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5話 協力のお願い

それからしばらくは、いつも通りの日常だった。少し変わった所といえば清水と学校ですれ違うと軽く会釈するようになったぐらいである。

そうしているうちに向こうとの初顔合わせの日がやってきた。その日はちょっと高めなレストランで食事をしつつ、親睦を深める会だった。その中で清水達は冬休み中にうちに引っ越して一緒に暮らし始める事が分かった。





初顔合わせから次の週の日曜日、いつものように学校で勉強しようと準備をしていると、この時間はまだ寝ている親父が起きてきた、珍しい。


「おはよう。どうした?今日日曜日だぞ?」


「おはよう。今日は会社の後輩から相談があるって言われててな。ちょっと出てくるわ」


「分かった。晩飯は?」


「そこまで遅くならんから家で食べる」


そんなやり取りをしつつ家を出る。

いつものように学校で勉強をして夕方家に戻ると親父がリビングで腕を組んで難しい顔をして座っている。


「ただいま。どうした?難しい顔して?」


「おう。おかえり。いや、ちょっとな。後輩からの相談を考えていてな」


それなら俺に手伝える事はないと思い、夕飯の準備をする。

夕飯中も親父は難しい顔をしながら考えていた。正直そのでかい体で難しい顔をするのはやめてほしい。清水なら見た瞬間軽く悲鳴をあげてるぞ。


翌日から少し変わった事があった。いつもは学校で会釈だけする清水が俺とすれ違う時睨んできたのだ。最初は気のせいかな?とか思ったが次にすれ違った時も睨まれたので、間違いない。俺何か悪い事したかなと思いながら、放課後清水にメッセージを送る。


:ちょっといい?


この間みたにすぐに返信がくると思って少し待ってみたが、全く返ってこなかった。

仕方がないので家に帰る事にし、帰宅途中に何度か確認したがメッセージが既読になる事もなかった。

家に帰ってから再度メッセージを送る


:学校で睨まれた気がしたけど気のせいか?


夕飯の準備中何度か確認したが、返信はきていなかった。

夕飯中、今日の親父はしきりにスマホを気にしていた。会社で何かトラブルでもあったのか?とか思いながら、俺もまったくメッセージの返ってこないスマホが気になっていた。

夕食後、スマホを見ると俺の送ったメッセージは既読になっていたが、返信はなかった。


これ完全にスルーされてるよな。俺何かしたか?楠木に聞いてみるか。


:いまちょっといいか?


すぐに返事はこないと思って机にスマホを置いた瞬間にスマホが震える


舞:何?何か用事?


返事早いなとか思いながら、清水の事について相談する。


:今日の清水っておかしくなかった?

舞:ちょっと機嫌悪そうだったかも?どうかしたの?

:今日学校で睨まれたんだが

舞:何したのよ?

:まったく心当たりがないから聞いてるんだよ

舞:本当に?あの子めったな事じゃ怒らないわよ

:初顔合わせから会話していないし、学校でも会釈ぐらいしかしてないぞ

舞:その初顔合わせの時に何か言ったとか?

:いやそれはないと思う。あの後学校で普通に会釈してきてたし

:彼氏と喧嘩して機嫌が悪かったのか?

舞:それはないわね。放課後もイチャついてたし

舞:まあいいわ。明日私の方からそれとなく聞いてみる

:すまん。助かる

舞:で?明日どこにいけばいい?

:?

舞:だから茜から聞いた事、伝えるのにどこ行けばいいか聞いてるの

:いやラインで教えてくれたらいいよ

舞:馬鹿ね、それだとやり取りしてるの茜に見られるじゃん。それに直接会って話した方が早いし

:分かった。昼休みは飯食ったら図書館にいると思うからそこで

舞:分かったわ

:色々ありがとう。おやすみ

舞:おやすみなさい


ふう。これで明日の昼に少しでも何かわかればいいけど。


今日の所はこれ以上何もできないなと考え、いつも通り勉強する。





次の日の昼休み

いつもの場所で昼飯を済ませると、図書館に向かう。

図書館に着くとまだ楠木は来ていなかった。


まあ俺も飯たべてから行くって言ってたし、向こうも食べ終わったら来るだろう。


と考えて入り口が良く見える席に座り楠木を待つ。

しばらくすると楠木がキョロキョロしながら図書館に入ってくるのが見えたので、俺が手を挙げると、すぐに気づいて手を振ってニコニコしながらこっちに向かってくる。その姿に少し違和感を感じる。


あいつあんなにフレンドリーな感じだったか?


そんな疑問を考えていると、楠木が向かいに座る。


「ごめんね。待った」


「いや。それよりすまん。関係ないのに手伝ってもらって」


「いいわよ。別に。それでね茜から聞いたんだけど」


ここで楠木は周囲を見渡した後ちょいちょいと手招きする。

手招きに応じて俺は耳を近づけると楠木も顔を近づけて衝撃の事実を伝える。


「なんか、あんたのお父さん浮気してるらしいよ。」


「・・・・・はあぁ?!!!!!」


思わず大きな声を出して立ち上がってしまう。


「シー!ここ図書館よ。」


立ち上がった俺の服を引っ張り楠木が言ってくる。

俺は我に返ると周囲から浴びせられている冷たい視線に気づき、椅子に座りなおし、気を取り直し、楠木とヒソヒソ話し出す。


「いやないだろ?あの親父だぞ?」


「『あの』ってのがどれか分からないけど、茜がそう言ったのよ」


「清水が?」


「そう、何かこの間の日曜日に橘のお父さんが女の人と喫茶店で楽しそうに話していたの見たんだって。しかも一緒にいたおばさんがそれを見てかなり落ち込んでふさぎ込んでるって。あの子母親に相当感謝しているからその話が本当ならかなり怒ってるわよ」


「・・・・・ちょっと待て。考えさせてくれ」


あの親父が浮気・・・ないな!いや、俺が知らないだけで今までだって・・・。


考えはぐるぐるループしてうまくまとまらない。


「まあ、あんたのお父さんに直接聞くのが話は早いだろうけど」


うんうん悩んでいる俺に楠木はポツリとそう言った。


「そうか。そうだよ、親父に聞けばすぐわかるじゃん。ありがとう楠木。助かった」


考えがまとまって頭がすっきりした俺は楠木に笑顔でお礼を言う。


「そ、そ、そう。よ、よかったわね。」


顔を逸らして返事する楠木。

素直に俺がお礼を言った事に照れたのか、その横顔は若干赤くなっていた。


その後は楠木から、清水や清水母の事を教えてもらいながら、昼休みを過ごした。

今日は楠木の機嫌がいいのか受け答えがかなり柔らかかった。





家に着いたら、今日は晩飯の用意をせずリビングで勉強しながら親父の帰宅を待つ。


「ただいま~」


しばらくするといつもとほとんど変わらない時間に親父が帰ってきたが落ち込んだ様子だった。


「おかえり。・・・・親父ちょっと話がある」


「おう・・・どうした?なんだ、夕飯作ってないのか?珍しいな?」


親父は疑問を投げかけながら対面の椅子に座る。


「今日、ある人から親父が浮気をしていると聞いたんだけど」


「・・・??・・・!あぁ!誰がそんな事言った!!」


俺がそういうと、しばらく理解できていなかった様子だが、理解したと同時に椅子から立ち上がりものすごい剣幕で怒りだす親父。


久しぶりにマジ切れした親父みたな。清水はこれ見たら気絶するんじゃ。


「聞いたのは別の人だけど、言ってるのは清水茜だよ」


「・・・・えっ?!」


俺がそういうと親父は固まる。


「この間の日曜日に親父が女の人と喫茶店で楽しそうにしているのを清水達が見たんだって。心当たりは?」


「・・・・・??・・・!あれかあああ!」


「うるさい!近所迷惑だ!」


叫びだす親父に注意する。


「・・・で?本当の所はどうなの?」


「いや・・・この間の日曜日出かけただろ。後輩から相談があるって」


そういえば、そんな事言ってたな。


親父の話をまとめると

親父の後輩で俺も知っている山本さん。この人は飲み会で潰れた親父を毎回家まで送ってくれる爽やかな人で、俺とも顔見知りである。何故か親父を尊敬しているらしく、潰れた親父を連れて帰ってきた時は毎回親父のどこが凄いか俺に力説してくれる迷惑な人だ。

今回この山本さんを好きになった別の後輩から色々と相談されている所を目撃されたらしい。


「そういう事か・・・じゃあ向こうの勘違いって事?」


「・・・そうだな。だから連絡しても出て貰えなかったんだな」


どうやら親父も連絡しても清水母から全く返事が来なかったらしい。

さすが親子対応が同じだ。


「しつこいようだけど、本当に浮気じゃないな?」


「当たり前だろ!母さんに誓って言えるわ!」


母さんを出す当たり本当の事だろう。とすれば・・


「じゃあ清水の家知ってるんだろ?早く行って誤解を解いてくれば?」


「・・・そうだな。あー・・・晩飯は」


「俺は一人で食べてるから、清水達と食べてくれば?」


「そうか・・・すまんな」


そう言って親父は慌てて準備をして出ていった。

親父が出て行って1時間程経った頃、清水から着信が入る。


「はい。もしもし」


「・・・・あの・・・すみませんでした」


前置きもなくいきなり謝られるが、その理由は分かっている。


「ああ。誤解が解けてよかったよ」


「本当にすみませんでした。それで急に電話しておいてなんですが、もう出るみたいなので、明日学校で改めて謝らせてください」


清水の申し出に俺はちょっと・・・いやかなり困ってしまう。清水と学校で接触するとまた変な噂が立つ。そう思ったからこの提案は断る。


「今謝ってもらったからわざわざ学校で謝らなくてもいいぞ」


「いえ。直接謝罪しないと私の気がすみません」


結構強い口調で清水がそう言ってきたので、説得は無理そうだと思い作戦を変更する。


「じゃあ、俺いつも体育館裏で昼飯食べてるから、そこに来てくれ」


「分かりました。それでは明日。・・・・本当にすみませんでした」


「ああ。明日」


ふう。体育館裏なら誰にも見られないだろう。これで変な噂が立つ心配はなくなったな。


俺は安心して勉強を始めるが、この時点でもう変な噂が流れている事を俺は知らなかった。





翌日

朝食の時に清水母の誤解は解けた事を親父から聞いて、いつも通り学校に向かう。

登校中何人か俺に視線を向けてくる気がした。それが気のせいではない事に気づいたのは学校に着いてからだった。自分の教室に近づくにつれ回りの視線が増えてくる。

流石にここまでくると俺が見られている事に気づいていたが、清水と会うのは昼休みのはずなのでこの時点で噂になるはずはない。

心当たりを考えるがまるで思い当たらず教室に入り席に向かう。

席に座るとこちらをちらちらみていたクラスメイトの一人が覚悟を決めた感じで近づいてくる。


「おい、橘。お前って4組の楠木さんと付き合ってるの?」


「・・・はあ?・・・いや付き合ってないけど」


何言ってるんだ、お前って感じで答える。


「そうか。じゃあ昨日図書館で二人仲良さそうだったって話は?」



・・・・・そっちかあああ!しまった!そっちは何も考えてなかった!!


「・・・ああ・それね・・ちょっと相談があってな・・・」


「何の相談?」


「いやちょっとプライベートな話だから・・・」


「ふーん・・・プライベートな話を相談できる仲なんだ・・・なんか最近お前楠木さんや清水さんと仲良くない?」


クラスメイトの質問に嫌な汗が出てきてしまう。


「いや、そんな仲良くない。少し知り合いになったかなって程度だから・・・」


「・・・そうか」


ここでチャイムが鳴りクラスメイトも自分の席に戻っていく。


はあ~。今度は楠木かよ。後で謝っておこう。しかし清水を体育館裏に呼んどいて良かった。これでまた他の奴に見られたらどんな噂がたつか・・・


このあと休憩時間はいつもの様に寝てやり過ごし、昼休みもすぐに教室から出たので、誰からも質問される事はなかった。





昼休み

昼飯を食べ終わって、しばらくすると清水と楠木がやってきた。


「橘っていつもこんな所でご飯食べてるの?」


やってくるなり楠木はそんな事を言ってくる。


「ああ、人が全く来ないから静かでいいぞ。天気がいい日は昼飯食ったあと大抵ここで昼寝してる」


「ふーん。」


と言って楠木はブツブツ独り言を言いながら周囲を見渡している。


「・・・あの・・いいですか?」


楠木との会話が一段落するとすぐに清水が話しかけてくる。


「・・・本当にすみませんでした」


「ああ、親父の浮気の件ね。いいよ、誤解解けたんだし」


「・・・誤解でも・・・あの・・結局、橘さんの事、無視したので・・・」


「だから、もういいって。気にすんな」


「はい、ありがとうございます」


よし。清水の件はこれで終わり。後は楠木に噂の件、謝ったら昼寝できるな。


「楠木。今回の件、色々手伝ってくれてありがとな」


「茜の為だから、別にいいわよ」


少し照れてる様子だ。


「それとだ・・・あ~。すまん。昨日の図書館の件でなんか俺と楠木が付き合ってるって噂が流れているらしい」


「ふぇ?」


「ええええええええええ!」


何故か当事者よりリアクションが大きい清水。


「ほ、ほ、本当ですか?本当に舞とお付き合いしてるんですか?あと昨日の件って何ですか?」


「落ち着け。楠木とは付き合ってないから。清水の件で楠木に協力してもらって昨日図書館で話を聞いてたんだ。それを・・・まあ見られたんだろうな。で付き合ってるって噂が出たんだと思う。今日の朝、付き合ってるかって聞かれたから否定しておいた」


「舞、本当?」


清水が問いかけるが楠木は何かぶつぶつ言っている。


「・・・・・・・・・しなくても・・・」


「おーい、舞~、私の声聞こえてる?」


「え?ああ。うん聞こえてる。そ、そうよ。本当よ。茜の件で手伝ってほしいって言われて昨日図書館で話したわ。でも、つ、付き合ってるって噂は知らなかった」


「だからすまん。もしかしたら色々聞かれるかもしれんが、否定しておいてくれ。こっちも否定しておくから」


「・・・うん」


落ち込んだ様子で了解してくれる楠木。


「ごめんな、巻き込んだ結果、俺なんかと付き合ってるって噂まで流されて。嫌だろうけど、否定してしばらくすれば落ち着くと思うから・・」


「・・・」


話し合いも終わると二人は戻っていったので俺はそのまま時間まで昼寝をして過ごした。

翌日も何人かに噂の件を聞かれたが、否定していたらすぐに何も言われなくなり、いつもの日常が戻ってきた。


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