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6話 サンダーゲイルゴーレム討伐戦

「この中に、ハトがいる」


 ユノさんとの鬼ごっこを始めて数十分。

 わたしは視聴者に残念なお知らせをしなければならなかった。


 ハト、伝書鳩(でんしょばと)のことである。

 ユノさんの配信を見ている視聴者が、わたしの配信をのぞき見してコメントで居場所を伝えている。

 そうとしか考えられない。

 何故って――


「あはっ、みぃつけた」

「だから早いんだって! 追いついてくるのが!」


 こんな短期間にPON☆PON見つかってたまるか。

 この落雷地方、結構広いんだよ?

 砂漠からオアシスを見つけるくらい難しいはずなのに、すでに何回も見つかってる。


「絶対カンニングしてますよね?」

「してないよ? でも進む先々に天翼種(リベルタ)さんがいるの。私たち、気が合うよね」

「なにそれ怖い」


 ウソでしょ?

 ガチのマジで伝書鳩もゴースティングも無しで追いかけて来てるの?

 ホラーゲームの鬼役か何かかな?


「ねえ天翼種(リベルタ)さん。私は天翼種(リベルタ)さんが好きだよ? 天翼種(リベルタ)さんは私のことどう思ってる?」

「先輩の配信者だなぁって」

「好きじゃないの?」

「言いませんよ? 言ったら死にますもん」


 黄泉(よみ)(たみ)になる。

 それはつまり、黄泉の国の亡者になることを意味している。

 わたし、まだ死にたくない。


「それってつまり、好きってことだよね?」

「どうしよう、この人想像以上に手ごわい」


・Renちゃんが攻めあぐねてる

・【速報】ゆののん、厄災以上の強敵

・Renちゃん逃げてー! 超逃げてー!


 仕方がない。

 ここはもう一度水鳳仙(みずふうせん)()でしのぎ切ろう。


「あはっ、ダメだよ天翼種(リベルタ)さん。さすがの私も覚えたから。その植物は衝撃を加えたら破裂する。つまり、避けてさえしまえば――」

発射(Fire)!」

「へ?」


 放り投げた水鳳仙花が描く放物線の軌跡。

 その延長線上に、あらかじめ銃口を構えておいたArtemeres' Blessingの引き金を引く。


 薬莢の中で、炸薬が火を噴いた。

 爆発的な推進力を得た弾丸が、今まさに回避行動をとっているユノさんの真横を通る水鳳仙花を貫く。


「んひゃぁっ⁉」


 悪いねユノさん。

 わたしが一歩先を行く。



 雷鳴が轟きだしたのは、豪雨の降り注ぐ原野をしばらく進んだ先から。

 時折降り注ぐ青い稲妻は、光エネルギーの減衰が少ない、比較的近距離で落雷があったことを意味している。


 そんな折、わたしは見つけた。

 見つけてしまった。


「ねえみんな見てこれ、この岩さ、見覚えない?」


・ザンガの草原に似たような場所あったよね

・ストーンゴーレムのところだ

・明らかに動き出しますよって雰囲気醸し出してて岩


 そう、ストーンゴーレムだった。


「ちょうどいいんでアルテミアス鋼になってもらいましょうか!」


・ちょうどいいんで(普通は勝てない)

・もはや素材としか見て無くて笑う


 そりゃね。

 今のわたしにはパラサイトシードだけでなく、アサルトライフルまである。

 もはやいい経験値ですよ。


照準(Lock)……発射(Fire)!」


 撃ち出された弾丸が、むき出しの岩盤に突き刺さる。つまりはパラサイトシードの植え込みが完了したことを意味している。


 だからわたしは、おもむろに翼を広げると、その岩石群に近づいた。水浸しの大地に足をつけると、まるで感圧版トラップが起動したかのようにゴーレムが動き出す。


「死力を尽くして挑んできなよ。少し遊んであげるわ」


・かっけぇぇぇぇぇ!

・かわいいとカッコいいが合わさり最強に見える

・俺もあそばれたい


 ゴーレムを起動させた後は、翼を広げて再び空へと飛び立つ。平面上で動くより立体駆動できる方が回避しやすいのがひとつと、スキル【空亡(ソラナキ)】を発動させるのがひとつ。


「行くよ、【ヒール】ッ!」


 突きつけた右手から放たれた光弾が、ゴーレムに植え付けたパラサイトシードに刺さる。

 刹那、ゴーレムの表面から樹木が飛び出し、寄生を完了する。


――――――――――――――――――――

空亡(ソラナキ)】発動

――――――――――――――――――――

空中にいる間、与ダメージが増加します。

――――――――――――――――――――

牙城自縛(がじょうじばく)】発動

――――――――――――――――――――

サンダーゲイルゴーレムのDEXに下降補正中。

――――――――――――――――――――


「……ん?」


 何か違和感を抱いた。

 いつもと同じルーティンのはず。

 あとは動けなくなったストーンゴーレムを眺めながら、パラサイトシードがHPを吸いつくすのを待つだけ。

 そう、動かなくなったストーンゴーレムを――


「あ、あぁ⁉」


 気づいた。気づいてしまった。

 牙城自縛のポップアップウィンドウ。

 そこに記されたモンスター名。

 ストーンゴーレムじゃない……!


「いいっ⁉」


――――――――――――――――――――

【旋回】発動

――――――――――――――――――――

ドッジロールの無敵時間が微増します。

――――――――――――――――――――


 嫌な予感がしてローリングを行った。

 時を同じくして、ゴーレムの放った閃光がわたしの体を突き抜ける。


・だからwww雷を避けるなwww

・息をするように神プをするなぁ

・光より早い……

・こだまでしょうか?

・いいえのぞみです

・新幹線じゃないのよ


 漫才やってる場合じゃないって……!

 そんな偶然が何回も続くわけないでしょう⁉

 とにかく、魔法の射線上から逃れないと!


「背後に回り込みます――え?」


・体180度回転したwww

・背後が存在しない⁉


 翼をはためかせ終わったところに、ゴーレムの正面がやってきた。その手はすでにこちらに向けられていて、溢れんばかりの光を携えている。


 予測可能、回避不可能。

 現状を言葉にするならそれだった。

 目ではしっかりとらえられているのに、フォロースルー状態の翼ではここから離脱がかなわない。


 だからとっさに、インベントリを開いた。


 わたしの正面で、水の塊が破裂する音がする。


・アイテムで攻撃を防ぐなwww

・なるほど……電気を通さない水、超純水か!

・このとっさの判断力どうなってんの


「水平方向に逃げ場がない、なら、空ならどう?」


 パラサイトシードという重荷を背負った状態で、あなたに天を仰げるかしら?

 そんな挑発の意味を兼ねて、天高く飛翔する。


「あ」


 普通に見上げられるんですね。

 ちょっと、やば。


「ひぃぃぃぃやぁぁぁぁ! 助けてぇぇぇ!」


 【旋回】を発動しながら、ひたすらローリングを繰り返す。けれど絶え間なく降り注ぐ紫電の雨を、いつまでもよけ続けることはかなわない。3発に1発はどうあがいても被弾してしまう。

 翼を穿たれ、HPが大きく削られる。


「【ヒール】! 【ヒール】ッ! 【ヒール】ッ‼」


 ダメージを負ったそばから、自身に回復魔法をかけ続ける。けれど、パラサイトシードによるHP吸収込みでもじり貧だ。すこしずつHPが削られていく。

 敗色は濃厚、色褪せない。


 おっかしいな。

 圧勝する予定だったんだけど。


・もしかして、まずい?

・ここにきて初敗北⁉

・やっぱり魅力特化ヒーラーでソロは厳しかったか

・だから他のステータスに振れって言ったのに


「ううん。これで、チェックメイトだよ」


 わたしは高度を落として浮揚した。

 自然サンダーゲイルゴーレムとまっすぐ対面する形になる。


 その無機物はわたしに手の平を向けた。

 無感情に、機械的に。

 その手の平に光が収束していく。


・あれ? なんか空模様、激しくなってね?

・本当だ

・すごいバチンバチン鳴ってる

・ここまでひどい雷雲じゃなかったはずだけど


 勘のいい視聴者がいるなぁ。

 そう、(That's)ライ(Right)


「作ったんだよ。サンダーゲイルゴーレムの雷でね」


・作ったって……え?

・もしかしてゴーレムの放った電荷が雷雲に蓄積して……

・地面と雷雲の間に巨大な電圧差を作り出している⁉


 そう。

 いわばこれは巨大な放電空間。


「そして雷は、一番高いところへ落ちる」


 空から降り注いだのは、神罰のような光の束だった。これまでゴーレムが放ち続けてきた雷電。それらが一気呵成に、巨大な樹木、成長したパラサイトシードに落雷するッ!


「ひざまづきなさい」


 眼前に広がったのは、ポリゴン片へと崩れていくサンダーゲイルゴーレムだった魔物の影。

 耳に届いたのは、勝利を知らせるファンファーレだった。


――――――――――――――――――――

【Level UP;20】

――――――――――――――――――――

スキル【ハイネスヒール】獲得

【ハイネスヒール】:中級の回復魔法。

取得条件:癒術師(ヒーラー)でレベル20到達。


スキル【轟雷(ごうらい)寵愛(ちょうあい)】獲得

轟雷(ごうらい)寵愛(ちょうあい)】:雷属性の攻撃の効果増強。

取得条件:交戦中の魔物を落雷で討伐する。

――――――――――――――――――――


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