幕間 "彼"が"俺"になった日 + スキル一覧など(おまけ)
アヤタカガさんと別れたあと、パンドラシアオンラインから一度ログアウトした。
少し遅めの朝食をとるためだ。
マーガリンを塗った食パンを貪りながら、俺はアヤタカガさんに言われた言葉を思い出していた。
――元の自分は思い出せるか?
「鋭いよなぁ」
思い出せるわけがない。
というか、思い出せないから必要だったんだ。
この、人物像模倣が。
きっかけは、"彼"が11の頃だった。
空っ風の吹く、塾帰りの夜だ。
その日のことを、俺は今でも思い出せる。
どうして"彼"ではない"俺"がそれを覚えているかと言うと、同じ脳に焼き刻まれた映像がどうしたって消えてくれないからだ。
明かりのない我が家の扉を開けた先で、家族の死に直面した。
強盗殺人だった、と後から聞いた。
とは言っても、この時の"彼"は何を言われても上の空だったのだけど。
彼の心には澱が溜まっていた。
あの日の夜、コンビニに寄り道して週刊誌を立ち読みせずまっすぐ家に帰っていたならば。
そんな、ありもしないもしもを、ずっと、考えていた。
もちろん、間に合っていたならば"彼"も巻き添えを食って死んでいただろう。物言わぬ肉塊の一部となっていただろう。
それでも、都合のいい未来を妄想せずにはいられなかった。
どうしてあの日寄り道してしまったのか。
なぜすぐに家に帰らなかったのか。
そんなドロドロに煮詰まった悔恨が、心という鋳型に満ち満ちていた。
――そう言うなよ。あんたの甥っ子だろ? かわいそうだとは思わないのか?
――嫌よ、あんな不気味な子。それより、あんた医者でしょう? 子供ひとり養うくらいの蓄えがあるんじゃなくって?
――ふざけるな! 俺には嫁も子供もいるんだよ!
気が付くと、記憶は葬儀場でのやり取りに切り替わっていた。
黒い服を着た大人たちが、俺を押し付けあっていた。
正直、どうでもよかったけど。
(――死んだら、みんな忘れちまう。俺の家族のこと、全部)
何が琴線に触れたのかはわからない。
だけどこの時、確かな熱源を心の奥底で感じた。
煮凝っていた悔恨が、再び融解する。
とたん、喉をかきむしりたい衝動に襲われた。
辛くて、苦しくて、自分が壊れてしまう気がした。
意識が遠のいて、視界が眩む……。
深層意識に潜り込んだのは、これが初めてだった。
バラバラに砕けた球体パズル。
その内側で渦を巻く、ドロドロの黒い粘液。
それが自分の心なんだと理解するのに、時間はかからなかった。
「……それで、ピースを必死にかき集めて、どうにか組み立てて、それでも足りない部分は代替品で継ぎ接ぎして」
"彼"は、"俺"になった。
普通の子を演じて、引き取り手も決まった。
高校を卒業するまで面倒も見てもらった。
あの日俺が生き残れたのは、この技法を運よく会得できたからだ。
その代償に"彼"は失ったけれど、それももはや他人事だ。今になって取り戻そうと躍起になる人物像ではない。
「んく……っ、ごっそさん」
食パンをぺろりと平らげたあとは、再びVR機器をセットした。
ログインする前に、自分の意識を深層世界に落とし込む。
さて、始めようか。
――"お前は誰だ。お前は何者だ"
……わたしは。
【使用武器】アサルトライフル
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【名称】Artemeres' Blessing
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【説明文】
アルテミアス鋼をベースに作られた。
細部に樹脂を使うことで軽量化されている。
作:アヤタカガ
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【使用可能スキル一覧】
【ヒール】:中級の回復魔法。
【旋回】:ドッジロールの無敵時間微増。
【空亡】:空中時与ダメージ増加。
【牙城自縛】:バインド系の攻撃時、相手のDEXに下降補正が掛かる。
【下剋上】:格上と戦闘時ステータス上昇。
【天華乱墜】:魅力値に応じて味方ユニットの能力大幅上昇。
【ステータスポイント割振】
魅力:180(種族補正込で360)
他:0