39話 ファミレスで
教室に戻ると思った通り雫から文句を言われる。
「穂乃花~清水さんに用事って言ったよね~。何で舞にちょっかいかけた~」
「あはは。ごめんごめん。やっぱり顔見たら我慢できなかった」
最初から声を掛ける気だったけど、雫に言うと止められるか付いてきてくれないかのどっちかだろうと思ったので言わなかった。多分これを言うとホントに雫が怒るから誤魔化した。
「はあ~。部活で明美に色々聞かれると思うけど~。どうする~」
「まあ、今日の所は誤魔化しておいて。楠木さんと放課後話してからどうするか決める」
「分かった~。あ~でも「分かってるから、楠木さんと話した内容はちゃんと教えるよ」
「ふふふ~。それならいいよ~」
相変わらず、色々知りたがる親友だ。けど口止めしとけば絶対言わないから安心できる。
放課後
ファミレスでドリンクバーとポテトを頼み勉強をしていると、楠木さんがやってきた。手を振ると気付いた様子でこちらに向かってくる。私の対面に座るとすぐに話を切り出してきた。
「で?話って何?」
教室の時みたいにビクビクしてない、いつもの堂々とした楠木さんだ。
マジマジと顔を見るのは初めてだけど、噂通りの美人だ。私も結構人気のある男子の何人かから告白された事があるぐらいだからそこまで容姿は悪くはないと思ってるけど、目の前の人はレベルが違う。まあ茜と学年1、2位を争うぐらい男子から人気だって雫は言ってたけどその通りだと思う。
「まあまあ、そんなに慌てないで。少し長くなると思うから何か頼んだら?私から誘ったんだし奢るよ」
そう言うと渋々と言った感じで私と同じドリンクバーとポテトを注文する。ジュースを取って戻ってくるとさっきと同じ事を言ってくる。
「で?話って何?」
「その前に今日は来てくれてありがとう。あと橘君と付き合えておめでとう」
「くっ・・・・ご・・・・ありがと」
すごく困った顔をして、朝に言った事を覚えていたみたいで一瞬謝ろうとしたけど言葉を飲み込んでお礼をいってくる。
「謝ろうしたって事は知ってるんだよね?私の事?」
「・・・・修一と茜から聞いてる」
「・・・・・」
さらりと名前を呼ばれて何も言えなくなる。
良いな~名前呼び。・・・じゃなくて色々聞かなきゃ。
「じゃあ、お願いがあるんだけど・・・橘君と別れてくれない?」
自分でも馬鹿なお願いをしている事は分かっている。そして絶対にこのお願いは聞いてくれない事も・・・でも言わずにはいられない。
「はあ?・・すごい事言うわね。返事はNOよ」
「お願い!私にできる事なら何でもするから!」
「嫌!それだけは誰に何されようが絶対に嫌!」
当たり前だけど、本当に拒否っていうか拒絶される。
「ははは~やっぱり駄目か~」
「駄目に決まってるでしょ。自分が何言ってるか分かってるの?」
「分かってるつもりだけど、一応ダメ元でね」
「はあ~。分かってるのに何でそんな頭悪そうな事聞くのよ。三条さんって本当に学年トップなの?」
「違うよ。一位はずっと修一君だよ」
名前呼びが羨ましいので、私も真似してみる。
「ちょっと、何でいきなり名前呼びになってるのよ」
「駄目?」
「駄目じゃないけど・・・ちゃんと修一に許可とってからにしなさいよ」
「は~い」
「・・・・・・」
何か言いたそうだけど無言でジト目でこっちを見てくる。
「どうしたの?」
「いや、私の聞いてる三条さんの噂と全然違うなって。茜の言う方が正しそうだと思って」
自分の噂の事は知ってるし、実際その通りだと思っていて、更にその噂は自分に都合が良いから放置してるんだけど。けど茜は私の事を何て話してるんだろ?楠木さんの言い方だと茜は私の事を良い風に言ってるっぽいな。別に茜に媚び売ってた訳でもないし、好かれようとしていた訳でもないのに。
「それは噂が合ってるよ。噂通り性格悪いから、茜と友達になる前は雫しか友達いなかったし、雫も茜も何で私と友達になってくれたのかよく分からないし」
「茜から聞いたけど、付き合いが悪いとか勉強を人に教えないのって修一から学年トップ取る為に一人で集中して勉強してるかららしいじゃない」
「付き合いが悪いのはその通りだけど、雫には勉強教えてるよ」
「!!だから、雫ってあんなに成績いいのね。勉強会誘っても『勉強嫌~』とか言って参加した事無いくせにいつも50位以内だから不思議だったのよ。いっつも『一夜漬け~』『ヤマが当たった~』とか言ってたし、まあ雫ならな~ってみんな思ってたけど」
「ああ、それは私が雫に口止めしてるからだよ。雫に教えてるってバレると他の人も教えろって言ってくるから」
「三条さんはそれでいいの?今話してる限りだと全然性格悪くないんだけど、・・・茜の言った通り、私は気が合いそうだし、仲良くなれそうなんだけど・・・好きな人が同じじゃなければ。」
「あはは。そうだね、同じ人を好きになるぐらいだから、合いそうだよね。でも駄目。ライバルだから仲良くしない。ね?性格悪いでしょ?・・・まあ、勉強に集中したいから噂はこのままでいいよ」
「さて、それじゃあ最初から教えてね」
ようやく本題に入る。別に楠木さんは私に教える義理は無いけど、きちんと最初から教えてくれた。色々教えて貰った後、私は頭を抱える。まさか雫の言う通り、付き合ってなかったとは・・・いや振りだけど、同じような物だろう。さすがに付き合う振りをする事になった茜のトラウマについては教えて貰えなかったけど、そこはあまり重要じゃない。
はあ~。それにしても楠木さんも橘君のあの笑顔で好きになっちゃたのか~。しかも直接向けられたんだもんね~。やっぱりあの笑顔は反則だ。
「ねえ。私も一つ聞きたいんだけど。三条さんはどこで修一のあの笑った顔を見たの?」
あれ?何で私があの笑顔で好きになっちゃったって知ってるんだろ?・・・・ああ橘君か・・・告白したとき言ったな~。
「休みの日にお昼のラーメン食べてるのを1年の時に偶然見てね。多分、その時のカップラーメンがすごく美味しかったんだろうね。橘君ものすごい笑顔だったの。それ見て好きになっちゃった。それまでは唯の勉強のライバルぐらいにしか思ってなかったんだけどね」
私の答えを聞いた楠木さんは物凄い納得した表情で頷いた。
「やっぱりあの笑顔は反則よね」
「そう!なんなのあの笑顔。なんであんなに印象変わるの?私はその時、間接にしか見てないけど、直接向けられた楠木さんはどうだったの?」
「あれは本当にヤバかったわ。その時はあいつに良いイメージなかったんだけど、あの笑顔見たらもうダメだったわ。高校卒業・・・ううん大学卒業までは陸上にしか興味ないんだろうなって思ってたのにもうどうでもいいぐらいになったわ」
二人して興奮するが、心配になってくることがある。
「えっと、流石の楠木さんでもあの笑顔の虜になったんだったら、他にもライバル増えそうで心配にならないの?」
「・・・修一に学校ではあの顔で笑うなって言ってるけど」
おお~何かとんでもない事言ってるな~。・・・だけどな~。
「今日その笑顔私にしてくれたよ」
「はあ?何で?どういう状況?」
「いや、私のおかげで楠木さんと付き合えたありがとうって笑っていってくれた」
「何でできてるのよ、一昨日あれだけ言ってもできなかったのに」
何か色々実験していたみたいだ。やっぱり彼女になると色々出来るからずるいな。
「まあ、その時は私と雫しかみてないと思うから安心していいよ。雫には注意したし」
「三条さんに見せてるから不安なんだけど」
あれ?何か勘違いしてるかな?
「言っとくけど、まだまだ諦めるつもりはないから」
真正面からはっきりと自分の意見を主張する。楠木さんからしたら喧嘩を売られていると思うかもしれないな。
「はあ?なんでよ?諦めなさいよ」
「1年のころからずっと好きだったからそんな簡単に諦められる訳ないでしょ。ああ、安心して付き合ってる間は橘君にちょっかい掛けるつもりはないから」
「それならずっとちょっかい掛けれないわね」
あっ!少しイラッときた。
「言うね~。・・・義妹の茜に手伝ってもらう反則技使った人の癖に。家族はずるいな~」
「ぐ・・・三条さんだってあの雫に協力してもらうって反則技使ってるじゃない。何したらあの雫が素直に言う事聞いてくれるのよ」
・・・・何か雫って過大評価されてない?
「・・・はあ、それで話はもう終わり?帰っていい?」
「あっ!別れたらすぐに連絡してね。次こそは私が彼女になるから」
「その連絡は一生こないわよ」
「何でよ。順番待ちしてるんだから、早く代わってよ」
「あんた、よくそこまで言えるわね。性格悪いわよ」
「うん。知ってる」
「・・・はあ、ここは奢ってくれるんでしょ。それじゃあご馳走様」
「うん。それじゃあ。今日はありがとう」
楠木さんが帰った後、私もすぐに会計を済ませて帰宅する。帰り道はやっぱり色々考えてしまう。
はあ~やっぱり楠木さん良い人だな~。あの人が私のライバルか~。きついな。唯一勝てそうなのは勉強だけか。もうどうにもならないのかな~。
「・・・・う・・・・グスッ・・・うう・・・・」
もう手遅れだと思ってしまったら胸が苦しくなって、涙が出てくる。土日で涙は出し尽くしたはずだけど、まだ出てくる事に驚く。
「はいどうぞ~」
いきなり横からハンカチが渡される。渡してきた人が誰かは見なくても分かる。
「ありがと」
出されたハンカチを受け取り涙を拭く。
「ありがとう。待っててくれて、寒くなかった?」
「ふっふっふっ~。早く話が聞きたかったからね~」
あ~。照れてるなこれは。
「ありがとう」
1回目はハンカチの、2回目は待っててくれた事の、3回目は揶揄うつもりでお礼を言う。
「あ~。うん」
やっぱり照れてる。フフフ。雫は面白いな。
「いや~。強敵だな~楠木さん。かなり厳しい戦いになりそう」
「そっか~。でも気長にいくんでしょ~」
「まあ、そうだね。まだ付き合いだしたばっかりだから、何とも言えないけど別れる可能性もゼロじゃないもんね。それに高校が駄目でも大学があるし」
「いや~。同じ医学部まで追っかけるつもりなのはどうなの~。勉強の目的が変わってるよ~。元々学年1位になりたかっただけでしょ~」
「あはは。勉強の目的なんて何だっていいの。さすがの楠木さんも大学まで追っかけてくる事はしないだろうから。そうなると遠距離恋愛になって華の大学生がそれに耐えれる訳もなくって感じかな。そこを橘君のすぐ近くにいる私が!」
「それ聞いた時は冗談だと思ったけど~。やっぱり本気なんだね~。ちょっと引くわ~」
「うるさいな。いいでしょ、別に誰にも迷惑かけてないんだから」
雫と話しているとだいぶ気分が落ち着いてきた。まあ雫もそのつもりで話してくれてるんだと思うけど。
「それじゃあ、ファミレスでの話を教えるから、今から私の家でいい?」
「うん。いいよ~。別に私の家でもいいよ~」
「雫の家だと最初に部屋の片づけから始めないといけないじゃない。もう遅いし私の家ね。」




