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3話 アルラウンの森

「集合ー」


・はーい

・待ってました俺の唯一の楽しみ!

・また来たよー

・頭に載せてるのなに?

・魔物? テイムしたの?

・このゲームテイムあったの?

・枠を取るたびに新要素を発見する女


「はぁい、みんな気になってるみたいだからあいさつしよっか。アルラウネのルウラちゃんでーす! ほら、ルウラちゃん、手を振ってあげて」


 ルウラちゃんはわたしのほうをきょとんと見上げたあと、とてとてと配信用カメラに歩み寄るとぺちぺちと叩いた。


・きゃわわ

・ぺちぺち助かる

・癒やし枠増量キャンペーン

・天国は本当にあったんだ!


 うん。

 なんか想定と違うけど需要があるならそれでいいや。計画の本題に入ろう。


「実はルウラちゃん、群れからはぐれちゃったみたいなんです。それでアルラウネのヒミツの集落を探してるんですけど、みんな何か知らない? それっぽい情報あったらどしどし教えてほしいんだけど」


 ルウラちゃんをひざに抱えたままコメント欄を眺める。流れるコメントの大半は「スクショタイム」とか「永久保存版」とかだった。わかったから情報を出しなさい。……ん?


・ザンガの草原に「アルラウンの森」ってのがあったけど、なんか関係してるかな?


「絶対それじゃん! アルラウンの森についてくわしく!」


・ザンガの草原の南西だったかな。霧の濃い森があって、紅紫色の花を咲かせる2メートル弱の木を頼りに進んでたんだよね。急に麻痺で動けなくなったと思ったら背後から「アルラウンの森に近づくな」って声がして……

・ホラーじゃんw

・霧の中でも目立つ紅紫の低木……紫八染(むらさきやしお)かな?


「オタクくんたち優秀過ぎない?」


 放送開始数分で目的地が判明してしまった。


「みんなありがと! よし、ルウラちゃん! 目指すは南西! いくよー!」

「キュー!」


 大空を飛び、南西を目指す。

 草原地帯を抜けるとそこに、確かに森林地帯が広がっているのが見て取れた。


「ここかな? でも霧なんてどこにも……ッ⁉」


・え⁉

・急に視界真っ白になった⁉

・これ! 俺の時もこんな感じだった!


 上空からこっそり忍び込もうと思ったけど、この濃霧だとさすがに厳しい。なるほど。コメントの通り、紫八染という花を頼りに進まないといけないらしい。


 仕方がないので一度引き返し、霧が晴れたところで森に降り立った。ちょうどそこに、高さ2メートル弱の紅紫色の花を咲かせる樹木が生えている。

 ツツジだった。


「あ、これ? 紫八染。ってことは霧側にまた別の道しるべが……あった。さらに南西ですね!」


 点々とつづく紫八染を頼りに、五里霧中を切り裂いて進む。もはや自分がどっちを向いているのかもわからない。これは、試練だ。それも今までにない、強烈な。


 画面映えしない。

 トークで場を持たせるしかない。


「みんな花言葉とか詳しい? ツツジの英語の花言葉はtake care of yourself for me。わたしのためにお体を大切に、だよ。みんなも健康には気を付けてね?」


・赤いツツジは恋の喜びなんだよなぁ。Renちゃんいっぱいちゅき!

・ツツジ全般は節度・慎み。いっぱいちゅきとか言ってる場合じゃないだろ。Renちゃんいっぱいちゅき。

・Renちゃん英語つよいなぁ

・生まれも育ちも日本ってマジ?

・これでスキャンデータ準拠の美少女なんだぜ?

・ちなみに紫八染(むらさきやしお)躑躅(つつじ)の花言葉は「道しるべ」


「おお……マウント取ろうとしたらめっちゃ勢いよくカウンター食らった⁉」


 みんな花言葉とか調べるのね……いやよくみたらコメントしてるの数人だけだ。数人めちゃくちゃ花言葉に詳しい人がいるなぁ。


「というか紫八染って道しるべを意味してるんですね……。なるほど確かに――」


 視界が真っ赤に燃え上がるのと、わたしがその場を飛びのくのはほとんど同時のことだった。足元から勢いよく何かが飛び出す音がして、突然木々がざわめく。


 警戒を強めながら振り返る。

 真白いカーテンの向こうに、ぼんやりとした人影が立っている。


「あらあらぁ? ワタクシの攻撃をかわすなんてイケない子。うふふ」


 しゅるしゅると、足元を蔓のようなものが這っている。根っこだ。植物の根っこがうごめいている。


 植物、人型、妖艶な声。

 それらに合致する魔物の正体を、わたしはすでに知っていた。


「アルラウネさんだよね?」

「うふふ、そうよぉ。知ってるなら話が早いわ。引き返しなさいな?」

「アルラウンの森が、人の立ち入る場所じゃないから?」

「くすくす、賢い子は嫌いじゃないわ。ワタクシ、麻痺毒で苦しむ人を見るのは好きじゃないもの」


 わたしも植物に辱めを受ける趣味は無いよ。


「あいにく、引き返すわけにもいかないんだよねぇ」

「あらあらぁ? 聞き分けのなってない子ね。そういうワルい子ちゃんは、お仕置きよ!」


 白霧の向こうで影が動く。

 足元を這う植物が忍び寄り、攻撃に転ずる。

 その一瞬までひきつけて、わたしは前方にローリングを仕掛けた。


――――――――――――――――――――

【旋回】発動

――――――――――――――――――――

ドッジロールの無敵時間が微増します。

――――――――――――――――――――


 無敵時間を利用し、根っこによるバインド攻撃を回避。霧の向こうに潜む影へとその足をのばす。


「くっ!」


 霧が裂ける。

 その向こうに、焦りを見せる女の顔があらわれた。


 アルラウネだ。


 濃霧の中、顔と顔を突き合わせられるほどの超近距離だ。避け切れないと悟ったアルラウネさんの顔が、険しい表情に変化していく。


「なぜ……攻撃しなかったのかしら?」

「なぜって、ほら」


 わたしはいよいよ種明かしをする。

 つまり、ルウラちゃんのお披露目だ。


「わたしはこの子を送り届けに来ただけだから」

「はぐれのアルラウネ……? どうして人間が?」

「うーん、なりゆきで」


 多分、この濃霧でアルラウネさんもルウラちゃんが見えていなかったんだと思う。でも、もう大丈夫かな。視界を染め上げていた赤も引いて行ってるし、相手方も警戒を解いてくれたみたいだからね。


「アルラウネさんだったら知ってるよね。アルラウネの集落。ルウラちゃんを、よろしくお願いしたいの」


 ルウラちゃんは優しい子だから、きっと、同じアルラウネの中で育った方が幸せだろうから。

 だから、お別れだよ。


「キュ」


 アルラウネさんに差し出したわたしの手に、ルウラちゃんは根っこで巻き付いた。


「ほら、ルウラちゃん。あなたの帰る場所はあっちだよ?」

「キュッ! キュキュー!」

「困ったなぁ」


 ルウラちゃんはしがみつくように巻き付く力を強め、いっこうにアルラウネさんの方に行こうとはしない。


「人間さん。あなた、名前は?」

「わたし? わたしはRen。()天下(あも)る木の姫籬(ひもろぎ)Ren(レン)

「Ren、あなたは野蛮の人間と違うみたいね。いいわ。特別に許可してあげる」

「何を?」


 アルラウネさんはわたしの手を取り、紫八染のほうへと進んでいく。


「ワタクシたちの集落への立ち入りを、よ」


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