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6話 精霊樹のクエスト

 炎上に謝罪は下策。


 謝罪というのは自分に非があったことを認める行為であり、相手に非難する正当性を与える愚行であり、火事場に油を注ぐことを意味するから。


 そもそもの話。

 「ごめんなさい」の意味するところは「反省したのでこれ以上怒らないでください」でした。

 面と向き合って話し合いが――当事者同士での対話が成立する場面では今でもこれが成り立っています。


 だけど、電子上で情報が飛び交う現代はそうではありません。


 第三者が事件を知るのは要点だけを切り抜いた一場面であり、文脈はちぐはぐになり、結果として言葉の意図は正しく伝わらない。

 「ごめんなさい」と口にしたところで伝わるのは「わたしに非があるのを認めます」という意味だけであり、「これ以上怒らないでください」の方が伝わることは無い。


 では、今回の場合。

 意図せず迷惑行為を起こしてしまった場合はどうするべきなのでしょうか。


「フィールドに出ていた皆様、大丈夫でしたでしょうか? 以降このようなことを起こさないよう注意しますので、今回はお目こぼしいただけると幸いです」


 素直に言うしかないんじゃないですかねぇ、これ以上怒らないでくださいって。

 わたしは炎上慣れしてないから、どうなるかよくわからない。


・ええんやで

・次から気を付けていこう!

・ごめんなさいできてえらい

・かわいいから許す

・そもそもフィールドに出てる大半は悪鬼(メイヘム)だからRenちゃんに気づいていない説


 視聴者のみんな、優しかった。

 へんたいさんばっかりだなんて言ってごめんね。

 らぶゆー。大好きだよ。


「ありがとうございます! それでですねー、レベル上がったんですよ! レベル6です! 初期ステータスポイントは魅力(CHA)に極振りしたんですけど、みんなはこのあとってどうするのがいいと思う?」


・初期ポイントって100あったよね……

・魅力極振りは笑う

・CHAなんて振らなくてもRenちゃんは魅力的だよ

・ここまで来たらCHA極振り希望

・死にステータス極振り縛りプレイ見てみたい

・悪いこと言わないからINTとか上げよう?

・CHAに100振ってる時点でまともな育成なんて無理なんだからいっそとがらせるべき


「あれ? 結構魅力極振り派多い感じ?」


 魅力って本当にどう活用すればいいかわからないステータスだし、トレインの件もあるから非推奨かと思ったけど。

 需要があるなら極振りしちゃうよ?

 わたしだって不遇能力で最強になる展開は捨てがたいもん。


「ん-、じゃあ魅力に振っちゃいますね。はい確定」


・草

・この女、何も学ばない

・火消ししたのに火種作るのか……

・作った草原で焼き畑農業していくスタイル


「なんでぇぇぇぇ⁉ みんなノリ気だったじゃん!」


 ずるい、ずるいよ卑怯だよ!

 こっちの行動を見てから非難するなんて!

 イカサマだ! チーターだ!


・今度からはちゃんと空を飛んでいこうね

・そういえばどうやって飛んでるの?

・パンドラシアオンラインって空飛べたんだ

・攻略サイトには不可能って書いてある


「あ、それわたしもわからないんですよね。いざ死ぬってなったら飛べたっていうか、火事場の馬鹿力的な感じでしょうか? 検証班にお任せしますね」


・丸投げしていくスタイル

・翌日、谷底に天翼種の死体の山が


「フリーフォールしろとは言ってないですからね? 命を大事に、自分で責任とれる範囲で検証してくださいね?」


 うちの視聴者は隙を見ればすぐに炎上させようとするなぁ。今のもちょっと介入が遅かったら投身自殺を推奨するドSとか自殺教唆とかいう流れになったかもしれない。


「さて、それじゃあ本来の目的地だった切り株を目指しましょうか」


 風を切ってわたしは高度を上げた。

 ずいぶん遠くまで来てしまったみたいだけど、自由に滑空するのもいいかもしれない。


「んー、風が気持ちいいですね! マイク大丈夫ですか? ノイズで大変なことになってません?」


・※この配信はボイスデータを直接参照するのでマイクという概念が存在しません

・SEとしての風は聞こえてるよ!


 あ、そっか。

 フルダイブの配信だとそうなるのか。

 かがくのちからってすごい。


「さて、到着しました。絶対ここ何かイベントありますよね! これで無かったらびっくりしますもん」


 特定のアイテムを持ってなかったり、NPCから話を聞いていなかったりすると何も起こらない可能性もあるけれど。

 そのときはコメントに質問しよう。

 結構な人数が来てくれてるみたいだし……うわ、いつの間にか500人超えてる。

 これだけいれば物知りさんもいるよ、たぶん。


 なんてことを考えながら、切り株の上に降り立つ。

 するとどこからともなく光芒が差し込んで、ぼんやりとした人型のシルエットが浮かび上がった。

 シエンさんと同じ霊体?


『よくぞいらっしゃいました。癒術師様』

「おじゃましております癒術師です」


 これはあれかな?

 ヒーラー限定のイベント?


『私はこの地の精霊。かつては大樹としてこの草原を見守っておりました。今はこのような姿となり、力もほとんど失ってしまいましたが』


 んー、いやこれお使い系かな。

 まあこの手のイベントで悪いことが起きるのは稀なはず、経験則。


「なるほど。なにかわたしにご助力できることはございますでしょうか?」


 意訳、クエスト提示はよ。


『ええ、そのためにこうしてわずかな力をふり絞り、声をかけさせていただいたのです。もしよければ、私に回復魔法をかけていただけませんか?』


――――――――――――――――――――

【Quest】精霊樹のお願い

――――――――――――――――――――

ザンガの草原にある巨大な切り株。

そこに宿る精霊に回復魔法を使おう。

――――――――――――――――――――

受諾しますか? 【Yes】/【No】

――――――――――――――――――――


 おっと、ヒーラー専用イベントじゃん。

 こんなん受けるに決まってるでしょ!


 Yesボタンを押して、回復魔法を使う。

 んーと、たしか右手で魔法を唱える方向を決めて、行使する呪文の名前を言えばいいんだよね。


「【ヒール】!」


 視界の隅にあるMPバーがぐんっと減少し、手をかざした先から淡い光が飛び出した。

 光は切り株に触れ――


「お、おお、おおおおお⁉」


 ――切り株の側面に生えていた萌芽を、一本の樹木に成長させた。


 ヒールってこういう使い方もできるんだ!


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