4話 励まし方
色々な店を回り「あれ可愛い」、「これいい」とか二人ははしゃいでいたが、俺は二人の買い物に付き合わされてげんなりしていた。
「さてそろそろお昼食べにいきましょう。どこがいい?」
「南口にこってり豚骨のうまいラーメン屋できたみたいだからそこで!」
ラーメン好きの俺は前から行きたかった店を誰よりも早く提案する。
「「・・・・・」」
俺の提案にまたしても二人は無言でこちらを見てくる。
「ええ!また駄目?」
「駄目に決まってるでしょ!なんでラーメンなのよ!しかもこってり豚骨ってどういう事よ!」
「・・・さすがに、初めて一緒にお出かけした女子をラーメンに誘うのはどうかと思います」
「ダメなのか・・・じゃあ牛丼?」
「「はあ~」」
俺の再提案に二人から大きなため息をつかれる。
「まあ無難にマックにするか」
「そうだね、橘さんもいいですか」
「・・・分かった」
やっぱり俺の意見は採用されず二人の意見だけが採用される。
マックで昼飯を済ませた後しばらく店内でのんびりする。
「とりあえず12時になったら店を出て映画館前にもどりましょう」
「分かった」
楠木の提案に了承しつつ、時計を見るとあと10分程店内で待つ事になりそうだ。
「ちょっとトイレ行ってくるわ」
そう言って席を外してトイレに向かう俺。用を足し、手を洗っていると
「まじで可愛かったな!」
「だろ?しかも隣のジャージの子もよく見るとすっげえ可愛かったんだって!」
「まじか?帰りによく見てみるわ!」
と会話しながらトイレに入ってくる大学生風の二人組とすれ違う。
・・・今の話って多分あいつらの事だよな。やっぱりあいつら見た目だけは可愛い方なんだな・・
とか思いながら自分の席に向かうとなにやら騒がしい。
「ちょっと離して!」
「なあちょっとだけ?俺らと遊ばない?」
「だから!嫌だって言ってるでしょ!」
「おお!こっちの子も変な格好してるけどめっちゃ可愛いじゃん!」
「・・・・あの・・・やめてください」
近くまで行くと大学生風3人からナンパされている楠木達。
おお!良くみる展開・・・って清水めっちゃ震えてるじゃん。
清水の震えている姿が見えると、俺は慌てて二人の間に入って大学生風の3人組に話しかける。
「すみません。俺の妹に何か用ですか?」
「誰?」「彼氏?」「いや妹って言ったぞ」
ヒソヒソ話始める3人。
「何?お前、この子の兄貴なん?」
「そうです、今日は家族で買い物に来てるので、用があれば親が戻ってくるまで待っていてもらえますか?」
まあ嘘なんだが、それをこいつらが分かるはずもない
「親が来るってさすがにやばくね」
「やめとくか」
よかった。あきらめてくれた。
ホッとした瞬間
「いつまで掴んでるのよ!さっさと放しなさいよ!」
楠木がかなり怒った口調で今まで掴まれていた腕を乱暴にふり払う。
振り払われた大学生風の男の腕はかなりの勢いで近くの椅子に大きな音を立ててぶつかった。
「いって!・・・この!」
あ!やばっ!
ムカついたのだろう男が楠木を殴ろうとしたのが見えた瞬間、体が動いていた。
ガシッ!
殴ろうとしていた左腕を俺は受け止めてから、注意する。
「ちょっと!さすがに暴りょ・・」ガッ!!
ガッシャ~ン!
話しかけてる途中で殴られた。俺は近くの椅子や机を巻き込みながら床に倒れこむ。
油断した!親父よりはマシだけど殴られるとやっぱいてー。
とか思っていると、
「きゃああああ!」
「おい!店員よべ!喧嘩だ」
と店の中が当然だが騒然となる。
「おい!やべえって!」
「お前さすがに手出したら駄目だろ!」
「いやだってこいつらが!」
友達二人から非難され殴った男は言い訳している。
よかった。殴った男に文句言ってる所をみると、残り二人は冷静だな。
「早く離れようぜ」
「そうだな。取り合えず店出よう」
「ああ」
と言って急いで店を出ていく3人。店を出る前に1人が俺に手を合わせて頭を軽く下げていくのが見えた。あの様子だと後から絡まれる事もないだろう。
その後、事を大きくしたくなかったので店員さんに事情を聞かれても「大丈夫です。」と答えて店を出た。
店をでた俺の後ろをかなり落ち込んだ様子でついてくる二人。まだ間に合うか分からないが、映画館の入り口が良く見える向かいの喫茶店に二人を促して入っていく。店に入ってからも落ち込んだまま何も頼もうとしないので、取り合えずコーヒーを3人分頼んで映画館の入り口を見張る。
頼んだコーヒーが来たのでブラック派の俺はそのまま口をつけてコーヒーを飲み始める。
「ッ!」
さっき殴られた時に口の中を切ったようで少し染みる。俺の声に反応して清水が何かに気づいた風で顔を上げた。
「・・・あの・・さっきはすみません。・・・その大丈夫ですか?・・・さっきの所」
その声に楠木もハッと顔を上げる。
「そうよ!大丈夫なの!さっき殴られ・・てた・・所・・・ごめんなさい。私のせいで」
「ああ!別に二人とも悪くないから謝らなくてもいい。口の中をちょっと切っただけだし。あと、別に楠木のせいでもないだろ」
「でも・・私が・・・。」
「だから悪くないって言ってるだろ!もう気にするなって!ほら、もったいないからコーヒー飲めって!」
「・・・うん」
返事をしながらも手を付けようとしない楠木。これはもう、どうしたらいいかボッチの俺にはわからない。こうなると清水が立ち直らせてくれる事に期待したいが清水もいまだに落ち込んだ様子である。ただ清水の方はコーヒーを飲もうと砂糖やミルクを入れ始めたので楠木よりマシな状態である。どうしようかとしばらく悩んでいると、映画館から親父たちが出てきた。
「おい。出てきたぞ」
親父たちを見ながら二人に声を掛ける。
軽く怒ってる風の清水母にペコペコ頭を下げている親父が見える。
「何かあったのでしょうか?ちょっと空気まずくないですか?」
親父たちの様子をみて清水は心配そうにしている。さっきの件からだいぶ立ち直ったみたいだ。
「多分映画中、親父が寝たんだと思う・・怒ってるけど大丈夫かな?」
「・・・まあ寝るのはどうかと思いますけど、見た感じ母はそこまで怒ってないですよ。ほら見て下さい」
清水の中で親父の評価が下がっていってるが、清水母の方を見るとコロコロと笑って、親父もホッとした表情をしていた。
そうしてしばらく話していたが、話がまとまったのか動き出す親父たち。
それを見て、俺たちも店を出ようとしたが、親父たちはすぐ近くのビルに入っていった。ビルの窓にイタリアン料理の看板がついているので、そこで昼飯をとるようだ。
「どうする?ここからでも十分見えるけど」
「そうですね。このままここにいましょう」
「・・・」
清水の提案通りこのまま喫茶店で親父たちを待つことにする。
楠木はいまだに落ち込んでいて、コーヒーにも手をつけず、一言も喋らない。
しばらくして俺と清水はコーヒーのお替りを頼み、清水は楠木の分までデザートを頼んで親父たちがでてくるの待つ。
待つこと約1時間
「お!出てきた!・・けど・・あれ?」
出てきた二人は映画の時と今度は逆で清水母がペコペコしている。一方の親父はニコニコしている。
「・・・多分ご馳走してもらったので母はお礼を言ってるのだと思います」
「ああ!そういうこと」
「・・・・うちは貧乏なので多分今日のデート代も無理してるんだと思います」
「・・・」
その発言に俺は返答に詰まる。
うちは男二人なので外食等もほとんどいかず質素な生活をしている。たまに親父が突拍子もない事にお金を使うぐらいだが、それなりに稼いでいるので、貯蓄はちゃんとあると聞いている。
「ああ気にしないでください。昔より大分マシになってるので」
「・・・そうか。とりあえずこの後どうする?」
この話題はきまずいので強引に話題を変える。俺の質問に清水はちらりと楠木を目にする。
俺もつられて目にすると、頼んだコーヒーとデザートが手つかずのまま置かれていた。清水に目を向けると無言で首を振ったので、俺は肯定のつもりで頷く。
「ほら。舞、もう帰るよ」
「もったいないからちゃんと食べてけよ」
「・・・うん」
相変わらず落ち込んでいるが、返事をしてコーヒーとデザートに手を付け始める楠木。
少しは立ち直ってきたらしい。
楠木が食べている間に親父たちは歩いてどこかへ行ったが、当初の目的である「親父と清水母が付き合っている」の話は本当だったので、もう後をつけなかった。
その後楠木が食べ終わると店を出て3人で駅に向かうが、相変わらず楠木は落ち込んだままだ。
「それでは、私たちはこっちですので」
「ああ。じゃあな」
「・・・・・それじゃ」
バシン!!!
そういって背を向けた楠木の背中を俺は結構強めに叩く。
「痛っ!!!ちょっと!なにすんのよ!!」
予想していた通り怒り出した楠木に向かって俺は
「元気出せ!それから、あんまり気にすんな!」
といって笑ってやる。
落ち込む俺に親父がよくやってくれる励まし方だ。
落ち込んでいた気持ちが怒りに変わるので、あまり他人にしたくなかったが。
楠木から反撃が来ると思って警戒していたが、怒った顔からすぐにボーとした表情になり俺を見てくる。
「・・・・おーい。どうしたー?」
疑問に思いながらも目の前で手を振ったりしたてたら、ハッとした感じでこちらを見てからすぐに顔を逸らすと、
「分かったわよ!橘がそう言うならもう気にしないわよ!」
ようやく調子を戻したのかいつもの様にキレ気味にそう言って清水と歩いて行った。
清水が「大丈夫?」と心配してる声を見送ってから帰宅した。
晩飯の後親父に大事な話があると呼ばれる。
「何?」
「・・・父さんな。今お付き合いしている人がいるんだ。」
知らなければかなり動揺していただろうが、今日の件があるので俺はかなり落ち着いていた。
「そう。」
「・・・で、その人と結婚したいと考えているんだが・・いいか?」
「親父がそう思うならいい人なんだろ。別に反対はしないよ。それにもし俺と合わなくても俺はあと1年ちょいで大学生じゃん?一人暮らしすればいいし。」
「そうか・・・できれば仲良くしてほしいんだが」
「分かった。まあ努力はするよ。・・・で?話は終わり?」
「いや、その人さ。お前と同じ年で同じ学校に通ってる娘がいるんだ。清水茜って名前だけど知ってるか?」
「・・・・いや。知らない」
親父の質問に咄嗟に嘘をついてしまう。
連絡先交換しておいてよかったー。あとで清水に口裏合わせお願いしよう。
「そうか・・・。その子がお前の妹になるんだ。向こうも、もう話してるはずだから学校で挨拶だけはしておいてくれ。あとお前の妹になるからな、ちゃんと守ってやれよ」
やっぱり妹になるか~。まあ四月三日の俺の誕生日より前の奴ってそういないもんな~
そんな事を考えながら親父に頷き返す。
「あと12月初め当たりに向こうと初顔合わせで、食事会するから」
「ああ、わかった」
その後親父から話はなさそうなので、俺は席を立ち自室に向かう。
その背後から
「なあ?母さんは許してくれるかな?」
親父の震える声が聞こえた。
「母さんが死んでもう10年ぐらいたつだろ?まあ母さんなら親父が幸せになるって喜んでるって」
「・・・・」
返事は返ってこなかったが、気にしないようにして部屋に戻る。
自室に戻ってから清水に連絡する。
:すまん。今いいか?
すぐに清水から連絡が返ってくる。
あかね:はい大丈夫ですよ。どうかしましたか?
:さっき親父から再婚の話を聞いた。お前が妹になるから仲良くしろって言われた。取り合えず、清水の事は知らないって事になってるから、何かあったら話を合わせてくれると助かる
あかね;そうですか。わかりました。これからよろしくお願いしますね。どうでもいいですが母は帰ってからニコニコし過ぎで気持ち悪いです
清水母は今日のデート楽しかったみたいで良かった。さて何て返そう?とか考えていると清水から更にメッセージが届く。
あかね:そういえば、お昼のマックの時もそうでしたけど何故私が妹なんですか?
:俺4/3が誕生日だから
あかね:そういう事ですか!理解しました。ではこれからプライベートでは『義兄さん』と呼びますね?
:分かった。但し学校では今まで通りで頼む
あかね:分かりました
清水への連絡を済ませ、勉強を開始する。




