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7話 勝利を確信するには、まだ早いんじゃなくって?

 攻め手に欠ける。


 【厄災】カ・リシリィと攻防を繰り広げること数分。強く感じていたのはそれだった。


 骸骨騎士さんが剣を振り上げる。

 そのわずかな間に厄災は糸を編み上げ斬撃を待ち構える。

 骸骨騎士さんはたたらを踏んで攻撃をキャンセルする。


 届かない。骸骨騎士さんの斬撃が。

 【厄災】カ・リシリィが張り巡らせた防壁を前に、終始攻めあぐねている。


 つまるところ、この戦いはわたしが厄災の牙城をぶち破れるかどうかにかかっている。


照準(Lock)発射(Fire)!」


 ならばと、骸骨騎士さんの攻撃に息を合わせる。

 狙いはひとつ。

 奴が投擲した網が展開する前に、弾丸で撃ち抜くこと。


 一呼吸のうちにトリガーを引いた。

 狙い通りの位置、タイミングで、弾丸が肉薄する。


 だがしかし、ことは期待通りに運ばなかった。

 わたしの狙撃を察知した厄災が、からめ手を仕掛けるタイミングを一拍ずらしたからだ。

 撃ち出された弾丸が空を裂く。


『くっ、デカい図体してちょこまかと……! だったら、これでどう!』


 わたしはArtemeres' Blessingからカートリッジを引き抜くと、もうひとつのカートリッジと交換した。

 すなわち、パラサイトシードを弾丸に詰め込んだ特殊弾への換装だ。


発射(Fire)!」


 当たりさえすればこちらのものだ。

 時間をかけてスリップダメージを稼げばいいし、スキル【牙城自縛(がじょうじばく)】の効果で相手の敏捷性を落とすこともできる。


 こちらの攻撃に厄災、あんたはどう応える?


『糸で防いだ……悪くない反応だけど――』


 音速を超える弾丸を、しかし厄災は吐き出した糸でからめとった。粘着質な糸に運動量をかすめ取られ、弾丸が動きを停止する。

 いい狙いの的だよ。


「【ヒール】!」


 (まゆ)のように雁字搦めに巻き付かれたパラサイトシード目掛けて手をかざし、【ヒール】を飛ばす。

 突き破れッ‼


――――――――――――――――――――

【MISS】パラサイトシード

――――――――――――――――――――

吸収できる生命力が見つかりません。

【ヒール】による生育に失敗しました。

――――――――――――――――――――


「んなっ⁉」


 あいつの吐いた糸は非生命体扱いなの⁉

 いやまあ言われてみればそうなんだけど……。

 くっそー! 厄災の一部扱いでいいじゃん!

 丁寧に判定設定しやがって……!



 ……気が付けば、全身が燃え上がるような熱に侵されていた。体中から鮮血が吹きこぼれている。


『あははっ、これは、負けたかも』


 残存MPを確認する。

 ヒールは打ててあと一回。


(骸骨騎士さんの方も……HPが25パーセント切ってるか)


 ふたり揃って満身創痍。

 厄災にも相応のダメージを負わせているけれど、相応。まだまだ倒しきるには程遠い。


 ああ、楽しいな。


 これだけ死力を尽くしても、届かない。

 遥か高みにいる強敵。

 そういう相手をさ。


『引きずり落としてあげる……是が非でも』


 考えろ、考えるんだ。

 一見絶望にも見えるこの盤面。

 必敗の結末につながるこの状況を、覆すにはどうすればいい。


「……Ready, steady」


 口元についた血を、手の甲を使って拭う。


「GO‼」


 瞬間、わたしは翼を広げて飛び立った。

 広間の天井ギリギリまで飛翔して、ローリングする。


 がしりと、この両足が足場を掴んだ。

 床ではない。本来人の頭上に位置する天井だ。

 逆さ吊り同然の格好で、わたしは厄災と対峙した。


 眼下に収める厄災の多眼と、目が合う。


 厄災は腹をもたげると、糸を編んで投網した。

 飛来する、張り巡らされた捕獲網。

 もはやわたしに逃げ場はない。


 だからとっさに、わたしはインベントリを開いた。


『わたしからのプレゼントよ。受け取りなさい――腐乱ウルフの腐った肉をッ‼』


 瞬間、虚空に大量の肉塊が出現する。

 わたしから見て下方、厄災から見て上空に現れたその肉片は、重力に従って鉛直落下運動を開始する。


 その先にあるのは、獲物を今か今かと待ち構える網目状の粘着糸。

 無差別に捕食するその包囲網が、突如現れた腐肉を見境なく捕縛する。


 そして、わたしの真下には肉の山が積み上がった。


照準(Lock)


 その山頂に、わたしは銃口を向ける。


「貫け……パラサイトシードッ‼ 発射(Fire)‼」


 撃ち出された植物の種が、腐乱ウルフの肉の山に突き刺さる。突き刺さっただけ。貫くには至らない。


『まだよ! 【ヒール】ッ‼』


 わたしは再度、パラサイトシードに向けてヒールを放った。MPゲージがぐんっと減少して底を尽く。


 そして――


・WTF⁉

・Why did the tree suddenly appear!?

・Ren, were you not a healer?

・I'm not sure, but it's a chance!


 ――突如現れた樹木が、堅牢鉄壁なる厄災の防護壁を突き破る‼

 厄災を装甲ごと貫いて地面に釘刺しにする‼


――――――――――――――――――――

牙城自縛(がじょうじばく)】発動

――――――――――――――――――――

【厄災】カ・リシリィのDEXに下降補正中。

――――――――――――――――――――


『養分が足りないなら、補ってあげればいいじゃないってね』


 そう、わたしが投下した腐乱ウルフの肉塊。

 あれは投網に対する苦肉の対応策でも、まして厄災の視界を奪うためのものでもない。

 すべてはパラサイトシードを発芽させるための布石だったのさ!


『骸骨騎士さん‼ お願いッ‼』


 わたしが声をかける前には、彼はすでに動き出していた。五寸釘を打ち付けられた藁人形のように地面に縫い付けられた状態の【厄災】カ・リシリィに、骸骨騎士さんの容赦ない斬撃が降り注ぐ‼


 目に見えて減少していく厄災のHPゲージ。

 すでに危険を知らせる領域に突入したそれは、残存HPを真っ赤に染め上げている。


 あと少し、あと少しで倒せる……!


 だというのに、ここに来て厄災が攻撃パターンを変えた。

 これまで腹からだけだった糸を、今度は口から吐き出したのだ。

 完全なる予想外の一手。

 防御ガン無視攻撃全開、一気呵成に責め立てていた骸骨騎士さんは、ものの見事に束縛される。


 厄災がニタリと口角を歪めた。


『勝利を確信するには、まだ早いんじゃなくって?』


 地面に降り立ったわたしは、厄災のそばで銃を構えていた。否、突き立てていた。

 成長したパラサイトシードが貫いた、この魔物の頑強な装甲の内側に向けて。


 振り返った厄災の表情が凍り付く。

 もう遅い。いまさら気づいても、手遅れだ。


斉射(Fire)ッ‼」


 セレクタを操作しフルオートに切り替える。

 引き金を引き続けている間、弾丸を連射し続けるモードだ。

 秒間20発の超火力。

 耐えられるもんなら耐えてみなよッ‼

 【厄災】カ・リシリィ‼


 ――ズガガガガッガガガガガ‼


 カートリッジ内の弾丸を、あっという間に全弾打ち尽くす。厄災が金切り声を上げる。金切り声を上げて、そしてそれが……厄災の断末魔となった。


 どさりと崩れ落ちる厄災の体。

 その体が、ポリゴン片となって霧散する。


「……た」


 指先痺れる。脳が震える。

 倒したのか? 倒したんだよね?


――――――――――――――――――――

【Level UP;19】

――――――――――――――――――――

スキル【下剋上】獲得

【下剋上】:格上と戦闘時ステータス上昇。

取得条件:自分よりレベルの高い相手に勝利時に確率で取得。


スキル【鼓舞】獲得

【鼓舞】:魅力値に応じて味方ユニットの能力微増。

取得条件:魔物からの信頼度を一定以上にする。


スキル【鼓舞】進化

レアスキル【叱咤激励】獲得

【叱咤激励】:魅力値に応じて味方ユニットの能力上昇。

取得条件:魔物と共に、エリアボス以上の敵を倒す。


レアスキル【叱咤激励】進化

ハイレアスキル【天華乱墜(てんからんつい)】獲得

天華乱墜(てんからんつい)】:魅力値に応じて味方ユニットの能力大幅上昇。

取得条件:魔物と共に、厄災を倒す。

――――――――――――――――――――


「勝ったぁぁぁぁぁぁ‼ しゃおらぁぁぁぁ! 見たかぁぁぁ! わたしが、最強だぁぁぁぁ‼」


 ポップアップしたレベルアップウィンドウに、拳を天高く突き上げる。


――――――――――――――――――――

【World News‼】

――――――――――――――――――――

Renさんが【厄災】カ・リシリィの

討伐に成功しました!


セーフティタウン【アカシア】開放!

――――――――――――――――――――


ちなみに(読まなくていいやつ):

カリシリイ→イギリス英語で鋏角類。

パラサイトシードってモンスター以外にも有効なんだ?→貰ったときに「畑で育ててね」って言われてました。養分さえあればどこでも育ちます。

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