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6話 【頂上決戦!】無限氷龍ノーザンクロス【姫籬Ren】

 ふつふつと熱い感情が、蓋をした心の底で熱量を叫んでいる。相反して思考はどこまでも冷たく研ぎ澄まされていく。


・マジで単騎で挑むの⁉


 口角がつり上がる。

 ああ、そうだろう。

 ずっと待ち焦がれていたんだから、この時を。

 時は満ちた。決戦の時は近づいた。

 さあ、雌雄をここに決しよう。


「負ける気は無いですけどね」


 開幕速攻電撃戦術。

 引き金を引いて弾丸を撃ち出す。

 ゲーム開始日に手に入れた、レベル30相当のアサルトライフル――Artemeres' Blessing。


 レベル46推奨マップで戦うには見劣りするかもしれないけれど、アヤタカガさんが鍛えてくれたこの銃はあいにくなまくらではない。

 吹雪のカーテンを引き裂いて驀進(ばくしん)する弾丸は、狙いと寸分違わぬ場所に突き刺さる。


・ねえ今HP減った⁉

・減ってない。装甲が高すぎる


 初見さんかな。

 あいにくだけど、この一撃の目的は直接ダメージを与えることじゃない。

 これは例えるならば方舟(はこぶね)だ。

 運ぶはひとつ、死を呼ぶ不吉。


「芽吹け……【ヒールストーム】ッ!」


 吹雪を引き裂く桜色の嵐の舞。

 春の息吹に吹かれて、悪魔の種が開花する。


――――――――――――――――――――

牙城自縛(がじょうじばく)】発動

――――――――――――――――――――

無限氷龍ノーザンクロスのDEXに下降補正中。

――――――――――――――――――――


 龍の片翼の根元から樹木が育つ。

 食らえ、その命を。

 そしてわたしの糧と成れ。


 Ready, steady――


 片手と両足、3点で地面を掴んだ。

 刹那、吹雪が指向性をもってわたしに襲い掛かる。

 ビリビリと肌を焼く衝動が全身を突き抜ける。


 固い金属をぶつけたような火花が散る。

 無限氷龍が、その万力のようなアギトを打ち付けたのだ。

 舞い散る火の粉はしかし、はるか上空から見下ろすわたしのもとに届くことは無い。


・耳栓?


 そのコメントを、ずっとずっと待っていた。


 教えてあげるよ。

 命の燃やし方ってやつをね。


「大正解」


 響き渡るは火薬が炸裂する衝撃波。

 ほんの一瞬「チカッ」と輝くはArtemeres' Blessingの発砲炎。


「【ヒールストーム】」


 ハッハー!

 二度同じ手がわたしに通用すると思うな!

 仕掛けさえわかってしまえばこっちのもんよ!

 アヤタカガさんから叡智を授かったわたしに敗北は無い!


 さあ、無限氷龍ノーザンクロス。

 貴方の両翼は奪わせてもらった。

 制空権を失って、わたしとどうやって渡り合う?


「やば……」


 3発目の狙いをすまそうとして、わたしはすぐさまやめた。目の前に、視界を埋め尽くすほどの氷の槍が生成され続けている。


 ……え、これを、避けろと?


――――――――――――――――――――

【旋回】発動

――――――――――――――――――――

ドッジロールの無敵時間が微増します。

――――――――――――――――――――


 ひぃぃぃぃ⁉

 し、死ぬ……! 死んじゃう! 死んじゃうから!

 敗北は無いとか言ってすみませんでした!

 調子乗りました! だから許してぇぇぇ!


・ドッジロールのタイミング完璧すぎだろ‼

・無傷⁉ あの槍の雨を全弾回避⁉

・プレイヤースキルえぐない?


 ふ、ふふ。

 避け切った、避け切ったぞ。

 永遠にも思えたレベリングの成果が結実したんだ!


「追い打ちが遅いよ」


 一呼吸のうちに照準から狙撃をこなす。

 頭部を狙った弾丸は、しかしドラゴンが全力で回避行動を取ったために尻尾に着弾した。

 欲を言えばブレスを封じてしまいたかったけれど、全体で見れば上々の出来かな。


 あとはブレスの範囲外を飛び回りながら、フローズングレイブシードがかの龍の生命力を吸い上げるのを待ち続けるだけ。


 それにわたしには、イカヅチシードの効果を宿した麻痺弾もある。こっから負ける道理が無い。


 勝ったな!


「へ――?」


 カートリッジを交換しようとした手を止めた。

 まなじりが裂けるほど目を見開いた。


 龍が、跳んだからだ。


 ふざっけんなぁぁぁ!

 湖面を掴んでジャンプとかチートだろうがぁぁぁぁ!

 そんなん考慮してないッて‼


 その龍は弾丸より早く、弓より正確に、大砲のごとくわたしに肉薄した。その様子をわたしの両目はしっかりと捉えていた。だけど、羽ばたいた直後の翼ではどこへも行けやしない。


「(避けられ、ない――)」


 辿り着いた結論はひとつ。

 迎え撃つ。それしかない。


 だからとっさに銃を構え直し――、

 雷管を叩いて弾丸を軟口蓋にぶちこんだ。


 龍が怯むことなんて期待しなかった。

 こいつの命はそんなに安くない。


 白銀に光る鋭い牙が、振り下ろされる。


 よりも、一拍早く。

 わたしは自由落下を開始した。


 帳が落ちる。

 否、落とされたのは龍のアギトだ。

 わたしを噛み砕くはずだったその一撃を、内側に潜り込むことで回避したのだ。


 そしてそこには、先に打ち込んだアレがある。


「【ハイネスヒール】」


 右の手の平から放たれた光が、龍の軟口蓋を照らす。


「唖然とした面がお似合いだよ、あんたにはね」


 大樹と成ったフローズングレイブが、龍の下顎をぶち抜いた。生暖かい血しぶきが吹き上がる。


――――――――――――――――――――

【部位破壊】氷龍の大顎

――――――――――――――――――――


 邪魔!

 視界に映ったウィンドウを意識から除外して、ドラゴンを蹴り飛ばした。

 推進力を得て戦線を離脱し、翼を広げる。


 燃えちゃえ。


――――――――――――――――――――

空亡(ソラナキ)】発動

――――――――――――――――――――

空中にいる間、与ダメージが増加します。

――――――――――――――――――――

轟雷(ごうらい)寵愛(ちょうあい)】発動

――――――――――――――――――――

雷属性の攻撃の威力が上昇します。

――――――――――――――――――――


 迸る雷火がドラゴンの血液を焼き焦がす。

 ゴムを焼いたような腐臭が鼻を刺す。

 気高き龍が瞳を白く濁す。


「――ひざまづきなさい」


 空を制するわたしと地に堕ちる龍。

 この位置関係が、立ち位置が、そのままわたしとあなたの格の違いだと思い知りなさい。


・おおおおおおお‼

・マジで倒しやがったぁぁぁぁ‼

・俺もひざまずきたい

・おめでとおおおおお‼


――――――――――――――――――――

【Level UP;37】

――――――――――――――――――――

ステータスポイント30UP


アルティメットスキル【天空の覇者】獲得

【天空の覇者】:飛行中のみ発動可能。

 HPが毎秒減少し、減少したHP分だけ

 全てのステータスが上昇する。

 (HP・MPを除く)

取得条件:【天空の覇者】を有する者を

 飛行中に撃墜して討伐する。

――――――――――――――――――――


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