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7話 誤解

3学期

学校が始まる前に茜と話し合って色々と学校内でのルールを決めた。

まず俺と茜が兄妹になった事は隠しておく事。血の繋がっていない若い男女が一つ屋根の下で暮らしていると知られたら、変な噂も立つ、更に茜は彼氏持ちなので、彼氏からしたらいい気分ではないだろう。彼氏には時期を見て茜から話をする事になっているので、今の所、この事を知っているのは楠木だけとなっている。俺も変に目立ちたくないので、この案には賛成している。


二つ目、茜は卒業まで前の苗字の『清水』で過ごすつもりなので校内での呼び方は以前のように互いに苗字呼びにする事。これは最初の兄妹関係を隠す事に含まれる事になるので、特に異論はなかった。


三つ目、学校では今まで通りで、必要な時以外は接触は控える事。これは俺からの提案だったが、茜は最初反対だった。しかし、過度な接触はどこかでボロがでて、兄妹だとバレる可能性があるという建前でどうにか茜を説得できた。本音は今までの寝太郎生活を維持したいという願望と少しの接触でも変な噂が立ち面倒くさいという事だったが、隠しておいた。


四つ目、登校時間はずらして登校する事。これも同じ家から出てくる所を見られた時点で言い訳できないので、話し合いの結果俺が先に家を出る事になった。下校時間が重なった場合、話かけるかは茜の判断に任せる事になった。これには理由があり、俺は茜の友達や知り合いをほとんど知らないので、話しかけていいか判断できない。逆に俺はボッチなのでいつ話しかけられても問題ないからだ。


そんなルールを決めて学校生活を送っていた。学校内ではルール通り接触しないようにしていればクラスも違うので全く接触する事はなかった。だからこそ俺たちは油断していた。茜が校内でも有名な美人で色々注目を浴びている事を・・・。





2月下旬の月曜日

いつものように帰宅の電車内で俺は読書をしていた。この時間の電車は学生は多いが、座席に座れない事もない程度の込み具合である。


「橘君。」


読書をしているといきなり名前を呼ばれる。


俺に話しかけてくる希少な人物は誰だと思いながら、顔を上げると、目の前のつり革につかまって立っていたのは、茜だった。まだ家ではないので、俺を苗字で呼んだようだ。


今まで、下校中は家の近くでは話しかけてきたことはあったが、電車内で声を掛けられたのは初めてだったので、微妙に焦ってしまう。


「おい、話しかけてきて大丈夫か?知り合いがいるんじゃ?」


流石に電車内では誰かに見られる可能性が高いので、周囲を見渡し小声で話しかける。


「周囲を十分確認しましたので、多分大丈夫だと思います。」


言われてみれば、見える範囲に同じ制服の奴はいないな・・・それなら、大丈夫か。


「ところで、今日の夕飯は何がいいですか?」


茜は小声で今日の夕飯のメニューを聞いてきた。


「う~ん。そうだな。最近食べていないから焼魚がいいな」


「焼魚ですか?義父さん、絶対嫌がると思いますよ」


一緒に暮らすようになってから事あるごとに買い出し担当の茜に『魚嫌だな~』、『焼き魚嫌いなんだ~』と言っている親父なので、茜も当然親父の魚嫌いは知っている。更に茜は親父に遠慮して魚を全く買ってこないので、俺がものすごく魚を食べたくなり買って来た時ぐらいしか橘家の食卓に並ぶ事はない。


「いいんだよ。親父の希望は毎回肉料理だから要望叶えてばっかりだと太るぞ」


「うっ・・・。さすがにそれは嫌ですね」


紅葉から聞いたが「太る」という単語は女性によく効くらしい。昔、鍋の肉を一人で大量に確保して食っていた紅葉に「太るぞ」と言ったらものすごく怒られた事がある。茜にもこの単語はよく効く様ですごく嫌そうな顔をした。


「嫌だろ?だから魚のメニューもう少し増やしていいぞ。俺は週2~3回は魚料理にしてたぞ」


これでも親父と二人で暮らしていた時は遠慮していた、母さんが生きてた時は一週間で肉料理の方が少なかった程だ。


「それって義父さん、すごい嫌がってたんじゃ・・・。」


苦笑いしながら茜が言ってくる。


「そんなの無視してたわ。茜も親父の事を気にして夕飯作ってると、いずれ親父と一緒に筋トレする事になるぞ」


親父の日課の筋トレに参加する=太るぞと遠回しで脅してやる。


「・・・分かりました。それでは今日は焼魚にします。私はスーパーに寄ってから帰ります」


俺の脅しで、今日は焼き魚に決めたようで、笑いながら茜は言ってくる。今日の夕飯は、親父が茜を悲しい目で見ながら食べる事になるだろう。


「ああ、気をつけてな」


そう言ってから駅で別れて、俺は帰宅した。





それから2日後の水曜日、俺はいつも通り、親父と義母さんを見送った後、登校しようとした所で台所に茜の姿がない事に気づく。毎日家を出るのは茜が最後で、俺が出る頃には朝食を食べ終わってるかどうかというのが茜の朝のペースである。それが台所に姿は無く、朝食にも手を付けた形跡が全く見えない。どうかしたのか?と思い2階に上がって茜の部屋のドアをノックする。


「お~い。茜。起きてるか?さすがに時間やばいぞ」


「・・・・・」


中から何か動く音がするが、返事はない。


「おい!茜!大丈夫か?」


さすがに心配になって強くノックする。

そうすると、中からゴソゴソ音がして返事が返ってくる。


「・・・義兄さん。今日は、その・・グスッ・・・ちょっと・・・体調が悪いので・・グスッ・」


部屋の中から鼻をすすりながらの返事が返ってきた。


「風邪ひいたのか?大丈夫か?」


「・・・大丈夫です。少し寝かせて下さい」


「分かった。学校には俺から連絡しとく。薬飲んで寝てろよ」


そう声を掛けてから茜の様子が気になったが、そのまま俺は学校に向かった。


茜の件があり、学校には始業時間ギリギリで着いた。ギリギリで着いた所で、『今日は遅いな』なんて声をかけてくる友達なんてものはいないので、いつものように誰からも認識されない空気のように机に座り授業を受ける。1時間目が終わりいつものように休み時間に寝ようとした所、廊下が騒がしくなる。


「離せ!楠木!ちょっと話聞くだけだ!」


「だから絶対、あんたの勘違いだって!私が一回話聞くから!落ち着きなさいってば!」


「大丈夫!落ち着いてるって!話聞くだけだって!」


「あんた全然落ち着いてないわよ!中学の時似たような事して茜が泣いたの忘れたの?」


「うっ・・・」


楠木が誰かと言い争っている声が聞こえるが、話の内容はよく聞こえてこない。


あいつも大変だな。


なんて思いながら俺は寝た。

2時間目の授業中、俺のスマホが震える。


珍しいな。誰だ?


めったに震えない俺のスマホを教師から見つからないように取り出し、確認する。


舞:昼休み体育館裏で待ってて


ラインは楠木からだった。

何の用事だ?と思ったが流石に授業中にやり取りするのはマズいので、「了解」とだけ返しておく。





昼休みいつものように昼飯を食べ終わる頃に約束通り楠木がやって来た。

俺を見つけると、一瞬嬉しそうな顔をした後、すぐに困った顔つきに変わる。


本当に何の用事だ?あの顔からあんまり良い感じの話じゃなさそうだな。


そう思っているとこちらに近づいてきた楠木は俺にとんでもない事を言ってきた。


「茜があんたと浮気してるって噂が流れてる」


「・・・・・・・」


楠木が言っている事がよく理解できない。


「・・・・えっと・・・すまん。もう一回言ってくれ。よく理解できなかった」


俺の聞き間違いかと思い、再度尋ねてみる。


「だから・・・最初は茜と誰かがが浮気してるって噂が流れて、で、それを知った小笠原が茜に色々問い正した結果、茜は相手は橘だって名前は出したけど、他は何となく曖昧に流しちゃって、小笠原の疑惑が更に深まってるってのが今の状況」


・・・・言葉が出てこない。頭が混乱して何も考えられない。


「あんたたち最近なんか勘違いされるような事した?小笠原以外の男子とほとんどしゃべらない茜がうちの高校の男子と電車で仲良さげに話してたって所が原因みたいだけど」


・・・一昨日ぐらいのあれか・・・


一昨日の茜との電車でのやり取りを思い出し、厳しい表情になっていくのが分かる。


「その顔だと思い当たる事がありそうね」


「いやあ。一昨日ぐらい茜と電車で夕飯のメニューについて話してたんだけど、そこを見られたんだと思う。・・・もしかして今日茜が休んだのって」


「そうよ。多分それが原因」


当然楠木から「気をつけなさいよ全く」等文句を言ってくると思ったが、予想に反して楠木は何も言ってこない。


「で?どうするの?」


「どうするとは?」


「だからこの噂どうにかしないといけないでしょ」


「そうだよな~。茜と彼氏が全くの出鱈目な噂で険悪になっても可哀そうだしな。っていうか茜はなんで曖昧にしたんだ?正直に親が再婚して俺と兄妹になったって言えばよかったのに」


「言いたくても言えないのよ。私は何となくその理由は分かるけど、多分茜のトラウマに関する事だから本人から許可も貰ってないから言わない」


「・・・・そうか。まあ無理に聞く気もないし。・・・何とかしないとな~」


「「・・・・・」」


とか言いながら何か打開策がないか考えているが何も思い浮かばず、楠木も何か考えているようで二人して沈黙が続く。


「取り合えず、部活休みだから今日橘の家行くわ」


沈黙を破り楠木は突拍子もない事を言い出してくる。


「はあ?なんでだよ?」


「茜と相談するためよ。橘の家なら茜もいるし、丁度いいでしょ」


・・・・


暫く考えたが、それもそうかと思ったので俺は了解する。


「じゃあ。放課後教室で待ってて。前みたいに先に帰ろうとしない事。分かった?」


「前みたいに」ってまだ根にもってんのか・・・いや、今回は油断してた俺と茜が悪いな。



「分かった。色々すまん」


と謝ってから楠木と別れてからいつも通り昼寝。





放課後

終礼が終わったらいつもはすぐに帰る俺は、約束通り楠木を待っている。

浮気の噂はそこまで広がっていないのか、少し視線を感じるだけで話しかけてくる奴はいなかった。

終礼から10分程経過したが、クラスの1/3程は残っている。残ってはいるが、帰宅の準備を済ませ、軽く駄弁っているって所か。何人かはチラチラこちらを見てくるので、多分噂を知っているんだろう。


以外に残ってるもんだな。・・・特に俺を見てくる奴らは鬱陶しいから早く帰ればいいのに。


とか思いながら読書をして待っていると、楠木がやってくる。


「橘!ごめーん。ちょっと小笠原の奴がしつこくてさ。・・・じゃあ帰ろうか?」


結構大きな声で楠木が言ってきたので、案の定、残っているクラスメイトから注目を浴びる。


馬鹿。唯でさえ変な噂が出てるのに・・・また変な噂でるかもな・・・はあ。


しかし、全く関係ないのにここまで世話になっている以上楠木に何も文句は言えない。

取り合えず、さっさと教室から退散し楠木と一緒に家に向かう。下校中も色々な奴からジロジロ見られたので、明日から変な噂が出る事は確定だな~とか考えながら帰宅した。





家に着いて楠木をリビングに案内する。

楠木は「ここが・・・」とか「はえ~」とか言いながらキョロキョロ家の中を見ている。


「別に何も面白いものないぞ。・・・茜を呼んでくるからちょっと待ってろ」


ずっとキョロキョロしている楠木に声を掛けて2階に向かう。

階段を上がろうとした所で、気配がしたので振り返ると満面の笑みで後をついてきている。


「・・・いや。待ってろって言ったろ?」


「いいじゃん!茜心配だし、部屋も見たいし」


楠木からの答えに軽くため息をつき、何も言わずに階段を上っていく。


「ほら、ここが茜の部屋な」


階段を上り茜の部屋に案内すると楠木はノックをして声を掛ける。


「茜~。私だけど。大丈夫起きてる?」


「ま、舞?なんで?」


部屋の中から驚いた茜の声がするとすぐに扉が開く。


「やっほ~。元気・・・じゃなさそうね・・・取り合えず、入っていい?」


「うん」


そう言って茜が扉を大きく開き楠木は部屋に入っていく。

それを見た俺は自分の部屋に入ろうとした所で、楠木から声を掛けられた。


「茜と話したらそっちに行くから」


「何でだよ?話があるならリビングですればいいだろ?」


別に見られて困るものはないが、何となく部屋には入れたくないのでリビングを提案する。


「馬鹿ね。これから話す内容考えなさいよ。話してる途中であんたたちの親が帰ってきたら気まずいでしょ」


「いや、親父たちはまだ・・「とにかく行くから!」


俺がまだ話してる途中なのにそう宣言だけして茜の部屋に入っていく楠木。

相変わらず強引なやつとか思いながら、部屋に入り読書をしながら、楠木達がくるのを待つ。

30分程でドアがノックされたので楠木達を部屋に入れる。


「へえ~ここがあんたの部屋か~」


楠木はニマニマしながらそんな事を言い、部屋を見渡している。


「取り合えずお茶持ってくるから、待ってろ。勝手に部屋漁るなよ」


そう注意して部屋から出ていこうとする。


「義兄さん、私が・・」


そう言って立ち上がろうとした茜を手で制してから部屋を出て、お茶の準備をする。


お茶を持って部屋に入ると、楠木がベッドの下を漁りながら茜と話していた。


「大体、こういった所は定番よね~。う~ん。無いな~」


「舞、やめときなよ。さすがに怒られるって」


別に何も隠していないが、部屋を散らかされるのは困ると思い、声を掛ける。


「何してんだ?」


声を掛けると、楠木はパっと元の位置に座り直し、ニコニコしている。


「いや~。男の子なら持ってても当たり前だと思ってるから。でもやっぱり定番の隠し場所には隠してないんだね」


「何を勘違いしてるか知らんが、俺はそういうの持ってないぞ」


「ええ!本当に持ってないの!」


本当に驚いたようで楠木は声を上げる。


「このご時世『物』で持ってるやつの方が珍しいんじゃないか?」


「・・・・・ネットか」


楠木は少し考えたあと、ポツリと言った呟きに俺はドキリとする。


大丈夫だ。落ち着け。履歴は毎回消してる。バレるわけない。


「ま、まあ、最近だと、そっちの方が多いんじゃないか」


内心ドキドキしながら、努めて冷静に自分の考えを述べる。


「履歴消してるわね」


楠木はジト目でこっちを見て言う。


「ほ、ほら、それよりも噂について話するんじゃないのか」


これ以上は聞かれたくないので、強引に話題を変えると、茜は少し落ち込んだ様子になる。


「ああ、その事なら今から話あっていい考えが浮かばなかった場合、私の最終手段を使う事になったから大丈夫よ」


「舞、やっぱり・・・」


「茜、さっき納得したでしょ」


噂の件は二人の中で一応対策があるそうだが、茜はあまり納得してない様子。そもそも最終手段ってなんだ。


「最終手段って何だ?その、あまり茜は納得していないようだが」


「最終は最終よ、さあ、あんたの考えを聞かせて」


最終手段は気になったが、この様子だといい考えが浮かばないと教えてもらえなさそうだったので、自分の考えを伝える。


「やっぱり、小笠原には正直に親の再婚とかを言えばいいんじゃないか。で、小笠原にはその話を黙っていてもらえばいつか噂もなくなるだろ」


「でも、それだと噂が落ち着くまで、あんた達変な目で見られるわよ」


俺の考えの欠点を楠木が言ってくる。当然俺もその欠点は理解している。


「俺は学校でもボッチだから別に気にならんよ。茜は彼氏との仲が元に戻っても噂は気になるか?」


「いえ、純君と元に戻れれば噂なんて気になりません。・・・ですが・・・」


何となく歯切れの悪い茜。


「すみません。義兄さん、純君に正直に言うのは・・・まだ怖いです」


俺の出した案を茜は却下してきた。付き合っていればいずれ正直に話さなければならいので、今回は打ち明けるのに良いタイミングだと思ったが。しかも却下の理由が「怖い」ってのがよく分からない。理由を聞いてもいいかよくわからないので、茜を見ていると、楠木が口を開いた。


「茜、橘なら、あんたの義兄さんなら言っても問題ないよね?」


楠木からの問いかけにコクリと頷いた茜だが、その表情は暗い。


「じゃあ、私から言わせてもらうわ」



楠木はそういって理由を説明してくれた。

茜が保育園の頃に父親の勤めている会社が倒産し、その後から父親が酒、ギャンブル、浮気、義母さんへのDV等どんどん堕落していった。会社が倒産する前はすごく良い父親で、夫婦仲もよく笑顔の絶えない家庭だったので、義母さんもいつかは前みたいになると思って、頑張って耐えていた。しかし幼い茜へもDVが始まりそれに気づいた義母さんがすぐに離婚。DVが原因で茜は男性恐怖症になったらしい。離婚したはいいが、養育費等払ってもらえるはずはなく、お金にすごく苦労し、茜も継ぎはぎだらけの服で保育園、小学校に通っていた。そんな恰好だったからよくいじめられていて、保育園のころから正義感の強かった幼馴染の楠木がよく茜を助け色々話しているうちに、気づいたら仲良くなっていた。まあ、そういう事で茜は親の離婚で貧乏になりそれが理由でいじめられていたので、それを知られると彼氏から見限られるんじゃないかと心配しているらしい。

茜自身、小笠原はそんな風に考えないと思ってはいるが、やはり心のどこかで不安に思う自分がいて、正直に話す事をためらっている。その事を隠しているので、今回の事は説明が曖昧になってしまい、小笠原も勘違いをしているらしい。


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