でも今日からまた配信していく予定だから」


・まーたマイクミュートしてる

・安心のミュート芸

・本 人 確 認


「え⁉ うそうそ⁉ また⁉ ねえもうやだぁ! マイク切ったまましゃべり続けてたんだけど! やだやだぁ……怒んないでよぉ」


・ええんやで

・ぷんすこRenちゃんかわいい。


 ちょっと配信あけたらすぐこれだよ。

 あああああ! 恥ずかしいぃぃぃ!


(というか、なんでわたしが配信してるわけ⁉)


 わたしを生み出した主人格――"俺"くんに不満をぶつける。

 これからは自分の力で歩むんだ、みたいなこと言ってなかった⁉

 わたしが出てくるのおかしくないかな⁉


 ――"Renを否定したら、俺自身も否定しなきゃいけないだろ……"


(そりゃそうだけどさぁ……)


 カッコいいこと言っても、どうせわたしたちはもともとの自分を忘れた残滓。

 "俺"くんとわたしの間に、本体も仮面もありはしない。

 どちらも、本物なんだ。


・ユグド・ラ・スティアーナ討伐戦かっこよかった!


「お、ありがとう! まあ、アレを蘇生させたのもわたしなんですけどね……」


・草

・壮大なマッチポンプ

・ログアウト不可の時間も結局1時間ちょっとくらいの出来事だったらしいからね


 わたしのことを悪くないよと肯定してくれる人もいる。

 けれど、それと同じくらい。

 非難の声も、見受けられる。

 大型の自動車工場なんかは数秒生産ラインが停止するだけで数億の被害が出るって聞くし、1時間をわずかと取るか千秋(せんしゅう)の思いを抱くかはそれぞれだからね。


 XG-812-Queenの補正が無ければ、こういう感じなんだね。

 ……ちょっぴり、怖いな


・初見です。名前なんて読むんですか?


 そんな折だった。

 何気ないコメントが目に止まった。


 常人の熟考に値する逡巡。

 わたしは少し、思い悩むところがあった。


 今となっては(rèn)の文字も合わないかな。

 ……そうだね。

 これからは、こう名乗ろうかな。


 ――姫籬(ひもろぎ)(rèn)ってね。


「初見さんこんにちは! 姫天下(ひあも)る木の姫籬(ひもろぎ)Ren(レン)だよ! よろしくね!

 それでですねー。ユグド・ラ・スティアーナを倒した時に、特殊アイテムが手に入ったんですよ」


・またか

・隙あらば新要素を見つける女

・運営のお気に入り


 まさか本当に運営のお気に入りだったとは思っても見なかったけどね。

 でもま、XG-812-Queenに頼るのを辞めた今となってはいつ見限られることやら。


 というか、大勢の人をログアウト不可の状況から救うためとはいえあんな露骨なチートはダメでしょ"俺"くん⁉

 BANされたらどうするの⁉


 ――"そのときはそのときで"


 ゆ、ゆるい……。


「えーと……なんの話だっけ。そうそう、特殊アイテムなんだけど、これ! 【魂呼の翼】。なんとなくだけど説明を読む前から効果がわかる気がする……!」


 今回のログアウト不可事件で召喚されたユグド・ラウネたち。あれら雑魚モブのレベルは、現在のトップ層のレベルより高かった。

 ユグド・ラ・スティアーナのレベルを鑑定するのは忘れていたけれど、レベル38から50まで上昇したことを考えればはるか格上だったことは想像に難くない。


 となると、ひとつの仮説が浮かび上がる。

 それは今回の事件が(人為的なものだとしても)、ユグド・ラ・スティアーナは本来、もっと後に登場する予定の相手だったという可能性だ。


 つまるところ――


――――――――――――――――――――

魂呼の翼

――――――――――――――――――――

天翼種(リベルタ)専用アイテム。

使用すれば天界に帰還が可能。

何度でも使用できる。

――――――――――――――――――――


「ほらね?」


 予想してたんだよ。

 このゲームが始まって、最初に課せられた使命。

 あるいはゲームの最終目標。

 それはいったい何だったか。


 このパンドラシアの大地で、プレイヤーは冒険者となって世界各地の厄災に立ち向かう。


 だが、物語の始まりは種族ごとに様々だ。

 天翼種(リベルタ)の場合は地上から伸びた黒い光に天界が襲撃され、負傷して地上に落ちてしまうところから。

 すなわち、最後の目的は「天界へ帰還する」こと。


「これにてパンドラシアオンライン完全攻略完了です。おつかれさまでしたー」


・ちょwww

・めっちゃ気になるところで切らないでぇぇぇぇ!

・先っちょだけでいいから!

・まだ配信始まったばっかりだよ⁉


「んもー、しょうがないにゃぁ」


 インベントリから【魂呼の翼】を取り出し、使用する。

 すると瞬く間に世界が光に満ちて、上下も左右も消え失せた。


 閃光に目を閉じ、再び開いた時。

 気づけばわたしは白亜の塔に立っていた。


『おめでとうございます。Ren様はこの塔にたどり着いた1番目のプレイヤーでございます』

「あ、あなたは!」


 そこに、女が立っていた。

 輪郭が青白く発行する、半透明の霊体。

 パンドラシアオンラインを起動するたびにセーブデータの選択を迫ってくる、プレイヤーサポートAI。


「シエンさん!」

『プレイヤーサポートAIのシエンと申します』

「シエンさんシエンさん。奇麗な女の子の顔に練乳が掛かりました。さてそれはどれくらいお得でしょうか」

『申し訳ございません。質問の意図がわかりません』

「おお、これだよこれ! シエンさんといえばこうでなきゃ!」


 このポンコツ具合がシエンさんだよね!

 みんなもそう思うでしょ⁉


・Renちゃんwww

・そんなお約束俺たちは知らないんだが……

・キャラクリするときにそんなアホな掛け合いしてたの草


 やらないんだ……。

 衝撃。


『これにてパンドラシアオンラインはゲームクリアとなります。しかし、パンドラシアの大地にはまだまだ多くの冒険が、Ren様を待ち受けることでしょう』


 冒険。

 未知の旅……か。

 うん、すごく、らしいんじゃないかな。


『クリアデータを既存のセーブデータに上書きしました。続きから始めますか?』


 ああ。

 行こうか、未知の先へ。


次(最終話)→18:00

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