6話 素材にこだわろう
【エンジニア 話しかける タイミング】
で画像検索すると、カエルとか猫が描かれたイラストがヒットする。
どうして急にこんな話を振ったかと言うと、アヤタカガさんが完全に集中モードに移行していたから。
話しかけるのもためらわれるくらい。
すごいのよ、これが。
最初はただの平面だったのに、見る見るうちにカッコいいライフルの形に変わっていくの。
この時点では立体の設計図みたいなものだから、点と線をつないだメッシュ構造を3D投影してるだけなんだけど、もうこの時点でカッコいい。
「この人やば……わたしたちと流れる時間の早さが違う世界に生きてるよね」
・操作が速すぎるwww
・何が起きてるんです
・モデリングスピードが頭おかしい
・時間の流れが違うすごいわかる
もはや何がどうなってるのか全然わからない。
ただただ目まぐるしい速度でアサルトライフルのモデルが作られていく。
わたし専用の、フルオーダーメイドのライフルだ。
中でもヤバイのは、きちんと内部に弾丸の射出機構を組み込んでいること。よくあんな狭い部分にこうも緻密なパーツを組み込んでいけるものだよね。
「あ、そうだ。姫ちゃん、ちょっといい?」
「はいはい! なんですか?」
作業の途中で、アヤタカガさんに声をかけられた。
その間も彼女の腕が止まることは無かった。
相変わらずゴキブリが裸足で逃げるくらいの速度でカサカサと腕が動いている。
「モデリングが済んだ後は、インスタンス化するための素材が必要なんだよね。材料のメモ渡すから、NPCの素材屋で買ってきてくんない? 金はもちろん払うから」
「お安い御用です! ……あれ?」
配信画面も代り映えしないと視聴者も飽きるだろうし、お使いに行くことに異論はない。
でも、一点だけ。
わたしには気になることがあった。
「ってことは、素材にするアイテム次第で出来上がる武器の性能も変化したりします?」
「お、いい着眼点だね。その通り。試しに銑鉄と玉鋼で同じ刀を作ってみたら耐久度も切れ味も段違いだったよ」
「……へぇー? わかりました! すぐに戻りますんで!」
「おう! 頼むわ」
それはいいことを聞いたなぁ。
満面の笑みを浮かべながら、誰でも利用可能な生産施設を後にする。
「みんな聞いた? これはもうさ、やるしかないよね。なにを? ででででで、ぽーぅ! ストーンゴーレム狩り!」
・ワロタ
・マジでやるのかよw
・えぇ……ストーンゴーレムってそんな簡単に倒せないでしょ
・倒すころにはモデリング終わって待ち呆けてそう
「大丈夫! 時間かけないから!」
問題があるとすればエリアボスが復活するまでの時間だけど、そっちはさっき有識なリスナーが1時間で復活するって言ってた。
最初に倒してからもう1時間以上たってるし、もう一回狩りにいけると思うんだよね。
「飛びます」
・飛びます(原理不明)
・実際のとこなんで飛べてるの?
・センス?
・実はリアルでも羽が生えた天使の可能性……?
「夢を壊す様で申し訳ないですけど、リアルは普通に人間ですからね?」
いや、うーん。
TSした人間を普通と言っていいのかはわからないけど。
「あ、ありました。あそこの窪地がストーンゴーレムのいる地点ですね。近づくと周囲の岩が合体してゴーレムになります」
・みんなのトラウマ
・何人のプレイヤーが何も知らずに窪地に飛び込んで、逃げることも倒すこともできずにデスペナをくらったことやら
そうか。
わたしは飛べたからあんまり気にならなかったけど、そうじゃなかったら脱出するためにはロッククライムしないといけないわけだ。
そうなると投石の格好の餌食になるわけで、アリ地獄なみに凶悪な地形なんだ、ここ。
「たしかに凶悪なんですけど、わたし気づいちゃったんですよ。ストーンゴーレムになられると厄介なら、合体変身中に攻撃しちゃえばいいじゃない」
・ドチクショウな発言をこんないい笑顔で……!
・変身中は攻撃しちゃいけないって習ったでしょう!
「いやいや! 特撮とかって変身バンクのイメージが強くてそういうお約束があるって思われがちですけど、実際爆撃されながら変身って結構多いですよね」
・Renちゃん特撮も見るんだ……!
・手の届かないくらい高嶺の美人なのにすごく身近に感じる
「ということで先手必勝です」
狙いを定めると、風切り羽を響かせて窪地を目指して急降下する。
もう地面はすぐそこだ。
だというのに、ゴーレムは動き出す気配がない。
あれ? 復活してない?
ワザップされた?
あいや待って。
そう言えば最初に来た時も、着地してからイベント戦が始まったんだよね。
「もしかして、接地してないと合体イベント発生しない?」
慎重に、脚をつけないように、パラサイトシードを握った手を石にくっつける。
ゴーレムが立ち上がる揺れで種が振り落とされないように、フィールドで採取できるどろだんごも一緒にくっつけておく。
岩には触れないように慎重に行ったからか、いまだにゴーレムが起動する気配はない。
いつでもヒールを飛ばせるように手の平をパラサイトシードを埋め込んだどろだんごの方にかざし、ストーンゴーレムの上に立つ。
・きたぁぁぁぁ!
・エリアボス戦! しかもソロ! ワクワク!
・勝てるのか? 本当に勝てるのか?
まるで感圧板でも仕込んでいたかのように、わたしの着地をきっかけにゴーレムが立ち上がる。
動くと分かっていたら尻もちをつくなんて醜態も晒さない。
着地してすぐに飛翔したわたしは、ストーンゴーレムのHPバーが現れたのを確認してヒールを放つ。
「【ヒール】!」
するとどろだんごの中からめきめきと樹木が生えてきた。
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【空亡】発動
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空中にいる間、与ダメージが増加します。
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【牙城自縛】発動
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ストーンゴーレムのDEXに下降補正中。
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「あ、そうじゃん。スキル新規取得したからさっきより簡単に倒せるじゃん」
もともとDEXが低いからか、パラサイトシードを生やされたストーンゴーレムはまったくもって身動きが取れていない。
お得意の投石攻撃すらままならない。
豊富なHPバーだけがゴリゴリ削られていく。
・これはひどい
・HPバーが減ると攻撃パターンが変化して……変化して……あれ?
・動け、動け……! 動いてよ!
・まさかのハメ殺し
ほどなくしてゴーレムの体がポリゴン片に変化して、わたしのほうにはレベルアップを告げるファンファーレが鳴り響いた。
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【Level UP;9】
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【収穫】パラサイトシード
【収穫】パラサイトシード
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「ね? 簡単でしょう?」
・あれ? 魅力特化ヒーラー強くね?
・ヒーラー……ヒーラー?
・敵にすら癒しを与えるRenちゃんは天使だなぁ
・癒し(回復分以上のダメージを与える)
・死は救済だから仕方ないね
オタクくんたちわたしのこと死神か何かと思ってない?