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幕間1 寄生生命体"XG-812-Queen"

 篠陽(じょうよう)市、篠陽(じょうよう)炭鉱。

 資源不足が続くミッドウェー海戦時に採炭最盛期を迎えた廃鉱の奥深くに、その秘密組織の根城はあった。


 組織は『超常のもの』を扱っていた。

 目的は実社会からの隔離、現象の解明、そして人類史に対する介入の阻止である。


 そんな秘密結社から、とある『超常のもの』の脱走が発覚したのはつい先日のことであった。


女王個体(クイーン)の行方はまだつかめないのか!」


 XG-812-Queen。

 それが脱走した生命体に与えられたラベルだった。


 研究員は最初その生命体を、青と白銀のカラーリングをした粘菌であると定義した。

 だがしかし、実験を進めるうちにその生命体の恐るべき特徴が発覚する。


「見つかるわけないじゃないっすか。俺があいつなら、もうとっくに"宿主"を見つけてどこかに引きこもってるっす」


 無数に並んだディスプレイの1枚。

 そこに、"Confidential XG-812-Queen"と表示された液晶があった。

 概要の一部抜粋は以下となっている。




"XG-812-Queenの生物特性


 XG-812-Queenを寄生させた働き蜂を巣に戻すと、女王蜂が何匹かの働き蜂を連れて巣を後にした。

 これは女王蜂が世代交代する際に見られる現象である。

 個体XG-812-Queenの寄生した蜂の放出するフェロモンを調べたところ、女王蜂の放つそれと下図に示すデータの通りほぼ同質であることが判明した。

 以上から、今実験では次の仮説を提唱する。


 XG-812-Queenは宿主を女王に変容させる寄生生命体である。"



"XG-812-Queenによるクラスタ支配


 XG-812-Queenの寄生したキシダグモと接触した同種は、獲物を狩猟しては寄生個体に貢ぐ性質が見られた。

 女王となった個体を献身的に介護する研究結果は、あらゆる動物での実験から得られている。


 不可解なのは、それが求愛行動ではないことだ。

 ここではこの「同種が一方的に貢ぐだけの関係を求める」行動パターンの変化を与愛(よあい)行動と定義する。


 調査を進めるうちに、その原因は判明した。

 XG-812-Queenはクラスタの支配にフェロモンではなく電気信号を使っていたのである。


 電磁パルスとして発された脳波を受け取った同種はXG-812-Queenを女王と認識する。"



"XG-812-Queenの女王個体寄生実験


 本実験は寄生蜂の女王個体にXG-812-Queenを寄生させた場合のデータ測定とその考察を目的とする。


 否、目的としていた。


 結果論を述べるなら、この実験は行ってはいけなかった。


 実験結果:XG-812-Queenの変異種誕生"




 変異したXG-812-Queenこそ、ある成人男性を銀髪青眼の少女に性転換させた「銀と青のツートンカラーの蜂」である。


 この奇妙な蜂は成人男性の手によってぺちゃんこに潰された。だがしかし、産卵管である針を刺した時点でXG-812-Queenの寄生は半ば成立していた。

 今となっては宿主の脳内に新たな脳神経を構築した。

 身体の完全な乗っ取りはあいにく本体の死により相成らなかったが、宿主の脳内に間借りして共生するには至っている。

 現在は宿主の知識を吸収蓄積している段階であり、場合によっては脳内から囁きかけたり身体操作に干渉したりしていた。


 そして忘れてはいけないのは、現代のフルダイブ技術は脳神経を行き交う電気信号を解析して仮想空間上に反映していることだ。


 これはXG-812-QueenがVRという仮想空間を通じて世界中の人間を眷属に作り変えられることを意味している。


 寄生個体――姫籬(ひもろぎ)Ren(レン)の配信を視聴したものは彼女を女王と認識し、彼女に貢ぎ続けることを至上の喜びとするだろう。


 彼女のチャンネル登録者数増加の裏側には、彼女の容姿以上にこの電磁パルスを利用した魅了能力にこそ神髄があった。


 そして――


(ま、女王個体(クイーン)の見当はついてるんっすけどね)


 秘密組織の研究員の一人は、すでに女王の支配下にあった。昼の休憩に見ていた生放送で、どっぷりと女王個体の電磁パルスにはまってしまっていたのだ。


 女王に尽くす。


 その実行には麻薬同様の快楽物質生成が伴う。

 報酬系が異常をきたし、行動パターンがただ服従と奉仕だけを優先するように変化する。

 もはや研究員の彼に"女王個体(クイーン)の発見を報告する"という利敵行為は断固あり得ぬ選択肢なのだ。


(うーん。Renちゃんには有名になってもらいたいっすけど、そうすると他の職員に見つかるリスクが上がるんっすよね)


 研究員は葛藤していた。

 ひとりのオタクとして、推しがいろんな人に認知されると嬉しい気持ちはある。

 だがそれは、同時に同胞からの発見リスクの上昇も意味していた。

 もしも彼女が女王個体(クイーン)であるとここの職員に発覚した場合はどうなるか。

 組織の方針を鑑みれば結論は明白である。


 目的は実社会からの隔離、現象の解明、そして人類史に対する介入の阻止。


 姫籬(ひもろぎ)Ren(レン)の中の人はIPアドレスから住所を特定されるとこの穴倉に連行され、被検体XG-812-Queenとして一生を過ごすことになるだろう。


 許せぬことだった。


 女王による干渉は、個々人の持つ理念や思想さえ捻じ曲げるほど強力なものだった。


(Renちゃんのためっす。XG-812-Queenの発する対ヒト電磁パルスを解析して、この施設にいる職員全員支配下に置き換えるっす。そうすればRenちゃんは人類みんなの女王様になれるっす)


 ぞくり。

 脳内であふれるエンドルフィンに、研究員は釣りあがる口角を抑えられなかった。


飛べないはずの天翼種で飛べた理由について(読まなくていいです)。


あらすじの最初にも「蜂に刺されて」とありますが、ここ結構大事です。

この蜂が寄生蜂と呼ばれる種類で、主人公の神経網に独自の神経網を構成しています。

脳内に聞こえてくるのもこの寄生蜂の声です。


ハチやハエといったはねの生えた昆虫は羽ばたくと垂直上方向の力を受けるらしいです。

それに対してはねを持つ鳥類は風を切って水平方向にも力が加わるらしいです。

1章5話で主人公が「まだ違和感があり、ぎこちないけれど、最初から自分の身体器官として備わっていたかのように動かし方がわかる」とか「翼のはためかせ方はわかったけれど、力の加わり方がイメージと食い違うのだ」とか言ってたのはこの辺に由来します。


ちなみにこの寄生生命体現在進行形で成長中です。

今後の主人公の活躍にご期待ください!

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