2話 ぶっ壊れアイテム入荷しました!
「ダメ、うまくいかない! MP切れた!」
それ単体で帯電する植物を生成しようと試みて10分と経たずに、わたしのMPが底をついた。
「いやそれ【ヒール】使わずにちまちま育てる奴だろ。スローライフも悪くないぞ?」
「わかっちゃいるけど……」
スローライフは好きだけど、スローさを強要されるのはノーセンキューなのです。
「こうなってくるとINT特化ヒーラーが羨ましいなぁ。MPわたしの何倍?」
「INT特化だとヒールで植物が育たない件」
「……そうだった」
うーん、ままならないなぁ。
どうせMPが回復するまでやることないし、フィールドに出てアイテム収集でもしてこようかな。
「はぁ、しゃーねえな。ほれ」
「ん? 何これ、ネックレス?」
「MP回復を早める効果がある装飾品だ」
「おお⁉ こんな便利アイテム貰っていいの⁉」
「いいから、工房内でそわそわするのやめろ」
「はい」
どれどれ効果は……う、ん?
若干早くなってる、のかな?
あんまりわかんない。
「ゲーム開始2日目だぞ。性能に期待すんな」
「え、まだ2日目なの?」
web小説ならすでに8万文字くらいの出来事があった気がするけど、まだ2日目なの? しかも朝?
「あ、ヒール分のMP回復した」
さて、今度はどの組み合わせで育てるかな。
ちなみに現状新種は発見できていない。
かけ合わせた植物のどちらか一方とほぼ同じ植物になっちゃうんだよね。
特性にもう一方の親が持つ性質が引き継がれることはあったけど、それが最大成果。
……もうちょっと攻めた配合してみようかな。
「うん、じゃあ、これとこれかな」
選んだひとつめは、【メモリーフラワー】。
これは花が開いている間に起きた出来事を記憶する特性のある花で、寿命が来ると結晶化する特性がある。
結晶化した後は触れた相手に記録した映像を見せる性質があり、それゆえ付いた名前が【メモリーフラワー】。
結構高かったんだよね。
多分すごく希少。
そして問題のふたつめである。
「え、姫ちゃんそれって」
「はい。パラサイトシードです。うまくいけば増え続けるパラサイトシードを減らす算段が付くかも?」
保証はどこにも無いけれど。
「待て待て! それが呪いのアイテムで、取り返しがつかない方向に強化されたら――」
「【ヒール】!」
そん時はそん時よ!
しれっと精霊側に寝返って全プレイヤー相手にラスボスムーブかましてやる!
それはそれで楽しそう!
「おー?」
【交配キット】で育てられた二種類の植物が、螺旋を描いて交わる。パラサイトシードはずっとまっすぐだったでしょうに。どうして急にアサガオみたいに巻き付く感じで成長して……え?
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エクシード
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発芽したときに周囲の環境を学習する種子。
溶岩地帯で育てば火花を散らし、
湿地で育てば蜜を多分に含むようになる。
【交配】
パラサイトシード × メモリーフラワー
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「お、おお、おおおお⁉ 見て見てアヤタカガさん⁉」
「落ち着け」
新種! 新種の植物ができたよ‼
しかも! 絶対すごいやつ!
「落ち着け」
「むぎゅ」
ほっぺをむにむにされた。
「落ち着いたか?」
「はい」
「んじゃあ新情報だが、じつは姫ちゃんが【アカシア】の攻略に取り組んでる間に、攻略組は次の地方を目指してるらしくてな?」
「あんまり話が見えてこないけど?」
「まあ聞けって。その土地がな? 落雷地方らしいんだ」
「‼」
「落ち着け」
「むぎゅ」
暴れる前にほっぺをむにむにされた。
わたしの行動を先読みして先制するなんて……あの獣人と悪鬼のカップルより強いのでは?
「姫ちゃんは天翼種だろ? 落雷に直撃したら、耐久にステ振りしてない姫ちゃんだとワンチャン一撃死するぞ」
「え、えぇ……そんな殺生な」
手を伸ばせば、いや、足を延ばせば届くところに求めたものがあるかもしれないのに、わたしじゃその場に行けないっていうの⁉
そんなのって、あんまりだよ……。
「そこで、こいつの出番だ」
アヤタカガさんはわたしのほっぺをむにむにするのをやめると、メニュー画面を操作した。
そして、空中にそれが投影される。
メッシュ状の3D衣装データだ‼
「こ、これって……!」
「そう! 姫ちゃん専用に作った新衣装だ! これを千年コットンで実体化するとどうなると思う?」
「ま、まさか紙耐久天翼種のわたしでも落雷地方への遠征が可能に⁉ というか衣装デザインカッコいい‼ 何これ⁉ むぎゅ」
「落ち着け」
「はい」
うん?
なんかほっぺたをむにむにされると落ち着く刷り込みをされてる気がする。まあいっか。
「サイバー系のタクティカルファッションだな。姫ちゃんのアバター自体が人間離れしてるのと、メインウェポンがアサルトライフルってのもあって似合うと思う」
カッコいいいいいいい!
綿素材からこんなデビルカッケエ衣装が生まれていいんですか⁉ 鳶が孔雀を生むくらいの驚き‼
「それじゃ、作成するぞ……?」
「お願いします! アヤタカガ先生!」
千年コットン、着色料、その他いくつかの合成素材。それらがメッシュ状の衣装に吸い込まれて、光に満ち満ちていく。
まばゆい光が収束したとき、それはこの世に爆誕した。
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Millenium Optimize
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千年コットンをベースに作られた。
防御力、魔術耐性ともに高い数値を誇る。
作:アヤタカガ
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