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兎の天敵

Vtuberものは初めて書きます。BLも初めてなので拙いところがありますが、生温かく見てもらえたら嬉しいです


 あの人が現れてから、世界がキラキラして見えた。

 安住はゲームが苦手だ。好きなのに、プレイがど下手くそなのだ。それもそのはず、ゲームは社会人になり一人暮らしを始めるまで、実家で禁止されていた。それでもいろんなゲームをしてみたかった。買っては試行錯誤して、エイムやルールなどがわからず諦める日々。

 そんな中、動画サイトで攻略を調べていると、ゲーム実況というものをやっている人を知った。

 初めて見かけたその喋るアバターは、二兎奏というらしい。サムネイルをクリックすると、

『おはにー!二兎奏だぞい。今日も僕の配信に来てくれてありがとうなっ。昨日のほけモンの続きをやっていくぞい』

 可愛らしい声が、安住の耳に突き刺さった。

 なんて可愛いんだろう。声に応じてぴこぴこと動くうさ耳が天使の証に見えた。

 毎日配信を聴き、投げ銭をして、二兎奏に夢中になった。話す内容はサブカルチャーとウィットに富み、親に隠れて読んだ漫画を思い出して懐かしかった。二兎がオタククソ早口、と自嘲するしゃべりも、安住にしてみれば好きだから勢いづいてしまうのだ、と分かって愛おしかった。

 単調な毎日が鮮やかになった。楽しみができたことで、仕事も頑張れた。

「安住、お前、最近いい感じだな。広報がな、宣伝大使を探してるらしい。なんでも身体能力が高いやつがいいんだと。お前、立候補したらどうだ?」

「本当ですか!俺、やります」

 一もニもなく賛成して、広報のフロアへ駆け込む。Vでしかも巨乳のアバター……更に配信時間が二兎とかぶってると知って、うなだれるのはまた別のお話。


vVv


 もうあいつのことぜってーに許さねえ。田中は一心に敵を見据えて燃え上がった。

 田中は個人勢の配信者で、Vの名前を二兎奏にとかなでという。低い身長と細い手足、白髪にうさ耳、大きな赤い瞳、オーバーサイズのツナギ。そのアバターから放たれるロリボイスなキレキレのツッコミが好評を博している、大人気ゲーム実況配信者なのである。

『おはにー!二兎奏だぞい。今日も僕の配信に来てくれてありがとうなっ。昨日のほけモンの続きをやっていくぞい』

 今日も可愛いぞい!というコメントにそうだろうそうだろう、と頷く。

 元々、低い声も高い声も出る両声類というやつだった。隠し芸として高い声のアニソンもよく歌っていた。

 プログラマの仕事がブラックすぎて退職した折、転職活動中に息抜きでVを始めたら、瞬く間に大人気となった。あれ?俺、もしかして可愛い?そう思ったらやめられなくなり、転職活動はおろそかになり、日銭を毎日配信での投げ銭や広告で稼いでいる。

 そんなわけで、毎日配信は文字通り命綱なのだ。しかし、最近、配信の時間を被せてくる不届き者が現れた。

 可愛いライバルが現れることなんてザラだった。それでも、一人で画面に向かって語り続けられる狂気を持つものは少ない。いずれ消えていく。そう余裕を持って眺めていられた。


 しかし、こいつは違った。素人臭いが謙虚で天然な振る舞いが人気を博し、根気強く配信を続け、俺の客層である濃ゆいオタクも半分くらいそちらへ流れたわけだ。

 シャクだったが、研究してやり込めてやろうと思い、鷹見の動画を見てみた。

『初めての人もいつもの人もご機嫌よう!えーと、新人Vチューバーお嬢様の鷹見綾華、ですわ!今日もフィットネスゲームをやっていきますわ。セバスチャン!タオルとプロテインの準備を!』

 金髪縦巻きロールに巨乳ピチピチフリフリ衣装のアバター。並外れた身体能力で胸を揺らしながら豪快にクリアしていくフィットネスゲームは確かに見応えがあった。いろんな意味で!いい意味での素人臭さも身体能力も、真似できるわけがない。ひょろひょろな自分の腕を眺めた。

 鷹見綾華の配信を見ていると、コメントの質問への返事や解剖学に基づいた筋トレ豆知識なども細かく入れており、博学で努力家だとわかる。爽やかで気遣いができ、非の打ちどころがない。リアルでもさぞ、ちゃんとした人間なんだろう。うわー無理。光に焼かれてしにそう。心からこいつが嫌いだ!

 敵を見据えていると、最後のスクワットを終えてた鷹見が

『良い汗かきましたわ!さあ、セバスチャン、プロテインを出して頂戴。……ぷはー!皆さんも、運動の後は鷹見社のプロテイン、お飲みになってくださいね』と宣伝をしている。そう、こいつは企業Vなのである。宣伝大使として、企業から金をもらってゲームをしつつ、宣伝をしている。ひもじい個人勢としては羨ましい限りだ。

 

 真似できない個性で自分を超えてきた相手に対しては、いつもの自分を貫いて、客が戻ってくるのを待つしかない。

 いつも通り、かなにーのクソゲー配信をしていく。

『おはにー!今回はちょっと気合入れてるぞい!なんせガラスの靴アワードが近いからなっ。今回はヒゲがトキメキに突き刺さる!?BLゲーム学園ダンディをプレイしていくぞい』

 なぜかみんな髭面の高校生たちと恋愛をする学園ダンディはクソゲー実況者なら一度はプレイする狂気のゲームだ。雑な作画の尖ったヒゲ、棒読みの台詞、でも妙にクオリティの高いシナリオに引き込まれて楽しくプレイした。

『ええっ、ヒゲが飛んでくるのかよ!?ヒゲ真拳奥義ってか!?避ける選択肢が右と左しかないの何!?初見除けすぎない!?』

 視聴者数はいい感じで、高評価の数も新記録を更新した。


 数日後、ガラスの靴アワードが始まった。画面の前で準備万端だ。さあ、発表はまだか、とじっと見ていたが……アワードは、鷹見綾華の受賞を発表した。動画のダイジェストが流れる。

『皆様のご想像通り、わたくし運動はできても、ゲームは下手ですの。でも、このゲームのストーリーの面白さを教えてくださった方がいらして、やってみたくて!セバスチャンにお願いして、新作のほけモンを用意してもらいましたわ。これからやっていきますわよ!』

『三匹の中から一匹を選ぶんですのね?熱血のファイヤーでいきますわ!あっ、ちょっと待ってもらっていいかしら。長時間座っていると体が鈍ってしまって。スクワットしながら失礼いたしますわ。視聴者の皆様もよかったらスクワットしつつご覧くださいませ』

『ひゃあ!野生のモンスターはこちらに攻撃してくるんですの!?びっくりですわ!!こうなったら、えい!ファイヤーちゃん!やってしまいましょう?』

『ううう、ファイヤーちゃんどうして負けてしまったの……。あら!コメント欄の皆さんから回復薬の取り方が届いてますわ。ありがとうございます!なんとかファイヤーちゃんを助けて、治ったら少しずつ強い子に育て上げていきますわ!』


 誰よりも下手くそなプレイのほけモンの実況だったが、新鮮なリアクションとしっかりとした感謝で溢れていた。微笑ましい教えを乞う様子、成長する姿がコメント欄で喝采を浴びている。

 一方的な敵視がアホらしくなってきたその時、自分の名前が呼ばれた気がして、ハッとした。驚いて巻き戻す。

『よかった、やっとほけモンもこの動画もフィナーレですわね!

コメントありがとうございます!なになに……「ゲームが苦手なのに、どうしてほけモンを知ったんですか?」あぁー!それなのですわ!ずっとお話したかったんです!大好きな二兎奏さまの動画を拝見して、わたくし初めてVのことも、ゲームの攻略の仕方も楽しみ方も教わったんですわ。だから、二兎さまにいつか直接感謝したいですし、ファンだって……その、お伝えしたいのですわ。生意気な新人の言葉ですから、受け取っていただけるとは思いませんわ。でも、いつかお話しできたら最高ですわね!』


 田中……いや、二兎奏はカッと頬が熱くなった。そんな期待されるような人間じゃないんだ、俺は。恥ずかしいと、怖いと、惨めさが織り混ざった感覚がする。


 質問箱の通知がガンガンくる。「鷹見嬢とコラボしてほしいです!」「鷹兎コンビ誕生ありますか!?」

 ……怖い。スマホをぽいっとソファへ投げて、ベッドへ横になった。


 いろんなものを置いておいて、引きこもりたい。

 Twitterのリア垢で「あーー、仕事まじしんどい」と呟くと、

「田中も?よかったら今夜飲もうぜ」と安住先輩から声がかかった。

 目の前がぱぁっと明るくなったような気がした。

「行きます!是非今夜!」と返信してウキウキと過ごした。

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