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4話 そっか。ダチョウの生息地はアフリカやアラビアだから、パンドラシアとは生息域がちがうもんね。

「たはーっ! すっげえぞ姫ちゃん! 見てみろ!」


 生産職のプロのアヤタカガさんをフィールドに連れ出してすぐのことだった。

 何もない荒地を指さしてアヤタカガさんがテンションを爆上げさせた。

 え、いや、何を見ろと?


「わかるかこの陥没跡。実際には平面なんだぜ?」

「あっはっは。そんなまさか……あるぇ⁉」


 わたしが何もないと思っていた場所は、正確には陥没跡があった。だけど実際にそこを歩こうとすると、窪みなんて感じられない。まったいらなプレーンが広がっている。


 そんなバカな、と手の平で確かめようとしゃがんだところ、見え方が急に歪んだ。

 あれ?

 さっきまでこんな形だったっけ?


「もしかしてトリックアート?」


 実際には平面だけど、飛び出して見える。

 その手のイラストの逆、凹んで見えるを再現しているんじゃないかな。

 そう予測を立ててアヤタカガさんの顔を見ると、にっこり笑顔が浮かんでいた。


「正解! 空間の凹凸をポリゴンで表現しようとすると描画にコストがかかるからな。ゲームの負荷を低減するためにこういう錯視効果がよく使われるんだ」

「そういえば……ザンガの草原ってどっちを向いても三遠が意識されてますね」

「おお⁉ 姫ちゃん芸術もイケるクチ⁉」

「いんや。たまたま知識にあるくらい」

「たまたまで三遠なんて言葉出てくるのか……?」


 三遠とはすなわち。

 見上げる山、覗く渓谷、遠望の山々みたいなもの。

 それぞれ高さ、深さ、空間の広がりを表していて、東洋発祥の遠近表現の一種である。


「やっぱ歩いてみると新しい発見があっていいな! おっ、このシェーダーもすごいな……。オープンソースにしてくんねぇかなぁ」


 アヤタカガさんの挙動は見ているだけで楽しい。

 何の変哲もない岩が相手でも、まるで憧れの有名人を前にしたかのようなリアクションを取っている。


「あ、わりぃ姫ちゃん。アタシついはしゃいじまって」

「眼福です」

「おい、アタシの謝罪を返せ」

「いたい。アヤタカガさん、アヤタカガさんの指にわたしのほっぺがはさまってます」

「挟んでんだよ!」


 ほっぺはむにむにするものではありません!


「さて。この辺なら今度アタシ一人でも探索できるだろうし、行くか」


 アヤタカガさんはひとしきりわたしのほっぺを満喫すると、ニッカリと笑みを浮かべた。

 開放されたほっぺをさすりながら問いかける。


「行く? どこに?」

「そうだなぁ。例えば、あの山頂とか」


 アヤタカガさんが指さした先。

 そこにはこのザンガの草原で最も高い山がそびえたっている。


 いかにも何かありそうな場所である。


 そう思ったわたしはゲーム初日に登頂した。

 登頂したんだよ、この険しい山を、どうにか。


 だのに!


 何も、得られなかった!


 この山、いかにも何かありますって顔しておきながらイベントどころかアイテムのひとつおいてなかった!

 わたしのワクワクを返せ!


「なあ姫ちゃん。無理か? アタシを抱えてぶわーって空は飛べねえか?」

「重量的な意味で? 多分ダイジョブ!」


 前に"俺"くんがミーシャさん抱きかかえたまま空を飛んでたし。飛行の本家本元のわたしもきっと飛べるはず。


(うーん。わたしは何も見つけられなかったけど、アヤタカガさんなら何か気づくかもしれないかも)


 そうと決まれば善は急げだ!

 双翼展開! 出力全開‼


「Ready, steady GO!」

「ちょぶ――っ」


 ふふん!

 高速飛行も慣れたものよ!

 お金に困ったら運び屋をするのもありかもしれない。いややっぱりアルテミアス鋼をさばいた方が単価高そうだからいいや。


「到着!」

「死ぬかと思った」


 またまた、大げさな。


「あなたは死なないわ。わたしが守るもの」

「姫ちゃんに殺されかけてんだよ!」

「あはは!」

「笑えば許されると思うなよ?」


 いやぁ。

 自分の成長加減が嬉しくてつい張り切っちゃった。

 ちょっとはっちゃけちゃうところあるよね、わたし。

 でもそんなところも好き。


 さて。

 山の頂についたはいいけど、何しようか。

 面白アイテムのひとつでもあれば無駄骨と思わずに済むんだけど……お?


「姫ちゃん姫ちゃん」

「はいはい。姫天下(ひあも)る木の姫籬(ひもろぎ)Ren(レン)ですよ?」

「あれが見えるか?」


 わたしたちが辿り着いた山頂は雲母を縦に積み重ねたような岩山なわけだけど、頂上一歩手前あたりの岩壁から一本の樹木が湾曲して生えている。


 そこに、以前は無かったオブジェクトが鎮座していた。

 形は離心率0.6と0.9の楕円を結んだ――というよりタマゴ形――ではなくむしろタマゴそのもの。


「すごくおっきい! ねね、アヤタカガさん! ダチョウの卵かな⁉」

「んなわけあるか!」

「そっか。ダチョウの生息地はアフリカやアラビアだから、パンドラシアとは生息域がちがうもんね」

「ちっげえよ⁉ デカさの話だよ!」


 タマゴの時点で3メートルくらいある。

 それを生む親鳥とはいったいどれほどの大きさなんだろう。

 このタマゴがかえればその正体もわかるかな?


「あ。わかった」


 バチィンとシナプスが弾けた。

 閃いちゃった閃いちゃったわーいわーい。


「分かったって、何がだ?」

「このイベントの趣旨ですよ。イースターエッグハントって知ってます?」

「んあ? ああ。庭とかにイースターエッグを隠しておいて、子供に探させる遊びだろ?」


 アヤタカガさんの答えに、わたしは満足げにうなずく。このイースターイベントはそれも含めての遊びなんじゃないかなってね。


「わたしが思うに「クラフトに使う素材」って、タマゴ自身も含まれるんじゃないですかね?」

「……あ」


 どうよ、この名推理!

 わはは! パンドラシアオンライン第一回イベントはわたしたちがいただいたね!


「姫ちゃん後ろ」

「へ?」


 振り返った。

 どこまでも続く青い空が広がっている。

 だけじゃなかった。


「え?」


 巨大な鳥が、くちばしを開いてこちらに向かって飛んできている。


「えええぇぇえぇぇぇぇぇ⁉」


 デカすぎんだよ、ばかぁぁぁぁ!


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