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6話 引っ越しと従妹

そしてあの後2度ほど清水達と食事会をしたあとクリスマスを迎えた。

当然俺には何のイベントも発生せずそのまま冬休みに入り、最初の土曜日がやってくる。

今日、清水達がうちに引っ越してくる。

荷物は少ないと聞いているので、今回業者は使わず、俺と親父で荷物を運ぶ事になっている。

つい先日購入したばかりのミニバンに乗り込み清水の家へ向かう。家の前では清水達が待っていて、挨拶を済ませ、早速荷物を車に積み込み始める。





車へ積み込みが終わり一旦休憩となったので、休憩中改めて清水の家を眺める。


外観は昭和!って感じの1Kアパートだな、トイレは和式で、風呂はバランス釜っていうのか?初めてみたな、それに清水自分の部屋持ってないのか。


『・・・うちは貧乏なので・・・』


あの時の言葉が思い浮かぶ。

そんな事を考えながら車に乗り込み家に荷物を運ぶ。3往復もすれば荷物は全て運べる量なので親父と頑張り、その間清水親子は家の掃除をしてもらっている。最後の荷物の運び込みと掃除を終えて家に向かうと少し遅くなったが昼ご飯にしようと親父が言い出したので、荷物はそのままで家に入る。


清水と清水母が「すごーい」「うちと全然違う」とか言いながらキョロキョロしながら家の中に入ってくる。


「さあ。二人とも入って。修一、すぐにできるやつ頼めるか?」


親父が二人を家に促しながら、俺に昼飯のリクエストをしてくる。


「冷凍のうどんがあるからそれならすぐ出来る」


「じゃあ、それで頼む。ほら二人ともはやく」


親父からそう言われて二人ともおそるおそる玄関に入っていく。


「「お邪魔しまーす」」


二人が声を揃えて家に上がろうとするが、それを親父が手で制する。


「はあ。今日からここは二人の家でもあるんだよ。で、家に帰ってきたら何ていうのかな?」


親父からの質問に二人は顔を見合わせてから恥ずかしそうに帰宅の挨拶を言った。


「ただいま」


「・・・・ただいま・・です」


「ああ。おかえりなさい」


こちらからは親父の背中しか見えていないが、多分満面の笑みを浮かべているのだろう。俺はその様子を見たあと、昼飯を作ろうと台所に向かおうとするが背後から清水母の声が聞こえる。

「あの源一さん。ひかりさんはどこに」


「ああ。それならこの部屋だよ」


「茜。こっちへ」


親父に案内されて和室へ入っていく二人。

俺も気になったので、台所に向かうのをやめて和室の入り口から二人の様子を眺める。

和室にはいつも俺と親父が手を合わせている母さんの写真が飾ってあり、その写真の前で清水親子は手を合わせていた。

結構長い時間手を合わせたあと、今度はこちらの方へ向き直る。


「源一さん、修一君、今日から宜しくお願い致します」


「よろしくお願いします。」


二人から改めて挨拶をされた。


「じゃあ。修一はこれから茜ちゃんの荷物を運んでやってくれ」


俺が作った昼飯を食べ終えると、親父からそう指示された。


「俺が重いのを運ぶから、し・・茜は軽そうな荷物を運んでくれ」


そう茜に言って、俺は荷物を持って2階に上がっていく。

清水の事はいまだに『清水』呼びだったのを親父から指摘され、今後は家では名前で呼ぶ事になった。


「この一番奥が俺の部屋で、こっちが、あ、茜の、向かいの部屋が親父たちの部屋な。で、こっちがトイレな」


茜が上がってきた所で、軽く部屋割りを説明する。


「・・・私の・・部屋?」


俺の説明に何故か固まる茜。部屋割りが気に入らなかったのだろうか?


「うん?なんだ?別の部屋がよかったか?」


「いえ・・違います。本当に!ほんとなんですね義兄さん。ここが私の部屋なんですね」


荷物を持ったまま興奮した様子でこちらにグイグイ近づいてくる。


「・・・ああ。そうだ。」


グイグイ寄ってくる茜に若干引きつつ、肯定する。


「えへへ。失礼しま~す。うわ~広い。前のアパート同じぐらいの広さだ。ここが・・・フフ・・・私だけの部屋。フフフ」


自分の部屋なのに何故か挨拶して入っていく茜。中に入るとニマニマしながら独り言を言っているのでちょっと怖い。


「取り合えずどんどん荷物もってくるから、茜は段ボール開けて荷物をだしておいてくれ」


「分かりました」


そんな感じで分担して作業していると、夕方ごろには大体の荷物は片付いた。

ひと段落ついた所で、親父から招集がかかり、今後の家での取り決めが話し合われた。

そこで決まったのは、朝飯と弁当の準備は俺担当。夕飯は茜、掃除洗濯含むその他の事は親が行う事になった。茜も義母さんが仕事で忙しく帰りも遅かった為、毎日料理をしており、親父と義母さんより料理ができる。この為料理は子供担当になったが、茜は朝に弱いので俺が朝食担当。話し合いの中で義母さんの仕事をどうするかで、ひと悶着あった。というのも義母さんはパートを掛け持ちして朝から晩まで働いているので丸々一日休みの日は基本日曜日のみというハードワークぶり。親父は自分の稼ぎがそこそこあるので、専業主婦になったらどうかと提案し茜も加わり説得していたが、義母さんは拒否。『源一さんや修一君がそんな事思っていないのは十分わかっているけど、周囲から養ってもらう為に結婚したと思われるのは絶対嫌』と断固反対したので、仕事は当面続ける事になった。





12月29日

家では毎年恒例となっている親父の弟家族が昼過ぎに遊びにきた。叔父家族は毎年俺の家で一泊した後、実家に帰省している。叔父家族が毎年帰省前にウチに泊りにくるのは、親父と俺に会いにくる事も理由の一つだが、両親に親父と俺の様子を必ず聞かれる為でもある。親父は実家から勘当されているので、俺と親父は帰省せず静かな年末年始を迎えている。


「おーす!兄貴きたぞー!」


「「こんにちは!」」


「おう!今年もきたか!源次郎、葉月さん、紅葉ちゃん」


「あの・・初めまして、桜と言います」


「・・・・茜です」


叔父家族との初めてのやり取りをする茜たち。

初めて見る叔父の姿に茜だけでなく義母さんもかなり驚いている。というのも叔父は親父以上に身長が大きく全体的に体格は親父を一回り大きくしたようなものなので、いきなりこんなおっさんが家に来たら驚くのも仕方がない。


「初めまして、桜さん。茜ちゃん。弟の源次郎です。でこっちは妻の葉月、と娘の紅葉です」


叔父家族と茜達が挨拶している姿を俺は眺めている。初対面だというのに茜は積極的に紅葉に話かけている。義母さんと叔母さん、茜と紅葉が親交を深めている中、親父と叔父さんは早速酒盛りを始めている。俺はそれを見ながら、少し早いが夕飯の準備を始める。夕食といっても毎年恒例の鍋なので、材料を切ったりするだけですぐに用意は終わる。


「すみません。義兄さん。何か手伝いましょうか?」


夕飯の準備が終わるころに紅葉と話していた茜が俺に気づいて手伝いを申し出てきた。


「いや。もうほぼ終わってるから大丈夫」


「そうですか。すみません任せてしまって」


「気にすんな。それより紅葉と仲良くなったか?」


「はい。それは大丈夫です」


「何?お姉ちゃんも料理できるの?」


そんなやり取りを横で聞いていた紅葉が驚いたように聞いてくる。

というか最初は「茜さん」だった呼び方がいつの間にか「お姉ちゃん」に代わっている。


「ああ。何回か作ってもらったけど俺より上手だぞ」


「そんなに変わらないと思いますけど・・・」


「いや。俺は調味料とか目分量で適当だけど、茜はちゃんと量って入れてるからな。あと俺は作れる料理のレパートリーが少ない」


「私から見れば、どっちもその年でそんだけできればすごいと思うけどね」


「義兄さんと私は家庭環境上そうする必要がありましたから」


「それでもすごいと思うけどね。それより明日何の映画見に行く」


紅葉は料理の話を切り上げ、明日の映画の話をしてくる。

こちらも毎年恒例となっていて、今年からは茜も一緒に行く事になっている。


「お姉ちゃん。どれ観たい?」


紅葉がスマホを茜に差出ながら聞いている。


「そうだね~、流血シーンが多いものや人がバタバタ死ぬ作品は苦手だから、それ以外で」


「じゃあ、いまやってるこのアニメのやつでいい?話題になってて観たかったんだ」


「いいね。私もちょっと観たいと思ってたんだ」


「じゃあ、これで。お兄ちゃんもこれでいいよね」


俺の意見は全く聞かれなかったが、毎年紅葉に任せっぱなしなので、特に異論はなかった。

夕食後、俺は自室に戻り勉強を始める。紅葉は茜の部屋で喋っている様子、今日は茜の部屋で一緒に寝るらしい。





翌朝、バイトを済ませ、いつものように朝食の準備をしていると、紅葉が下りてきた。


「おはよう」


「おはよう、お兄ちゃんは相変わらず朝早いね」


「まあな、バイトもしてるし。それより朝飯準備できたから食べていいぞ」


「そういえば、お姉ちゃん今日の映画無理そうだって」


紅葉と朝食の際中唐突にそんな事を言ってきた。


「ん?風邪でも引いたか?」


「いや、違うよ。あれだよ。あれ。・・・あの月に1回のやつ」


最後の方がごにょごにょ言って聞き取りづらい。


「うん?最後よく聞こえなかった。何だって?」


「だから生理なんだって。お姉ちゃん結構重いんだって・・・。はあ~。お兄ちゃん、今までと違って女の人と暮らし始めたんだからそれぐらいはすぐに察するようにならなきゃダメだよ」


年下に何故か駄目だしされる。


今までは親父と二人だったので、そういうのを察する必要がなかったが、今後は注意しないといけないのか~。大変だな。なんか簡単に分かる方法ないかな。


そんな事を考えていると、つい口からぽろりとでてしまった。


「はあ~、そうか~・・・生理か~」


「ほら。そういうところ!デリカシー0!」


再度紅葉から駄目だしされる。デリカシーとかいうのは今までの橘家には必要ないものだったが、0と言われるとさすがに凹む。


そのあと紅葉に茜の様子を見てもらったが、やはり今日はつらいから映画に行けないとの事だった。

その頃には起きてきた義母さんと叔母さんに紅葉から茜の状況を伝えてもらい、俺は映画の時間まで自室で紅葉と勉強をして時間を潰す。


時間が近づいてきたので、少し早めの昼飯を食べ出かける用意を済ませて玄関で紅葉の準備が終わるのを待つ。俺の今日の格好は黒のジーンズに上はユニクロで買った黒のダウンジャケットである。あまり私服で出かける事はないが、この格好ならダウンジャケットを脱がなければ中の服装は全く気にしないでいいので、冬場は基本的にこれで外出している。


茜の部屋の前を通る時、様子が少し気になったが、「こういう時はそっとしておくのが一番なの。特にお兄ちゃんは変化球で様子を探るなんて器用な事できないじゃん」という紅葉のアドバイスなのか馬鹿にしてるのか良く分からん言葉に従い、声はかけなかった。


しばらく玄関で待っていると準備を済ませた紅葉がやってきた。中3の紅葉は背中まである長い髪を今日はポニーテールにしてまとめている。見た目は身内の贔屓目を入れてもなかなか可愛い部類に入ると思う。今日の紅葉の格好は下はジーンズで上はちょっとダボっとしたパーカーを着ている。首は赤いマフラーに包まれて暖かそうに見える。


「よし。行くか」


「お兄ちゃん。バイクで行こう。バイク」


すごく興奮して目をキラキラさせながら紅葉はバイクでの移動を提案してくる。


「駄目だ」


バイクで行こうという意見を即却下する。別に紅葉との二人乗りが嫌な訳ではない、今日向かう場所が問題なだけだ。


「何でよ~。もう1年経ってるから二人乗りしてもいいんでしょ?」


頬を膨らませながら文句を言ってくる紅葉。去年断った理由をしっかり覚えている。


「今から行く映画館、俺の高校に近いんだよ。万が一先生や他の生徒に見られたら面倒だ。うちの高校バイクの免許とるの禁止だからな」


そういっても納得してくれない不満顔の紅葉をなだめながら歩いて駅まで向かい電車に載る。電車の中でもなだめていると、映画館の最寄り駅に着くころには機嫌を直してくれたのかニコニコご機嫌になり駅を出ると、腕に抱き着いてくる。


「おい。歩きにくいから離れろ」


「え~。いいじゃん。1年に1回しか会えないんだし。それにこんな可愛い子と腕組んで歩けるんだよ。色んな人に自慢できるよ」


「自分で自分の事を可愛いって言うなよ。ほら、早く離れろ。高校近いから誰かに見られたら面倒だ」


そう言うと、紅葉はハッと何かに気づいた様子で俺から離れる。


「まさか、お兄ちゃん。彼女出来たの?」


「いや、いないぞ」


「だよね~。お兄ちゃんだもんね~」


失礼な事を言いながら、再び腕を組んでくる。


「だから、歩きにくいって。離れろよ」


「まあまあ、将来彼女出来た時の練習だと思って。それよりほら時間大丈夫?」


しつこく腕に抱き着いてくる紅葉を離す事をあきらめ、歩きにくいのを我慢して映画館へ向かう。


映画館近くで学校からも一番近いファミレスの前を通り過ぎようとした時、顔をガラスにくっつけてこっちを見ているジャージ姿の不審人物がいた。


「うおっ!」


「ヒッ!」


その人物に気づいた俺と紅葉は思わず小さく叫び声をあげる。驚いた紅葉は組んでいる俺の腕を更にギュッと抱きしめてくる。それを見て、ガラスに張り付いている人物は更に目を見開いてこっちを見てくる。良く見ると俺はこの不審人物に見覚えがあった。


こいつ、楠木じゃね?何してんだ?っていうかこれって女の子がしていい顔じゃないな。


多分、楠木だろうと思って、苦笑いしながら軽く手を挙げて挨拶する。ガラスの向こうでは俺の挨拶に気づいた楠木が同じテーブルのジャージ姿の女子達に何か話している。全員同じジャージを着ているので恐らく部活仲間たちと昼飯でも食べていたんだろう。話が終わったのか楠木は店から飛び出して、こちらに向かってきた。


「お兄ちゃん、誰?こっちに来てるよ」


紅葉がものすごく不安そうに俺に聞いてくる。紅葉からしたら知らない不審人物が近づいてくるから怖くなるのも分かる。


「茜の幼馴染で親友の楠木ってやつ。まあいいやつだけどちょっと怒りっぽい」


不安がっている紅葉を安心させる為に軽く説明する。


「誰が怒りっぽいって」


こちらにやってきた楠木は開口一番やっぱり怒った口調で俺に言ってきた。


聞こえない距離だと思ったけど、こいつ地獄耳だな。


「ほら、もう若干怒ってるじゃん」


「それはあんたが変な事言うからでしょ」


これ以上言うと、更に怒りそうなので話題を変える。


「っていうか何してたんだ?」


「ああ、部活終わったから友達とご飯食べてたの」


楠木はこう答えたが、俺としては先ほどの奇行について聞いたつもりだったが、まあいいかと思い話を切り上げ立ち去ろうとする。


「そうか、じゃあ気を付けて帰れよ」


「ちょ、ちょっと待って!そっちはその・・・デ、デート中なの?」


立ち去ろうとした所、引き止められておかしな事を言ってくる。


「はあ?デート?違うぞ。映画見にいくだけだぞ」


「いや、それをデートって言うんじゃ・・・」


そういいながらチラチラ紅葉に目を向けている楠木。


「ああ、そういう事か。こいつは・・」


多分、紅葉を彼女と勘違いしたんだと思い紹介しようとした所、紅葉が俺の前に手を出して、会話を止める。紅葉は組んでいた腕から離れると、ニヤリと笑い一歩前に出て楠木に挨拶を始める。


「初めまして。修一の彼女の紅葉です」


紅葉はとんでもない嘘を言い出した。


「ッ!・・・嘘・・彼女いたんだ・・・。」


俺に彼女なんかいるはずないと思ってるのか失礼な事を言う楠木。まあ本当にいないんだけどな。


「私と修一、10年以上付き会って・・」ビシッ!


更に嘘を言おうとしていたので、後頭部にチョップして発言を止める。


「いった~い!お兄ちゃん、ひどいよ~」


口をへの字にして文句を言ってくる紅葉。


「お前が嘘ばっかり言うからだ。頼むから冗談でも彼女とか言うのやめてくれ。叔父さんに聞かれたら殺されるから」


「ええ~。パパなんかどうだっていいじゃん」


どうでもいいとか言うが、近年紅葉からのスキンシップが激しくなると、物凄い形相で俺を睨む叔父を知っているので、流石にやめてもらいたい。


「・・・従妹?」


俺たちのやり取りを見ていた楠木は俺たちの関係に気付いたのかポツリと呟いた。


「そうだ。こいつは俺の従妹で橘紅葉。彼女じゃないぞ」


「そ、そう。彼女じゃないんだ。ふーん」


「おい。紅葉。ちゃんと挨拶しろ」


「はーい。改めまして。お兄ちゃんの従妹の橘紅葉です」


ペロッと舌を出してから挨拶をする紅葉。


「あ、どうも楠木舞です」


「お兄ちゃんから聞きました。お姉ちゃんの幼馴染で親友なんですよね?」


「・・・お姉ちゃん?ああ、茜の事ね。その通りよ。保育園からの付き合いで、親友」


楠木からの言葉に紅葉はニコッと笑うと、俺の方を向く。


「お兄ちゃん、楠木さんと二人だけで話があるからちょっと向こう行ってて」


シッ!シッ!と手で向こう行けとされる。俺は犬か何かか?昔から紅葉は俺に対して敬意が足りない気がする。結構勉強とか教えてやってるんだけど。


「何なんだよ一体。・・・映画の時間があるから急げよ~」


まあそのぐらいで年下に怒る程俺も子供じゃないので、ぼやいた後紅葉に注意をしてその場から離れる。

俺が離れた事を確認した紅葉は、楠木と頭を近づけて何やら話している。暫く話した後、最後に何故か握手をして二人は離れる。楠木は顔を真っ赤にしているが、ニコニコしながらファミレスに戻っていく。一方、紅葉も笑っているがこちらはニヤニヤという言葉が相応しい笑顔でこちらに向かってくる。


「何話してたんだ?」


「内緒。ほら、そうやって女子の会話の内容を探ろうなんてデリカシーの欠片もないな~お兄ちゃんは」


「ぐ・・・・・」


今まで橘家には無かった「デリカシー」という言葉に俺はかなり弱いみたいで紅葉に何も言い返せない。


映画が終わって帰宅すると、叔父さん達が出発の準備を終えて待っていた。


「おーし、準備できたか~。兄貴、桜さん、ありがとう」


「おう、また来年な!親父たちにも宜しく言っといてくれ」


「・・・なあ兄貴、そろそろ帰ってもいいんじゃないか?」


「またその話か。親父から頭下げてこないと俺は実家に帰らん!」


「相変わらず、親父と同じで頑固だな。・・・まあいいか、来年からは桜さんにも説得手伝ってもらうから」


「こればっかりは誰に何言われても譲れんからな!」


強い口調で言う親父だが、2年後義母さんと茜の説得についに折れて帰省する事になる。


「紅葉ちゃん行ってしまいましたね」


家族全員で叔父家族を見送った後、茜がポツリと呟く。見送りの為に部屋から出てきた茜を今日初めて見たが、いつも日焼け等と無縁な白い肌が更に白くなっており、見るからに体調が悪そうだった。


「また、来年くるから。その時は、茜も映画一緒に行こうな」


来年は俺たちも受験生だが、一日ぐらい映画を観に行っても大丈夫だろう。

そんな事を考えながら、茜に声を掛けた。

茜は俺の言葉に頷いた後、また部屋に戻っていった。

その後、特に何事もなく冬休みは終わりを迎えた。


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