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37話 補給

月曜日

少し早めに家を出て学校の最寄り駅で舞を待っていると、いつも俺が最寄り駅に着く時間より早い時間に舞がやってきた。


「おっはよー。早いじゃない?ちゃんと待ってたのは偉い偉い」


さて、ここからどうなるか・・・付き合ってる訳だし、舞を悲しませたくないから極力舞の要望に応えたいと思っている。ただ、彼女からどこまで要求されるか分からない。周囲に人が居なければいいが、流石に学校の最寄り駅だと同じ制服が結構居る。


「あ~っと。舞?・・・・補給は大丈夫か?」


やられる前に死地へ飛び込んでいく俺は結構偉いと思うなとか自画自賛してると、


「かなりヤバい」


そう一言だけ言われて俺の体を抱きしめて学校に向かおうとする舞。


「待て!待て!流石にこれで登校は恥ずかしいぞ」


体に抱き着いて登校しているカップルなんて今まで見た事ない。俺の中では腕に抱き着いて登校が一番すごい奴で、手を繋いで登校が普通、手も繋がずに一緒に登校は・・・舞だとそれはないなと思っていたが。


「何でよ!・・・・前から言おうと思ってたけど修一はちょっと恥ずかしがりすぎよ!見てるようで人って見てないもんだから気にしたら負けよ!」



・・・・そうかな・・・・・・何て思うかよ!現在進行形で通学してる奴に凝視されてるじゃねえか。


「おい、周りを良く見てみろ」


言われて回りを見渡すが、一向に俺から離れてくれない。


「・・・まあ、チラ見ぐらいね。気にしたら負け、行くわよ!」


「いやいや、どこがチラ見だよ!ガン見されてるじゃねえか!せめて手を繋ぐくらいにしとけよ」


「・・・・まあ、それでいいわ‥‥フ・・フ」


無表情で言う舞だったが口元が引くついて笑い声が漏れている。


こいつ最初からこれを狙ってたな。


「私の作戦勝ちよ。まあ手を繋いでくれなかったら、意地でも抱き着いて登校したけどね」


ジーと目線で抗議してたのに気づいた舞が正直に答えてくれた。悔しいが手を離すと本当にくっ付いてくると分かっているので、手は繋いだままだ。

先ほどよりは目立っていないと言ってもそこは「楠木舞」だ。色んな人から視線を集め、挨拶される。そこで隣で手を繋いでいる俺に気付いてビックリして、すぐに離れていく。周りからは俺と舞を見ながら何かヒソヒソ話している。気が散って仕方ないが、まあ話している内容は想像できるので、いつものように気にしないようにするが、隣で手を繋いでいる舞は気になるらしい。


「何かさっきから周りが五月蠅いわね。気になるなら直接聞きにくればいいのに」


「それが出来ないからこうなってんだろ。まあ、舞も気にすんな」


「何よ。最初は手を繋いで歩くのも恥ずかしがってたくせに、偉そうじゃない」


「ふっふっふっ。俺も成長してるんだよ。誰かさんのおかげでな」


「む~」


おっ悔しそうな顔してる。何か久しぶりに舞に勝てた気がするな・・・・久しぶりじゃなくて初めてか?・・・・あれ、でもこういう後って必ず反撃されたような・・・嫌な予感が


そう思っていると舞が立ち止まったので、手を繋いでいる俺も当然止まる。


「なくなった」


舞は恐怖の言葉を放つ。主語がないが何の事かは一瞬で理解した。


「ちょっと待て!こんな道端は駄目だ!せめて学校着いてからにしろ!」


慌てて駄目だと言うが、まあ当たり前だがこうなった舞が言う事を聞く訳がない。


「嫌」


そう言って俺に抱き着いてくる。周囲からの視線の圧が強くなり、チラ見だったのがガン見に変わっている。さっきまでの周囲のヒソヒソ話も聞こえなくなり、ただ視線だけが向けられる。当の本人はその視線を受ける事無く俺の体に顔をうずめている。俺だけがその視線に耐えている、くっそ恥ずかしい。


「は~。満足した」


時間にしてどれくらいだろうか、長かったような短かったような間ひたすら周囲の視線から耐えていると、満足した舞が俺から離れてくれた。


「ほら、行くわよ」


そう言ってまた手を繋いで歩き出す。


「おい、さすがに今のは恥ずかしいぞ」


「何よ成長したんでしょ?まあこれで回りも少しは静かになるし、私も補給できて満足したし、めでたしめでたしね」


「俺の恥ずかしさはどこ行った?」


「・・・更に修一が成長すれば問題ないわ」


「・・・・・・」


どうしたもんかな~。


「ごめん。怒った?」


俺が黙って考えていると怒っていると勘違いしたのか不安そうに聞いてくる。


「怒ってはいないな。俺の彼女が人目を気にしない所に困ってるかな」


「うっ!・・・・ごめん。・・・でも我慢できない・・・やっぱり嫌?」


「嫌じゃないぞ。恥ずかしいだけで・・・まあそこは気長に考えるとするか」


申し訳なさそうな舞に気楽な調子で答えて学校まで向かう。周囲の視線は相変わらずだった。





教室のある3階まで来ると、ここで舞とは別れて自分の教室に向かう事になるが、当然すぐに手を離してくれない。


「む~。離れたくないわね。・・・ちょっとこっちに来て」


思った通り我儘を言う。そして廊下の隅に俺を引っ張っていく。


「補給させて」


それだけ言うと俺の返事を待たずに抱き着いてくる。


「おい。だから人目を気にしろよ」


「無理。それにさっき道端じゃなくて学校なら良いって言った。あと、気長に考えるんでしょ」


「う・・・ぐ・・・・はあ」


別に二人きりならいくらでも構わないんだけどな~と思いながらチラリと周囲に目を向けると滅茶苦茶見られてる。まあ振られたって言われてる俺に舞が抱き付いてるんだ、そりゃあ気になって見るよな~。あっ、階段で渋滞が起こってる。


「お~い。もういいか?」


さすがにもう大丈夫だと思い声を掛けてみる。


「まだ全然、これじゃあ昼まで持たない。修一もちゃんと抱きしめて」


今の俺の状況は舞に抱き着かれている。そこで俺が舞を抱きしめると二人で抱き合っているという状況に変わる。周りに大量のギャラリーがいる中でそれをするのはすごく恥ずかしいが、今のままでは舞はすぐに離れてくれないだろう。だから覚悟を決める。


「3秒な」

「10秒は欲しい」


迷わず3倍以上を要求してくる。少し欲張りすぎじゃないか?


「5秒。これ以上は恥ずかしすぎるから勘弁してくれ」


「・・・・分かった」


若干不満気だが了解してくれたのでこれ以上人が増える前にすぐに舞の背中に腕を回して軽く抱きしめる。


「うお」「え?まじ?」「アレ誰?えっ?楠木さん?ほんとなの?」「あれ寝太郎だろ。相手は?」「あの二人別れたんじゃないの?」


俺は舞を抱きしめると周りから驚きの声が上がる。


「ふあ~。やっぱり満足感がヤバいわね」


周囲の声が聞こえないのか俺の腕の中から俺を堪能する呑気な声がする。


・・・3

「・・・えへへ~」


腕の中からいつもの笑い声がする。やっぱり3秒で充分じゃねえか。心の中で文句を言う。


「5」


そう言って舞の背中に回した腕を離す。まだ少し我儘を言うかもと思っていたが、舞も素直に俺から離れてくれた。俺から離れたので周囲のギャラリーからも舞の顔がはっきり見えたようでまたザワつきだす。

「ホントに楠木さんだ」「だから言っただろ」「えっ?舞って・・・ほんとだ」


周りの声を気にしないようにして舞に話しかける。


「これで充電は大丈夫か?」


「そうね。これなら昼まで大丈夫だと思うわ」


「いや、昼までしか持たないのか。燃費どうなってんだ」


思わずツッコみを入れる。


「燃費は悪いって言ってたでしょ。それよりちょっと耳貸して」


悪びれる事もなく、さも当然のように燃費が悪いと言ってくる。そんな舞の要求に答えて少し屈んで耳を近づける。


まあ周りに人がいてこっちに注目してるから仕方ないけど何の話だ?


と考えていると、


チュッ


頬に柔らかい感触。何をされたか一瞬で理解してバッと距離をとり舞に顔を向ける。


「えへへ~。そこは2回目だね」


顔を真っ赤にした舞が笑顔で答える。


「ちょ、お前、今、何、」


恥ずかしいのと焦りで上手く言葉が出てこない。


・・・2回目?


「!!やっぱり!桜の前で写真撮ったあの時だろ!なんか変な感触したんだよ」


「変な感触って何よ!失礼ね!・・・でもあの時の修一の顔・・ククク・・面白かったわ。それじゃあ、またお昼ね」


俺を揶揄うだけ揶揄って舞は教室に走って行ってしまった。


・・・・・・


どうすんだよ。こいつら・・・


周りにはまだ多くの人が残っていて、舞がいない今、俺だけが視線を集めている。更にさっきの舞の奇行を目にした人たちはヒソヒソ話している。

「した」「したよね」「キスしたぞ」「しかも舞から」「楠木さんすごいね」「2回目だって」「そこはって事は他も当然・・・」「恥ずかしくないのかな」


恥ずかしいわ!


誰かの囁きに心の中でツッコみを入れる。いつまでもここにいる訳にもいかないので、自分の教室に向かう。多分顔が真っ赤なのと恥ずかしいのもあって片手で顔を抑えながら歩き出す。周囲のギャラリーは俺を遮る事無く人が避けていくので何事もなく教室の自分の席までたどり着いた。時間はまだ少しあるので、「寝るか」とか考えていると、説明をしなくちゃいけない奴が目の前に立っていた。


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