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3話 イースター

 6日目。土曜日。

 いまいち疲労が抜けきらず微睡みながら降り立った大地、パンドラシア。鉱山都市アルテマ。

 その日の露店はいつにもまして賑わっていた。

 明日本番を迎えるイースターのタマゴ飾りのために、プレイヤーたちがフィールドから持ち込んだ素材をやり取りしていたからだ。


 お祭り特有の雰囲気を堪能しつつ、わたしは広場を通り過ぎた。

 目指すは工匠たちが根城にしている工房区。

 やっぱりね、クラフトと言えばあの方ですよ。


「先生、おねがいします」

「待て姫ちゃん。いまどっからうちの工房に入った」

「そりゃもうキリストを祝う意味で煙突から」

「混ざってる混ざってる」

「クリスマスもイースターも同じじゃない? 何がちがうの――あ、そうだ。アヤタカガ博士と、Ren少女の、日常!」


 いえーい、どんどんぱふぱふ。


「このコーナーは、常日頃からみんなが気になってる疑問をアヤタカガさんに質問するコーナーだよ」

「なんでアタシに聞くの」

「アヤタカガ博士! サンタさんはどうして煙突からやってくるの?」

「話聞けや」


 ほっぺをむにむにされた。

 やめてください。

 ほっぺはむにむにするものではありません。


「そちらは有料プランになります」

「友情はプライスレス、だろ?」


 やだ、カッコいい。

 しょうがない。

 ほっぺのむにむにを許可します。


「サンタが煙突からやってくるのは、貧しい家庭に聖ニコラウスが金貨を煙突から投げ入れた逸話に由来するらしいな。ちなみに靴下を用意するのも、投げ入れられた金貨が靴下に入った偶然にならっているらしい」


 そしてまさかの満点回答が返ってきた。

 マジか。

 あれってそんな理由あったんだ。


「アヤタカガさん。今度わたしのラジオにゲストで――」

「ぜってぇヤダ」


 ぐぬぬ。

 アヤタカガさんの雑学があれば絶対コーナー化出来ると思うのに。

 仕方ない。

 今度ノーアポで召喚しよっと。


「じゃなくて。今日はイースターエッグのクラフト相談に来たんですよ。危うく話が脱線するところでした」

「もう脱線してたと思うぞ?」


 わたしが歩いた場所が道だからセーフ。


「意外に思うかもしれないですけど、わたしイースターをよく知らないんですよね」

「煙突から来た時点で察したけどな」

「ついでにクリスマスもよくわかんないです。なんでキリストの誕生を祝う日にカップルがイチャイチャちゅっちゅしてるんですか? おかしくないですか?」

「それはアタシにもわかんねえよ……」


 無神論はどうした。

 そのモミの木に短冊飾り付けてやろうか。


「あ! この辺に置いてあるのってイースターエッグの試作品ですか⁉」


 アヤタカガさんにもわかんないことってあるんだなと思いながら部屋の作業台に目を向けると、既に10個以上のカラフルなタマゴが置いてあった。


「あー。まあそうとも言える」

「すっごい! すっごい!」


 さすがアヤタカガさん仕事が早い。


「いや、何かダメな気がする。このやり方だとな」

「ダメ? 目に優しい感じの鮮やかさでわたしは好きですよ?」

「サンキュな。でもさ、そういうんじゃねえんだわ。今回のイベントって」


 あー、うん。なるほどね。

 まったくわからん。

 アヤタカガさんが意図する事が何ひとつわかんにゃい。にゃー。


「普通、イースターに使うタマゴは中身を抜いて使うんだよ。ここにあるタマゴもそうだ。けど考えてもみろよ? 公式のお知らせは『クラフトに使用した素材によって生まれてくるペットのステータスと種族が変化する』って話だ」


 あ、なるほど。

 すごくわかりやすい。


「つまり、中身が生きたままクラフトを済まさないとペットが生まれないってことですね?」

「そういうこった。おまけに生まれてくるペットの性能は素材に依存するときた」

「いや、ドラゴンの素材をどう活用しろと……」

「そこなんだよなぁ」


 アヤタカガさんいわく、一般にイースターエッグで使われるのは染料や紙、絵具やマニキュアなどらしい。


「顔料ならありますけど」


 秘密の園シークレット・ガーデンで購入してきたお花由来の色の素。


「ありがてえけど、今回は別のアプローチを仕掛けようと思ってる」

「おお⁉ さすが生産職のプロ! 何か秘策が⁉」

「や、秘策っていうほど秘策でもねえけどさ」


 アヤタカガさんは口をもごもごさせると、視線を外して気恥ずかしそうに口を開いた。


「姫ちゃん、わりぃけど……手伝ってくんね? フィールドワーク」


 え。

 え。

 ええ?


「つ、ついにアヤタカガさんがアルテマの外へ⁉ 荒城都市アカシアをわたしが解放したときも、他のプレイヤーが別の町を開放したときもかわらずこの工房に居座り続けた、あのアヤタカガさんが⁉」

「し、仕方ねえだろ。尽きたんだよ、インプットが。いろんな風景を見て右脳を刺激しねえと、想像力ってのは怠けちまうんだよ」


 おおん、おおん。

 娘が巣立つ日の父親ってこんな気持ちなんだろうね。


「わかりました! 絶対に守ってみせます!」


 パンドラシア調査隊、ここに結成!


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