1話 リベンジマッチするぞするぞするぞ!
「リベンジマッチするぞするぞするぞ! 行くぞお前らー!」
・はーい
・待ってました俺の唯一の楽しみ!
・また来たよー
・今日テンション高いね
「前回は無限氷龍ノーザンクロスに敗北したところから! 今回は絶対倒します! とりあえず見てこのステータス! 昨日からレベリングにいそしんで34まで上げたの! すごくない⁉」
ゲーム開始4日目。
わたしのレベルは34まで上がっていた。
犠牲となったすべてのゴーレムに感謝を。
アルテミアス鋼おいしいです。
・すご
・よくできました
・Renちゃんえらいぞー
・俺もレベルの糧になりたい
・相変わらず魅力極振りで笑う
・魅力に極振りしている天翼種癒術師なんてRenちゃんくらいだろうなぁ
あー、この地味な作業を裏でやった後に褒められるのが最高なのだ。一生懸命レベル上げに励んだかいがあるってもんよ。
それとドMのえむくんへ。
このゲームはPKしても何も得られるものがありません。
わたしのレベルの糧にはなれないから諦めてもろて。
「それでねー、レベル30になったときに新しいスキル習得したんですよ。その名も【ヒールストーム】! これってあれだよね! 精霊樹のクエストで必要なんじゃないかって言われてた回復系の上級スキルだよね。ついに、取れましたぁ! これでわたしもいっぱしのヒーラーを名乗れるってわけですね!」
・おー、本当だ
・いっぱしのヒーラー(魅力極振り)
・普通のヒーラーは知力に振る
・攻撃手段としてしかヒールを使えない女
・妨害にも使えるぞ
・与ダメが回復量を上回る女
・ヒーラー(メインウェポンライフル)
「うるさいよ⁉」
これが魅力特化天翼種の戦い方なんだから仕方がないじゃん!
・でも相手はレベル46MAPのボスモンスターだけど大丈夫?
横目に映ったコメントに、わたしは笑みを浮かべる。
「大丈夫。今回はガッチガチに対策張ってあるから」
メタゲームは得意なんだよね、主に"俺"くんが。
*
それは昨日の配信を終えた後のこと。
わたしは生産職のプロ、アヤタカガさんの工房を訪ねていた。
理由は単純。
ノーザンクロス討伐用の装備を整えるためである。
「ドラゴンが雄叫びを上げたと思ったらスタン状態になってたんですよ。動けない状態でブレスを食らって即死でした」
「あー、そいつは【ドラゴニックロア】だな。龍種固有の、広範囲にスタンをばらまくスキルだ」
アヤタカガさんいわく、地底湖という音が反響する空間だったから余計に効果が強かったんだろうとのこと。
とはいえ今の衣装、Millenium Optimizeは魔術耐性のみしかなく、広いフィールドに出たからと言ってスタンを無効化はできないだろうとのこと。
うーん。どうにかならんものか。
「まあ、手が無いわけじゃないな」
「本当ですか⁉」
「ああ。オススメはしないけどな」
せわしくなく動かしていた手を止めると、アヤタカガさんは工房奥にいつの間にかできていた収納タンスへと足を向けた。
素材は桐だろうか。
明るい色の木材で出来たタンスから、アイテムがひとつ立体化して飛び出す。
「これは?」
「耳栓」
え?
「耳栓。ステータス補正の無いアクセサリーだ。そのうえ他のプレイヤーの声が聞こえなくなるんでな、パーティ組んでるやつらにはマジで不人気の一品だ」
「縛りプレイで使われそうな弱体化アイテムですね」
「落ち着けって。ただひとつだけメリットがあるんだ。よく見てみろ」
言われて受け取った耳栓を注視する。
鑑定画面がポップして、詳細な情報が表示される。
――――――――――――――――――――
耳栓
――――――――――――――――――――
周りの音が聞こえなくなるアクセサリー。
付与:【音技完全無効】
――――――――――――――――――――
ぽんと手を叩く。
なるほど。
「【ドラゴニックロア】は大声による攻撃だから、この耳栓で防げるってことですね!」
「そういうこった。でもま、ドラゴンはさすがの姫ちゃんでもソロ討伐は無理だろ?」
「え?」
「え?」
うん?
なにか話が噛み合っていないなぁ。
「ソロ討伐するつもりですけど?」
そもそも魅力特化のヒーラーをパーティに入れようって酔狂な人間がどこにいるっていうんだい!
うちの視聴者ならワンチャンあるかな⁉
いや、最前線MAPで通用するくらいこのゲームやり込んでる人がそんな何人もいるわけないか。
だってチャンネル登録者はまだ――
「ん?」
一、十、百、千、万……あ、あれ?
おかしいな。
疲れてるのかも。桁がズレて見える。
もう一回……いや、やっぱりあってるよね?
「いつの間に10万人突破してるの、このチャンネル」