8話 好きになっちゃった?
「とりあえず、その口調やめてもらえる?」
悪鬼の女――ミーシャさんに声をかけた。
けどよくよく考えると、俺は天翼種で彼女は悪鬼。
こちらの声は届かない。
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【フレンド申請】Ren
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【ひとこと】
そのしゃべり方やめてもらえる?
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仕方がないのでフレンド申請を飛ばした。
今朝の英語配信でも海外ニキが言っていた。
悪鬼に声は届けられなくてもチャットならできると。
「いいよー! Renちゃんがお望みなら!」
「距離感近いなぁ」
この子も多分距離感の詰め方下手。
まあいいや。
配信メニューを開いて設定画面から限定公開を選択。配信を始めてURLを送る。
「あーあー。聞こえる?」
「わーい! Renちゃんだ! ここかなー?」
「やめろ暑苦しい」
「あはん、冷たい。でもそういうところも好き」
「……」
とりあえず、わかったことがひとつある。
悪鬼でも配信を通してならこちらの声も形も認識できると。
違う違う。現実逃避するな、俺。
彼女に聞かなければいけないことは他にあるだろ。
「ミーシャさん」
「ミーシャでいいよ!」
「ミーシャさんは――」
「あはんっ! 冷たい目! 好き!」
「話が進まねえ」
「よし来い! なんでも聞いてねっ」
「俺を……わたしを倒さなくていいの? キミの恋人をキルした相手なんだけど」
「ユウくんにとどめを刺したのはあたしだよ?」
「それもわけが分かんねえんだけど」
わしゃわしゃと首筋をかく。
このふたりはカップルだったんじゃないのか?
いや恋愛感情があったかはこの際どうでもいい。
パーティを組んでたはずだろ?
どうして裏切ったんだ?
彼女に関しては開幕ぶん殴った覚えがあるけど(なお、殴ったのは俺じゃなくてRen)、味方にするような出来事は身に覚えが無いぞ。
「うーん、あたしもよくわかんないんだけどね? Renちゃんの配信を見てると、こう、胸があったかくなって、力になりたいって思ってね?」
「はあ」
「好きになっちゃった、んだと思う」
「あのユウくんって男より?」
ミーシャさんは顔を赤らめて、ちいさく頷いた。
乙女か。マジでわけがわからん。
――"Ren、任せていいか?"
――"すぴー、すぴー"
――"起きてるだろおいっ!"
――"お掛けになった人格番号は、現在、やる気が入っておりません"
くそが、面倒な話だと思って居留守使ってやがる。
同居人なんだから隠せるわけないだろうが。
――"ああ、あと俺くん。スリップダメージには気を付けたほうがいいよ?"
――"スリップダメージ?"
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地形状態:炎熱
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一定時間ごとに定数ダメージを受ける。
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――"早く言えよッ!"
慌てて、となりでうねうねしているミーシャさんを抱きかかえた。瞬間、彼女の顔が真っ赤に茹で上がる。
「ふぇ⁉ Renちゃん⁉ 急にそんな、えっ⁉」
「飛ぶぞ」
翼を広げる。
俺自身は初飛行だけど、体は飛び方を覚えてる。
風切り羽を響かせて、俺は空へと飛翔した。
「RenちゃんRenちゃんRenちゃん」
「やめい。おとなしくしろ」
「はい」
言ったらピタリと静まった。
もうわけがわからないよ。
「ミーシャさん。俺……わたしを女王と呼んでいたのはどうして?」
「女王様だから?」
「そんなに女王ロールしてたっけ?」
ざっと振り返ってみよう。
キーワードは、女王ロール。
『ひざまづきなさい』
『頭が高いわ。獣が』
『少し遊んであげるわ』
『這いずりなさい、トカゲ風情が』
うん、まあ、そうか。
Renのやつはっちゃけてんなぁ。
「理解した。もうひとつ、戦闘中にこっちの声を聞いてなかった? 配信もしてなかったのに」
「『邪魔をするな』だよね? あたしもわからないんだけど、直接頭に声がした感じ?」
心当たりが無いわけでもないなぁ。
ザンガの草原でゴブリンに追われた時、秘密の園でNPCの女の子と話していた時、そして霧の中でふたりに追跡されていた時。
時折、俺でもRenでもない声がする。
それと同類のものかもしれない。
「んじゃあ最後にひとつ。アルラウンの森に火を放つ、あるいはユウって獣人が放火するのを手伝った。間違いないか?」
「……うん」
言い訳ひとつせずに肯定した彼女の声は、ひどく弱弱しいものだった。消えてしまいそうな声だった。
俺の腕の中で身を強張らせている。
だったら、どうして最初から止めてくれなかったかな。
「ごめん、なさい。あたし……この命をもって」
「こら、早まるな」
唐突に暴れ出すものだから、改めてギュッと抱き寄せる。
「お前が死んだって、なんの償いにもなんねえよ」
プレイヤーは死ぬとリスポーンする。
モンスターは倒すとリポップする。
どちらも同じ復活に見えて、違うところがある。
それは、プレイヤーは同じ個体としてよみがえるのに対して、モンスターは別個体として再出現する点だ。
ミーシャは死んでもミーシャとして復活するが、アルラウンの森で死んだアルラウネたちが復活することはない。
「だから、手伝えよ」
「何を?」
何って、決まってるじゃないか。
「アルラウンの森の、再興」





