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7話 迦楼羅

 迎えた日曜日。

 わたしはわたしでフィールドに出て回収したタマゴ(こちらは普通に手の平サイズ)にペインティングをしてアヤタカガさんにプレゼントして、お互いに交換し合った夕方のこと。


 わたしはタマゴ孵化待ちの耐久配信にのぞんでいた。


・タマゴ立てれる?


「タマゴ立てれる? タマゴの尻を潰したら立てれるんじゃないかな? 他にも机にあらかじめ塩をまぶしておくとか、ゆで卵を高速で回転させるとかで立てれるっていうよね」


・はいはいコロンブスコロンブ……なにその方法

・タマゴ立てる方法ってそんなにいっぱいあるの?

・赤道の上だとコリオリの力が働かなくて立つとか聞く


 そう言えば赤道付近でタマゴが立つ理由にコリオリの力が出てくる理由がわからないんだよね。

 あれって運動している物体じゃなくても働いていると考えれる力なの?

 遠心力が地面に垂直方向に働くっていう話ならまあわかるかな。


「あれ? ということは仮想空間上だとタマゴって簡単に立てれるんじゃない?」


・Freeze Rotation:XZ


「内部で軸が傾くのを固定する方法じゃなくて!」


 昔3Dモデルで配信するときにお世話になったから知ってる。

 節子、それは正攻法やない。

 3Dのゲームエンジンを駆使した裏技や。


 こう、うまく頑張ったら立てられないかな。

 タマゴを両手で支えて……っと。


 ――ぴしり。


「あ」


・なんか嫌な音した

・割っちゃった?

・あらら


 まだわからないでしょう⁉

 せっかくアヤタカガさんから貰った渾身の一作。

 それを壊すだなんて、あるはずが……。


 ヒビはいってるわ。

 きれいに。


 どうしよう⁉

 やっちゃったかなこれ⁉


 どどど、どうしよう⁉


「んお? 違う! これタマゴ自体が動いてない⁉ 『中から音が聞こえてくる』状態でしょこれ! ついに、ついに孵化する時が来たんじゃない⁉」


・おおおおおおおお!

・ついに来たか⁉

・どんな子が生まれてくるのかな?

・わくわく


 ヒビ割れが、一拍置きに肥大していく。

 小さな破片が零れて、ついにペットが生まれる!


 まず最初に、産声が聞こえてきた。

 小鳥がさえずるような、かわいらしい歌声だ。


 それからタマゴがもぞりと動き、顔をのぞかせたのはクチバシだ。

 それから、風呂上がりのようにしっとりした羽毛を生やした頭が後れて顔を出す。


 鳥だ。

 巨鳥と戦ったときから予想はしていたけれど、やっぱり鳥のタマゴだったんだ!


「鳥! 鳥さんだよ! 羽が生えてる! ってことは、一緒に空を飛べる! 楽しい!」


・お前の方がかわいいよ

・おまかわ

・Kawaii


「がんばれ! がんばれ! あとちょっとでタマゴの殻から出られるよ!」


 よいしょ、よいしょと、どうにかタマゴを押しのけて外に出ようとする雛鳥。

 その様子が健気で、かわいらしくて、つい全力で応援をしたくなる。


 ……のだけど。


・寝ちゃったwww

・え、この状態で寝るの?

・自由かwww

・飼い主に似るんやなぁ


「いくらわたしでもこの状況から寝ませんけど⁉」


 あとちょっとがんばりなさいよ⁉

 ほら起きて……。


「……まあ、こんなにしあわせそうならこのままでもいいかな?」


 タマゴから顔を出している、というより、ゆりかごの中で微睡むようにしあわせそうな表情をするこの子を叩き起こす気にはなれなかった。


「お客さま、お客さまの中に、どなたかひよこ鑑定士さまはいらっしゃいませんか?」


・なにひよこ鑑定士って

・最近の若者はひよこ鑑定士を知らんのか……

・まだAIによる鶏卵の雌雄判別が確立されていない時代にひよこのオスメスを仕分けていた人たちだよ

・(鑑定すれば性別わかるってのは言わない方がいいんだろうな)

・画像なんかの分野だとAIって本当に強いよね


「ちょっと待ったぁ! 鑑定したらわかるって本当⁉」


 しれっと重要な情報投下していったね。

 この配信のコメント流れるの、恐ろしく速いんだから。

 わたしじゃなきゃ見落としちゃう。


 どれどれ、鑑定しましょうか。


「あ、起きた?」


 雛鳥に顔を近づけた瞬間、ヒナはパチリと目を開いた。つぶらな瞳が、まじまじとわたしを見つめている。


「わたしはRen。姫籬(ひもろぎ)Ren(レン)。よろしくね!」


 あいさつをすると、呼応するように雛鳥が口を開いた。もしかしてあいさつを返せるの⁉ うちのこがめちゃくちゃ賢い⁉

 わくわく!


 ――ゴォォォォォォ!


「あっつぅぅぅぅぅぅ⁉ 火⁉」


 雛鳥は開いた口から炎を吐き出した!

 完全に不意打ち!


・避けるなwww

・何故今の不意打ちを回避できる

・回避してるんだから熱くないでしょ?


 いやほら痛くなくても『痛いッ』って言っちゃうときあるでしょ?

 あれと同じですよ。


 幸いにして、幼いからかブレスはすぐに鎮火した。

 けぷ、とかわいらしい声と共に、紫煙をくゆらせてぴーちくと泣き出す。


――――――――――――――――――――

不死鳥(♀)|雛

――――――――――――――――――――

死を迎えるときに(ほむら)へと身を焦がし

再び蘇る死を超越した鳥の雛。

その尾羽には蘇生の力が宿ると言われる。

――――――――――――――――――――


「不死鳥だぁぁっぁぁぁぁぁぁ⁉」


・不死鳥⁉

・は⁉

・マジで⁉

・おおおおおおおおおお⁉

・さすがRenちゃん「持ってる」

・そんなレア種生まれる場合あるんか!


 ん?

 他の人がどういうペット生まれたのか知らないけど、やっぱりレアなのかな?


・俺カミキリムシだった……

・俺エカキムシ

・冬虫夏草……

・お前らのラインナップ微妙すぎるwww


 くっ、エカキムシのペットってちょっと気になる。

 なんだその面白い図は!

 いったいエカキムシとどうやってこのゲームを遊ぶっていうのか……。


・名前どうするの?


「名前か。名前ね」


 不死鳥。不死鳥だから……。うん。


「決めた! あなたの名前は――」


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