5話 プロの生産職とコラボ配信
祝! 週間VRゲーム部門第1位‼
感謝、圧倒的感謝です!
今後ともよろしくお願いいたします!!!!
「フルオーダーメイド?」
「要するに、モデリングからテクスチャ、シェーダーに至るまでアタシに任せてくれねえかって話だ。変形ギミックなんかも盛り込めるぜ?」
生産職のアネゴは一本の竹刀をインベントリから呼び出すと、チャキと手首を素早く返した。
すると先ほどまで竹でできていた刀身が、次の瞬間には黒鉄の刀身に切り替わっている。
「おおおお⁉ すごい! なにこれすごい!」
「へへっ、そうだろそうだろ?」
「かっこいい!」
「ふふん! そうだろ!」
「サイコー!」
「うへへぇ、褒めんな褒めんな」
「大天才!」
「あったりめえよ」
生産職ってすごい。
改めてこの人のお世話になりたいと思った。
「で、なんかねえか? アルテミアス鋼を出してくれるってんなら、可能な限り要望に応えるぜ?」
要望、要望ね。
うーん、わたしにあった武器って何だろう。
今のところ戦闘スタイルが固まってないんだよね。
せっかく天翼種なんだから、飛べるという長所を生かした遠距離構成にしたい。魅力特化のおかげでメインウェポンはパラサイトシード。
「なんか、こう、植物の種を飛ばす武器ってあります?」
「種を飛ばす? スリングショットか?」
「え、このゲームの狙撃武器って弓以外もあるんですか?」
「ねえなぁ、普通は。けど、アタシの店はフルオーダーメイドだぜ?」
「アネゴ……!」
そ、そんなのありなのか……!
「え、じゃあ、じゃあもしかして! こういうのも作れますか?」
わたしはちょいちょいと手を動かして、アネゴに顔を寄せてもらった。耳に顔を近づけ、耳打ちする。
「……姫ちゃん、それ本気で言ってる?」
もちろん!
*
「やほー! みんなさっきぶりー! 本日2回目の配信はじめるよー! あつまれー!」
・やほー!
・待ってました俺の唯一の楽しみ!
・Renちゃんこんにちはー
・また来たよー
平日の昼過ぎだというのに集まってくれるみんな好きだよ。普段何してるのか気になるけど。
「前回の配信の後、ゴーレムを倒したり、町を探索してたら隠しスポットを見つけたりしたんだけどー」
・なんでそれを配信しないのwww
・ワールドニュースに出てたRenちゃんってやっぱりRenちゃんだったのか
・ストーンゴーレムって耐久お化けなのにどうやって倒したの?
「ごめんなさい。実は使っちゃいました、パラサイトシード……。だって仕方ないじゃん! 私よりおっきい岩がびゅんびゅん飛んでくるんだよ⁉ 当たったら超痛いんだよ⁉ 倒すしかないじゃん!」
・倒すしかないじゃん(普通は倒せない)
・呪いのアイテムっぽいよねって話はどこに
・ここかわいい
・切り抜きチャンネル作っていい?
「あ、切り抜きはご自由にどぞー。まあまあそんなんでパンドラシアオンラインを満喫していたわけなんですけど! すっごいプレイヤーと出会ってしまったのです! 入ってきてー」
「お、おいマジでやんのかよ」
やる。
こんな面白そうなこと共有しないわけがない。
ほらほら、コメントも「コラボ?」とか「ゲスト気になる」とか盛り上がってるから。
「というわけで、ゲストのアヤタカガさんです! アヤタカガさんは生産職らしいんですけど、なんとモデリングから自作してるらしいです! しかもどれもこれも超・超・魅力的! もうわたしひとめぼれしちゃって、この度フルオーダーメイドで武器を作ってもらうことになりました! イエーイ!」
・選ばれたのは、アヤタカガでした
・オタクの呼吸弐の型「早口」
・Renちゃんってかわいいけど俺たちの同類の匂いがするよな
・だから安心できる
「えと、アヤタカガです。その、なんだ。姫ちゃんの武器を作らせてもらうことになったから、よろしく頼むわ」
・姉御肌だ……!
・緊張してて初々しさがかわいい
・わかる。Renちゃんとは別ベクトルのかわいさ
・つまりふたつ合わされば最強なのでは?
アヤタカガさんは照れてた。かわいい。
「で! 大事なところです! 今回、アヤタカガさんに作ってもらう武器はこちらです! ででん! アサルトライフル‼」
・草
・アサルトライフル持ったRenちゃん……ハァハァ
うわ、まーた変態さんがいる。
うちの視聴者は変態さんしかいないなぁ。
でも武装少女が可愛いのはわかるから許す。
・このゲーム武器カテゴリに銃器なんてあるっけ
「ねえよ。だからきちんと弾丸が打ち出せるようにモデリングの時点で作り込まなきゃなんねえ」
アヤタカガさんは不敵な笑みを浮かべた。
この人あれだ。
無理難題とかを前にすると燃えるタイプの人だ。
好き。これからもよろしくさせてもらおう。
「はい、アヤタカガ先生!」
「あん? なんだ?」
「そもそも銃弾ってどうやって発射されてるんですか?」
「そこからか……」
ごめんなさい。わたしミリオタじゃないんで。
ほら、コメ欄も基本的に気になるって意見が多いじゃん。一般的な知識じゃないよ、多分。
「サバゲーで使われるソフトエアガン――BB弾を打ち出す遊戯銃は気圧を利用して発射する。パンパンに膨らんだ風船を鋭いピンで刺したら勢いよく破裂するだろ? それを銃身で指向性を持たせて弾丸を加速させるイメージだ」
「あれ? 火薬って使わないんですか?」
「エアってついてんだろ。火薬で弾丸を飛ばすのは実銃。こっちは薬莢っていう黄銅の筒に詰め込んだ火薬を後方から着火剤で起爆させて弾頭を打ち出す仕組みだ。映画とかで銃を撃った後にコロンって転がるパーツがあるだろ。あれが薬莢だ」
「はえー、詳しいんですね」
「ゲーマーだからな」
へへへと笑って鼻の下を指でこするアヤタカガさん。
「ま、火薬を使った奴の方が当然威力は高い。けど、現状は実現不可能だろうな」
「え? なんでですか? せっかくならロマンを求めましょうよ!」
「そうしたいのはアタシも山々なんだけどさ、ねえんだよな、火薬が。まだ見つかって――」
「火薬ならありますけど」
「……は?」
わたしは秘密の園で入手した【爆裂の花粉】を提示した。アヤタカガさんはしばらく凝視した後、あんぐりと口を開けて目を見開く。
「んなっ⁉ マジかよ⁉ な、なあ姫ちゃん! これをいったいどこで⁉」
「んー、秘密です」
「くぅ……! 信用が足りないか……! いや、いい。これがあるなら、実銃に近いもんを作れるかもしれねえ!」
あ、いや。信用の問題じゃないんですけどね。
ただ店主さんと他言無用の約束をしたからって話で。約束をすっぽかすようなら、それこそわたしの信用がなくなっちゃうじゃないですか。
ヒヤシンス。
さて、アヤタカガさんはというと、ハンドガンを一丁取り出すと目まぐるしく腕を動かしていた。ゴキブリすらおののくレベルだ。残像が見える、見えるぞ。
くるくるとハンドガンが回ってるあたり、多分3Dモデルの編集をしてるんだと思う。
「よし、姫ちゃん! 火薬の調整するから訓練場行こうぜ!」
「訓練場?」
「お? 知らねえのか? 武器の練習をする訓練カカシがある場所だよ。DPS――1秒あたりのダメージまで算出できるゲーマー御用達の施設だぜ?」
「おお! いいですね! 行きましょう!」
というわけで、さっそく訓練場に向かい、小部屋に入る。
パンドラシアオンラインは基本的にシームレスマップなんだけど、訓練場だけは一部屋一部屋自動で生成されるらしい。
まあ他人同士で同じカカシを攻撃してたら誰がどれくらいのダメージを出してるかわからないからね。
「んじゃ、ぶっぱしてみてくれ。かなりの反動があると思うから両手でしっかり持てよ? そうだ。後は一呼吸で引き金を引くんだ」
手取り足取り、アヤタカガさんが銃の構え方を教えてくれる。そうすると当然肌が密着するわけだ。
……うーん、女性とふれあってるはずなのに、興奮しない。
相手が電子の体だからなのか。
はたまた脳が同性だと認識しているからなのか。
この場合は自分の人物像模倣の練度を褒めるべきだと思うけど、同時に記憶と感情の齟齬に不安も覚える。
もし思考が記憶の方に引っ張られたら、事故配信になってしまうのでは――
――ズドォン!
「むぎゃぴぐぇ⁉」
煩悩が吹き飛んだ。わたしも吹き飛んだ。
「姫ちゃん⁉ 大丈夫か⁉」
「いたたぁ……銃ってこんなに反動が強いんですね」
「んなわけあるか! 最初だし火薬は控えめにしてたんだけど、こりゃほんとにちょびっとありゃ十分だな……」
アヤタカガさんはちょいちょいと指をさした。
その方向は先ほどまでカカシがあったところ、ではなく、的外れの壁。
「反動が強すぎて照準があってねえんだ。ダメージはなかなか面白かったけどな」
大きな風穴が開いていた。
姉御肌のキャラとコラボ配信するTS主人公好き。
みんなはどう?